■乙女の祈り / 黛ジュン (東芝)
未だ確定ではないものの、黛ジュンの引退報道には衝撃を受けました。
なんでも5年ほど前から、原因不明の喉の病気で声が苦しくなっているそうで、現在は漢方薬を服用しながら、4~5曲を歌うのがやっとだとか……。
もちろん全盛期に比べれば、ここ20年ほどは失礼ながら歌唱力が落ちていた事は否めませんが、それでも彼女の生の歌声が聴けなくなるのは悲しいかぎりです。
世間一般から認識されているように、黛ジュンの大きな魅力は、所謂パンチの効いた歌いいっぷりなんですが、幾分ベタベタした節回しが決してお色気優先主義にならず、粘っこいソウルフィーリングを秘めた歌謡ロック的なグルーヴを醸し出していたところに、サイケおやじは強く惹かれていました、
例えば本日掲載の1枚は昭和43(1968)年1月に発売された、黛ジュン名義では3枚目のシングル盤ですが、特にA面の「乙女の祈り」は正式リリース前からヒットチャートに入っていたほどの人気曲で、実際、彼女も前年からテレビ等々で歌いまくっていましたですね。
そして確か、彼女も出演した映画「夜明けの二人」にも使われていたと思います。しかしサイケおやじは予告篇しか観たことがないので、ちょいと悔しいところではありますが、それにしても楽曲の魅力は永遠に不滅♪♪~♪
当時としては異様にドカドカ煩いドラムスのイントロからノーテンキなキメの合唱に導かれ、昭和歌謡曲王道のメロディをエグイ節回しでドライヴさせる黛ジュンのボーカルの力は絶品でしょう。さらに彼女独得の低音域のコブシの使い方が、微妙なファルセットを含んでいるあたりの天才性も強い印象を残すと思います。
またサウンド作りにも流行のファズギターとノーザンピートのストリングが満遍なく使われ、これは作編曲の鈴木邦彦がリアルタイムの冴えを存分に発揮した成果に違いありません。
と同時に、なかにし礼ならではの作詞はストレートな女の欲望と母性を両立させ、しかもイノセントな恋の不安さえも綴り込んだ秀逸さですから、これでヒットしなかったら歌謡曲の神様が激怒は必至ですよ。
ちなみにジャケットに写る黛ジュンの衣装がミリタリールックになっているのは、もちろん当時の流行で、例えばスパイダースやジャガーズ等々のGSが好んで着用していたのは、ビートルズのサージェント・ペパーズ症候群のひとつなんでしょうねぇ。
あぁ、まさに昭和元禄の極みつき!
ご存じのとおり、彼女はこの「乙女の祈り」で再デビューから次なるステップにジャンプアップし、いよいよ続く「天使の誘惑」でレコード大賞を獲得するわけですが、諸行無常はこの世の理として、何時かは訪れる引退の日……。
それがついに近づいてきたという現実を素直に受け入れるのが、ファンとしての務めなのでしょう。
しかしサイケおやじは……。