OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

フレディ代参の幻ハードバップ

2009-02-12 09:39:12 | Jazz

Groovy! / Freddy Hubbard (Jazzline / Fontana)

悲運は人生の常とは言いながら、決して簡単に納得出来るものではありません。

このアルバムも録音から紆余曲折、様々な事情が混在する謎の名盤で、一応はフレディ・ハバードの名義で世に出たものですが、他にもジャケットやリーダー名義、タイトルまでも異なる商品として流通しています。

実は原盤のセッションは1961年頃に設立された「Jazzline」という超マイナーレーベルで制作されたものです。しかしレーベルそのものが、アッという間に活動停止に追い込まれ……。結局は音源だけが各国の様々なレコード会社から発売されたというわけです。

ちなみに私有はイギリスのフォンタナレコードから発売されたLPですが、我が国でもテイチクレコードから、「Freddy Hubbard No,5」というタイトルで発売されていましたし、アメリカのプレスティッジからデューク・ピアソン名義で発売された「Dedication!」も同一内容だと思います。

そのセッションは1961年8月2日に行われ、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、ウィリー・ウィルソン(tb)、ペッパー・アダムス(bs)、デューク。ビアソン(p)、トーマス・ハワード(b)、レックス・ハンフリーズ(ds) というセクステットで、なんとリーダーはウィリー・ウイルソンというのが真相だと言われています。

A-1 Minor Mishap
 トミー・フラナガンが書いたハードバップど真ん中の人気曲で、1957年のジョン・コルトレーンも参加した傑作盤「The Cat (Prestige)」に入っているオリジナル演奏も素敵ですが、このバージョンも侮れません。
 和みと勢いが両立したテーマ合奏からデューク・ピアソンのジャズセンスが遺憾無く発揮されたブレイクの閃き、そして痛快なアドリブに続いて登場するのが、本セッションのリーダーというウィリー・ウイルソンのトロンボーン!
 そのスタイルは幾分、モゴモゴした音色とハードバップにどっぷりのフィーリングが好ましく、個人的には J.J.ジョンソンとカーティス・フラーの魅力を併せ持つ名手としてお気に入りのひとりです。
 演奏はこの後、溌剌としたフレディ・ハバードからゴリ押しのペッパー・アダムスというアドリブ天国へと続き、ハードエッジなリズム隊と共謀しながら、見事な纏まりを聞かせてくれます。

A-2 Blues For Alvena
 ウィリー・ウイルソンが書いたオトボケゴスペルのブルースで、そのホンワカしてファンキーな曲調とグルーヴィなムードが、たまりません♪♪~♪ もちろん作者自身のトロンボーンが最高の味わいを醸し出しているのです。
 ユルユルのドドンパビートを敲き出すレックス・ハンフリーズが、しかしアドリブパートではタイトな4ビートに徹するあたりも潔く、リズム隊の強固な団結力も高得点だと思います。
 そしてアドリブパートでは、ホノボノとファンキーなウィリー・ウイルソン、鋭いフレディ・ハバードに豪快なペッパー・アダムスというフロント陣に続き、デューク・ピアソンが持ち味のソフトな黒っぽさを全開させた名演で、ジンワリと心が温まる演奏になっています。

A-3 The Nearncss Of You
 胸キュンメロディが素敵な有名スタンダードを、じっくりと吹いてくれるウィリー・ウイルソンのワンホーン演奏♪♪~♪ そのフェイクが微妙にイモっぽいところが逆に魅力的ですし、アドリブパートでの思わせぶりが純朴なジャズフィーリングに直結していて、実に好感が持てます。
 リズム隊の力強いグルーヴも素晴らしく、ウィリー・ウイルソンのアドリブフレーズからはジャズを演奏する喜びのようなものさえ伝わってきますねぇ~♪ ちなみにこれほどの名手が無名で終わったのは、本人が早世してしまったからだとか……。
 人の世の無常を、これまた感じいってしまうだけに、このトラックが尚更に愛おしいです。

A-4 Number Five
 デューク・ピアソンが書いた、実にカッコ良いハードバップ!
 フレディ・ハバードがリードするテーマ合奏からペッパー・アダムスの豪放なバリトンサックスが飛び出せば、その場はモダンジャズ全盛期の空気に満たされます。アドリブの受け渡しに使われるリフも痛快なほどにキマッていますし、続くフレディ・ハバードからウィリー・ウイルソン、デューク・ピアソンという個人芸の連続技も、安定感とスリルが両立した名演だと思います。

B-1 Lex
 これは私の大好きなハードバップの名曲で、ドナルド・バードの名盤「Byrd In Flight (Blue Note)」に収められた1960年の自作自演バージョンが決定版ですが、そこでのピアニストだったデューク・ピアソンにしてみれば、夢よもう一度!? それが見事に果たされた快演になっています。
 まずはテーマ部分からして、レックス・ハンフリーズのドラミングが実に熱いです。もちろん演奏を通しての煽りも最高ですから、この曲って、もしかしたらレックス・ハンフリーズに捧げられたものなんでしょうか? ドナルド・バードのオリジナルバージョンでも当然ながら、このドラマーが敲いていますからねぇ~♪
 そしてフレディ・ハバードの颯爽としてテンションの高いトランペット、ブリブリに咆哮するペッパー・アダムスのバリトンサックス、さらに大ハッスルで突進するウィリー・ウイルソンのトロンポーンが、これぞっ、ハードバップの醍醐味を満喫させてくれますよっ♪♪~♪
 またデューク・ピアソンがメリハリの効いた伴奏とジャズ者の琴線に触れまくりのアドリブを披露して、実はこのセッションの音楽監督だったのか!? という謎解きを提示しています。 

B-2 Time After Time
 これまたウィリー・ウイルソンが主役のワンホーン演奏で、有名スタンダードをゆったりと吹奏しながら、素晴らしいジャズ魂を感じさせてくれます。寄り添うデューク・ピアソンのピアノも味わい深く、トミー・フラナガンと同じ色合いのセンスが眩しいところ♪♪~♪
 ちなみにデューク・ピアソンは1960年代中頃からはブルーノートで現場監督も務めますが、その人を立てる上手さというか、それでいてイヤミの無いところは、実社会でも大いに見習うべき美徳かもしれませんねぇ。

B-3 Apothegrn
 ペッパー・アダムスが書いた、ちょっと凝り過ぎたようなテーマが不思議な気分ではありますが、バンド全体のグルーヴは如何にもハードバップですから、各人のアドリブも熱を帯びています。
 中でもフレディ・ハバードは既にして新しい感覚というか、後の新主流派っぽいアドリブを聞かせてくれますし、リズム隊も硬派なビートでバックアップしているようです。
 気になるウィリー・ウイルソンは、何故かテーマ合奏の一部分をリードするだけ……。う~ん、これではフレディ・ハバードのリーダー作とされても仕方がないような……。

ということで、なかなか充実したハードバップの名作です。特に当時の新進気鋭であったフレディ・ハバードの鋭さは、明らかに新時代のハートバップを高らかに宣言しているようです。

しかし本来のリーダーたるウィリー・ウイルソンも、負けじと良い味を出しまくり! 全くこれ1枚しか楽しめないのが残念至極、痛感の極みと思えるほど、私は好きなトロンボーン奏者になりました。

それとリズム隊の素晴らしさも特筆すべきで、ハードエッジなリズムとメリハリの効いたビートを健実に作り出し、このセッションを見事な成功へと導いた立役者じゃないでしょうか。ちなみにこのトリオは前日、同じレーベルのセッションとして素敵な録音を残しており、それはデューク・ピアソン名義のアルバム、例えば我が国では「バクス・グルーヴ(トリオ)」としてアナログ盤LPが出たように、様々な仕様のブツが出回っていますが、中身は極上♪♪~♪

やはりこの時期のモダンジャズは、ひとつの全盛期だったのですねぇ~♪ 様々な悲運さえも乗り越えて、現代でも色あせることのない演奏だと思います。

コメント
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