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サイケおやじの生活と音楽

アート・ペッパーの意気揚々

2008-04-30 17:28:49 | Weblog

やっぱり歳です。昨日は爆眠したはずなのに、今日は疲れが残って……。

そんなときは、やっぱり――

The Complete Surf Ride Plus / Art Pepper (Savoy / キング)

「人生の99%はクズだ、でも、がっかりすることはない。残りの1%があるからね」と書いた作家がいたけれど、アート・ペッパーの場合、その最良の時期は1951~1952年頃だったんじゃないでしょうか?

その頃のアート・ペッパーはスタン・ケントン楽団のスタアとして人気急上昇、独立して自分のバンドを率いて勇躍していた時期で、もちろん残されたレコーディングセッションの素晴らしさは言わずがな♪

このアルバムは Discovery というマイナーレーベルを主体に残された、その時期の現存する音源を極力纏めたCDセット♪ 我国のキングレコードによる力作で、リマスターも大変に良好です――

☆1952年3月4日録音
 Disc 1 01 Brown Gold (Discovery 157)
           02 These Foolish Things (Discovery 157)
            03 Surf Ride (Discovery 158)
            04 Holiday Flight (Discovery 158)
 アート・ぺッパーの初リーダーセッションで、メンバーはアート・ペッパー(as) 以下、ハンプトン・ホーズ(p)、ジョー・モンドラゴン(b)、ラリー・バンカー(ds) という当時のレギュラーカルテット♪ ここから作られた2枚のSP及びEPの4曲は、勿体無いほどの初々しさとピュアなジャズ魂に満ちています。
 奇蹟のような「Brown Gold」のノリと泣き、ブルースの「Surf Ride」と「Holiday Flight」では緩急自在な飛翔と独特のウネリ! もちろんチャーリー・パーカーの影響下にあるモダンジャズのスタイルではありますが、そのパーカーフレーズがほとんど出てこない独創的なアドリブは凄いですねぇ~。まさに天才の証明だと思います。
 そして歌物スタンダード「These Foolish Things」では歌心が極限にまで達して、なおかつ自然体が感じられる決定的な名演でしょう。
 全4曲、バンドとしての纏まりも最高ながら、自伝によれば、この当時からアート・ペッパーは悪いクスリにどっぷりと浸りきっていたそうです。しかしこれだけの演奏が出来てしまえば、恐らくは後の陰惨な人生など、本人には全く関係の無い世界だったのでしょうねぇ。あるのは洋々とした未来だけで、それはリアルタイムのファンも同じ気持ちだったはずですから、後追いのジャズ者、少なくとも私は聴くたびに全ての意味で涙が滲むのでした。

☆1952年10月8日録音
 Disc 1 05 Chili Pepper (take 1)
            06 Chili Pepper (take 2)
            07 Chili Pepper (take 3)
            08 Chili Pepper (take 4 / Discovery 171)
            09 Chili Pepper (take 6)
            10 Suzy The Poodle (take 1 / Discovery 170)
            11 Suzy The Poodle (take 3)
            12 Suzy The Poodle (take 5)
            13 Suzy The Poodle (take 6)
            14 Everything Happens To Me (take 1)
            15 Everything Happens To Me (take 2)
            16 Everything Happens To Me (take 3)
            17 Everything Happens To Me (take 4 / Discovery 171)
            18 Everything Happens To Me (take 5)
            19 Tickle To Toe (take 4 / Discovery 170)
            20 Tickle To Toe (take 9)
 前回同様の趣向によるワンホーンセッションで、メンバーはアート・ペッパー(as) 以下、ラス・フリーマン(p)、ボブ・ホワイトロック(b)、ボビー・ホワイト(ds) となっていますが、バンドの纏まりとインスピレーションの鮮やかさは勝るとも劣らない演奏が楽しめます。
 しかもこのセットでは別テイクも網羅されていますし、その中の「Chili Pepper (take 1)」は公式には初CD化だったはずです。そしてこれが実に最高♪ 個人的にはマスターテイクよりも好きなほどです。
 というように、演奏はどの曲も素晴らしすぎるアート・ペッパーの真髄を記録していますし、こうした別テイク入りの音源集は未完の演奏も含まれるのが慣例になっていますが、ここにあるのは、ほとんど全てが完奏された「お宝」ばかり♪ 特にスローバラードで歌心の満点という「Everything Happens To Me」の5連発には天国へ持っていかれる心持ですし、眩暈がしそうなほどに強烈なスリルが楽しめる「Suzy The Poodle」や「Tickle To Toe」でのジャズフィーリングの深さ! もはや天才の妙技に心を奪われるのみです。
 しかしこの直後から、アート・ペッパーは当局に監視され、翌年には逮捕されてしまうのでした……。
 
☆1954年8月25日録音
 Disc 1 21 Nutmeg (take 3 / Discovery DL3023)
            22 Nutmeg (take 4)
            23 Nutmeg (take 6)
            24 Nutmeg (take 7)
 Disc 2 01 Deep Purple (Discovery DL3023)
            02 Cinnamon (take 2)
            03 Cinnamon (take 3)
            04 Cinnamon (take 5 / Discovery DL3023)
            05 What's New (take 1)
            06 What's New (take 2)
            07 What's New (take 3 / Discovery DL3023)
            08 Thyme Time (take 1)
            09 Thyme Time (take 2 / Discovery DL3023)
            10 Thyme Time (take 3)
            11 Striaght Life (take 1)
            12 Striaght Life (take 2 / Discovery DL3023)
            13 Striaght Life (take 3)
            14 Art's Oregano (take 1)
            15 Art's Oregano (take 2)
            16 Art's Oregano (take 5 / Discovery DL3023)
            17 The Way You Look Tonight (take 2)
            18 The Way You Look Tonight (take 5 / Discovery DL3023)
 逮捕・拘留中だったアート・ペッパーが一時的に保釈された時に行われたセッションで、メンバーはアート・ペッパー(as)、ジャック・モントローズ(ts)、クロード・ウィリアムソン(p)、モンティ・バドウィック(b)、ラリー・バンカー(ds)、Paul Ballerina (ds) というクインテットですから当然、西海岸派特有のサックスアンサンブルや軽快なノリが表出しています。
 しかしアート・ペッパーのアドリブからは若干ですが、後年顕著になる陰影や蠢くようなウネリという黒っぽい部分が感じられるようです。またジャック・モントローズのテナーサックスは、そんな影響を受けてしまったのか、アート・ペッパー的なフレーズとノリが出ていますよ。これが実に味わい深いです♪
 そして演奏は全てが必聴という素晴らしさで、「Nutmeg (take 7)」なんかボツったのが不思議なほどにアート・ペッパーが最高ですし、和みの「Deep Purple」は永遠不滅♪ 本気で泣けますよ。
 さらにジャズ史的にも決定的な名演とされる「What's New」の3連発ではシビレて胸キュン♪ 陶酔して夢の世界で忍び泣くしかありません。
 また猛スピードでブッ飛ばした「Striaght Life」はアート・ペッパーに限って、神の領域でしょう。ついていけない他のメンバーが哀れなほどですが、バンドの纏まりは保たれていますから、これもマスターテイクは文句なし! 破天荒なアンサンブルはアナーキーでさえありますし、個人的には「take 3」が大好きなのですが……。
 同系の「The Way You Look Tonight」もヤバ過ぎるほどにアブナイ演奏ですし、全曲がモダンジャズ最良の瞬間でしょうね。気になるドラマーは前半の「Thyme Time」までが Paul Ballerina、以降の後半がラリー・バンカーと言われています。
 ちなみにここでのマスターテイク8曲は10吋LPが初出でしょうか? 後にはサボイにレーベルごと買い取られ、12吋盤に纏められています。
 しかしアート・ペッパーは、この後、またまた逮捕され、法の裁きを受けるのでした……。

☆1951年11月12日録音
 Disc 2 19 Pooch McGooch
            20 All Of Me
            21 Back In Your Own Backyard
            22 The Count On Rush Stree
 これはオマケ的な収録で、シェリー・マンがリーダーとなった演奏です。メンバーはコンテ・カンドリ(tp)、ビル・ラッソ(tb)、アート・ペッパー(as)、ボブ・クーパー(ts)、Gene Esposito(p)、Don Bagley(b)、シェリー・マン(ds,vo)、Shelby Davis (vo) という西海岸系の面々♪ もちろん演奏は、モロにウエストコーストしています。
 そしてアート・ペッパーは既にして鮮烈! 鋭いアドリブと翳りを含んだ音色、ドライブ感に満ちたノリは絶品ですねぇ~~♪
 ちなみにこのセッションは同じくサボイ系の Dee Gee というマイナーレーベルに吹き込まれたもので、後にシェリー・マン名義のLPとしても纏められています。

ということで、アナログ盤時代から名演集として名盤ガイド本にも必ず載っているアルバムですが、やはりCDならではの長時間収録を活かした編集として、このブツは最高! 2002年頃に発売されていますから、発見したら即ゲットをオススメ致します。

もちろんマスターテイクだけ集めたCDでもOKですよ♪ とにかくアート・ペッパーが意気揚々としていた時期の素敵な演奏が、楽しめるですから♪ ただし自伝を読んでしまうと……。

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2 コメント

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ペッパーの神髄! (bob)
2008-05-01 09:51:31
こんにちは

たしか以前もコメントさせていただきましたが、
ペッパーはやはりこのDISCOVERYセッションが一番です。

「ミーツ・ザ・リズムセクション」ばかりがもて囃されていますが、
ジャズファンたるもの、このDISCOVERYセッションは絶対に聴き逃してはならない作品ですね。
もっとスポットが当てられて然るべきと思っています。
ペッパーの本当のすごさが伝わってきます♪

ジャケも最高です♪
返信する
ここが絶頂期? (サイケおやじ)
2008-05-01 21:27:35
☆bob様
コメントありがとうございます。

この時期のペッパーは最高! 何度聴いても感動する演奏なんて、ジャズでもなかなかありませんよね♪

本当にイマイチ評価されていないというか、聴かれていないのは、曲の短さゆえだと思います。でも密度は最高♪ 今、またまた聴いています♪
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