■Charlie Mariano (Bethlehem)
ジャズメンは本来、カッコイイ人が多いですね。本日の主役たるチャーリー・マリアーノもそのひとりです。とにかくスマートなルックスと音楽性が一体となった存在感は、白人アルトサックス奏者の中でもピカイチじゃないでしょうか。
そのあたりはアート・ペッパーと比較して云々される事も多いわけですが、アート・ペッパーが陰影豊かな感性を人生の美意識にまで高めていたのとは対照的に、チャーリー・マリアーノはスポーツカーでブッ飛ばし、美女とのあれこれ、さらに爽快で甘酸っぱいような青春の熱情というか、所謂「若大将シリーズ」みたいな演奏に思えます。
もちろんチャーリー・マリアーノにしても、後には東洋哲学やロック&モードジャズに染まった、些か思索的な演奏にも手を出していますが、1950年代の純正モダンジャズ期に残した録音は、どれも普遍の素晴らしさに満ちていて、私は大好き♪ 本日の1枚は我が国でも「チャーリー・マリアーノの真髄」という邦題で発売されたほどの人気盤です。
録音は1955年6月、メンバーはチャーリー・マリアーノ(as) 以下、ジョン・ウィリアムス(p)、マックス・ベネット(b)、メル・ルイス(ds) という強力なリズム隊を従えたワンホーンの魅力がいっぱい――
A-1 Johnny One Note
躍動的なリズム隊に導かれ、如何にも白人らしいノリが痛快なチャーリー・マリアーノのアルトにシビレます。テーマが終わってアドリブに入る瞬間のノケゾリ「パーカーフレーズ」も最高ですねぇ~♪ ここを聴いただけで、このアルバムは間違い無い! と確信するほどです。
そしてスピードのついたアドリブパートの爽快感! このあたりは同じパーカー派のフィル・ウッズと比べると、より直線的にスポーツライクですし、やはり同曲を演じているジャッキー・マクリーンよりもスマートなムードが、実に良い感じです。
また私の大好きなピアニストのジョン・ウィリアムスが、ここでの快演をはじめ、全篇で素晴らしく、もちろん弾みの効いた伴奏も聞き逃せません。
A-2 The Very Thought Of You
ドリス・デイのヒット曲として有名なメロディを、ここでのチャーリー・マリアーノは幾分早いテンポで、そして白人らしい軽やかなグルーヴで聞かせてくれます。とにかくテーマメロディの歌い回しからして、スマートな感性がモダンジャズの情熱と見事にリンクしていると思います。
淡々としていながら力強いリズム隊の存在感も強く、ジョン・ウィリアムスが歌心満点のピアノですから、嬉しくなりますねぇ~。マックス・ベネットのベースも的確です。
A-3 Smoke Get In Your Eyes / 煙が目にしみる
お馴染みの哀愁のメロディがチャーリー・マリアーノの手になれば、仄かな甘さとせつなさが同居した青春の香りとなるのですから、たまりません。最初からテーマメロディを上手くフェイクしてアドリブしていくジャズそのものの感性も見事だと思います。このブル~ス味の付け方が、本当に何とも言えないんですよねぇ~~♪
A-4 King Of A Day
あまり有名ではないスタンダードみたいですが、ちょっとマイナー調が入った曲とチャーリー・マリアーノが独自の楽想が見事に一致した名演になっています。
躍動的なリズム隊は、当時のスタン・ケントン楽団で同期のメル・ルイス&マックス・ベネットが要となり、ジョン・ウィリアムスの飛び跳ねグルーヴも最高潮ですし、まさに息もぴったり! クライマックスのソロチェンジになれば、もうワクワク感がいっぱいですよっ♪
ですからチャーリー・マリアーノも心おきなくトキメキのパーカーフレーズを連続射出し、自らの気持ちに素直な演奏を作り出しているようです。
B-1 Darn That Dream
B面とはいえ、ド頭にこんな甘いスローバラードを入れさせてしまったほどの素敵な演奏です。もちろんここでも、最初っから原曲メロディをフェイクしてアドリブに繋げていくチャーリー・マリアーノの得意技が全開♪
だんだんと力強さを増していくリズム隊も堅実な助演が素晴らしく、決して甘さに流されない心意気が素晴らしいと思います。
B-2 Floormat
チャーリー・マリアーノの楽しいオリジナル曲で、ミディアムテンポの弾んだスイング感が、まず最高です。このあたりのグルーヴは本当に白人バンドでしか出せないムードでしょうね。ハードバップは必ずしも黒人の演奏だけが優れているのではないという証明かもしれません。明らかに縦のベクトルが強いノリですが、これもまた気持ちが良いジャズ独特のものだと思います。
う~ん、リズム隊が最高♪ ですからチャーリー・マリアーノが幾分、凝り過ぎのアドリブに走っても、最後まで楽しく聴くことが出来るのでした。
B-3 Blues
そのものズバリの曲タイトル、そしてグルーヴィにジャズとブルースを追求するバンドは些か様式美に陥っています。しかしここでもジョン・ウィリアムスがファンキーな味わいを上手く醸し出していますから、ギリギリで結果オーライでしょう。
ただしチャーリー・マリアーノの取り組み方は真剣そのものですから、よりストレートな楽しみ方が出来るでしょう。私は、かなり気に入っている演奏です。中盤以降のスピードアップしたパートが素直で良いですねっ♪
B-4 I Heard You Cried Last Night
軽快なテンポで演じられる楽しいモダンジャズの典型♪ 原曲はスタンダードの歌物だと思われますが、チャーリー・マリアーノはパーカーフレーズを要所でキメに用いながら、ストレートな歌心を披露して好感が持てます。
そしてここでもジョン・ウィリアムスが本領発揮♪ 本当にゴキゲンですよ。
ということで、白人アルトサックスとしてはアート・ペッパーあたりがお気に入りだと、ここでのチャーリー・マリアーノには物足りなさを感じるかもしれません。しかし独特の甘さとかスマートな感性は、やっぱり魅力があります。
ジャズの歴史の刻まれたアルバムでは決してありませんが、こういう演奏がジャズ喫茶には必需品でしたし、そこで聞かされて一発で気にいり、店を出てからはレコード屋へ足が向いてしまうのは、こうした作品の常でした。
黒地でモノクロ写真を使ったジャケットも、暗いジャズ喫茶では逆に効果的だったのかもしれません。
ちなみにチャーリー・マリアーノは同レーベルにもう1枚、3管編成の名盤「Charlie Mariano Plays」を吹き込んでいますが、これもモノクロのジャケットが演奏共々に素敵でしたねぇ♪
う~ん、チャーリー・マリアーノにはモノクロが良く似合う!? そう、これは良質のモノクロ映画のようなアルバムかもしれません。