落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ヴェネツィアにようこそ

2006年06月17日 | movie
『カサノバ』
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これぞ!まさに!ロマンチックコメディの決定版!と呼んで然るべき、とーっても楽しい映画だったです。
ヴェネツィアの文化とか時代背景とか宗教的権威主義が、うまく現代の歪んだ社会風俗をも皮肉った都合のいい“設定”として活かされてて、お話としてもなかなかよく出来てました。
まあ確かに娯楽作品なので全体にかなりご都合主義的だし、ツッコミどころもいっぱいありますよ。けどぐり的にはそれほど気になるというほどのことはなかったです。一部に「CGがヤバイ」とゆー評判も聞いてましたが、まったくそんなこともなかったです。DVDでみると合成カットがチープにみえるケースはよくあるけど(アメリカでは既にリリース済み)、スクリーンでみる限りはそんなにひどくない。ヴェネツィアの夜景がCGっぽい・絵画っぽくみえるのは実際の風景が非現実的だからじゃないすかね(笑)。ホント冗談みたいな風景だから。あそこ。行けばわかるけどさ。だからまああえていうなら「CGがヤバイ」→「合成がヤバイ」ってのが妥当だけど、まーそんなのふつーの観客?ノは関係ないんですよね。ハイハイ(ヤケ)。
実は今やってる仕事でこの街の画像資料を扱ってて、どの場面でもロケ地がいちいちすんごい気になってしょうがなかったです(笑)。

ヒース・レジャーはラブコメは『恋のからさわぎ』以来かな?演じてて非常?ノ楽しそーでした。口八丁手八丁で相手によって態度も自分の身元や名前さえもコロコロ変えるお調子者でありつつ、目的のためには手段も選?ホず、かつ決して優雅さだけは失わないという特異なキャラクターを、ごく自然に気楽に再現してました。とても『ブロークバック・マウンテン』の不器用な主人公と同一人物とは思えません(笑)。
他では「処女なんだけどエッチなことに興味津々」なお嬢さん・ヴィクトリアを演じたナタリー・ドーマーがなかなかいいキャラでおもろかったです。

ヒゲのココロは

2006年06月17日 | movie
『バルトの楽園』
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「バルト」とはドイツ語でヒゲのこと。「楽園」は「がくえん」と読む。この映画の主人公・松江豊寿(松平健)が実際に見事なカイゼル髭の持ち主だったことからつけられたタイトルではあるが、映画ではさほど松江氏のヒロイズムや壮麗な交響楽を強調した内容にはなっていない。
実に美しい物語だ。
なるほどスクリーンよりもTV画面でお馴染みの出演者が大半だし、不自然で冗長な場面構成や緊張感のない編集、無駄なBGMの濫用、キャラクター描写の粗雑さなど、映画として気になる箇所は相当に多い。
だがそれはそれとして、ストーリーそのものはとにかく美しい。ロケ地であり現実に収容所があった板東の地の自然のなんと清々しいことか。周辺の素朴な風景の中でハイキングをしたり海水浴をしたり、あるいは労働に汗し、地元の日本人たちと交流する捕虜たちののびのびと自由な生活の情景は、とても戦時下とは思えないほど牧歌的でまるでお伽話のようだ。

“第九”全曲の日本初演奏がこの板東俘虜収容所でのコンサートだったことは有名な話だが、レビューを読むと知らなかった人が多いようで意外に思った。当時先進国だったドイツに学ぶため、板東以外の収容所でも捕虜からドイツの文化や技術を学ぶ交流は盛んに行われていたが、劇中にも登場する実在の人物カルル(オリバー・ブーツ)のエピソードが最もこの物語の主旨をよく表わしている。
中国・青島でパン職人をしていた彼は当初日本軍に対して反抗的で脱走を繰り返すのだが(このあたりの事情が説明不足なのが残念)、敗者であり異文化圏の民族であるという感覚的な齟齬をあえて追求せずただ単純に彼を信頼したいという松江の誠意と地元民との交流によって、やがて心を開き自分を取り戻し、ついに終戦後は帰国せずに日本に住むという究極の選択をする。その結果が今日まで続いているバウムクーヘンで有名な洋菓子メーカーの最大手ユーハイム社である。

待ち、信じ、許し、受け入れ、わかりあおうとすることは、人間の最も尊くあたたかな能力であるはずだ。それこそが人類平和の基礎にほかならない。この映画のいいところは、20世紀初頭の田舎の日本人にそうした豊かさと高潔さが当り前に備わっていたことを、特定の誰かの手柄としてではなく、名もなく台詞もないたくさんの登場人物たちや背景描写の繊細さで表現しようとしているところだと思う。その努力はちゃんと評価されていいのではないだろうか。
FLiXバルトの楽園特集に当時「ムスター・ラーゲル(理想の収容所)」とまで呼ばれた板東俘虜収容所のすてきなエピソードがいくつか紹介されてます。

しかしこのベートーヴェンの交響曲第9番という曲は改めて歌詞を読むとまさにこの物語に相応しい。当り前だけど、傑作です。

抱き合え、幾百万の人びとよ!
この接吻を全世界に!
兄弟よ!
星空の下に愛する父なる神が住んでいるに違いない(原詩:シラー「歓喜に寄せて」より)

実際に年末のコンサートには一度しか行ったことないけど、今年はひさびさに行って聴いてみたくなりましたです。
日本人よりドイツ人の出演者が多いんだけど、彼らの芝居がすごーくよかったです。あと東映作品だけにやっぱし福本清三氏がしっかり出てました(笑)。ワンシーンだけだけどねん。