落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ドンドンパチパチドンパチパチ

2007年11月18日 | movie
『Exiled 放・逐』

1999年の『ザ・ミッション 非情の掟』の続編的な、でもストーリー的にはつながってない、とゆー不思議な続編。
出演者も微妙にメンバーチェンジしてるし、まあ別モノっちゃ別モノです。ただ、特殊なシチュエーションで5人のガンマンがチームとなって戦う、とゆー、なんとなくRPGっぽい設定はそのまま。
けどぐりは前の『槍火』の方がおもしろかったかなあ~。シチュエーションにもう少しリアリティがあって、ハードボイルドらしい緊張感がしっかりあって。今回は緊張感はあんましないよね。いつものかっこいいレギュラーメンバー集めて、楽しくドンパチやってまーす、という以上のなにもない。確かに笑えるし観てて楽しいことは楽しいけど、新鮮さはないし、映画の世界観に思いきりひたれるような説得力ももうひとつ。
監督は『エレクション』『エレクション2』の後のバケーションのような気分で楽しんでこの映画を撮ったといってたし、ロケ地も香港をちょこっと離れて異国情緒漂うマカオで、仲良しお友だちみんなでわいわいやってる雰囲気は伝わってはくるけど、そーんなチョー熱烈杜[王其]峰(ジョニー・トー)スキスキ大ファン!でもないぐりにとっては、正直な話「だからなんだ」って感じでしたです。
観ててハラたつってことはないし、笑ったけど、わざわざ観にゃいかん!とゆーほどの映画でもなかったです。


中華とモードのビデオノート

2007年11月17日 | movie
『無用』

「無用」とは作中に登場する馬可(マー・ク)という中国人デザイナーによるオートクチュールブランドの名前。
彼女は既に「例外」というプレタポルテのブランドをもっているが、工場での生産ラインによる服づくりに飽き足らず、素材から手づくりした服のブランドを立ち上げ、パリコレで発表する。
ファッション、モードに関するドキュメンタリーなのだが、ぶっちゃけ、イマイチでした。みなくてもよかったです。
明らかに賈樟柯(ジャ・ジャンクー)、ファッションにもモードにも興味も熱意もない。うわっつらをちょろちょろっとナメてみただけで終わっちゃってます。それこそ「服」というテーマをナメきっている。腰がひけている。
ファッション界、モード界を舞台にしたドキュメンタリーはこれまでに世界中で何本もつくられているけど、それこそ今や世界中の人が中国製の服を着ている。中国にだって欧米のブランドの直営店はあるし、地方には手作業で仕立てものをする個人経営の店がまだあって、子どもは親が手づくりした服を着ている。そんな特異な国内の「服」事情を、もっと真摯にオリジナリティをもって表現することはできたハズなのに、全部が中途半端、通り一遍の消極的なエピソードの断片で終わってしまっている。みている方はめちゃくちゃ消化不良である。

HD撮影の映像が汚いのと、音がかなりのパートで完全に割れてしまってたのが観ていて不愉快だった。最低限のクオリティはきちっと守ってから観客の前にもってくるべきでしょう。白画面に白字幕でまるっきり何が書いてあるのかわからなかったパートも多かった。

ひみつパイのレシピ

2007年11月17日 | movie
『ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた』
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おもしろかったです。
主人公ジェンナ(ケリー・ラッセル)は田舎町のダイナーで働くウェイトレス。特技はパイづくりでパイのコンテストに出るのが夢だけど、異様に独占欲の強い夫アール(ジェレミー・シスト)が許してくれない。おまけにそのダメ夫の子どもを妊娠してしまう。
人生から逃げ出したくてしょうがないジェンナ。それなのに母親としての責任が否が応でも迫り来る。自分にとってほんとうの幸せって何?という至上命題を、妊娠がわかって初めて、真剣に追求せざるを得なくなるヒロイン。そんなもの誰だってなかなかわからないものだ。一生わからない人もいるだろう。ぐりにだってわからない。健康で、家があって、仕事があって、毎日ごはんが食べられて、ゆっくりふとんで眠れればそれで幸せ、理屈の上ではそうに違いないけど、ほんとうにそれで正解なのかどうかは自信がない。

物語は非常にテンポ良く展開していく。
とても望めない妊娠がわかったものの、アメリカ南部という土地柄、堕胎はできない。生むしかない。生むとしたら大嫌いな夫の家に一生縛りつけられるか、妊娠がバレる前に逃げ出すかのどちらかしか選択肢がない。逃げ出すにはお金が必要だけど、生活の一部始終を監視されている身の上では貯金もままならない。不倫相手の産婦人科医(ネイサン・フィリオン)にも妻がいる。八方塞がりである。
五里霧中の迷路の中を右往左往するヒロインの姿が実にリアルで、かつコミカルでいい。自己憐憫に陥った平凡な主婦といえども、彼女には誰もの舌を唸らせるパイづくりという才能がある。画面を観ているだけで、ひとくちでいいから一度味わってみたくなるような、夢のようなパイのレシピの数々。ほんとうに大切なものは結局自分のなかにある、そんな当り前の答えに辿り着くまでの物語が、この映画ではとても自然に、楽しく描かれている。

こんなにチャーミングな映画をつくったエイドリアン・シェリー監督(劇中ではヒロインの同僚ウェイトレス・ドーンを演じている女優でもある)だが、1年前、この作品の編集作業中に、自宅アパートのリフォーム工事の作業員に殺害されるという不幸に見舞われてしまった。ジェンナの娘役として出演しているソフィ・オルトレイは彼女の忘れ形見である。
かわいいソフィの笑顔がせつない。この幼い子の母親は、こんなに素敵な映画を遺して死んでしまった。完成を観ずに死ぬのはさぞ悔しかったろうと思う。それよりも、こんなにかわいい娘の成長をみられなかったことの方がもっと悔しいだろう。

ぐりこの映画、女性より男性に観てもらいたいです。とくに既婚の男性。
奥さんがつれない、奥さんがこわいというそこのあなた、奥さんと仲良くなれないのは、あなたが奥さんの話を聞いてないからです。ぐりの周りの既婚者の話を聞く限り、夫婦の不和の原因はまず、相手の話を聞いてないから。ちゃんと話しあってないから。
奥さんに逃げられたくない、子どもがかわいいというダンナのみなさま、くれぐれも、奥さんの話は、ちゃんと、聞きましょう。真剣にね。奥さんは、あなたのおかーさんでも、子守りでも、家政婦でもないんだからね。

残酷な神が支配する

2007年11月13日 | movie
『題名のない子守唄』
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冒頭に、わざわざ監督自身の言葉で「この映画は結末に楽しみがあるので、観た人は結末を他言しないように」というテロップがでる。
けどこの映画、どんでん返しに次ぐどんでん返しの連続で、一体どの箇所から後が監督のいう「結末」にあたるのかがよくわからない。
ぐりがここに普段書くレビューは基本的にネタバレはしないようには意識してるけど、この映画に関してはちょっと自信がないです。なのでこれからこの映画を観る予定のある人はくれぐれも今日のレビューは読まないように。

イタリア映画の味わいはカフェアッフォガートに似ている。
こってりしたバニラジェラートに煎れたてのエスプレッソコーヒーをかけたデザートのように、あたたかくて冷たくて、芳醇に香り高く、まろやかに甘くてほろ苦い。オシャレなんだけどハートウォーミングで、笑いもあって涙もある。感動的でありつつ同時に芸術的でもある。
ジュゼッペ・トルナトーレはそんななかでも、思いっきり深煎りした豆でいれたエスプレッソの香りが濃厚に漂うようような、苦味の強い悲劇を撮る作家だ。
ぐりは彼がカンヌで審査員特別賞を受賞した『ニュー・シネマ・パラダイス』が大好きなのだが、おそらく世間的にはアレはただひたすらメロメロに甘いメロドラマというような印象を持っている人が多いんではないかと思う。ぐりも最初に劇場オリジナル版を観たときはそう思ったのだが、後で公開されたディレクターズカット版を観て驚いた。話が全然違うから。
初めてDC版を観たときは、長いしくどいし、オリジナルバージョンの方がわかりやすくて好きだと思ったけど、今ではその長くてくどい方が好きだ。彼が映画にこめたかった本当のメッセージは、ワインスタイン兄弟にバッサリと切られてしまった「長くてくどい」=苦味部分の方に表現されていたのだ。
それがなんであるかを言葉で表わすのはとても難しい。ぐりは言葉で言い換えられない表現をする映画作家を最も尊敬しているけど(關錦鵬スタンリー・クァンやアトム・エゴヤンがそうだ)、そういう意味でもトルナトーレの映画はいつも素晴しい。彼の映画には、彼の映画でしかいえないメッセージがしっかりと描かれている。

トルナトーレにとって6年ぶりになるこの映画は、初めは一見サスペンスかスリラーのようにみえる。
ウクライナ人だというミステリアスなヒロイン(クセニア・ラパポルト)は前半ほとんど台詞もなく孤独に謎の行為を繰り返す。ボロボロのアパートを大枚を払って借り、向かいのマンションの管理人に手数料まで払ってとりいる。彼女のターゲットがマンションに住む金細工師一家であることは容易にわかるのだが、彼女のそもそもの目的はなかなかみえてこない。少なくともカネや好奇心のためではないことだけははっきりしているのだが。
なので物語が単純に前進していかず、あちらこちらに思わせぶりな伏線がこれでもかと張り巡らされる。彼女の悲惨な過去のフラッシュバックも、単純に物語の方向を示してはいない。
しかし実際に人の人生というものにはそうした迷走はつきものなんじゃないかと思うし、主人公が異国人で女性ならむしろこうしたストーリー展開もリアルに感じる。
彼女自身にさえ、目的なんかわかっていなかったのだ。ただただ、娘の姿をみて、声を聞いて、肌に触れて、そばにいて、成長を見守りたかっただけで、その欲求に、目的なんかいらなかったのだ。

そんな女心/親心が甘いジェラート部分なら、この映画のエスプレッソ部分は先進国における外国人への性的搾取の苛酷さだろう。
アメリカでも社会問題として注目を集めている人身売買産業だが、どういうわけかあまりマスコミでは騒がれないけど日本にも世界的に大規模な人身売買マーケットが存在している。
この映画で描かれるのは最近クローネンバーグが撮った『Eastern Promises』でもとりあげられたロシアン・マフィアによる人身売買の実態である。売春、風俗産業などというなまやさしい話ではない。文字通り、すべての尊厳を剥ぎ取られ家畜として売り買いされた人間の、そのなれの果ての悲劇である。
苦いの苦くないのってそりゃ苦いですよ。キビシイっすよ。人が人にこんなに残酷になれるってことが怖い。でも人の欲に際限がないのなら、欲のためにいくらでも残酷になれるのも人間なのだろう。子どもがほしいとか、若くて綺麗な女の子とイチャイチャしたいなんて欲望は誰にでもあるだろうし心の中でそう思うだけなら罪ではないけど、その欲望にも値札がつけられるとしたら、人身売買はその時点で他人事ではなくなる。そして他人事では済まされない人身売買とは一体どういうことなのかを、ひとりの女性の生き地獄を通じて描いたのがこの『題名のない子守唄』なのだ。

トルナトーレの過去のどの作品よりも社会派でちょっとトーンの違う映画だけど、ぐりはこの映画すごく好きです。
社会派ドラマなのにこういうアプローチをするところがまたトルナトーレらしいと思う。


最終兵器ママ

2007年11月10日 | movie
『ヘアスプレー』
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おもしろかったよー。
舞台を元にしたミュージカルコメディとは聞いてたけど、全編のほとんどがミュージカルシーンで、ストレートプレイのシーンはほとんどない。だからストーリーがすごく軽いというか、薄っぺらというか、上っ面な感じはする。
それはそれでかまわないんじゃないかという気もする。ヒロイン(ニッキー・ブロンスキー)のノー天気さも、相手役(ザック・エフロン)の軽薄さも、むしろ却ってギャグとして素直に受け入れられる。
けどそれはやっぱり、この映画を彩る名曲の数々の力が大きい。とにかくいい曲ばっかりだもん。ダンスもみなさん素晴らしいです。

観ていて心から楽しめる映画ではあるけど、テーマが人種差別のわりには観た後に何も残らないのは確かに少し物足りない。ほんとにコレでいいのかな?とはちょっと思う。
ただし、おそらく、この映画は単に「差別はいけない」なんて正義を主張したいわけではないのだろう。もっと広義に、既存の価値観を疑え、前進しろ、挑戦しろ、という、人生への応援歌を歌いあげたかったのだろうとは思う。それはわかるし、過激なダイエットや美容整形が当たり前になり、若いことや美しいことへのこだわりが強迫観念となってしまった現代社会への、強烈な抗議は感じることは感じる。
でもたぶん、オリジナルの方にはあったと思われるもっとガッツなメッセージが、全体の雰囲気の暢気さで薄まってしまっているのではないかという印象は否めない。

舞台版のそのまたオリジナルの1988年版はぐりは未見なのだが、こちらは実際にあった事件を元にしていて、微妙に物語が違っているらしい。この機会に是非とも一度観てみたくなりましたです。
ヒロイン・エドナの父(クリストファー・ウォーケン)が経営する雑貨店がウォーターズの『I love ペッカー』に登場した主人公の両親の雑貨店そっくりで、それも1988年版に出てくるのか確かめてみたくなった。
ぐりはボルチモアって行ったこともないしどんなところなのかも全然知らないけど、知ってる人が観ればウォーターズ作品もまた違った見え方になるんだろうなと思う。そこがこの映画ではちょっと歯がゆくは感じました。