■The Wooden Glass Recorded Live featuring Bill Wooten
(Interim / P-Vine = CD)
今ではCD化もされ、レアグルーヴの聖典となったこのアルバムも、実は発表からしばらくの間は「知る人ぞ知る」でした。
そして私がこれを知ったのは1987年のことで、当時アメリカ各地へ3ヵ月ほどの長期出張を命じられた時、友人がその間に探して欲しいレコードの1枚として、渡されたリストの中にあったものです。
とはいっても、そのカタログ番号やレベールの住所までもが几帳面に書かれたリストの中にあって、これだけは「Wooden Glass のライブ盤」としか記載がありませんでした。
そこで友人に詳細を訊ねてみたところ、主役はビリー・ウッテンというヴァイブラフォン奏者で、実はジャケットもカタログ番号も分からないけれど、こんなに熱い演奏だと、カセットテープを渡されました。
いゃ~、その演奏、本当に熱くて火傷しそうですし、一転してメロウなファンクバラードとか、その場のむせかえるような雰囲気の良さも最高です! そして特に眩暈がしそうになるのが、意図的にリミッターが使われたようなドラムスの音の録り方や潰れたような全体のミキシングの加減が、実に結果オーライなんですねぇ~♪
そこでビリー・ウッテンについて、ちょいと調べてみたところ、なんとグラント・グリーン(g) の隠れ名作「ヴィジョンズ (Blue Note)」に参加していたのですから、こんなファンクは十八番という正体が見えてきたのです。
しかし結果的に、当時はこのアルバムを発見することが出来ず、しかしそれでも貰ったカセットはずっと、私の密かな愛聴テープになっていました。
ちなみにそのカセットは当然ながらアナログ盤のコピーだったのですが、友人の元テープさえもカセットコピーであり、私の手元にきたものは、そのさらに孫か曾孫のコピーということで、音質も尚更に潰れていたわけですが、それが逆に良い味になっていたというわけです。
さて、肝心の本元の録音は1972年、インディアナポリスのクラブ「The 19th Whole」でのライブセッションで、メンバーはビリー・ウッテン(vib)、エマヌエル・リギンズ(Organ)、ウィリアム・ローチ(g)、ハロルド・カードウェル(ds,per) という4人組から成る、これがザ・ウドゥン・グラスというバンドだったようです。
そのあたりの経緯は、5年ほど前に出た本日ご紹介のCD付属解説書に掲載の本人インタヴューに詳しいわけですが、そのリマスターも長年聴いていたカセットコピーの音とは一線を隔したものですから、私にとっては違和感が強いところも……。
01 Monkey Hips And Rice
いきなりドカドカ煩いファンクピートが全開のスタートから、ビリー・ウッテンのヴァイブラフォンがテーマメロディをリードし、ワウワウのリズムギターや熱気優先のオルガンが濃厚な味をつけていく展開に、心底シビレます。
既に述べたように録音の具合からでしょうか、意図的か偶然かは判然としませんが、ハウス系というか、ヒップホップっぽい音で録られたドラムスの音が良い感じ♪♪~♪
またニューソウル丸出しのギターソロや歪んでシンセぽい音になっているオルガンの熱気も、完全に私好みですから、自然に腰が浮いてきます。
肝心のビリー・ウッテンは失礼ながら、それほど際立ったフレーズやアドリブ構成を聞かせてくれるわけではありませんが、その本気度はなかなかのもので、観客からも拍手喝采のソロパートは熱いです。
そしてなによりもバンドの一体感が強い印象を残していますから、愛好者ならば、この1曲だけ完全に虜の名演だと思います。
02 We've Only Just Begun
熱狂の拍手喝采の中でメロウに演奏されるのが、カーペンターズでもお馴染みというソフトロックの大名曲ですから、たまりません。ゆったりとしたグルーヴが絶妙のおもわせぶりとジャストミートした、これも名演だと思います。
特にドラムスのドンツカのノリと音の響きが、ビリー・ウッテンの素直なヴァイブラフォンには最高の相性ですし、バンドアレンジも良く練られたシンプルな良さがありますねぇ~♪
う~ん、確かこんなアレンジの歌が、井上順のシングル曲にあったような……♪
心底、和んでしまうハートウォームなソウルが素敵です。
03 Joy Ride
これまたファンクな8ビートが冴えまくったコテコテな演奏で、オルガンのアドリブを聴いていると、なんとなくハードロックのバンドのような感じさえしますが、全体のグルーヴの黒っぽさは完全なジャズ、それも黒人系ど真ん中の熱気に満ちています。
疾走するギター、ドタバタに暴れるドラムス、ドライなファンクを発散させるヴァイブラフォン、そして歪んだオルガンがゴッタ煮となって作り出される旨みは、まさに唯一無二! こんな名演が長い間埋もれていたんですねぇ~、という感慨が深くなりますよ。
04 In The Rain
ワイワイガヤガヤの店内のざわめき、それをブッタ斬るようなオルガンとギターのプログレな爆発音、そして流れてくるソフト&メロウなテーマメロディ♪♪~♪ 相変わらずズシズシバタバタのドラムスが、本当に素敵ですよっ♪♪~♪
ちなみにこれを書いたのはビリー・ウッテンとクレジットされていますが、どっかで聴いたことがあるような……。
まあ、それはそれとして、ツボを押さえたオルガンやメロディのキモを大切にしたヴァイブラフォンが、まさにフィール・ソー・グッドです。
05 Day Dreaming
そして間髪を入れずに始まるのが、アレサ・フランクリンが自作の大ヒット曲ですから、ここでも油断は禁物です。ただし、ちょいと落ち着きの無い演奏が賛否両論でしょうか……。個人的には、もう少し粘っこいテンポだったらなぁ……、なんて思います。
厳しいことを言えば、演奏全体が些か走り気味とはいえ、そこから醸し出される熱気は流石の痛快さが結果オーライかもしれませんね。
06 Love Is Here
ダイアナ・ロスとシュープリームスでお馴染みのモータウン製ヒットメロディが、こんなに熱い演奏に! グルーヴィな4ビートを、さらに黒っぽく煮詰めていくバンドの勢いが圧巻ですよっ!
オルガンのフットペダルとドラムスのコンビネーションで作りだされるグイノリのウォーキングも重量感がありますし、ビリー・ウッテンも正統派ジャズにどっぷりの実力を完全披露の熱演を聞かせてくれます。
そしてその場の観客の熱狂も天井知らずの勢いでバンドを後押ししますから、これぞライブの醍醐味が存分に楽しめると思います。
ということで、まさにレアグルーヴの聖典となるに相応しいアルバムだと思います。そしてこれが長い間埋もれていた真相は、なんとビリー・ウッテンの自主制作盤だったんですねぇ~。ちなみに本人はニューヨーク出身らしいのですが、1970年前後にグラント・グリーンのバンドレギュラーを務めた後、諸事情からインディアナポリスに定住し、地元のクラブをメインに活動していくことになったそうですから、さもありなんの話ですが、実に勿体無いと思います。
当然ながら、私はこのアルバムのオリジナルは見たことがありませんし、そのアナログ盤の実際の音も聴いたことがありません。ですから前述したカセットコピーの団子状の音に夢中になって親しんでいた私としては、このCDの分離のはっきりしたステレオミックスには多少の違和感を覚えるのですが、しかし録音のミソであるガサツな熱気やシカゴ系ファンクな雰囲気のドラムスの音あたりは、確実に楽しめると思います。
さて、このCDにはオマケがあって、それは――
07 Madlib / 6 Variations Of In The Rain
なんですが、これはサンプリングネタの見本みたいな、私が特に好まない音なんで、割愛させていただきます。
率直に言えば、メインの6曲だけは、ぜひとも聴いて熱くなる演奏ということでした。