落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

人生劇場

2006年09月23日 | movie
『太陽』
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=htsmknm-22&o=9&p=8&l=as1&asins=B000MEXANI&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>

もうすぐ首相を退任する小泉純一郎氏とぐりは誕生日が同じです。どーでもいーけど(爆)。
この人が首相になってから「ワイドショー内閣」とか「小泉劇場」なんて言葉が生まれたりもしたけど、世間から注目される人のすることって多かれ少なかれ芝居じみてるものだ。世論はそこになにかしらの偶像を求めるし、うまく自分の思い通りにことを進めたい人はその偶像をしばしば利用する。
そんな偶像の最たるものが天皇と、天皇家の人々だ。といっても、彼らにはその偶像性を利用する権利もないわけだけれど。

映画はねー、すっごいよく出来てましたよ。ホントがんばったなー、と思いました。
コレ全編ロシアで撮影されてるんだよね。だから大半が室内シーンで、屋外は皇居の庭以外は全部VFXなの。CGもいっぱい使ってます。
でも画面の調和が大変よくとれている。60年前の時代の空気の匂いとか、天皇周辺の人物たちの呼吸に漂う緊張感とか、そういう独特の雰囲気が非常に説得力をもって再現されていて、なおかつ色や光が柔らかで深みがあってちょっと幻想的で、とっても上品な映像になっている。音楽もいいし、ぐりはこの映画大好きです。
天皇を演じてるイッセー尾形の芝居がまたおもしろい。昭和天皇もそうだけど、かつて華族とかいわれた高貴な人々の歩き方って特徴ありますよね。なんだか空中を歩いてるみたいな、フワフワヒラヒラした、優雅というかなんとも軽やかな歩き方。あれを忠実に真似ている。世間では口をもぐもぐさせる癖や喋り方が似てるってのが話題になったけど、ぐりは歩き方や感情を抑えた一見眠たげな表情とか、そういう挙措動作の似方の方がおもしろかった。

昭和天皇もそうだったけど、今の皇族の人たちも人前で感情を出す機会は滅多にない。というか全然ない。
けど世の中の人たちは彼らにいろんな幻想を押しつけている。それを拒否する権限は彼らにない。そーゆーのってキツイだろーなと思う。さぞしんどいだろうと思う。
映画の中の昭和天皇も「不便だ」という。彼は、神であることをやめて自由になったといった。けどその「自由」にはあまりにも大きな犠牲が支払われた。奥さんや子どものことを考えている彼はほんとうに幸せそうだったけど、彼が心からその幸せを満喫する瞬間が一生にどのくらいあったろうか。
いずれにせよ、映画の中でも天皇は感情をほとんどみせない。周囲が求めている言葉、求めている行動に沿って、「天皇」という役を延々と演じ続けている。しかもその役は彼が生まれたときから決まっていて、死ぬまでやめることは出来ない芝居なのだ。これはキツイ。
なので映画全体のトーンがなんとなく舞台演劇っぽくもなってます。それも味ですけど。

昭和天皇が亡くなった日のことをよく覚えている。
高校生の時で、早朝に亡くなって一日中TVではどのチャンネルでもそのニュースを放送し続けてました。土曜日で、ぐりは妹たちに食べさせるお昼ごはんをつくりながらそのニュースをみていて、誤って包丁を左手の人差し指に深く突き刺してしまった。やけにいっぱい血が出て一瞬気絶しかけたけど、止血をしてごはんをつくって、午後からは予備校にいった。
それがぐりの1989年1月7日の思い出だ。
この映画、一時は日本公開は不可能とまでいわれたけど、なんだかんだで全国的に公開されることになっている。よかった。しかしネットのレビューをみると、やはりロシア映画やアートムービーを見慣れてない観客からはけっこう厳しいことを書かれてしまっている(汗)。あのさー、たかが映画なんだからさあ(以下省略)。