落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

It is in forgiving that we are forgiven.

2015年12月14日 | movie
『ムアラフ 改心』

ミッションスクールの教師ブライアン(ブライアン・ヤップ)は近所に住む教え子のアナ(シャリファ・アリーシャ)とその姉アニ(シャリファ・アマニ)と偶然親しくなるが、やがて彼女たちが母を亡くして家出中という寄るべない身の上であることを知る。一見あやういようでいて、妹を養うためにパブで働きながら復学を目指すアニの自立した聡明さに心惹かれるようになるのだが・・・。
2007年のマレーシア映画。イスラーム映画祭2015での鑑賞。

これ東京国際映画祭で上映してましたよね。観れなかったの覚えてます。今回観れて大満足。すっごいおもしろかった。監督のヤスミン・アハマドは2009年に亡くなってるんだけど、いまさら他の作品も猛烈観たくなってきました。それくらいおもしろかった。
何がおもしろいって人物造形ね。狂言廻しにあたるブライアンは敬虔なキリスト教徒の家庭出身でありながら信仰心がほとんどない。それなのに勤務先はミッションスクール。主人公のアニとアナはムスリムだが父に反抗して家出中で、妹はミッションスクールに通っている。マレーシアってイスラム系の女子校ってないのかな?なさそうだけど。ふたりとも聖書やコーランにやたら詳しくてかなりアタマはきれるのに、何を考えているのか一見よくわからない不思議ちゃん。
この3人の関係が近づいたり離れたり絡まったりしながら、だんだん物語の核心に迫っていく。緩急の利いた展開のリズムが観ていてとても心地よい。
あとこの映画台詞はほぼ9割がた英語です。それもバリッバリのアメリカンイングリッシュ。カジュアルなスラングまじりの英語で、すんごい真面目に宗教の話してるのが、これまたなんか不思議な感じでおもしろいの。

ブライアンは学校で孤立し複雑な家庭環境に苦しむアナとその姉を支えるつもりで無意識にふたりに近づいていくんだけど、反発しあいつつもあまりにまっすぐに互いを信じあうふたりの態度に、いつしか自分が逃げてきたもの、目を背けてきたものに気づかされていく。
人って誰でも、うまく消化できなくて乗り越えられなくて、自分の中にふたをして隠して抱えこんだまま生きている、そんなモノがある気がする。いつかは直面しなきゃいけないことは自分でもよくわかってるんだけど、きっかけがつかめない。きっと他人からみれば些細なことでなんでもないことなんだけど、どうしてか自分ひとりではどうしようもなくて持て余しているモノ。あるよね。
ブライアンは姉妹の素直さに触れて、知らず知らずのうちにそんな自分自身を取り戻していく。その微妙な変化がすごく素敵に描かれてました。

それでまたこのブライアン役のブライアン・ヤップが男前なんだわ(w。ベリーショートが似合うサッパリ顔でスラッとしてて、チャン・チェンとちょっと雰囲気似てます。けどこの映画以外に目立った活動の情報はない。ちっ。
姉妹が仮住まいする家が幽霊屋敷だったり、アナの学校の女性教師たちのキャラがやたら凡俗だったり、他にもいろいろとアクセントの利いた非常に完成度の高い作品でした。



ヒジャブとニカブ

2015年12月14日 | movie
『カリファーの決断』

母を病気で亡くし、礼拝所管理人の父と弟とつましく暮らすカリファー(マーシャ・ティモシー)。家計のために進学を諦め、大学を目指す弟の将来を慮り貿易商のラシッド(インドラ・ヘルランバン)と結婚するが、流産をきっかけに夫は妻にニカブ(目だけを出して全身を覆う黒装束)を身に着けるよう指示する。
2011年のインドネシア映画。イスラーム映画祭2015での鑑賞。

イスラム教というとどうしても中東とかアフリカを想像してしまいがちだけど、人口でいえば世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシア。でもイスラム国家ではありません。といっても私もインドネシアにはいったことないし、よくわかんないんだけどさ。ただ人口的にムスリムは多くても、多民族多宗教の国なのでそこまで厳格でもないともいいます。
この作品も女性のヒジャブ・ニカブ着用がテーマだけど、宗教そのものの話ではないです。
カリファーはピチピチに若くて綺麗(柴咲コウとか黒木メイサに雰囲気が似てる。要するに超美人)でおしゃれにだって興味津々。聡明ではあってもおとなしくて静かなふつうの女の子が、伴侶を得て、家族をまもるために戸惑いながらも教義という名目の夫の要求に応えていくなかで直面する出来事が、淡々と描かれている。
すごく当たり前な、穏やかなホームドラマです。

ただそこはイスラム教のある一面を題材としているだけあって、単に淡々とはしていない。ところどころに穏やかでない伏線がびしびしと張られている。
たとえばヒロインは亡母の友人が経営する美容院で働いてたんだけど、ニカブを着けたままでの接客が難しくなる。夫は仕事でほとんど家におらず、いつ戻るのか何を商っているのか、つまびらかには語りたがらない。インドネシアではヒジャブ(スカーフ)は着けてもニカブは一般的でないせいか、カリファーはあらぬ差別やトラブルに巻き込まれがちになっていく。そんな新婚家庭の向かいに若いイケメン仕立物師ヨガ(ベン・ジョシュア)が引っ越してくる。これがまた何かと親切なんだな。
そういうとくにドラマチックではない、ありきたりな日常風景の連続の中から、カリファーと周囲の人々の内面がとても素直に伝わってくる物語。
ヒロインの美容院にときどき客としてやってくる同級生の女子大生の存在が、カリファーのような女性の価値観をうまく説明する役割を果たしてもいる。西欧化された現代女性として生きる彼女と、家のために主体性を否定することを受け入れたカリファーのコンサバティブな生き方との対比は非常にわかりやすいが、さりとて極端にどちらが幸せでどちらが不幸でという描き方もしていない。ニュートラルなのだ。

淡々としていたはずの物語が終盤でいきなり大どんでん返しになるのにはビックリしました。まあ伏線はあったけど、それにしても唐突だし。お約束過ぎるし。
まあ結局、信仰とか家族とか結婚とか、何かに依存して自分で考えずに生きることって一見ラクにみえて、実はけっこうリスキーですよと、なんかそういう話なのかも。
にしてもタイトルの「決断」がなんだったのか、私ゃようわからんかったとです。なんやったんやろ。