OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ユーミンとの出会い

2009-12-14 11:28:33 | Singer Song Writer

ひこうき雲 / 荒井由美 (東芝)

既にして我国の大衆芸能史にその名を刻んだユーミンが、まだ荒井由美と名乗っていた頃のデビューアルバムが、本日の1枚です。

 A-1 ひこうき雲
 A-2 曇り空
 A-3 恋のスーパーパラシューター
 A-4 空と海の輝きに向けて
 A-5 きっと言える
 B-1 ベルベット・イースター
 B-2 紙ヒコーキ
 B-3 雨の街を
 B-4 返事はいらない
 B-5 そのまま

発売されたのは昭和48(1973)年11月で、その歴史的、音楽的な意味合いは言うまでもありませんが、私が、このアルバムに出会ったのは、その翌月のことでした。

と言っても、自ら聴きたかったとか、自腹で買ったとかいうことではありません。

実はその時、私はちょうど封切りになっていた池玲子主演の東映映画「恐怖女子高校・アニマル同級生(志村正浩監督)」を観に行った劇場で、忘れ物になっていた、このLPレコードを見つけたのです。ちなみに同時上映は「実録安藤組・襲撃篇」というヤクザ映画で、実際には「アニマル同級生」は添え物のB面作品だったのですが、青春の血が滾っていた当時のサイケおやじは、どうしても池玲子や衣麻遼子、他の女優さん達が銀幕の中で繰り広げるエロスとピンキーなバイオレンスを求めていたというわけですが……。

まあ、それはそれとして、その2本立を観終わって、ふっと足元に気がつくと、そこには紙袋に入ったLPレコードが2枚、さらにその中には封筒がひとつ、入っていた忘れ物に気がつきました。

どうやら右横に座っていたお客さんのものだったと思います。

で、件の中味を確認してみると、どうも封筒の中にお金が入っているようなので、映画館を通して警察へ遺失物の届けを出したわけですが、同じくそのひとつとしてあったのが、ユーミンの「ひこうき雲」のLPだったのです。ちなみに、もう1枚はフランシス・レイのベスト盤でした。

また、気になるお金は万札が2枚と硬貨が数枚、その他に意味不明のメモ書きもありました。

で、結局、持ち主が名乗り出ず、それは半年後に私へ所有権が移りました。

しかし、その時になっても私は、「ひこうき雲」を聴いたわけではありません。

実は当時、私はある幸運から3ヵ月ほどアメリカへ行けることになり、その準備等々に忙殺され、肝心の遺失物を警察に受け取りに行くことが出来ず、後事を妹に託していたのです。

そして9月になって帰国した私は、その間の諸々を片付けている中で、その忘れ物になっていたレコードを思い出し、妹に尋ねたところ、「あの、荒井由美っていう人のレコード、最高♪♪~♪」とか、簡単に言われて、???の気分になりました。

なんと妹は、私が居ない間に、その「HIKO-KI GUMO」と題されたLPを毎日のように聴いていたそうで、おいおい、そんなに良いのなら!?!

こうして自分に所有権がありながら、現実には妹に頼んで聞かせてもらったのが、私と「ひこうき雲」、つまりユーミンとの本当の出会いになったのです。

そして聴いてみて、最初に思ったことは、荒井由美っていう人は、きっとムーディ・ブルースやプロコル・ハルムのような欧州系プレグレが好きなんだろうなぁ~、ということでした。つまり自らが書いたとされる曲メロからは、とてもヨーロッパ趣味が濃厚に感じられたのです。

例えばアルバムタイトル曲の「ひこうき雲」にしても、極言すれば、例の「青い影」症候群から生まれた素敵なメロディだと思います。またフランス風ボサノバ歌謡の「曇り空」とか、気持良く倦怠した「ベルベット・イースター」、転調ばっかりでもイヤミになっていない「きっと言える」等々、完全にそれまでの日本の歌謡フォークやアイドルポップスからは遊離したセンスが濃厚に滲み出ていました。

さらに凄いなぁ、と思ったのはバックの演奏で、これって、もしかしたらジェームス・テイラーがその頃にやっていた、ソウルジャズフォークの味わいと同じかもしれない!? ということです。

些か穿った独断と偏見ですが、欧州系ポップスとアメリカ色が強いソウルジャズの融合が、これほどの成果を生み出したのかもしれませんし、ユーミン独自の透明感を持った歌と詞が見事に記録されたのも、バックを務めた鈴木茂(g)、松任谷正隆(key)、細野晴臣(b)、林立夫(ds) という、キャラメルママの面々がスタジオに揃っていればこその歴史的な結論です。

もちろん、そんな人脈とか裏事情を当時は知る由もありませんでした。

ただ自分が好きなソウルジャズでポップなフォークが、日本でも生み出されていた事実には嬉しくなりましたですねぇ~~♪

実はそれまでにも、そうした流れの中では五輪真弓吉田美奈子を既に聴き、好きになっていた私ではありますが、それは個人的に大好きだったキャロル・キングやローラ・ニーロの「和製」というイメージが基本にあったからに他なりません。

しかしユーミンには、彼女達と同様に自作自演でありながら、ちょいと異なるムードが確かにありました。

はっきり言えば、ユーミンは失礼ながら歌唱力がイマイチですから、ここに発表された楽曲は、なにもユーミンが歌わなくとも、他の歌手ならもっと上手く……、なんて思わざるをえないものがあり、それが逆に個性というか、新しい魅力だったのかもしれません。

ちなみに妹に言わせると、ユーミンは「詩」が良いんだそうで、まさに少女の気持とか、ナイーブでお洒落な女性の心を歌っていたんでしょうねぇ。ガサツな男である私には、その完全なるシンパシーを感じることが出来ず、残念……。

正直に告白すれば、私はユーミンのボーカルよりも、バックの演奏の気持良さに心を惹かれていたのです。

しかし確かに、それまで若者を中心に共感を集めていたフォークの、所謂「四畳半」という私小説的な貧乏臭さが、ユーミンの歌からは感じられませんでした。

ということで、ユーミンのデビューアルバムは、リアルタイムではそれほど売れなかったものの、ジワジワと人気を集めていったのが、昭和40年代末頃の事情でした。そしてご存じのとおり、昭和50(1975)年になって、あの歌謡ボサノバの大名曲「あの日にかえりたい」でウルトラブレイク! その後の活躍は言うまでもありませんが、個人的にはデビューから、そこまでの間のユーミン、つまり荒井由美の時代がとても好きです。

また後に知ったことですが、そこまでの経緯で表出してくる様々な人脈や裏話は、まさに今日に至る我国の大衆芸能界を象徴する美しき流れでしょう。

そのあたりについても追々、個人的な感慨と生意気な妄想で書いていきたいと思います。

最後になりましたが、そうした経緯から、このLPは実質的に妹の所有物となり、それが本当に私の手元にやって来たは、妹が結婚して家を出た後なのでした。

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4 コメント

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こんにちは (bob)
2009-12-15 16:30:32
70年代青春組としては当然「ユーミン=荒井」ですよね。
なんか“新しい時代”の空気感を感じましたね、この人には。長髪にベルボトムのジーンズで微妙な暗さを滲ませる時代からの転換といいますか…。

おっしゃるように、バックのサウンドだけ聴いていても気持ちいいですね。肝心の詩については、女性と違い、男としては心底いいと思えるほどの感性がないといいますか、これまた同感です。
ただ、お気に入りの「ベルベット・イースター」で歌われる「天使が降りてきそうなくらい空が低い…」というフレーズなんか凄いなぁと思いました。
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70年代の青春万歳 (サイケおやじ)
2009-12-16 17:27:34
☆bob様
コメント、感謝です。

>70年代青春組

これ、最高のフレーズですねぇ~~♪
全く、そのとおりですよ♪♪~♪

作詞家としてのユーミンは、相当に職業意識の強いプロだと思います。天才であって、しかも努力しているのが、ユーミンの本当の姿かもしれません。
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いい話です! (tc)
2010-01-18 05:27:48
はじめまして。現役ユーミン・ファンの男(オッサン)です。高校3年のときに、クラスメイトから借りたMISSLIMでユーミンにハマってすぐに「ひこうき雲」を買いに行ったのが懐かしい思い出です。
さて、1月16日にNHK BS-2「MASTER TAPE~荒井由実「ひこうき雲」の秘密を探る~」という番組が放送されましたが、ご覧になりましたか?ユーミン、正隆さん、細野さん、林立夫さん、そして当時のプロデューサーやレコーディグ・エンジニアが集まり、ひこうき雲のマスターテープをいろいろな角度で聞きかなら制作秘話にせまったものです。老婆心ながらもしご覧になっていなければ2月19日(金) 23:00~23:54に再放送があります。

さて、そんな当時のことさらに知りたくてネット・サーフィンしていてこちら様のブログに辿り着きました。

ユーミンとのファーストアルバムの出会いのこと、楽しく読ませていただきました。そして画像に使われている「ALFA」ロゴ入りのLPジャケットは初期のもので今では、ファースト・シングル「返事はいらない」とともにたいへん希少な物です。大げさではありますがユーミン遺産として大事になさってください。

長々と失礼致しました。
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楽しみな番組です (サイケおやじ)
2010-01-18 12:55:59
☆tc様
はじめまして、ようこそいらっしゃいませ♪
そしてコメント、ありがとうございます。

ご紹介の番組情報にも感謝です。
これは絶対、録画しても見ますよ!
一番興味深いのは、ユーミンのボーカルをどうやって録ったか? です。当時は今と違って、マルチのチャンネルが不足していたはずですからねぇ。

またバックの演奏とアレンジの話も楽しみです。

それにしても私有盤が、それほどのコレクターズアイテムとは知りませんでした。確か後にはアナログ盤のジャケットも見開きじゃなくなったことは認識していたのですが。
一応、「返事はいらない」のシングル盤も、この頃に買っていますので、プログにも書きました。よろしければ、ご一読下さいませ。

これからもよろしくお願い致します。
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