■In The Land Of The Giants / Eric Kloss (Prestige)
音楽界には盲目の才人が大勢いますが、白人サックス奏者のエリック・クロスもそのひとりとして、十代の頃から立派なモダンジャズのリーダー盤を出しています。
なにしろ1965年にデビューアルバムを作った時が16歳でしたし、以降、プレスティッジとミューズの両レーベルで1979年頃まで行われたセッションの共演者達は、いずれも超一流の名手ばかりでした。
本日ご紹介の1枚も凄いメンツが大集合! エリック・クロス(as) を主役にしながらも、ジャッキー・バイアード(p)、リチャード・デイビス(b)、アラン・ドウソン(ds) という、同レーベルではブッカー・アーヴィン(ts) の諸作におけるリズム隊の参加に絶大な魅力があり、しかもブッカー・アーヴィン(ts) 本人までもが、4曲で加わっていますから、告白すると私はエリック・クロスよりも、ブッカー・アーヴィンとリズム隊が完全なお目当てだったのです。
ちなみに録音は1969年1月2日とされていますから、時期的にはロックジャズも期待していたのですが、まあ、このメンツならば極めて硬派な演奏に纏められています。
A-1 Summertime
あまりにも有名なジョージ・ガーシュインの名曲がクールに熱く演奏されています。
それはまずジャッキー・バイアードが幾分重苦しく、しかし清涼なソロピアノでのメロディフェイクからスタートし、リチャード・デイビスの唯我独尊のペースとエリック・クロスのアルトサックスによるデュオ、そしてドラムスがそこに忍び寄ってビートを加味し、ついにはピアノが舞い戻って、熱いバンド演奏となるのですが、それにしてもエリック・クロスのアルトサックスは浮遊感と過激な音選びが強烈な印象で、明らかに新主流派!
そして中盤からはテンポがグッと早くなり、リズム隊が容赦無い自己主張を全面に出せば、一歩も引かないエリック・クロスという構図からして、もう、その場はフリーに限りなく接近していくのですが……。
否、そうは言っても纏めるところは、きっちりと「おとしまえ」がつけられていますよ。
ちなみにエリック・クロスのアルトサックスは激してくるとブッカー・アーヴィン系のスタイルになってしまうんですねぇ~、ここではっ!? しかしブッカー・アーヴィンも流石の貫禄と存在感を示していますから、非常に興味深い展開だと思います。
A-2 So What
これもマイルス・デイビスの歴史的な演奏で有名なモードの定番曲ですから、あの印象的なベースのリフから応答するホーンの叫び、またオリジナルよりもグッとテンポが早くなっています。
そしてアドリブパートでは先発のブッカー・アーヴィンが過激に全力疾走! 脂っこいフレーズを猛烈に積み重ね、投げっ放しのバックドロップみたいなストレート系の破壊力を存分に披露しています。
しかしエリック・クロスは全く怯むことなく、空間を自在に浮遊し、さらに激情の泣き叫びですよっ! ほとんどエリック・ドルフィーが蘇ったかのような錯覚もあるほどですが、さらにはアルバート・アイラーの如き魂の蠢き、そしてチャーリー・パーカー直伝のドライブ感という基本の中の基本も大切にされています。
もちろんリズム隊も怖さが爆発! 特にジャズの伝統とフリーなデタラメを巧みにミックスさせたジャッキー・バイアードのサービス精神には、嬉しくなりますねぇ~♪ 自分を曲げないリチャード・デイビスも流石だと思います。
B-1 Sock It To Me Socrates
エリック・クロスのオリジナル曲で、変態ジャズロックの醍醐味というか、一筋縄ではいかない熱いグルーヴが強い印象を残します。とかにくリズム隊がヘヴィなんですよねぇ~♪
そしてエリック・クロスとブッカー・アーヴィンも進んで迷い道に入っていく感じですから、演奏はどうしてもリズム隊がリードしていく雰囲気です。特にリチャード・デイビスのペースが大暴れ!
B-2 When Two Lovers Touch
これもエリック・クロスのオリジナル曲ですが、ちょっと不思議なテーマメロディが印象的です。そして疑似ボサロックのビートが、これまた落ち着かない気分にさせてくれるのですが……。
しかしエリック・クロスはジコチュウの極みというか、少しばかりポール・デスモンドのような音色も含んだアルトサックスで、浮遊しては地獄へ落ちるようなアドリブを……。
う~ん、これが当時の最先端なんでしょうねぇ~。
リチャード・デイビスのペースが逆に物分かりの良い雰囲気です。
B-3 Things Ain't What They Used To Be
そしてオーラスはデューク・エリントン楽団の楽しいヒット曲が和気藹々に演奏されます。
それは勢い満点のテーマ合奏、温故知新の伴奏を存分に聞かせるジャッキー・バイアードの大ハッスルからして良い感じ♪♪~♪ 続くアドリブパートでは先発のエリック・クロスがエリック・ドルフィーに捧げたような心情吐露ならば、ブッカー・アーヴィンが意地を爆発させたかのような全力疾走ですよっ!
ということで、幾分とりとめのない演奏ばかりかもしれませんが、ブッカー・アーヴィンの熱血は言わずもがな、エリック・クロスの強烈なジャズ魂とアドリブへの情熱が凄いです。とにかく「猛烈」なんですよ。
ですから、聴いていて疲れるのも確かですし、「和み」なんてものは皆無でしょう。我が国では人気があるなんて話は聞いたこともありませんし、実際、ジャズ喫茶でも鳴る機会は極端に少ないサックス奏者だという印象しかありません。
1980年代に入ると、なぜか忽然と消えてしまったエリック・クロスは、やはりジャズが熱かった最後の時期という、フュージョンブーム前の人なんでしょうねぇ……。サイケおやじにしても、このアルバムがエリック・クロスの初体験盤でしたし、何枚かリーダー作を聴きましたが、やはり疲れるタイプでした……。
しかし、その直流電気のような感性は、やはり貴重ですし、今となっては相当に過激なロックジャズ演奏も残していますから、再評価が望まれるのかもしれません。