今日も気持ち良く晴れた1日でしたが、やっぱり風が冷たくなってきました。熱い珈琲が、本当に美味いですね。
ということで、本日は――
■The Two Sides Of Jack Wilson (Atlantic)
1970年代のジャズ喫茶では、マスコミに登場しない隠れた人気スタアが大勢居て、例えば黒人ピアニストのジャック・ウィルソンも、そのひとりでした。
芸歴の中ではブルーノートに残したアルバムが最も輝かしいものでしょうが、アトランティックの諸作も捨てがたく、中でも本日の1枚は正統派ピアノトリオの傑作盤! 意外なほどの入手の困難さもあって、リクエストが多かったと記憶しています。
録音は1964年5月13日、メンバーはジャック・ウィルソン(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という極上のトリオです――
A-1 The Scene Is Clean
ダッド・ダメロンが書いた優雅な名曲ですが、ジャズとして面白く演奏されるミソがあるようで、なかなか味わい深い演奏が楽しめます。
まず優しいタッチのジャック・ウィルソンがアドリブパートでは淀みない運指を披露しつつも歌心優先主義が好ましく、フィリー・ジョーのメリハリの効いたドラミング、どっしりとウォーキングするリロイ・ヴィネガーのベース共々に強い存在感を示しています。
ただし全体に漂う妙な倦怠感は、フィリー・ジョーの激したドラミングでも払拭出来ないようで、それゆえに中間部のドラムソロが、些かヤケクソ気味に聞こえてしまうのでした。
A-2 Glass Enclosure
バド・パウエルのオリジナルで、全体が4部構成になっている不思議な作品ですから、失礼ながらジャック・ウィルソンにしても荷が重いという感じでしょか……。
実際、聴いていてもイライラする部分は隠せません。しかし正統派4ビートで疾走するところは痛快ですし、ジャック・ウィルソンの器用な面が良く出た演奏だと思います。
A-3 Good Time Joe
一転して、これは痛快!!!
クッションの効いたフィリー・ジョーのドラミングを活かしたブルースで、ジャック・ウィルソンのピアノからはファンキーに色づけされた小粋なフレーズが連発されます。
あぁ、楽しいなぁ~~♪
しかしフィリー・ジョーのドラムスが、実はハズシ気味かも……? 妙な勘違いがあるように思います。
その点、リロイ・ヴィネガーは見事ですねぇ♪ 地味ながら存在感の強いベースソロまでも聞かせてくれるのでした。
A-4 Kinta
思わず笑いそうな曲タイトルですが、中身は熱いハードバップ! かなり早いテンポでバリバリと弾きまくるジャック・ウィルソンは、ジャズ喫茶の人気者になる条件を満たしています。
B-1 Once Upon A Summertime
ミッシェル・ルグランが書いた名曲のひとつを優雅に演奏してくれるジャック・ウィルソン♪ カクテルピアノにギリギリまで近づきながら、かなりアブナイ部分でジャズの恐さを感じさせてくれます。
リロイ・ヴィネガーのベースも1音を大切にした蠢きで結果オーライだと思いますが、全体的には隠しようもないロマンチックな香りが、最高に素敵ですねぇ~♪
B-2 Sometime Ago
これが如何にも1960年代的な名曲ですから、モダンジャズでも名演は数多く残されていますが、このジャック・ウィルソンのバージョンもそのひとつでしょう。
動きすぎる指と溢れる想いがマッチして、時には饒舌な部分もありますが、嫌味になっていません。なによりも魅惑のテーマメロディを蔑ろにしていないところに好感が持てます。
B-3 The Good Life
おぉ、次に出るのが、これまたシャンソンの大名曲♪ 選曲とプログラムの流れの良さが、このアルバムの魅力です。
ジャック・ウィルソンはスローなテンポの中で、思いっきり華麗なテクニックを披露し、リスナーを酔わせるのでした。
洒落たカクテルラウンジに居る気分にさせられますよ。
B-4 The End Of A Love Affair
これも幾多の名唱・名演が残されている歌物バラードですから、ジャック・ウィルソンもじっくりと構えて華麗にピアノを歌わせています。溢れる歌心とムードの醸し出し方は、流石の一言!
中盤からはグッとビートが強くなり、フィリー・ジョーが十八番のノリを聞かせてくれる場面もありますが、あくまでもリーダーのピアノを盛り立てたサポートですから、雰囲気は最高です。
ということで、アルバムタイトルどおり、A面とB面では趣が異なっています。そして個人的にはスローサイドとも言うべきB面が大好きで、ジャズ喫茶でも良くリクエストしたものでした。
ですから逆にA面のくだけた感じが、やや惜しまれるんですが、これはアナログ盤という片面で完結する世界では、問題にならないと思います。つまりぶっ続けで聴くと、違和感が……。
これこそアナログ盤で聴きたい作品だと思います。