OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ママ・キャスのサイケデリック&ノスタルジック

2011-05-09 16:10:01 | Pops

Dream A Little Dream Of Me / Mama Cass (Dunhill)

昨日、ママス&パパスをあれこれ書いていたら急に聴きたくなって取り出しのが、本日ご紹介のLP♪♪~♪ 同グループの中では「太った天使」のニックネームで親しまれたママ・キャスことキャス・エリオットが1968年秋に出した最初のソロアルバムです。

もちろんサイケおやじは後追いの1970年代に聴いた事から、既にその制作過程や裏事情のあれこれを知っていた事もあり、素直に接するには幾分の抵抗がありました。しかし、深~い傑作という事実は否定出来ません。

と言うのも皆様ご存じのとおり、当時人気絶頂だったママス&パパスはグループ内の縺れた人間関係、つまりミッシェル・フィリップスを巡るジョン・フィリップスとデニー・ドハーティの三角関係、さらには彼女の妊娠等々のゴタゴタが積み重なり、当然ながらグループ結成の経緯からデニー・ドハーティを愛していたと言われるママ・キャスは……。おまけにレコード会社との契約問題も拗れていたようですから、後は推して知るべし!?

そこで必然的に進んだママ・キャスのソロ活動という流れは、如何にも芸能界的ではありますが、それもこれもママ・キャスというよりは、キャス・エリオットという素晴らしい歌手の実力があればこそでしょう。

確かにコーラス主体のママス&パパスの中にあっては、ミッシェル・フィリップスの声質との相性を考慮しての事でしょうか、幾分控えめな軽い歌い方をしている感じがします。しかし要所では持ち前の豊かな低い声とジャズっぽい歌い回しで自己主張していますから、それこそがママス&パパスの個性を決定的にしていたひとつの味わいだったと思います。

ですから、ここに作られたソロアルバムにノスタルジックな大衆音楽としてのジャズ風味が濃厚なのは当然が必然!?!?

しかも時代の流行から所謂サージェントペパーズ症候群に彩られたサイケデリックな雰囲気も強いのですから、たまりません。

 A-1 Dream A Little Dream Of Me (F.Andrt / G.Kahn / W.Schwandt)
 A-2 California Earthquake (John Hartford)
 A-3 The Room Nobody Lives In (John Sebastian)
 A-4 Talkin' To Your Toothbrush (John Simon)
 A-5 Blues For Breakfast (Richard Manuel)
 A-6 You Know Who I Am (Leonard Cohen)
 B-1 Rubber Band (Cyrus Faryar)
 B-2 Long Time Loving You (Stuart Scharf)
 B-3 Jane, The Insane Dog Land (John Simon)
 B-4 What Was I Thinking Of (Leah Cohen)
 B-5 Burn Your Hatred (Graham Nash)
 B-6 Sweet Believer (Cyrus Faryar)

そこで演目の要注意事項として付け加えておきましたが、ソングライターの顔ぶれが曲者揃い!

さらにアルバムをプロデュースしたのが、アメリカのロック界では裏街道の重要人物といって過言ではないジョン・サイモンなんですから、サイケデリックとルーツ系大衆音楽の融合も強ち無理な目論見ではありません。

なにしろ当時のジョン・サイモンは、あの歴史的な名盤となったザ・バンドの「ミュージック・フロム・ビッグピンク」を世に出した実績だけでなく、ジャニス・ジョプリンの「チープスリル」、BS&Tの「子供は人類の父である」、さらに翌年はザ・バンドの2nd「ザ・バンド」を制作するという、ノリにノッテいた時期ということで、このアルバムでも才気煥発!

既に述べたように全篇を貫くジャズっぽいアレンジも自ら手掛け、さらには様々な効果音で各トラックを切れ目なく繋ぐという手法を用いていますから、ある意味ではアングラ系の仕上がりになっていることが否めません。

実はアルバムタイトル曲「Dream A Little Dream Of Me」にしても、ママ・キャス名義でシングル発売され、見事にチャート上位のヒットになっているのですが、その本質はママス&パパス時代に録音されたバージョンをリミックスしたのが真相でした。それがここではさらに多用なSEが混入され、本来は有名ジャズスタンダード曲として多くの歌手が名演を残してきた事実を逆手に活かすという、ギリギリの禁じ手がニクイばかりの仕上がりです。

それゆえにオリジナルプロデューサーであり、また制作発売元だったダンヒルレコードのルー・アドラーがアルバムの仕上がりに激怒したと言われているほどです。

しかし後に知ったところによると、ジョン・サイモンにプロデュースを依頼し、演目を選んだのもキャス・エリオットが主導していたという真相(?)から、ママス&パパス以前は本格的なジャズシンガーとしても活動していたキャリアが活かされた事は言うまでもありません。

グッと味わい深い4ビートのメロディがサイケデリックな浮遊感に彩らる「Dream A Little Dream Of Me」、ホーンやヘヴィなピアノ&ドブロギターを使ったゴスペルカントリーの「California Earthquake」、甘くて静謐なストリングスと話し声のSEが効果的なスロージャズバラード「The Room Nobody Lives In」、サイケデリックからの脱出を目論んだような倦怠カントリーロックの「Talkin' To Your Toothbrush」と続く流れは人工的な自然現象とでも申しましょうか、なかなか不思議な気分にさせられますよ。

そして「Blues For Breakfast」はザ・バンドのリチャード・マニュエルがボブ・ディランと演じた例の「地下室テープ」に提供した「Orange Juice Blues」と基本的には同じ楽曲ですから、弾みきったシャップルビートで歌いまくるママ・キャスのボーカルが実にイキイキと躍動し、続く「You Know Who I Am」でのシミジミとしてソウルフルな世界への絶妙な道案内になっているのは流石!

ちなみに「You Know Who I Am」を書いたレナード・コーエンはカナダ出身の個性的なシンガーソングライターとして今では良く知られていますが、当時はブレイク前ながらも、既にジョン・サイモンのプロデュースで本格的なデビューアルバムを出したばかり!? しかもライプステージやレコーディングにはママス&パパスのメンバーが協力していたのですから、そのあたりの人間関係も興味深く、この曲にしてもレナード・コーエンは翌年発表の2ndアルバムに収録するという事実は看過出来ませんよねぇ~♪

そこで勇躍レコードをB面に返せば、拍手歓声のSEやチューバ主体のブラスバンドをバックにしたユーモラスな「Rubber Band」が自然にスタート♪♪~♪

そして続「Long Time Loving You」こそが、このアルバムのハイライトのひとつで、楽曲そのものは比較的シンプルながら、洒落たアレンジはジャズ&ソフトロックのエッセンスであり、サイケデリックとインテリジェンスのバランスが最高に秀逸ですよ♪♪~♪ もちろんママ・キャスのボーカルもノリが良く、演奏パートとの相性も抜群だと思います。

ちなみに曲を書いたスチュアート・シャーフはジャズシンガーのボブ・ドロウの盟友であり、またスパンキー&アワ・ギャング等々のジャズ系ソフトロックを多数プロデュースしている才人ですから、サイケおやじには、こうした業界の内部事情も深く考察する機会となりましたですねぇ。

その意味で一番驚いたのがグラハム・ナッシュが提供した「Burn Your Hatred」で、ご存じのとおり、1968年といえばクロスビー・スティルス&ナッシュがアメリカ西海岸で新グループのCS&Nをスタートさせたばかりの時期であり、一説によるとママ・キャスの家に集まっては各業界の有名人と交流していたと言われていますから、さもありなん!

実際、軽快に歌われるフォークポップスはホリーズ的でもあり、グルーヴィなエレピの隠し味はCS&Nの基本的姿勢に通じるポイントかもしれません。

そうしたフワフワした心地良さもまた、このアルバムのひとつの魅力であり、あくまでも作り物という体裁を隠そうとしないあたりは、サイケデリック時代の象徴なのでしょうか? 

例えば疑似ブルーグラスというべき「Jane, The Insane Dog Land」では、ママ・キャスならではのキュートなボーカルが綿密に作り上げられた演奏パートと抜群の相性ですし、一転して陰鬱な情感が諦観滲む表現で歌われる「What Was I Thinking Of」のイノセントな雰囲気良さは、わざとらしさと紙一重!?

常につきまとう、そうした疑念がこのアルバムに仕組まれた狙いだとしたら、オーラスの「Sweet Believer」こそ、そのせつないメロディの美しさを優しく歌ってしまうママ・キャスの真骨頂だと思います。

そして結局、ママ・キャスはトリックスタアとしての側面を持った実力派シンガーであり、何を歌っても絶対に流されない個性を確固たるものにしていた素晴らしいタレントでした。

実は些かネタバレになりますが、既に述べたようにレコード会社の幹部連中は、このアルバムの進み過ぎた(?)仕上がりに腰が引けたのでしょうか、なんと次作アルバムはハリウッドホップスがモロ出しという制作方針を押し付け、それは結果的に極上の楽しさが満喫出来ますが……。ただ、「それだけ」というのが大方の評価でした。

もちろん、サイケおやじにとってはママ・キャスのレコードは全てが大切な宝物ですから、世間様が何を言おうと好きなものは好き! そうした信念を持っています。そして中でも絶対に揺るがないのが、このアルバムというわけなんですよ。

その魅力は、ある種の分からなさであり、また煮え切らないところだと思いますから、純粋なポップスを求めるファンには不評かもしれません。

それもサイケデリック時代に作られたレコードの宿命だと思います。

最後になりましたが、バイクに乗せられているのは彼女の愛娘であり、バイクで疾走するのが夢(?)というのがママ・キャスの願望(?)を表現したジャケットも、大好きなのでした。

コメント
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