■Dexter Gordon Live At The Amsterdam Paradiso (Catfish)
1963年頃から欧州中心の活動に切り替えたデクスター・ゴードンは、それゆえに自身の公式リーダーセッションは年1回ほどなりましたが、その間を埋めるプライベートなライブ録音が後年になって続々と商品化されたのは、嬉しいことでした。
本日ご紹介のアルバムもそうしたブツで、デクスター・ゴードンが単身オランダに乗り込み、現地のリズム隊と共演した熱い演奏が楽しめます。
録音は1969年2月5日、アムステルダムの「パラディソ」という小屋で、メンバーはデクスター・ゴードン(ts)、シーズ・スリンガー(p)、ジャック・ショールス(b)、ハン・ベニング(ds) というワンホーン編成♪ ちなみにドラムスとベースはエリック・ドルフィーの公式な遺作「Last Date (Fontana)」にも参加していた名コンビですし、ピアノのシーズ・スリンガーも渡欧してきたアメリカ勢のバックを度々務めるなかなかの実力者ですから、デクスター・ゴードンも本領発揮です――
A-1 Introduction by Dexter Gordon
A-2 Fried Bananas
デクスター・ゴードン本人による短い挨拶はあまりウケていませんが、逆にそこからは、本場アメリカの大物が登場というステージの緊張感が伝わってきます。
そして初っ端に演じられるのが、有名スタンダード曲「It Could Happen To You」のコード進行を拝借してデクスター・ゴードンが書いた快適なハードバップのオリジナル! 私はこの曲が大好きですから、テーマが一節演奏されただけで、もうワクワクしてしまいます♪ いゃ~、テーマメロディがまるっきりデクスターフレーズの良いとこ取りなんですねぇ~♪♪
もちろんアドリブパートも剛球勝負のグイノリで、微妙に遅れて吹きながら、ケツは見事に合っているというデクスター・ゴードンだけの妙技が最高です。ハードな音色でギスギスと鳴るテナーサックスの魅力が、ここにあり! ですねぇ~♪ ついつい音量を上げてしまうほどです。
またリズム隊も大健闘で、トンパチなドラミングが楽しいハン・ベニング、重量級ベースを響かせるジャック・ショールス、また適度なアウト感覚もイヤミの無いシース・スリンガーのピアノという、ちょっと力んだ感じが実に良いです。
A-3 What's New
有名スタンダード曲を堂々と吹奏するデクスター・ゴードンの貫禄! あまりの素晴らしさに絶句して感涙してしまう演奏です。ハードエッジなサブトーンの魅力、そしてテナーサックス王道の鳴りの凄さは本物の証明ですし、テーマメロディのフェイクからアドリブ全篇の歌心は圧巻ですねぇ~♪
このあたりはデクスター・ゴードンが主演した、あの名画「ラウンド・ミッドナイト」の中の名台詞「歌詞を忘れたから、もう吹けない」が偽りではないと実感されます。う~ん、「別れても好きな人」という歌詞をハードボイルドに解釈していくデクスター・ゴードンは、流石に粋な大人ですから、こういう人に私はなりたいという、無理を承知の憧れが……。
とにかくこれは畢生の名演じゃないでしょうか。
B-1 Good Bait
ジョン・コルトレーンも演じているビバップの王道曲ですから、同じテナーサックスでデクスター・ゴードンがどんな演奏を聞かせてくれるか、もうワクワクで聴き始めると、これが最高の中の極みつき!
ゆったりとしたグイノリのテンポで威風堂々、そしてだんだんと熱くなっていく男気の満ちたその吹奏の凄味は強烈で、申し訳なくも私はジョン・コルトレーンの演奏よりはずっと好きです。あぁ、何のゴマカシも無い真っ向勝負の潔さ!
バックのリズム隊も相当に挑戦的な煽りを演じていますが、全く動じないデクスター・ゴードンの存在感には焦り気味という雰囲気が、如何にもジャズです。LP片面を占有した長尺演奏ですが、夢中にさせられてアッという間のハードバップ天国が、ここにあります。
C-1 Rhythm-A-Ning
セロニアス・モンクが書いた有名オリジナルのひとつで、その幾何学的なテーマメロディには尖鋭的なビートが潜んでいるからでしょうか、もともとフリーやモードが十八番のリズム隊がイキイキとしています。
しかしそれを全く問題にしないデクスター・ゴードンの勢いは物凄く、アップテンポでゴリゴリと吹きまくる姿は圧巻! テナーサックスのハードエッジな鳴りも強烈です。
ちなみにこの曲はジョニー・グリフィンやチャーリー・ラウズといった、セロニアス・モンクに雇われていたテナーサックス奏者には必須の演目でしたから、聴き比べも楽しいところですが、個人的にはここでのデクスター・ゴードンに軍配をあげます。
C-2 Willow Weep For Me
ブルース歌謡の味わいも強いスタンダード曲ですが、デクスター・ゴードンは全く自分流の解釈で「失恋の歌」を聞かせてくれる潔さ♪ もちろんテナーサックスの魅力である適度なサブトーンと硬質な音色のバランスも素晴らしく、幾分ギクシャクしたフレーズの連なりは実に説得力に満ちています。
また最後の最後で「お約束」のリフを出す楽しみも結果オーライですね♪
D-1 Junior
デクスター・ゴードンのオリジナルで、これぞっ、ハードバップのブルース大会! ミディアムテンポでメリハリの効いたビートを作りだすリズム隊は、ちょっと場慣れしていないところが逆に新鮮で、つまりは本場の黒人ジャズに圧倒されている感じでしょうか。
デクスター・ゴードンは、しかしそれを百も承知で手抜き無し! 如何にも1969年という派手なフレーズや音使いも聞かれますが、やっぱり王道を外していません。
D-2 Scrapple From The Apple
オーラスはビバップの聖典曲を熱血のハードバップに仕立てた猛烈な演奏で、激しいアップテンポで煽るリズム隊を逆に置き去りにするデクスター・ゴードンのノリが強烈です。
もちろんこれには観客も大喜び! 嬌声と拍手喝采はその場の幸せの証でしょうねぇ。実に羨ましいかぎりです。
D-3 Closing Announcement
司会者からの短い挨拶で、デクスター・ゴードンが讃えられていますが、当然でしょうねっ♪
ということで、黒人ジャズ&ハードバップを真っ向から演じたデクスター・ゴードンの熱血ライブ盤です。気になる音質もモノラルミックスながらバランスも良好♪ まずテナーサックスのハードな音色がキリリと録音され、リズム隊も重量感のある存在になっています。もちろんプライベート録音ですから、部分的に不安的なところもあるんですが、これだけの演奏が楽しめるのですから、贅沢は敵でしょう。
とにかく本場のジャズジャイアントを迎えて緊張し、同時にハッスルしたリズム隊の必死さが、なおさらに良い方向に働いた感じです。
冒頭で述べたとおり、当時のデクスター・ゴードンは特定のレコーディング契約も無かった時期ですが、実際のライブの場では連日連夜、こんな熱い演奏を繰り広げていたんですねぇ~。アメリカでは仕事が思うようにならなかったのが信じられないというか、それが当時の現実でした……。
しかしデクスター・ゴードンはこのライブの直後に帰米を決意、プレスティッジと契約し、ハードバップリバイバルの火付け役を演じるわけですから、このアルバムの凄さは、さもありなんでしょう。
CD化は未確認ですが、機会があればぜひとも聴いていただきたい傑作盤で、とくに「What's New」は最高ですよっ♪ そしてテナーサックスのハードな鳴り! これこそがハードバップの真髄かもしれません。