■The Quest / Mal Waldron (New Jazz / Prestige)
マル・ウォルドロンといえば、レフト・アローンの人と決めつけられた感もありますが、しかしその本質は、秘められた過激な情熱と真摯なジャズ魂を持った情念のピアニストだと思います。また妙にジェントルな雰囲気も、なかなか良いですね。
さて、本日ご紹介のアルバムは、その中でも特にアブナイ姿勢を明確に打ち出した強烈1枚!
録音は1961年6月27日、メンバーはエリック・ドルフィー(as,cl)、プッカー・アーヴィン(ts)、マル・ウォルドロン(p)、ロン・カーター(cello)、ジョー・ベンジャミン(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という、実に怖い面々が勢揃い! ほぼ1ヵ月前に吹き込まれた、ロン・カーターの辛辣なアルバム「Where? (New Jazz)」との共通項も感じられる凄いセッションになっています。しかも演目は全て、マル・ウォルドロンのオリジナル!
A-1 Status Seeking
ちょっとギャング映画のサントラ音源のようなテーマですが、チャーリー・パーシップのタイトで躍動的なドラミングが引き金となり、忽ち強烈なアップテンポのモード大会となります。初っ端から全力疾走というエリック・ドルフィーのアルトサックスには、既にして危険が全開!
続くブッカー・アーヴィンのテナーサックスも硬質なツッコミで、その短絡的なアドリブフレーズが実に痛快ですし、ロン・カーターのチェロが、これまた意味不明の凄さというか、全くの分からなさがジャズの一面を表しているようです。
そしてマル・ウォルドロンが同じフレーズを執拗に繰り返すという、情念のイタコ弾き! 録音のバランスから、やや引っこんだミックスは勿体無い感じですが、ドラムスやベースとの兼ね合いを考慮すれば、まあ、いいか……、
しかしながら、この演奏の緊張感と不安な激情は、まさにセッション全体を象徴していると思います。
A-2 Duquility
ロン・カーターのセロが陰鬱なメロディをリードしていきますが、そのアブナイな音程が逆にムードを高めているようです。
そしてマル・ウォルドロンの訥弁スタイルによるアドリブが始まれば、気分はロンリー……。そのポツンポツンとしか続かないピアノは、当時の暗いジャズ喫茶にはジャストミートの快感でした。
隠れレフト・アローンかもしれませんねぇ。
A-3 Thirteen
これも陰鬱なムードが激辛に演じられたアップテンポのモード大会! チャーリー・パーシップの極めてロイ・ヘインズっぽいドラミングが、ここでも冴えまくっていますし、エリック・ドルフィーも快調です。
しかし、それにも増して怖いのがロン・カーターのチェロで、登場した瞬間から、その場を不安で気持ち悪いものにしてしまうのです。
ただし、それをブッ飛ばすのがブッカー・アーヴィンのハードにドライヴしたテナーサックスでしょう。ここでは何時もの脂っこさよりは、ストレートな咆哮に徹している感じですが、正解でしょうねぇ。続くマル・ウォルドロンのアドリブにも控えめの良さがあります。
そしてラストテーマのアンサンブルの気持ち悪さ!
A-4 We Diddit
これも前曲の続篇のような演奏で、細切れのリフから激しく突っ込んでいくエリック・ドルフィーのアドリブは爽快ですが、またまたロン・カーターのチェロがっ!?
しかしここでも躍動的なリズム隊の4ビート、またブッカー・アーヴィンの妥協しない自己主張、さらにマル・ウォルドロンやチャーリー・パーシップの熱演がなかなかに見事ですから、ついつい夢中になってしまいます。
B-1 Warm Canto
珍しくもエリック・ドルフィーのクラリネットがテーマをリードして、さらに素晴しいアドリブを聞かせてくれる、実に心和む演奏です。その穏やかに空中を浮遊していくような表現、同時に異次元を覗いてしまう瞬間も強い印象を残します。
またロン・カーターのチェロも味わい深く、その音程のアブナイところも結果オーライという曲調ですから、マル・ウォルドロンも会心の笑みというピアノを聞かせてくれますよ♪♪~♪
このアルバムでは一番というジェントルな雰囲気は、とてもこのメンバーからは想像も出来ないほどの名演だと思います。
B-2 Warp And Woof
変拍子、多分5拍子を使った変態ブルースで、冒頭からロン・カーターのチェロが悪趣味なテーマをリードしていきますが、アドリブパートではマル・ウォルドロンが十八番という執拗なリフの繰り返し! これが実に快感を呼びます。
そしてブッカー・アーヴィンが粘っこくて投げやりな本領を発揮! 続くエリック・ドルフィーも過激な姿勢を貫いて対抗し、終盤ではテナー対アルトの静かなる決闘も用意されています。
B-3 Fire Waltz
さてさて、これがお目当てというファンも多いでしょうねぇ♪♪~♪ なにしろエリック・ドルフィーが生涯の人気セッションとなった、あのファイブスポットのライブ盤でも演じられる名曲ですから!
しかしここでは、それに先立つスタジオバージョンということで、マル・ウォルドロンとロン・カーターが活躍するという肩透かし……。エリック・ドルフィーはテーマ部分にしか登場しません。
その代わりに濃密なアドリブを聞かせてくれるのがブッカー・アーヴィン! 粘っこくて歌心のバランスもとれた、これまた隠れ名演の可能性があるパートだと思います。
ということで、妙に落ち着きのない仕上がりかもしれませんが、個人的にはB面を愛聴しています。とくに「Warm Canto」の変質的な和みは、絶大な魅力なんですよ。
集合したメンバーも個性的ですし、セッション全体の前向きな姿勢や意欲的なアルバム作りには共感を覚えます。
ちなみに掲載した私有盤は、もちろん再発されたジャケット違いですが、このサイケポップなレタリングは、1960年代中頃からの流行りでした。それゆえに未だジャズを聴いて間もない頃だった十代の私は、妙な安心感を持って、このアルバムを買いました。
そして当時はA面ばっかり聴いていたんですが、齢を重ねるうちにB面、特に「Warm Canto」が、無くてはならないのです。