OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

奇跡のよみがえり

2008-03-14 17:49:36 | Weblog

いろいろとあって昼飯食う時間も無く、空腹も覚えなかったという、なんかソンしたような1日でした。

もちろん今頃になって強烈に腹へったぁ~。

ということで、本日は――

She Was Too Good To Me / Chet Baker (CTI)

まさに天才というしかないジャズフィーリングを持ちながら、何時の間にか悪いクスリと酒に溺れて人生を苦悶したのがチェット・ベイカーという白人トランペッターです。

しかも映画スタアっぽいルックス、中性的なボーカルでの歌唱、ちょっと退廃的な雰囲気が演奏に滲み出た全盛期のカッコ良さは、単なるジャズトランペッターを超越したアルドル的な人気も最高でした。

それが1960年代に入ると行き過ぎた悪癖で心身ともにボロボロとなり、演奏そのものも精彩を欠くことが多くなって……。おまけに作られるレコードの企画もイノセントなジャズファンには???というシロモノが多く……。

1970年頃には無一文のドラッグジャンキーとして、とうとう演奏もままならない状態だったと言われています。もちろん当局からは厳しい監視があったそうですし、クスリの売人からも狙われて……。

さて、このアルバムはそんな地獄を通り抜けた1974年に吹き込まれた会心の人気盤♪ 製作レーベルのCTIは名プロデューサーのクリード・テイラーが陣頭指揮でフュージョン色の極めて濃い演奏を送り出していた当時の最先端ですから、ここに潜在的な人気が高いチェット・ベイカーのリーダー盤を出してくるのも納得出来ますが、その中身の素晴らしさは聴いて仰天でした。

録音は1974年11月、メンバーはチェット・ベイカー(tp,vo)、ポール・デスモンド(as)、ボブ・ジェームス(key)、ロン・カーター(b)、スティーヴ・ガッド(ds)、ジャック・ディジョネット(ds)、ヒューバート・ロウズ(fl)、デイヴ・フリードマン(vib)、その他にストリングスとホーンの伴奏か付いていて、アレンジはドン・セベスキーという豪華版です――

A-1 Autumn Leaves
 もう、これしかないの1曲目♪ 柔らかな歌心を優先させるチェット・ベイカーのテーマ吹奏から爽快なアドリブは、全てが口ずさめるという出来すぎたものです。しかしこれはチェット・ベイカーが天才の証明でしょう。
 それをサポートするリズム隊では、なんと言ってもスティーヴ・ガッドが奇跡の4ビート! 今では天才の名をほしいままにしているこのドラマーも、当時はロックビートは上手いけれど、4ビートはスイングしないと定評があったんですよっ。それがここではスネア&タムをメインに、シンバルをサブにしたポリリズムっぽい敲き方が本当に素晴らしく、目からウロコの新感覚でした。
 またボブ・ジェームスのシンプルなエレピ、ブ~ンというキメを多用するロン・カーターも心地良く、さらにストリングスやフルート等のアレンジもソフト&メロウですから、本当にたまりません。
 そして特別ゲスト扱いのポール・デスモンドがフワフワと夢見心地の名アドリブ♪ 快適で力強いリズム隊のグルーヴと渾然一体となった演奏は、まさに桃源郷の仕上がりで、「枯葉」のモダンジャズバージョンとしては快楽ナンバーワンじゃないでしょうか。
 スティーヴ・ガッド、カッコイイ!

A-2 She Was Too Good To Me
 こんどはスローなテンポでチェット・ベイカーのボーカルが楽しめる、なかなか甘い演奏です。クラシック調のアレンジで煌くストリングをバックに、気だるい雰囲気で美メロが歌われる世界は、ジャズというよりも、今日ではソフトロックという感じです。
 しかし当時は「オカマノウタ」とか、忌み嫌っていたジャズ者も多かったんですよ。これは賛否両論でしょうね。
 私はドン・セベスキーの華麗なアレンジに酔い、素直なハスキートランペットにシビレて聴いているのですが……。

A-3 Funk In Deep Freeze
 おぉ、今度は一転してファンキーハードバップのCTI的な展開というか、原曲はハンク・モブレーが1950年代に書いた黒い感覚が横溢するメロディです。それをここでは脱色してソフトに仕上げる試みが潔い結果となりました。
 まずチェット・ベイカーが絶妙のタメで、実に見事なアドリブを聞かせてくれます。またここでもシンプルな「間」に撤するボブ・ジェームスのエレピが素敵ですねぇ~♪ 本音でジャズモードを追求するヒューバート・ロウズのフルートも良い感じ♪
 ただしハンク・モブレーのオリジナル演奏を知っていれば、完全に物足りないでしょう。特にスティーヴ・ガッドのドラミングは???

B-1 Tangerine
 爽快で柔らかなメロディが魅力の名曲をチェット・ベイカーが吹いてくれる、ただそれだけで満足させられる名演です。そしてバックのアレンジとサポートメンバーの堅実な助演も素晴らしいですね。特に正統派4ビートのブラシを披露するスティーヴ・ガッドがステックに持ち替えていくところなんか、不思議なほどにジャズどっぷり♪
 もちろんチェット・ベイカーのアドリブは美メロの宝庫で、なんでこんなに歌えるのか、夜も眠れないほどです。またポール・デスモンドも実に甘美な世界を作り出して快適にスイングしまくれば、リズム隊は意外なほとにアグレッシブ! ボブ・ジェームスが演じるアドリブソロのバックで暴れるスティーヴ・ガッドが痛快なのでした。

B-2 With A Song In My Heart
 これも和みの歌物スタンダードで、チェット・ベイカーが十八番のボーカル&トランペットを聞かせてくれますが、ここからはドラマーがジャック・ディジョネットに交代している所為でしょうか、ちょいと全体のスイング感がハードエッジ♪
 ボブ・ジェームスのエレピソロに絡んでテーマに戻していくチェット・ベイカーには手慣れた感じがします。

B-3 What'll I Do
 これもスタンダードですが、かなりシブイ選曲だと思います。
 甘いストリングスがメインのアレンジで、チェット・ベイカーは虚無的なトランペットと暖かいボーカルを聞かせるという、コントラストの妙技がニクイばかり!
 フェードアウトして短く終わるのが残念なほどです。

B-4 It's You Or No One
 オーラスは、これぞチェット・ペイカーという爽やかフィーリングのハードバップが存分に楽しめます。スリルがあって和んでしまうアレンジが秀逸ですし、溌剌としたリズム隊も正統派の力量を発揮しています。
 アドリブパートではボブ・ジェームスがビル・エバンスとアーマッド・ジャマルのミックスを聞かせてくれますから、ニンマリです。

ということで、これはチェット・ベイカー「よみがえり」の名作♪ 発売された1975年はフュージョンの大ブームへ突入していた頃ですが、日頃それを嫌っていたジャズ喫茶でさえも、このアルバムだけは鳴らす店が多かったと記憶しています。

実際、これがリアルタイムのチェット・ベイカー初体験というジャズ者も大勢いらっしゃるのでは? 実は私もそうなんです。

ちなみにチェット・ベイカーは、この後も好不調の波が烈しく、事なかれ4ビートや凝りすぎフュージョン等々、なにか煮え切らない活動で生涯を終えたのは、やはり悪いクスリの所為だったのでしょうか……。

あとスティーヴ・ガッドが一般的に大ブレイクするのは、このセッションよりも1~2年後なんですが、その際、常に話題となるのが、このアルバムでの4ビートドラミングなのでした。

最後に一言、何が写っているのか意味不明のジャケットは、開いてみるとお楽しみがありますよ。ぜひともアナログ盤の現物を確認して下さいませ。

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3 コメント

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こんばんは! (あずき)
2008-03-14 21:04:32
このアルバム、好きなんですよ~!
CTIがフュージョン時代にぶつけてきたアルバムですけどじっくり聴くと随所に楽しさがありますよね。

実は私もこれがチェット・ベイカー入門だったんですが((笑)このアルバムに出会ってありがとう、そんな感じです。

この枯葉、明るい秋の陽射しの中で黄色く色付いた枯葉がきらきら舞い落ちるようなイメージ。聴くたびに嬉しくなりますね。
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CTI (サイケおやじ)
2008-03-15 17:48:35
☆あずき様
コメント感謝、お久しぶりです。
毎日、雑記帳は拝見しておりますよ。

このアルバムの続篇っぽいのが、ジム・ホールの「アランフェス」ですよね♪ CTIはもっと評価されていいレーベルだと思います。
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復活のCHET (67camper)
2008-05-11 13:49:34
サイケおやじさん、TBありがとうございます。
まさに復活のchetですよね。すばらしい!!!
枯葉に尽きますよね。こっちからもTBさせてくださいね。
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