Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

クヒオ大佐

2009-10-21 | 日本映画(か行)
★★★★☆ 2009年/日本 監督/吉田大八
<梅田ブルク7にて観賞>

「クヒオになるしかなかった」

女を騙すためにアメリカ人になりきる、つまりいつもの自分とクヒオを使い分けている男の話かと思っていたら、全く違いました。クヒオは、クヒオとして生きるしかなかった。そこが、大変物哀しく切ない。しかも、吉田監督は、そんなクヒオの心の内を示すような演出は敢えてしないのがとてもいいんです。逃亡するクヒオの一連のシークエンスの後、やるせなくて溜まらない気持ちで見終わりましたが、そこを、どんでん返しのオチのように笑わせている。実に巧妙なひねくれ具合。人によっては、弾けきれないコメディのように感じるかも知れませんが、大変私好みの作品でした。

冒頭、アメリカ政府からアフガニスタン派遣の援助金を要求される日本政府が映し出されますが、日本人のアメリカへの憧れ、コンプレックス、そんなものもエッセンスとして巧く組み込まれています。それは、クヒオになるしかなかった男自身の人生にも、クヒオに騙される女にも当てはめられるものです。

何はともあれ、誰が見ても怪しげな風貌のクヒオを堺雅人が堂々と演じていてすばらしいです。クヒオがスクリーンに移る度にニヤニヤしてしまいます。特に、松雪泰子の弟を演じる新井浩文との絡みのシーンは、どれもこれも爆笑です。電話の向こうで「オレだよ」と言われ、アチャーと言う顔をするあの間が絶妙。女たちも「すっかり騙される女」 「何となくヘンだとわかっていながら惹かれる女」「完全に見下している女」 と三者三様でバランスが取れています。 満島ひかり、中村優子ともに、存在感を発揮。松雪泰子はこのところ、弁当屋に勤めている役ばっかですね(笑)。

可笑しさともの悲しさが交互に表れては消える小気味いい演出。そして、エンディングにかけて、盛り上がる逃亡劇。エンタメとしても大変楽しめる娯楽作に仕上がっていると思います。