あぁ、いよいよ明日はおやじバンドのステージがあります。
連日の練習で、どうにか纏まってきましたんで、今夜は最終の演目決めと練習です。そして結局、上手いとか下手といか言う前に、バンド全員の団結力というか一体感が必要なのだっ! と開き直っています。
ということで、本日はそういう男気の世界を――
■Max Leaps In / Massimo Urbani (Philology)
Masimo Urbani はイタリアのサックス奏者で、多分、マッシモ・ウルバーニと発音するんでしょうか? まあ、それはそれとして、とてもつもない実力持った天才でした。
「でした」と書いたのは、既に故人……。1993年に36歳で亡くなっているのですが、その生き様は壮絶というか、麻薬に溺れ、世渡りもヘタクソだったと言われています。もちろん死因は赤貧の中での薬物過剰摂取でした。
その Masimo Urbani は主にアルトサックスを吹くことが多く、どうしてもモダンジャズを創成した天才チャーリー・バーカーとイメージがダブリますが、その演奏スタイルと猛烈なエネルギーの発散も、良く似ています。
ただし本格的な活動は1970年代からなので、そこにフィル・ウッズやエリック・ドルフィー、ジョン・コルトレーンあたりの影響も当然混じっており、それを見事に自分のスタイルに変換し、纏め上げたあたりは、やはり天才だと思います。
ちなみに Masimo とは英語で Maximum という意味らしいですね。
さて、このアルバムは Masimo Urbani の死後に発売されたライブ盤で、録音は1983年9月26日、メンバーはMasimo Urbani(as)、Mike Melillo(p)、Massimo Moriconi(b)、Tullio De Piscopo(ds) という発掘音源のCDです――
01 Lester Leaps In
モダンジャズ以前にモダンジャズを感じさせたテナーサックス奏者のレスター・ヤングのオリジナル曲で、いまでは純正ジャズの定番曲となっていますから、まさにこういうライブでサックス奏者が腕前を披露するには、うってつけ!
Masimo Urbani 以下バンド全員が、ここでは火の出るような勢いで演奏に没頭しています。
それはまず、いきなりの無伴奏アルトソロからリズム隊を呼び込んでの猛烈疾走! ビリビリに泣いて唸って暴走する Masimo Urbani! バックの面々も必死で追いかける展開には唖然とさせられます。なんか聴いているうちに、こんなに急いで、どうすんの!? と思わざるをえませんが、終盤のドラムスとの掛け合いとか、ラストテーマのケレンとかがあると、納得させられてしまうのでした。
02 Sophisticated Lady
デューク・エリントンの代表的な名曲を、ここでもビリビリ・ジルジルに泣きまくって熱く演奏する Masimo Urbani という存在は、いやはやなんともです。あぁ、この執拗なテーマ吹奏には情念を超えた自己主張があるんでしょうか……。
続く Mike Melillo のフリー気味のピアノによるアドリブさえ、分かり易く聞こえてしまいますが、明らかにジャズの魅力に溢れた演奏です。なにしろ聞いているうちに、ぐぅ~~~っとその世界に引込まれてしまいますからねぇ。
あぁ、Masimo Urbani のアルトサックスの鳴りの凄さ、濃~い歌心、熱き心に感じないで、どうしていられましょうかっ!
03 Scrapple From The Apple
おぉ、チャーリー・パーカーが神業を残したオリジナルに敢然と挑戦する Masimo Urbani とあっては、興奮しないではいられません。テーマが終わってアドリブに入る瞬間、誰かが唸り声をあげでしまいますが、わかりますねぇ~♪
もちろん以降は怒濤のバップ大会! 炸裂するドラムス、うねるベースに煽られて、Masimo Urbani は烈しく咆哮していきます。的確な伴奏に撤する Mike Melillo も良い感じで、泣くだけ泣いたアルトサックスを優しく抱擁するような懐の深さが、男の世界でしょうか。
終盤にはアルト対ドラムスの対決が、楽しいお約束になっています。
04 Light Blue
これもモダンジャズを創成した天才ピアニスト=セロニアス・モンクのオリジナルですから、Mike Melillo が実に味のある変奏モンク節に撤して、最高です。グリグリに絡んでくるベースとドラムスからも男気が感じられますねぇ。
ちなみに Masimo Urbani は一休みです。
05 I Love You
多くのアルトサックス奏者に取上げられることが多い人気スタンダードで、もちろん Masimo Urbani は見事に答えを出しています。
まずテーマ部分では余計な小細工をせず、アドリブに入ってから存分に泣きわめき! やや型にはまった感が無きにしも非ずですが、ド派手な咆哮とジルジルというキメの音色あたりは、やはり天才にしか出来ないワザだと思います。
アップテンポでツッコミが烈しいリズム隊も侮れず、彼等だけの演奏になってからのフリーな展開とか自由な発想は、Masimo Urbani に負けないイマジネーションがあります。つまりワザとらしくないんですねぇ。
06 Blue Monk
これまたセロニアス・モンクが書いた、妙に和んでしまうブルースです。
ゆるやかなテンポの中を、モンクの代役を務めたような Mike Melillo が実に素晴らしく、伴奏にアドリブに実力を存分に発揮した畢生の名演!
もちろん Masimo Urbani はブルースとビバップの魂を極限まで拡大解釈した演奏に撤していきます。あぁ、何度聴いても心の底から熱くさせられてしまいます! このアルトサックスの鳴り! それだけで感動的なのです!
そして既に述べたように Mike Melillo も大熱演♪ 終盤でテンポアップした4ビートへ持っていくあたりの展開にはゾクゾクさせられます。
さらにベースの Massimo Moriconi も快演で、このアルバムの目玉演奏になっているのでした。
07 Night In Tunisia
またまたモダンジャズでは定番の名曲ですが、ここでは変態ロックビートを使ったアグレッシブな演奏にしています。ちなみにこういう展開はジョニー・グリフィンあたりも使う手なので、珍しくもありませんが、このバンドのようにエキセントリックな味が濃いと、それも正解になっています。
もちろん急速4ビートも交えて展開されるアドリブパートでは Masimo Urbani が大爆発のやけっぱち! 烈しい咆哮と大袈裟な泣きは、聴いていてクドイほどですが、これが実は心地良いクドさなんですねぇ。ギトギトのラーメンのような♪
またリズム隊の奮闘も特筆されるべきでしょう。Mike Melillo が十八番の擬似フリーを出すのもニクイところですし、ベースとドラムスが存在のアドリブのような完成されたコンビネーションを披露するあたりも、楽しいです♪
08 Cherokee
亜ァ、大団円が、この曲だなんてっ!
もちろんスタンダードなんですが、歴史的にはチャーリー・パーカーがビバップ創成のカギを掴んだコード進行と言われていますから、ここでの猛烈な演奏は明らかにそれを意識したものでしょう。
まずドラムスの Tullio De Piscopo が、とんでもない凄さでバンド全体を引張り、Masimo Urbani がモダンジャズへの愛情を、とことん吐露しています。けっこうミスもあったりしますが、勢いが全てでしょうか、思わずのけぞる演奏です。
また颯爽とした Mike Melillo も素晴らしく、そのアドリブにはスカッとします。そしてオーラスには爆裂ドラムソロで全てを投げ打った Tullio De Piscopo の潔さ! あぁ、痛快です!
ということで、虎は死して皮を残すというか……。
実は Masimo Urbani の存在を私が知った直後に、本人はあの世に旅立ったわけですし、残したレコードはなかなか入手困難なブツばかりでしたので、このCDのような発掘盤は大歓迎です。実際、これ以外にもいろいろと出ているんですよ。
それにしても、ここでの演奏が凄いのは、バンドが一丸となった突進力に尽きます。恐らくリズム隊の面々は Masimo Urbani の実力に心底参っていたんじゃないでしょうか? 追悼盤という意味合いは別にして、聴いているうちに敬意のようなものを感じてしまうのでした。とにかく熱演ばっかりが、ギッシリと詰まっているのでした。