OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マシュー・ジーのイナタイ魅力

2007-08-04 16:34:48 | Weblog

今日は涼しくなりましたが、湿度が高いですねぇ。夕方からはムシムシしてきました。

ちょっと仕事も休めないし、野暮用も多発していますから、こんな時こそ聴きたいのが、このアルバムです――

Jazz By Gee ! / Matthew Gee (Riverside)

黒人トロンボーン奏者のマシュー・ジーは、テキサス出身の隠れ名手です。テナーサックスの世界には所謂「テキサステナー」と称される一派があるんですが、マシュー・ジーは「テキサストロンボーン」でしょうか? と言っても、しつこさとオトボケはほどほどですし、音色は暖かくてフレーズは和み系という、全く私好みなんです。某ジャズ喫茶で一度聴いた瞬間から、虜になりました。

で、その楽歴はビバップ~中間派、モダンスイングのビックバンドあたりで活動しており、なかなかの実力派なんですが、このアルバムは、おそらく唯一の単独リーダー盤でしょう。

しかもオリジナル盤は超コレクターズアイテムで、ウルトラ級の貴重盤! 幾ら金を積んでも、ブツそのものを見つけるのが至難の技ですから、私は最初っから入手を諦めていました。

それが一時、我国でアナログ盤として復刻されたらしいのですが、その時も私は海外で仕事をしていた所為で入手不能……。尤もそれも、アッという間に売れきれたらしいのです。

ところが神様の思し召しというか、少し前に紙ジャケット仕様のCDが出たので、勇躍ゲットして、日々楽しんでいる1枚となりました。

肝心の内容は、ハードバップ丸出しのセッションが2つ収められていて、出来はもちろん最高級♪ A・B面で味わいが微妙に異なるあたりも、名盤の条件かと思います。

で、まずA面の録音は1956年8月22日、メンバーはマシュー・ジー(tb)、アーニー・ヘンリー(as)、ジョー・ナイト(p)、ウィルバー・ウェア(b)、アート・テイラー(ds) というシブイ顔ぶれ――

A-1 Out Of Nowhere
 古いスタンダード曲ですが、ビバップ時代にも定番演目化していましたから、ここでも味わい深い演奏が聞かれます。
 テーマ部分のアレンジも和やかですし、アドリブパートではマシュー・ジーのホノボノとした雰囲気に対し、溌剌としたリズム隊のコントラストが実に良い感じです。
 また相方のアーニー・ヘンリーは小型チャーリー・パーカーという先鋭さがあって、大いに魅力的♪ そしてジョー・ナイトのピアノが、これもホレス・シルバー系のファンキーな味わいで、最高です。短い演奏ですが、飽きないですよ、実際。

A-2 I'll Remember April
 これもモダンジャズでは定番のスタンダード曲で、刺激的なベースソロをイントロにした名演になっています。ジョー・ナイトのピアノもビンビンにスイング♪
 もちろんマシュー・ジーはモゴモゴした音色と爆裂気味のフレーズの妙が歌心になっているという、独自の個性を存分に聞かせてくれます。続くアーニー・ヘンリーのコピー丸出しというフレーズの連発も憎めません。

A-3 Joram
 真正ハードバップという名曲・名演です。全体のヘヴィな雰囲気が実に黒っぽいですし、ジャック・ヒギンズによる、これぞリバーサイドというギスギスした録音も素晴らしいと思います。それはリズム隊の歯切れの良さ、特にアート・テイラーのドラムスが見事に録られていると感じます。
 肝心のマシュー・ジーは悠々自適の大らかなスイング感で楽しく、またアーニー・ヘンリーのアルトサックスには、思わずグッとくるビバップの魂が溢れています。
 そして終盤でのアート・テイラー対マシュー・ジーの対決にも熱くさせられてしまうのでした。

A-4 Sweet Georgia Brown
 これも古いスタンダードをハードバップ化した演奏で、アップテンポのバリバリ感が強烈です。そのキモは、イントロから炸裂するウィルバー・ウェアの変態ウッドベース! ビンビンバンバン、不思議に弾むビートの嵐は本当に痛快です。またアート・テイラーの執拗なハイハットも素晴らしいです。
 そしてマシュー・ジーがウダウダグタグタに吹きまくりです。しかし歌心が満点なんですねぇ~♪ クライマックスではアート・テイラーとの対決もあって、ジャズの楽しさが満喫出来ます。

A-5 Lover Man
 独特の哀しみが滲むスローな歌物を、マシュー・ジーは暖かく吹奏してくれます。ジョー・ナイトを中心とした伴奏も実に味わい深く、なんとも言えないホノボノ感のハードバップ的解釈として、いつまでも心に残る演奏だと思います。
 そう、何かの拍子に、フッと心をよぎるような感じでしょうか。
 ウィルバー・ウェアのベースソロは骨太変態の極みで、なんだか楽しくなってしまいます。

さて、ここから以下のB面はメンバーが拡大された大ハードバップセッションです。録音は1956年7月19日、参加したのはマシュー・ジー(tb) 以下、ケニー・ドーハム(tp)、フランク・フォスター(ts)、セシル・ペイン(bs)、ジョー・ナイト(p)、ジョン・シモンズ(b)、アート・テイラー(ds) という筋金入りの面々です――

B-1 Gee !
 タイトルどおり、マシュー・ジーのオリジナル曲で、まず厚みのあるアンサンブルで演奏されるテーマ部分からワクワクしてくる楽しさです。
 アドリブパートではモゴモゴと口ごもりながらも素敵なフレーズとノリを聞かせるマシュー・ジーが、これこそトロンボーン本来の魅力かと思わせる吹奏です。
 そしてフランク・フォスターがワーデル・グレイ直系の歌ってスイングしまくる快演ですし、ケニー・ドーハムは流石の貫禄! ソフトな低音で迫るセシル・ペインも存在感がありますねぇ♪
 またリズム隊の充実度は最高で、ガンガン叩きつけるようにスイングするジョー・ナイトのピアノやビシビシに煽るアート・テイラーのドラミングには、思わず血が騒ぎますよ。
 終盤で再び登場するマシュー・ジーは、絶好調の歌心を存分に聞かせ、実力を大いに発揮しています。いゃ~あ、本当に楽しいですねぇ~~~♪ ラストのバンドアンサンブルも見事です。

B-2 Kingston Lounge
 これもマシュー・ジーのオリジナルで、痛快なアップテンポのハードバップを聞かせてくれますが、その原動力は豪快なドラミングのアート・テイラー! ビシバシのハイハットが実に気持ちE~~♪
 もちろんマシュー・ジーも豪快なトロンボーンソロで期待に応える大熱演です。そのスタイルはビバップ以前のフレーズも使っていますが、ノリが間違いなくファンキーという素晴らしさ! 何度聴いても飽きません。
 そしてフランク・フォスターが、カンウト・ベイシー楽団での活躍に負けない存在感で、これも痛快なアドリブソロを披露すれば、ケニー・ドーハムもシブイ音色で流麗なフレーズを積み重ね、山場を作っていきます。
 さらにそれを引き継ぐセシル・ペインがブヒプヒに吹きまくり! リズム隊も強烈なグルーヴを発散させていますから、もう辺りは修羅場寸前!
 ですからリズム隊だけのパートになると、ますます黒くてエグイ演奏になるんですねぇ~♪ ジョー・ナイトは有名ではありませんが、このアルバムでの熱演があって、私は大好きなピアニストになりました。
 演奏はこの後、マシュー・ジー対アート・テイラーの激突となり、ブチキレ寸前のドラミングを披露するアート・テイラーは、やっぱり凄いとしか言えません。これはリバーサイド特有の録音がしっかりと感じられるところです! う~ん、最高です!

B-3 The Boys From Brooklyn
 これもマシュー・ジーの楽しいオリジナル曲で、ちょっと中間派の味わいがあります。しかしリズム隊は完全にハードバップのノリですから、マシュー・ジーのオトボケも気合が違う感じです。歌心いっぱいの和みのフレーズが実に素敵ですねぇ~~♪ 途中で唸っているのは、本人でしょうか? このあたりの臨場感も、たまりません。
 またフランク・フォスターも硬軟取り混ぜたフレーズの妙で、負けじと和みますし、ケニー・ドーハムはスリルとサスペンスを存分に聞かせるシブイ妙演です。
 それとセシル・ペインが、ソフトバリトンの魅力とでも申しましょうか、これまたシブイです。

ということで、暖かくてシブイ雰囲気が横溢した演奏集なんですが、それでいて立派なハードバップの隠れ名盤だと思います。飽きがこないのも大いに魅力ですし、個人的にはアート・テイラーの強烈なドラミングに熱血させられるんですねぇ。

しかしリアルタイムの売上げは決して良くなかったみたいですし、その後の再発もB面のセッションだけだったようですから、ジャズの解説本にも登場しないアルバムかもしれませんが、こういう素敵な演奏が日常的に行われていたモダンジャズ黄金期の雰囲気には、間違いなく浸れると思います。

見つけたら直ぐに買いましょうね。

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