落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

劉燁まつり

2004年09月18日 | movie
『小さな中国のお針子』
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1971年、文化大革命のもと、ブルジョア階級の再教育を目的とする下放政策のため、医者の息子であるルオ(陳坤)とマー(劉燁)は四川省の山岳地帯に連れて来られる。ほとんどが文盲で目覚まし時計もバイオリンも見たことのない人々の暮す村で銅の採掘や農作業に従事させられるふたり。やがて出会った美しいお針子(周迅)と恋におちるルオ。ふたりは彼女に外国の小説を読んで聞かせることで「無知」の世界から彼女を救い出そうとする。
フランス在住の戴思杰監督作品。

舞台は中国だし台詞も中国語、出てる俳優も中国人なんだけどこの映画はフランス映画です。
観終わってみれば確かに中国映画ではない。それは光や色彩の使い方などヴィジュアル的な面も含めて、この物語があくまで外国から見た目線、エキゾチシズムとノスタルジーに終始してしまっているからです。しかもそれがまた中途半端なんだよ。極端にデフォルメされた背景描写も人物造形も全てが「死んで」いる。ディテールにも設定にもリアリティとか愛情とか説得力がまるでない。監督が中国人であるにも関わらず。

ええぐりはこの映画キライですね。好きにはなれない。少なくともぐりの目には監督のやりたかったことが表現しきれている作品には見えなかった。
作中には“知識と自由の象徴”アイテムとして外国小説やモーツアルトの音楽が登場するけど、それがストーリーにほとんど反映されて来ない。ただの上っ面の小道具で終わっている。成人してバイオリン奏者になる設定のマーの音楽やバイオリンへの情熱に関する内面描写が決定的に欠けているのが不自然。ルオとお針子の恋愛も“愛情”そのものがろくに描けていない。見せ場が随所にあるにも関わらず展開が淡々としていてダイナミックさもない。カメラワークや物語の構成、音楽の使い方など全体的な演出に品がないのもぐりは気に入らなかった。

要するに全てにおいてヘンにドライなんですわ。これはこういうテイスト、スタイルなのかもしれないけど、ぐりには「じゃあナニが云いたいの?」と云ういちばん大事なところがさっぱり響いて来なかった。観客を物語の世界へ連れていくパワーが作品に感じられない。
これは憶測だけど、個人的な自伝的要素も含んだ文芸映画にしたかった監督と、ただオリエンタル趣味なエンターテインメント映画にしたかった製作者側の意向がかみあわなくて、こう云う最終形になったのかも・・・ともとれる。
見た目は小綺麗にまとまっている。周迅はカワイイ。風景も美しい。技術的には平均点程度の完成度もクリアしている(完璧とはとても云いがたいにせよ)。でもそれだけ。ごくろーさんです。

さて劉燁ですが、デビュー作の『山の郵便配達』と『藍宇』も両極端に違う役柄だったけど『お針子』では前2作とさらにガラッと違うキャラクターをがっつりと自分のものにしています。町育ちのブルジョア、音楽と文学を愛する無口な男の子─内向的で一見頼りなさそうなんだけど誠実で友だち思い、胸に静かなプライドを秘めたナイーブな少年─と云う複雑で分かりにくい人物造形に不自由しているフシが一切ない。やっぱウマイわこの子。梁朝偉似の目力は今回びしばしとカマしておられました(笑)。て云うかムダにカマし過ぎじゃないかと云う。そんでまた梁朝偉似の困惑顔もイイ。
こうして続けて出演作を観ていると、そういう年頃なんでしょうが1本ずつ着実に成長してってるのがすごく分りやすい。若いんだなぁ。今後も型にハマったりアホな挫折に転んだりしないで、このまま順調に大物になっておくれ。青年よ。
ココまで絶賛しといてナニですけども、このヒトがどーしたってイモいのはもうしょーがないんでしょーか・・・。この役では一応町っ子と云う設定ですしそれはそれでクリアされてるんだけど、じゃあ多少なりともそれらしくソフィスティケートされてるかっつーと・・・うーんやっぱどっちかっつーとダサイ方の町っ子にしか見えない。それはそれでアリだろうし、共演の陳坤の容貌がごっつ都会的なので好対照っちゃ好対照なんだけど。いつかイモくない役も見たいなぁ(笑)。章子怡みたいにゲーノージン!!っぽくなったりはしなくてもいーけどね。役者のスペックとしてさぁ。

ルオ役の陳坤や周迅は中国国内では大人気のアイドルだそうですが、とりあえず『お針子』でのこのふたりの演技はなんだか観念的と云うかTVっぽくてぐりはいただけませんでした。台詞も少なくキャラクターとしては物凄く控えめな劉燁の方の実力ばかりが目につくのが不思議なりー。監督本人や劉燁のインタビューを読むと、原作を書いた監督自身の少年時代がこのマー少年のキャラクターに重なってるそうで、云われてみればそういう思い入れもビミョーに感じないこともナイ。
あと別のインタビューで見たんだけど、この『お針子』の撮影中、劉燁はその前に撮った『藍宇』の後遺症で男性と仲良くするのが楽しくて、陳坤にくっついてばかりいて周迅にツッコまれてたそーです。アブナイですね。マーのお針子に対する感情がなかなか“恋”に見えないのはそのせい・・・ではないか(笑)。

ところでこの『お針子』は2002年のカンヌ映画祭に出品されたとやら聞きますがまさかコンペじゃないでしょーね?ちなみに劉燁くんの出演作は2001年の『藍宇』、翌年の『お針子』、2003年の『パープルバタフライ』と続けて3本(出演作は今年までで10本少々)がカンヌに出品されてますが、今のところ無冠。今年は出品はなかったみたいですが、こんなに若くて既に国際的に評価される作品にコンスタントに出てるってスゴイじゃないですかー(フォロー?)。『お針子』はぐりは好かんかったけど『パープルバタフライ』はどーでっしゃろな。本国ではなんやエライ評判悪かったみたいだけど。

今日本国内で観れる劉燁作品はコレと『郵便配達』と『藍宇』しかナイです。若いんだもんね。
さー次観るなら『藍宇』つながりなら胡軍の出演作だけど・・・『東宮西宮』か『インファナル・アフェア/無間序曲』しかナイじゃん。『東宮西宮』は劇場公開時に観たし(傑作だべさ)『インファナル・アフェア』の方は前作観てないし・・・ってことはとりあえず前作を観ますかね。よし(?)。