落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

中華とモードのビデオノート

2007年11月17日 | movie
『無用』

「無用」とは作中に登場する馬可(マー・ク)という中国人デザイナーによるオートクチュールブランドの名前。
彼女は既に「例外」というプレタポルテのブランドをもっているが、工場での生産ラインによる服づくりに飽き足らず、素材から手づくりした服のブランドを立ち上げ、パリコレで発表する。
ファッション、モードに関するドキュメンタリーなのだが、ぶっちゃけ、イマイチでした。みなくてもよかったです。
明らかに賈樟柯(ジャ・ジャンクー)、ファッションにもモードにも興味も熱意もない。うわっつらをちょろちょろっとナメてみただけで終わっちゃってます。それこそ「服」というテーマをナメきっている。腰がひけている。
ファッション界、モード界を舞台にしたドキュメンタリーはこれまでに世界中で何本もつくられているけど、それこそ今や世界中の人が中国製の服を着ている。中国にだって欧米のブランドの直営店はあるし、地方には手作業で仕立てものをする個人経営の店がまだあって、子どもは親が手づくりした服を着ている。そんな特異な国内の「服」事情を、もっと真摯にオリジナリティをもって表現することはできたハズなのに、全部が中途半端、通り一遍の消極的なエピソードの断片で終わってしまっている。みている方はめちゃくちゃ消化不良である。

HD撮影の映像が汚いのと、音がかなりのパートで完全に割れてしまってたのが観ていて不愉快だった。最低限のクオリティはきちっと守ってから観客の前にもってくるべきでしょう。白画面に白字幕でまるっきり何が書いてあるのかわからなかったパートも多かった。

ひみつパイのレシピ

2007年11月17日 | movie
『ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた』
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おもしろかったです。
主人公ジェンナ(ケリー・ラッセル)は田舎町のダイナーで働くウェイトレス。特技はパイづくりでパイのコンテストに出るのが夢だけど、異様に独占欲の強い夫アール(ジェレミー・シスト)が許してくれない。おまけにそのダメ夫の子どもを妊娠してしまう。
人生から逃げ出したくてしょうがないジェンナ。それなのに母親としての責任が否が応でも迫り来る。自分にとってほんとうの幸せって何?という至上命題を、妊娠がわかって初めて、真剣に追求せざるを得なくなるヒロイン。そんなもの誰だってなかなかわからないものだ。一生わからない人もいるだろう。ぐりにだってわからない。健康で、家があって、仕事があって、毎日ごはんが食べられて、ゆっくりふとんで眠れればそれで幸せ、理屈の上ではそうに違いないけど、ほんとうにそれで正解なのかどうかは自信がない。

物語は非常にテンポ良く展開していく。
とても望めない妊娠がわかったものの、アメリカ南部という土地柄、堕胎はできない。生むしかない。生むとしたら大嫌いな夫の家に一生縛りつけられるか、妊娠がバレる前に逃げ出すかのどちらかしか選択肢がない。逃げ出すにはお金が必要だけど、生活の一部始終を監視されている身の上では貯金もままならない。不倫相手の産婦人科医(ネイサン・フィリオン)にも妻がいる。八方塞がりである。
五里霧中の迷路の中を右往左往するヒロインの姿が実にリアルで、かつコミカルでいい。自己憐憫に陥った平凡な主婦といえども、彼女には誰もの舌を唸らせるパイづくりという才能がある。画面を観ているだけで、ひとくちでいいから一度味わってみたくなるような、夢のようなパイのレシピの数々。ほんとうに大切なものは結局自分のなかにある、そんな当り前の答えに辿り着くまでの物語が、この映画ではとても自然に、楽しく描かれている。

こんなにチャーミングな映画をつくったエイドリアン・シェリー監督(劇中ではヒロインの同僚ウェイトレス・ドーンを演じている女優でもある)だが、1年前、この作品の編集作業中に、自宅アパートのリフォーム工事の作業員に殺害されるという不幸に見舞われてしまった。ジェンナの娘役として出演しているソフィ・オルトレイは彼女の忘れ形見である。
かわいいソフィの笑顔がせつない。この幼い子の母親は、こんなに素敵な映画を遺して死んでしまった。完成を観ずに死ぬのはさぞ悔しかったろうと思う。それよりも、こんなにかわいい娘の成長をみられなかったことの方がもっと悔しいだろう。

ぐりこの映画、女性より男性に観てもらいたいです。とくに既婚の男性。
奥さんがつれない、奥さんがこわいというそこのあなた、奥さんと仲良くなれないのは、あなたが奥さんの話を聞いてないからです。ぐりの周りの既婚者の話を聞く限り、夫婦の不和の原因はまず、相手の話を聞いてないから。ちゃんと話しあってないから。
奥さんに逃げられたくない、子どもがかわいいというダンナのみなさま、くれぐれも、奥さんの話は、ちゃんと、聞きましょう。真剣にね。奥さんは、あなたのおかーさんでも、子守りでも、家政婦でもないんだからね。