台風が来ている所為でしょうか、あまりの暑さにバテバテでした。夕方になって、ようやく秋らしく涼しい雰囲気ではありますが……。
ということで、本日は――
■Guitar Forms / Kenny Burrell (Verve)
「ケニー・バレルの全貌」という邦題がつけられた人気盤で、ギル・エバンス編曲・指揮によるオーケストラ付きなのがミソ!
しかしジャズを聞き始めた頃の私は、どうもギル・エバンスという人が苦手でした。最初に聴いたのがマイルス・デイビスとの「アランフェス」だったのも、その一因かもしれませんが、なんとなく煮え切らないアレンジと音作りが、???だったのです。
ところが、このアルバムは聴いた瞬間、良いな♪ と思いました。
ケニー・バレルはブルースを基調としながらも都会的なセンスとソフトな節回し、さらに黒っぽい感性が人気の黒人ギタリストですから、その幅広い音楽性はハードバップだけでは勿体無いという思惑が、製作者側にあったのでしょう。
もちろんケニー・バレル本人だって、ヤル気満々! その実力が遺憾なく発揮された名演集となっています。
録音は1964年12月&1965年3月とされていますが、おそらくオーバーダビング等の仕掛けがあるものと推察しています。そのメンバーはケニー・バレル(g) 以下、ロジャー・キャラウェイ(p)、ロン・カーター(b)、ジョー(ds,per)、ウィリー・ロドリゲス(pre) あたりが基本のリズム隊で、他にスティーブ・レイシー(ss) やリー・コニッツ(as) までもが参加したオーケストラが付いています――
A-1 Downstairs
A-2 Lotus Land
A-3 Terrace Theme
A-4 Excerpt From “Prelude #2”
B-1 Moon And Sand
B-2 Loie
B-3 Greensleeves
B-4 Last Night When We Were Young
B-5 Breadwinner
――上記演目では、まずB面ド頭の「Moon And Sand」が素晴らし過ぎる大名演! まずキャバレーモードのラテンビートはボサノバをも内包した懐の深いノリで、たまりません。哀愁のテーマメロディを丁寧に奏でるケニー・バレルは、クラシックギターを使っているんですねぇ~♪
バックを彩るギル・エバンスのオーケストラアレンジは、独特の膨らみがあって、全く不思議な心持にさせられてしまいます。もちろんケニー・バレルのアドリブは短いながらも得意技をしっかり出しているのです。
そして続く「Loie」が、これまた濃密なラテン風の演奏ですからねぇ♪ 作曲はケニー・バレルというのにも仰天ですが、バックの刺激的なアレンジをブッ飛ばすアドリブのディープな雰囲気は最高♪ ちなみにここでもクラシックギターが使われ、その柔らかな弦の響きが素晴らしい雰囲気を作り出しています。
またジンワリとスタートして軽快にスイングする「Greensleeves」やブルースにどっぷりの「Downstairs」と「Terrace Theme」では、モダンジャズの王道が楽しめます。
さらに痛快なボサロックの「Breadwinner」も、当たり前の凄さが実に素敵です♪
しかし、このアルバムの真髄は、ケニー・バレルのディープな歌心とギル・エバンスの豊かな楽想に満ちたアレンジが完全一体となった「Lotus Land」や「Last Night When We Were Young」でしょう。いずれもスローテンポで、ケニー・バレルは生ギターを使った入魂の演奏を聞かせてくれます。あぁ、この奥深いフィーリングは、ジンワリと心に滲み込んで、せつなくも胸キュンな……。
ギル・エバンスのアレンジも幽玄の極みでありながら、マイルス・デイビスと共演していた時より分かり易い雰囲気になっていますから、私はこれで目覚めた! と告白致します。
ということで、ジャズ喫茶ではB面が定番ですが、自宅で脱力ブルースのA面ド頭を朝一番で聴くことが多いという私です。恥ずかしながらギターでコピーしてみても、このフィーリングは出せませんねぇ。それがケニー・バレルの凄さです。
そして生ギターを多用している点も聞き逃せません。実にニクイ! 真の傑作アルバムだと思います。