落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

バトンルージュ

2004年03月26日 | book
『海をこえて銃をこえて──留学生・服部剛丈の遺したもの』坂東弘美・服部美恵子著
『アメリカを愛した少年──「服部剛丈君射殺事件」裁判』賀茂美則著
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ぐりはアメリカに行ったことがありません。
バカンスでハワイに行ったことはあるけど、アメリカ本土には今まで行く機会がありませんでした。高校2年の時に(天然記念物時代だ)姉妹校との交換留学で渡米する予定がありましたがある事情で行けなくなり、その後本格的に美術の勉強を始めてヨーロッパに憧れを持つようになったせいもあり、以降は一度も「行きたい」とも考えたことがありません。
アメリカと云う国にも、アメリカ人と云う人々にも興味はありません。

この2冊は92年にルイジアナ州バトンルージュで起きた日本人留学生射殺事件について書かれた本です。
『海をこえて銃をこえて』は被害者の母親の幼馴染みで市民運動家の坂東氏による、遺族のいわば身内として体験した事件の経緯と事件後の銃規制運動についての記録、『アメリカを愛した少年』は刑事裁判を傍聴する被害者の父親のボランティア通訳を勤めた社会学者の賀茂氏による裁判記録です。
『海をこえて…』の方は日本の女性から見た被害者を含めた事件当事者の人物が中心に描かれ、『…少年』の方は地元在住の学者らしい冷静な視点から裁判そのものが中心に描かれています。

ぐりのイメージでは、事件当時服部くんのご両親はマスコミの前で決して感情を露わにすることなく常に淡々とした態度でおられたように記憶していますが、『海をこえて…』によればそうしたポーカーフェイスはマスコミ向けに装われた“よそいき”の顔ではなく、ご夫妻がおふたりとも元来平生からクールで穏やかな方であったそうです。
顔に出さないからと云ってご両親が悲しんでいない訳がありません。悲しいに決まっています。それなのに、裁判はもとより日米での報道でも、亡くなった服部くんを含めご遺族の心情はほとんど顧慮されることがなく、むしろいわれのない非難さえ浴びせられたと云います。
この2冊の本には、愛する息子を突然奪われた遺族と異国から預かった大切な留学生を死なせてしまったホストファミリーのやり場のない怒りと悲しみは勿論、過剰なまでに暴力に頼るアメリカの銃社会の悲しみ、常に犯罪に怯えて暮らさなくてはならないほど荒んだ市民社会の悲しみ、ルイジアナ州を含めたアメリカ南部の根強い人種差別問題、そうしたアメリカの現状と日本とのギャップの深さによる悲しみ、さまざまな悲しみが満ちあふれています。

賀茂氏はあとがきでこう書いています。
服部夫妻に初めて会った剛丈くんの追悼式の席上、おふたりが英語でスピーチをしました。最初はおかあさんひとりで読む予定だったのを(おかあさんは英語教師)、おとうさんもどうしても一緒に読みたいと云ったそうです。
賀茂氏はおとうさんの慣れない英語を聞きながら、それをホテルの部屋で練習する父の辛さを考えたと云います。
ぐりは銃撃によって誰かを亡くしたり死なせたりしたことがないので、正確に遺族の心情をイメージすることは出来ません。ただその不条理を恨まずにはおれないだけです。
どこの世界に、訪問先を間違えただけで銃殺されるために子どもを育てわざわざ留学に送りだす親がいるものか。でもそれがアメリカなのです。夜見知らぬ人が家に近づいて来たら銃で撃って死なせても構わない、その権利が市民に認められている国なのです。

ぐりは最初に書いたような経緯もあってもともとアメリカに対して良い感情は持っていませんが、この2冊の本は読めばまず確実に誰でも「アメリカとはなんと厄介な国であろう」と云う印象を持つことは間違いないです。誰もが、服部夫妻のように前向きで冷静であれる訳ではない筈です。
勿論、どの国にだって大なり小なり問題はあるし、どこに住んでいてもその場所固有の問題は誰もを悩ませ苦しませるものです。そうだとしても、アメリカ以外の国ではホームパーティーに出かけた高校生が訪問先を間違えただけで問答無用で撃ち殺されたりはしません。少なくとも日本ではそうですね?ところがアメリカではごく自然なアクシデントとしてそうしたミステイクが起こりうるのです。
どっちの国に住みたいか選べと訊かれたら、答えは決まっていませんか?
それにしても事件の加害者夫婦のアタマの悪さは特筆に値します(暴言)。遺族にひとこときちんと自分の言葉で謝る誠意くらいあって然るべきだろうに、それどころか堂々と面と向かって全ての責任をそっくり被害者に擦りつけるとは、人ひとり死なせた人間の尋常な精神構造とは思えません。うーんこういう人間がしかも銃を持って住んでるとこにはぐりはやっぱ行きたくないですな。なんと云われても。君子危うきに近寄らず。