OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

やっぱり凄い! アレサのゴスペル

2009-01-21 11:37:43 | Soul

Amazig Grace The Complete Recordings / Aretha Flanklin 
                                                                    (Atlantic / Rhino = CD)

アメリカでは初めての黒人大統領が就任ということで、昨夜から今早朝にかけて、ついついテレビ中継を見てしまいました。なんか今日は仕事がキツイ感じです、もう若くありませんから……。

しかしそれにしても、あの黒人ゴスペル大会みたいなノリは凄かったですね。新大統領の演説には明らかにゴスペル伝道師の趣というか、明快な言葉で民衆の心を掴む説法のツボが使われていると感じました。

おまけにアレサ・フランクリンの熱唱までも!

ということで、本日は私の大好きなゴスペルアルバムを出してしまいました。

主役はレディソウルことアレサ・フランクリンが1972年に制作した、彼女自身が最大のベストセラーとなった「Amazig Grace (Atlantic)」を再発した完全版2枚組CDです。

アレサ・フランクリンは説明不要の黒人R&B歌手ですが、そのルーツはゴスペルであり、父親は有名なゴスペル説教師のクラレンス・フランクリンですから、大衆音楽の世界で成功したとはいえ、何時かはゴスペルの世界へ戻りたいと願っていたようです。

そしてその願望を最良の形で表したのが、1972年1月にLAのパブティスト教会で行った2夜連続のライブレコーディングを編集して作り上げた前述の2枚組アナログ盤LPでした。

まさに全身全霊で魂の歌を聞かせるアレサ・フランクリン(vo,p) をサポートするのは、ゴスペル界の巨匠たるジェィムス・クリーヴランド(vo,p)、南カリフォルニア・コミニュティー聖歌隊、そしてバックはコーネル・デュプリー(g)、チャック・レイニー(el-b)、バーナード・パーディ(ds)、ケン・ラッパー(org)、パンチョ・モラレス(per) という強力な面々ですから、たまりません!

そしてこの再発CDには、その2日間のコンサートが、極力編集を排除した流れで復刻されているのです。

☆Disc One / 1972年1月13日木曜日の夜
 01 Organ Introduction / ケン・ラッパー
 02 Opening Remarks / ジェィムス・クリーヴランド
 03 On Our Way / 南カリフォルニア・コミニュティー聖歌隊
 04 Aretha's Introduction
 05 Wholy Holy
 06 You'll Never Walk Alone
 07 What A Friend We Have In Jesus
 08 Precious Memories / アレサ・フランクリン&ジェィムス・クリーヴランド
 09 How I Got Over
 10 a. Precious Lord, Take My Hand
     b. You've Got A Friend
 11 Climbing Higher Mountains
 12 Amaging Grace / アレサ・フランクリン&ジェィムス・クリーヴランド
 13 My Sweet Lord (inst.)
 14 Give Yourself To Jesus

 上記演目のとおり、アレサ・フランクリンが登場する前段として、実に厳かな思わせぶりがあって、いよいよ主役が歌い出すのは、なんとモータウンの大スタアとして有名なマーヴィン・ゲイが書いた「Wholy Holy」ですよっ! あぁ、ここまでの盛り上げ方が実に上手いというか、全く見事な構成だと思います。当然、その場の観衆も出来あがっているのが、音だけでも充分に伝わってきますね♪♪~♪
 で、その「Wholy Holy」はアレサ・フランクリンがピアノを弾き語り、メロウなコーネル・デュプリーのギター、ジンワリとして強いビートのドラムスとベースが、もういきなりの高得点! バックのコーラス隊も良い感じですし、もちろんアレサ・フランクリンは絶好調の泣き節が全開です。
 原盤解説によれば、実はアナログ盤2枚組LPに入っていた同曲のバージョンは、この日と翌日のカラオケだけを利用して、スタジオでボーカルを録り直したそうですから、この自然なグルーヴと高揚感には、尚更に納得させられますねぇ~~♪
 また有名スタンダード曲の「You'll Never Walk Alone」が崇高な雰囲気に満ちた名演に歌い直されているのには吃驚仰天! おまけにキャロル・キングやジェイムス・テイラーでお馴染みの「You've Got A Friend」までもがっ! あぁ、これがアレサ・フランクリンの凄さですし、真正ゴスペルのピアノと語りでサポートするジェームス・クリーヴランド、バックの聖歌隊の存在感も強い印象を残します。
 そしてもちろん真っ当なゴスペルソングの名曲群も素晴らしいパフォーマンで、やはり彼女がピアノの弾き語りでグイグイとリードしていく「What A Friend We Have In Jesus」、その場の一体感が見事な「Precious Memories」、コーラス隊の素晴らしい実力が冴える「Precious Lord, Take My Hand」と「You've Got A Friend」のメドレー、軽快なゴスペルロック仕立ての「How I Got Over」、楽しげに高揚していく「Climbing Higher Mountains」と、実に自然体なグルーヴが満喫出来ます。
 そして極みつきのとなるのが、アレサ・フランクリンとジェームス・クリーヴランドが魂の掛け合いを堪能させてくれる「Amaging Grace」です。もちろんコーラス隊と観客、バンドの面々も一体となった盛り上がりは、所謂「お約束」なんて言葉が不要の、無垢な感動しかありません。これはキリスト教徒でなくとも、間違いなく感じることの出来る名演だと思います。
 さらにこの後に続くクロージングのインスト曲「My Sweet Lord」はジョージ・ハリスンの大ヒットとしてお馴染みのメロディが、最強のバンドによって祭りの後のせつなさで演じられます。あぁ、ここで聞かれるコーネル・デュプリーのギターは私の憧れ♪♪~♪ チャック・レイニーの蠢くベースにズバンズバンのビートが凄いバーナード・パーディ♪♪~♪ 地元のミュージャンだというケン・ラッパーのオルガンも流石の黒人ノリで最高ですよっ♪♪~♪
 ちなみにオーラスに入っている「Give Yourself To Jesus」は、アナログ盤LP用に作られた素材で、この教会で録られたカラオケにボーカルとコーラスを後でダビングしたと、ライナーに書いてあるとおり、流石の完成度でジンワリと心が温まります。

☆Disc One / 1972年1月14日金曜日の夜
 01 Organ Introduction ~ Opening Remarks
 02 On Our Way / 南カリフォルニア・コミニュティー聖歌隊
 03 Aretha's Introduction
 04 What A Friend We Have In Jesus
 05 Wholy Holy
 06 Climbing Higher Mountains
 07 God Will Take Care Of You
 08 Old Landmark
 09 Mary, Don't You Weep
 10 Never Grow Old
 11 Remarks By Reverend C.L. Franklin
 12 Precious Memories / アレサ・フランクリン&ジェィムス・クリーヴランド
 13 My Sweet Lord (inst.)

 こちらのパートも基本的な構成は前日と同じですが、より剥きだしとなったゴスペルフィーリングが強烈な印象です。それは特に後半、前日とは異なる演目が入っている所為かもしれませんが、単純に言えば、ノリがますます良いんです♪♪~♪
 じっくりと観客を煽っていく「God Will Take Care Of You」ではバンドの地味な伴奏が逆に凄く、狂騒的な「Old Landmark」の手拍子&足拍子の楽しさ、ジワジワと熱気に満ちていく雰囲気が素晴らしい「Mary, Don't You Weep」を聴いていると、宗教的な意味合いが深く込められた歌詞は完全に分からなくとも、そのハーモニーとボーカルの圧倒的な威力には思わず神に感謝の気持ちを抱くほどです。
 生きているって、素晴らしい! それが苦しみの世界であっても!
 そしてアレサ・フランクリンは「Never Grow Old」で、15分を超える魂の熱唱を披露するのですが、これはまだ十代だった彼女の公式初リリース曲でもあり、ビッグスタアとなった今でも、その時のピュアな心情を忌憚無く感じさせてしまう凄さがあります。
 さらに続くのが、彼女の父親であり、百万ドルの声として説教アルバムを多数出している超有名な伝道師=クレランス・フランクリンのスピーチ! そこでは「アレサの心は、今でも教会を離れていない、どうかそれを信じて、彼女の歌声を」と、ある意味では親バカ系の話をしていますが、ここまでの流れの中では、全くそのとおりの感動が広がります。
 そして厳かに熱い「Precious Memories」から終焉のインスト曲「My Sweet Lord」へと続くクライマックスのせつない高揚感は、まさに唯一無二の素晴らしさです。

ということで、実に生々しく溢れ出たソウルがしっかりと記録されています。

ゴスペルという宗教性、そのアクの強さゆえに万人が好む音楽ではないでしょうが、ジャズでもロックでも、とにかく黒人音楽とは切り離せないルーツが、ここに素晴らしすぎるパフォーマンスで残されているのは、それに触れる絶好の機会だと思います。

ちなみに原盤解説によれば、当夜の模様はフィルム撮影も行われたとか!? その発掘も心から願っています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天空のジョン・マクラフリン

2009-01-20 11:32:36 | Rock Jazz

Birds Of Fire / Mahavishnu Orchestra (CBS Columbia)


1970年代前半に突如として、その威容を現したマハヴィシュヌ・オーケストラは、イギリスからアメリカにやってきた超絶のギタリスト=ジョン・マクラフリンが結成した、今では伝説のバンドですが、ロックビートはもろんのこと、複雑な変拍子を事もなげに取り入れたハイテンションな演奏展開は、所謂フュージョンなんて生易しいものではない、非常な衝撃度がありました。

それは実際のライブステージでハードロックのように積み重ねられた巨大アンプ群! ジョン・マクラフリンのダブルネックのギター、緻密なプロデュースによって構成されたアルバムの完成度、そしてバンドそのものの演奏能力の高さ! さらに時代をリードしていこうという意気込みが、ロックからジャズへと入っていった私のような者にはジャストミートだったのです。

このアルバムはマハヴィシュヌ・オーケストラの公式では2作目となる傑作盤で、録音は1972年9~10月、メンバーはジョン・マクラフリン(g)、ジェリー・グッドマン(vln)、ヤン・ハマー(key)、リック・レアード(b,el-b)、ビリー・コブハム(ds,per) という最強の初代レギュラーバンドです。

 A-1 Birds Of Fire / 火の鳥
 A-2 Miles Beyond / 遥かなるマイルス
 A-3 Celestial Terrestarial Commuters / 天界と下界を行き交う男
 A-4 Sapphire Bullets Of Pure Love / 純粋なる愛は輝く宝石
 A-5 Thousand Island Park
 A-6 Hope / 希望
 B-1 One Word / 御言葉
 B-2 Sanctuary / 聖域
 B-3 Open Country Joy / 郊外に於ける悦こび
 B-4 Resolution / 決意

演目には上記のように、大袈裟な邦題がつけられていますが、アルバムタイトルからして直訳の「火の鳥」というのは、当時の我が国では絶大な人気を得ていた手塚治虫の名作漫画と完全に上手くリンクして、尚更に印象深いところでした。

それは「マハヴィシュヌ」というインド宗教哲学からの法名とか、インドのモードから流用したメロディやリズム、ジャズもロックもゴッタ煮の演奏展開、そしてバンドとしての纏まりの良さとアドリブの強烈さ!

そういうものはビートルズやストーンズから続くサイケロック、あるいは所謂プログレやフリージャズをも包括したスケールの大きさを強く訴えていました。というか、当時のサイケおやじには、そうとしか思えなかったのです。

実際、ここに収められた演奏は短めのトラックを巧みに重ねてアナログ盤LPの片面を通した、ある種の組曲形式という展開になっています。つまり片面1曲という長尺演奏としての聴き方も正解だと思われます。

ですから純粋にジャズ的なアドリブ合戦のアプローチに加えて、バンドアンサンブルの妙、その複雑な構成を完璧に演じ切るメンバーの力量が物凄いエネルギーで感じられます。

仏教系パーカッションの響きからミステリアスなギターのアルペジオに導かれ、爆発的なビリー・コブハムのロックビートに煽られてテンションの高いリフからアドリブへと自然に流れていくド頭の「火の鳥」、マイルス・デイビスに捧げられたファンキーロックな「遥かなるマイルス」と続く展開は、当時主流だったどんなプログレバンドよりも過激な完成度があり、またウェザーリポートあたりのマイルス直系バンドよりも、明らかにロック的な斬新さが素敵です。

ちなみにジョン・マクラフリンはマイルス・デイビスの手引きで渡米し、幾つかのセッションに参加した後、トニー・ウィリアムスとロックジャズの伝説バンドとなったライフタイムを経て、このマハヴィシュヌ・オーケストラを結成したわけですから、そうした流れの中で自分の欲するコンセプトを抽出・再構成していった過程は言わずもがなに感じられますが、しいて言えばキングクリムゾンのロックジャズ的な部分を強く引き継いでいるのは否定出来ません。

しかしマハヴィシュヌ・オーケストラとしての存在感は、このアルバムを通して聴けば圧倒的! B面に入っての「御言葉」における複雑怪奇なアンサンブルと強烈なアドリブ合戦から神秘的な安らぎに満ちた「聖域」という流れの素晴らしさには、如何にも英国産プログレの趣があるにしろ、その演奏能力の高さは特筆すべきでしょうし、さらにカントリーロック的な和みと強靭なアドリブ対決が交錯する「郊外に於ける悦こび」を聴けば、明らかに他のフュージョンバンドとは一線を隔したスケールの大きさが感じられます。

こういう決してジャズだけに拘らない姿勢が、潔いのですねぇ~~♪

気になる宗教的な臭いの強さにしても、それは先入観にしかすぎませんし、例えば「輪廻転生」という思想にしても、冒頭に述べたように手塚治虫の「火の鳥」と偶然にもリンクしていた事により、尚更に感銘が深まるのではないでしょうか。

1曲ずつ楽しむのもOKですし、LP片面通しての気持ち良さ、さらにアルバム全体を聴いて後の感動も深い、名盤だと思います。

まあ、今となって正直、そう感じる「時代」というものも否定出来ませんが、それゆえに私は愛聴してしまうのでした。

掲載したのはイギリス盤で、最初に聴いていた日本盤よりもギスギスした音がしますが、どっちが良いかは十人十色ながら、やはり一応はオリジナル尊重ということで、ご理解願います。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

凄いリズム隊と気鋭の2人

2009-01-19 11:35:42 | Jazz

Blowing In From Chicago / Cliff Jordan & John Gilmore (Blue Note)

ジャズにはリズム的興奮が優先する場合が確かにあって、それゆえにリズム隊を目当てに演奏を聴いてしまう事が度々あるわけですが、このアルバムもサイケおやじは、それが目的で入手した1枚です。

なにしろシルバー、ラッセル、そしてブレイキーとくれば説明不要、あの「バードランドの夜」でハードバップを高らかに宣言した3人組ですからねぇ~♪ 夢よ、もう一度と期待して、それが存分に叶った熱演盤というわけです。

しかし主役は、リアルタイムで売り出し中だった若手黒人テナーサックス奏者の2人ということで、決してバックの3人はジコチュウな事はやっていませんから、流石だと思います。

録音は1957年3月3日、メンバーはクリフ・ジョーダン(ts)、ジョン・ギルモア(ts)、ホレス・シルバー(p)、カーリー・ラッセル(b)、アート・ブレイキー(ds) というクインテットですが、フロントの2人は後にホレス・シルバーとアート・ブレイキーに雇われて其々のバンドレギュラーとなるのですから、オーデション的な因縁も楽しいところでしょう。

A-1 Status Quo
 なんとなく耳に馴染んだコード進行とメロディフェイクの雰囲気から、おそらくは有名スタンダード曲を改作したと思われるオリジナルで、原盤裏ジャケット解説によれば、シカゴで活躍中だったテナーサックス奏者のジョン・ニーリーが書いたそうです。そしてこれが、前述「バードランドの夜」の雰囲気を濃厚に再現しているんですねぇ~♪
 それはなんといっても、リズム隊の熱気溢れる躍動感!
 独特のシンコペーションでガンガンに飛び跳ねるホレス・シルバー、ボンボンと弾むカーリー・ラッセルのペース、さらにビシバシに煽って爆発的なアート・ブレイキーという、この3人だけでハードバップの根源的な魅力が見事に演じられています。
 そして当然、鋭角的なジョン・ギルモアから灰色の情熱というクリフ・ジョーダンへと続くテナーサックスのアドリブにも、黒人ジャズの真髄がたっぷりと表現されているのです。
 あぁ、こんなアップテンポでも重量感を失わない演奏は、大袈裟じゃなくて、モダンジャズの世界遺産だと思います。アート・ブレイキーのドラムソロが炸裂する大団円までの全てが、痛快!

A-2 Bo-Till
 ラテンリズムを上手く使ったクリフ・ジョーダンが十八番のオリジナル曲♪♪~♪ そしてアドリブパートからはグイノリの4ビートという、ハードバップの美しき流れが楽しめます。
 クリフ・ジョーダンからホレス・シルバー、そしてジョン・ギルモアと受け渡されるアドリブは緊張と緩和の手慣れた雰囲気も漂いますが、アート・ブレイキーのドラミングが臨機応変に大技・小技を繰り出していますから、新進気鋭の2人も油断ならない結束が結果オーライのようです。

A-3 Blue Light
 ジジ・グライス(as) が書いた哀愁の隠れ名曲ですが、強靭なリズム隊の存在があればこその快演がたまりません。実際、このグルーヴィな雰囲気は、作者自身が幾つか残しているバージョンよりも魅力的だと、サイケおやじは思うほどです。
 そのキモは弾みの強いカーリー・ラッセルのペースワークで、4ビートのウォーキングからアドリブソロへ入っていくところのワクワク感とか、アート・ブレイキーとの共謀関係も流石だと思います。
 そして幾分ギスギスした心情吐露に徹するジョン・ギルモア、アート・ブレイキーに煽られてしまうホレス・シルバー、まろやかな黒っぽさを表現するクリフ・ジョーダンと続くアドリブソロの充実度も、ブルーノートならではですね。

B-1 Billie's Bounce
 チャーリー・パーカーが書いたモダンジャズではお馴染みのブルースリフも、このリズム隊があっては、尚更にエグイ魅力が発散した大熱演になっています。とにかく爆発的なアート・ブレイキーのドラムソロがイントロなって始まるテーマ合奏の勢いからして物凄く、どこへ飛んでいくからわからないようなエネルギーが充満しているんですねぇ~~♪
 クリフ・ジョーダンからジョン・ギルモアと続くテナーサックスのアドリブにしても、怖いバックに煽られて全力疾走! 一瞬の弛みも許されない緊張感とヤル気は実に感度良好です。
 そしてお目当てのリズム隊はガンガンの奮闘で、特にホレス・シルバーの伴奏は、それだけ聴いても熱くさせられるほどですが、アドリブソロではベースとドラムスのコンビネーションを冷静に探りつつ、忌憚の無い潔さ! だんだんと熱くなっていくアート・ブレイキーが憎めません。
 ですからクライマックスのソロチェンジでは、フロントの2人が余計に肩に力が入ってしまったというか、しかしそれもアート・ブレイキーのドラムソロで上手く纏められているのでした。

B-2 Evil Eye
 クリフ・ジョーダンが書いたマイナーブルースの傑作曲で、おそらくは曲想よりも幾分早いと思われるテンポ設定が、ここでは良い感じ♪♪~♪
 アドリブ先発のジョン・ギルモアがボクトツとしたハードボイルド節を聞かせれば、クリフ・ジョーダンは作者の強みを活かした哀愁節で対抗するあたりが高得点です。
 またホレス・シルバーの気分はロンリーなピアノも捨て難く、こうして時折に出す味わいも、シルバー節のキモだと思います。
 そしてクライマックスではテナーサックスの滋味豊かなソロ交換が、決してバトルではない味わい深さで秀逸です。あぁ、このパートが、もっと長かったらなぁ~~、なんて贅沢を言いたくなりますよ、きっと。

B-3 Everywhere
 オーラスはホレス・シルバーの書いた典型的なハードバップ曲ですが、アート・ブレイキーの落ち着きの無いドラミングが、そのテーマ演奏を???なものにしている感があります。
 しかしアドリブパートの痛快さは、このセッションの出来良さを証明するもので、2人のテナーサックス奏者は其々に未完成な部分が逆に魅力ですし、素敵なスパイスを効かせたリズム隊の躍動感は、決して派手ではありませんが、唯一無二だと思います。

ということで、ジャケットからテナーバトル物を期待するとハズレかもしれませんが、強烈無比なリズム隊がフロントの2人を盛り立てながら、凄い自己主張とバンドの纏まりを成し遂げた名セッション盤だと思います。

ちなみにホレス・シルバーとアート・ブレイキーはジャズメッセンジャーズという看板と実情を巡ってコンビを解消していながら、実は以降も度々の共演を残していて、そのどれもが特別な魔法に満ちています。

またカーリー・ラッセルもビバップ時代からモダンジャズの創成に大きく関わった偉人でありながら、健康問題でリタイアしたと言われていますから、このアルバムは特に「お宝」度数も高いのですね。

そして見事なハードバップの桃源郷という1枚として、素直に楽しめる作品だと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

デイヴ・ベイリーの魂の宝庫

2009-01-18 10:31:38 | Jazz

One Foot In The Gutter / Dave Bailey (Epic)

世の中には自然体でいながら人望があるという、本当にうらやましい人が確かにいます。人望とは求めて得られるものではないんでしょうが、やはり欲しいものには違いなく、それが欲しくてカッコつけてしまうことが度々というサイケおやじには、このアルバムのリーダーとなったデイヴ・ベイリーの存在感が眩しくもあるのです。

決して歴史的に云々されるドラマーではなかったデイヴ・ベイリーは、しかし参加したセッションでは必ずや演奏を心底、スイングさせる名手です。それも特に派手なケレンやスタンドプレーも演じることがない、極めてナチュラルなグルーヴを作りだす縁の下の力持ち的な存在であり、加えてその場のメンバーからは絶大な信用を勝ち得てしまうという人柄の良さ! そうしたものが、残された演奏を聴いていると、ヒシヒシと伝わってくるわけですが、このアルバムは恐らく初リーダー盤にして、それが最も感じられる作品だと思います。

録音は1960年7月19&20日、メンバーはクラーク・テリー(tp,flh)、カーティス・フラー(tb)、ジュニア・クック(ts)、ホレス・パーラン(p)、ペック・モリソン(b)、そしてデイヴ・ベイリー(ds) という真性ハードバップな面々♪♪~♪ しかもスタジオにお客さんを入れての一発録りセッションということで、最高に心温まる演奏が展開されています。

A-1 One Foot In The Gutter
 クラーク・テリーのオリジナルというグルーヴィでホノボノとしたゴスペルハードバップの快演ですが、まずはデイヴ・ベイリー自身による短い曲の紹介があって、さらにリーダー自身のカウントからジワッと曲が始まるまでの「間」の雰囲気の良さ♪♪~♪ 実にハートウォームなシブさが感じられます。
 そしてネバリとスイング感が絶妙に融合したテーマ合奏の味わい深さ、そこから軽い駆け足スタイルでアドリブに入っていくクラーク・テリーの匠の技には、思わずグッと惹きつけられるのです。もちろんそれに続くソロの構成も秀逸で、オトポケファンキーにコントロールされ音色の楽しさも、実にたまりません。
 ですからジュニア・クックが分かり易いフレーズで黒っぽいテナーサックスを鳴らしまくれば、カーティス・フラーは十八番の春風トロンポーンを吹き流し♪♪~♪ ホレス・パーランの何時もは煮詰まっていくゴスペル系のピアノも、ここでは大らかな感じが結果オーライでしょう。
 肝心のリーダーであるデイヴ・ベイリーはドラムソロを演じることもなく、堅実なサポートに徹していますが、随所で発揮されるシャープな小技とタイトなシンバルワーク、さらにベースとの相性の良さは抜群で、演奏をジンワリと熱くしています。

A-2 Well You Needn't
 セロニアス・モンクのオリジナル曲ですから、エキセントリックな演奏かと思いきや、これもグルーヴィなテンポを優先させたコクのあるハードバップになっています。デイヴ・ベイリー自身が曲紹介で「自分の大好きな」と言っているのが、さもありなんですね。
 このあたりは作者本人が幾つか残している演奏、あるいはマイルス・デイビスが演じたバージョンのギスギスしてハイテンションな結果と比較して、尚更にはっきりするでしょう。実際、ここで展開されるハートウォームにスイングした仕上がりは、地味ながら飽きないジャズの本質があるように感じます。
 それは得意技の「マーブルチョコレートのメロディ」も披露するクラーク・テリーのサービス精神、ダークな黒人ハードバップの本質に迫るジュニア・クック、ノビノビと闊達に吹きまくるカーティス・フラーの明朗な魅力が全開というアドリブパートの楽しさで証明されるでしょう。
 しかもリズム隊が相当にハードエッジな雰囲気で、ビートの芯が強いですから、地味なテンポなのにガンガンイケイケの姿勢なんですよ。それも極めて自然体に! このあたりは文章にするよりも、まずは聴いて感じるものでしょうねっ♪♪~♪
 ホレス・パーランのピアノはガツンガツンに鳴っていますが、決して脂っこくないスッキリした印象ですし、演奏全体のほどよい緊張感は、このメンバーならではの結果だと思います。

B-1 Sandu
 それがますます顕著になったのが、このB面全部を使った長尺の演奏です。
 まずはデイヴ・ベイリーのメンバー紹介が良い感じで、いざ演奏を始めようとすると他のメンバーから、「ドラムスはどーしたんぁ~~」なんて声がかかり、リーダーがちょっとテレ笑いで自己紹介するあたりが憎めません♪♪
 そして「こんな感じでねっ」なんて言いながらテンポを決めてスタートするのが、クリフォード・ブラウンでお馴染みのグルーヴィなブルースですから、たまりません♪♪~♪ グイノリの4ビートをリードするペック・モリソンのウォーキングベース、健実なバックピートで共謀するデイヴ・ベイリーのドラムスというコンビネーションは、マックス・ローチがオリジナルバージョンで演じていたハードなドライヴ感よりも、むしろリラックスした黒っぽさがストライクゾーンのど真ん中でしょう。
 それゆえにカーティス・フラーのハスキーなトロンボーンがソウルフルに歌い、ばっちりのタイミングで入って来るバックリフとの掛け合いも気分は最高ですし、こういうセッションでは常套手段という途中での倍テンポの煽りも「お約束」を見事に成し遂げています。
 そしてクラーク・テリーのエンタメ系のアドリブ、逆に生真面目にハードバップを体現するジュニア・クック、歯切れの良いピアノタッチでギリギリにエグイところまで行くホレス・パーランというソロ回しは、当たり前すぎるほどに充実しています。
 しかもお客さんがその場にいるのに、決して媚びたり、派手なブローなんかやらないんですねぇ~。例に出して申し訳ありませんが、JATPみたいなタガが外れそうな狂熱プレイは出ないのです。しかし、それでいてジンワリと温まっていくその場の雰囲気♪♪~♪

ということで、一聴すれば地味でありきたりなハードバップという印象ですから、決して入門者向けではありませんし、つまらないと言えば、確かにマンネリな雰囲気は否めないかもしれません。

しかしハードバップが爛熟していたセッション当時の濃厚なムードが、デイヴ・ベイリーという極めてシンプルなスイングに徹したドラマーによって、あくまでも自然体に楽しめるのはジャズ者の幸せのひとつじゃないでしょうか。

極限すればBGMでも良いと思いますし、実際、雑誌でも読みながらジャズ喫茶に屯しているムードにはジャストミートかもしれません。しかしそれも、ジャズを楽しむ方法のひとつとして、私は好んでいるのでした。

ちなみにデイヴ・ベイリーは、この手のリーダー盤がお得意で、特に「Listen!」と裏書された「Bash (Jazzline)」は名盤扱いですが、このアルバムでもジャケットに堂々と記載された「A Treasury Of Soul」が全てを物語っていると思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロックっぽい音で聴くジミーとバレル

2009-01-17 11:54:58 | Jazz

Blue Bash! Master Edition / Kenny Burrell & Jimmy Smith (Verve)

CD時代になっての再発は様々な問題点も含みながら、かなりマニア心を刺激するブツも少なくありません。

本日の1枚も、まさにそうした中のひとつとして、私は強く惹きつけられました。

もちろんこれはケニー・バレルとジミー・スミスが幾度目かの共演で、またまた作り出した人気名盤! しかしLPアルバムには明確なデータ記載が無く、参加メンバーもあやふやでしたし、アナログ盤そのものが幾つかのセッションから成り立っていた所為でしょうか、各トラックの音質と音圧、そしてミックスのバランスに多少のムラがあったりして、ちょいと仕上げが雑という感じが私には納得し難いところでした。

それがこの再発CDでは丁寧なリマスターによって、相当に改善されていますし、セッションデータもきちんと明らかにされています。しかも嬉しい別テイクのオマケ付き!

まず演奏メンバーはケニー・バレル(g)、ジミー・スミス(org) に加えてメル・ルイス(ds) が入ったトリオが基本となり、曲によってはミルト・ヒントン(b)、ジョージ・デュヴィヴィェ(b)、ビル・イングリッシュ(ds) が交代参加しています。

また録音データは1963年7月、エンジニアもお馴染みのルディ・ヴァン・ゲルダーの他に2人が担当していたようですから、ミックスの雰囲気も違って当然なのでした。

01 (A-1) Blue Bash (1963年7月16日録音)
 タイトルどおりにグルーヴィなミディアムテンポのブルースで、テーマ演奏ではメル・ルイスのドドンパなドラムスが楽しいところですが、アドリブパートではケニー・バレルがいきなりのハイテンション! メル・ルイスの幾分軽めのドラミングが逆に良い感じです。
 もちろんジミー・スミスもフックの効いたオルガンのアタックが冴えまくりですし、このあたりは如何にもヴァン・ゲルダーが得意の音作りながら、この再発リマスターによって、尚更に鮮やか印象が強くなっています。
 というか、ブルーノート時代の諸作に比べると白人のメル・ルイスがドラマーという事もありましょうが、よりスマートな都会的な質感が表出しているように思います。ちなみにプロデューサーはクリード・テイラーですから、さもありなんですね。
 しかしブルースとソウルは濃厚ですよ。

02 (A-2) Travelin' (1963年7月25日録音)
 そういうライト感覚の黒っぽさが完全に成功したのが、この演奏! 何よりも音の作り方、つまり録音の雰囲気が私にはロックインストに近い感じと聞こえます。ちなみにこの7月25日のセッションはニューヨークのベル・サウンド・スタジオですから、明らかにヴァン・ゲルダーとは違って当たり前でしょうね。
 肝心の演奏はアップテンポのゴスペルハードバップで、リズム隊はミルト・ヒントンとビル・イングリッシュが務めてますが、こうしたウッドペース入りのセッションゆえにジミー・スミスのオルガンからは何時もより軽快なフレーズが連発されています。
 またケニー・バレルのギターも音色のエッジが鋭い録音というか、モダンジャズ特有のドロ~ンという感じよりも、テキパキとしたロカビリー系の味わいが曲想にジャストミートだと思います。イケイケのドラムスとの相性も良いですねぇ~♪

03 (A-3) Fever (1963年7月25日録音)
 これまた哀愁のゴスペルハードバップで、グッと重心の低いグルーヴと軽めの音作りが最高に上手く融合した名演です。ジンワリと胸キュンのテーマメロディ、ずっしり響くウッドペース、軽快なリムショットに物分かりの良いギターの合の手♪♪~♪
 ジミー・スミスも泣きじゃくった思わせぶりからテンションの高いフレーズの連続技まで、実にツボを押さえたオルガンを聴かせてくれますし、ケニー・バレルのアドリブも事前に作ってあったかのような出来すぎフレーズばっかりです。しかし両者とも、実は十八番に徹しているだけなんですよねぇ~~♪ 流石!

04 (B-1) Blues For Del (1963年7月25日録音)
 ケニー・バレルがリードするテーマメロディの何気なさが逆に魅力という、ミディアムテンポのブルースです。しかもその背後では執拗にグチャグチャやっていたジミー・スミスが、アドリブパートに入った途端に激情のブルース&ソウルを告白するのです。その短いパートに全てを言いきる姿勢が素晴らしいですねぇ~♪
 またケニー・バレルの伴奏がエグイです。そしてシンプルながら充実のアドリブが最高です。ドラムスの残響音的な迫力と小技も潔いペースの存在も確かに強く、それは元の録音の素晴らしさと秀逸なリマスターによって、さらにグリグリと楽しめるのでした。
 演奏が進むにつれてエグミが強くなっていくジミー・スミスのオルガン! たまりませんねっ、本当に!

05 (B-2) Easy Living (1963年7月29日録音)
 これはお馴染み、和みのスタンダード曲をラウンジっぽく演じた息抜きのトラックでしょうか。実際、ケニー・バレルがつつましく弾いてくれるメロディフェイクが良い感じ♪♪ スローなグルーヴをダレさせない強いビートを打ち出すウッドベースはジョージ・デュヴィヴィェです。

06 (B-3) Soft Winds (1963年7月25日録音)
 このアルバムでは一番にハードバップらしい演奏で、曲はご存じ、ベニー・グッドマンの十八番ですが、モダンジャズでも名演がごっそり残されているブルースの極みつき! ですから、まさにこのメンツにとっては駄演など許されず、そして見事な答えを出しています。
 特にジミー・スミスのブチ切れたようなハイテンションは物凄いですよっ! オルガンのタッチの強弱を活かしきったアドリブ構成は、その前段で露払いを務めたケニー・バレルのジェントルなブルースフィーリングとは好対照の勢いで、2人がアドリブフレーズの応答を演じる場面も、実に楽しいです。
 このあたりは、あえて起用されたウッドペースの存在とエッジの効いた録音、カッチリしたリマスター効果が大きいと感じますし、「ジェントル」と書いたケニー・バレルのギターにしても、アナログ盤と比べると格段に生々しい「エレキ」の魅力が満喫出来るのでした。

07 (B-4) Kenny's Sound (1963年7月16日録音)
 アナログ盤ではオーラスに置かれた曲で、冒頭の「Blue Bash」と同じく、典型的なオルガントリオの演奏と音が楽しめますが、それにしてもジミー・スミスの足と手から放出されるウネリの強い4ビートウォーキングは魅力満点ですねぇ~♪ それはこのリマスターCDで尚更に感銘を受けてしまいます。
 ケニー・バレルとメル・ルイスのノリも抜群で、このアップテンポの演奏を決定的に熱くしています。

08 Travelin' (alternative take-2)
09 Fever (alternative take-1)
10 Soft Winds (alternative take-2)
11 Kenny's Sound (alternative take-9)
12 Easy Living (alternative)
13 Travelin' (breakdown take-4)
14 Kenny's Sound (alternative take-10)
 以上はオマケの別テイク群で、これも当然、楽しめますよ。しかもステレオのミックスバランスが異なっていたり、モノラルミックスだったり、さらにはスタジオ内の録音セッションの雰囲気も聴かれたりして、飽きません。
 なによりも演奏そのものが良いですからねぇ~~♪
 ただし、やっぱり完成テイクには及ばないものが確かにあります。ケニー・バレルが意外にもムラっ気な人だとか、ジミー・スミスの日常的なテンションの高さとか、そういう内幕が楽しめるところも、また良しなんでしょうね。

ということで、このCDのリマスターは極限すると、ちょいとロックぽい雰囲気も感じられますから、好き嫌いがあるかもしれません。そこでアナログを取り出して再聴してみると、些か納得出来なかったLP盤の音に、妙な説得力が……。

肝心の演奏は緊張と緩和のバランスが見事ですし、特にジミー・スミスはウェス・モンゴメリーとのガチンコ対決盤「The Dynamic Duo (Verve)」よりも、ずっとリラックスしているように感じます。それゆえに何時もとは些か違ったアプローチも聴かせてくれたんでしょうか、結果オーライですね♪♪

こんな自然なコラボ盤は、やっぱりジャズの魅力を体現していると思います。

ちなみにこのブツは三面見開きのデジパック仕様ということで、そのあたりにもマニア心を刺激されたというわけです。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポール・チェンバースのAか、Bか?

2009-01-16 12:20:49 | Jazz

Bass On Top / Paul Chambers (Blue Note)

ジャズ喫茶でのアナログ盤は片面鳴らしが基本ですから、時にはアルバムによってA面が良いか、B面が良いか、なんていう論争もあったほどです。そしてそこから、店のマスターの嗜好や営業方針にまでも話が発展していくのですから、ジャズ者の情熱的なおせっかいは侮れません。もちろんこれは、自分も含めての事です。

さて、その意味で度々ヤリ玉に上がっていたのが本日ご紹介の1枚で、ジャズの歴史では決定的な名盤なんですが……。

問題はA面ド頭、「Yersterdays」の存在でしょう。

録音は1957年7月14日、メンバーはケニー・バレル(g)、ハンク・ジョーンズ(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds) という、夢のようなオールスタアズです。

A-1 Yersterdays
 陰鬱なムードを充満させるポール・チェンバースのアルコ弾き! 悪趣味でもあり、エグイ佇まいが如何にも原曲の意図にジャストミートかもしれませんが、ケニー・バレルのポロンというイントロのワンフレーズに続くテーマ部分の重苦しさが、個人的には全くの苦痛です……。
 実際、この思いは私だけではなかったようで、満席のジャズ喫茶ではこのアルバムのこの演奏が鳴り出すと、席を立つお客さんが続くほどでした。う~ん、店側の思惑どおりなのか……???
 しかしポール・チェンバース以下のバンドはアドリブパートに入るとグイノリの4ビートに転じ、意外にメロディ優先というベースのアドリブがゲロゲロのアルコ弾きでありながら、不思議な快感を呼ぶのですが……。

A-2 You'd Be So Nice To Come Home To
 アート・ペッパー(as) やヘレン・メリル(vo) の人気演奏がありますから、その素敵なメロディフェイクや歌い回しが頭にこびりついている分だけ、ここでのバンドにも期待が高く、また、それに見事に応えてくれたトラックです。
 アグレッシブで強靭なビートを伴いながらメロディを失わないポール・チェンバースのペースは、テーマのアンサンブルを意欲的にリードし、さらにアドリブへ入っても我が道を行く潔さ! そしてケニー・バレルへアドリブを受け渡す時に移行する4ビートウォーキングの心地良さ♪♪~♪ この瞬間の快感こそがジャズ者の喜びじゃないでしょうか。
 もちろんケニー・バレルのギターはソフトな黒っぽさでメロディのあるアドリブに専心し、背後ではアート・テイラーのドラミングが的確なスパイスを効かせていますから、ついに登場するハンク・ジョーンズのピアノに至っては、もう美メロの宝庫♪♪~♪
 全くこれがありますから、A面が良いとするファンの声が尊重されるのでした。
 テーマアンサンブルに潜む小技の妙技は、流石は名手揃いの証でもあります。

A-3 Chasin' The Bird
 チャーリー・パーカーが書いた脱ビバップの洒落たアンサンブル曲ですから、ここでもそのキモがしっかりと活かされたテーマ演奏が最高の聴きものだと思います。とにかく4人がそれぞれの役目を果たしながら、抜群のインタープレイを聴かせてくれますよ。
 そしてアドリブパートではポール・チェンバースが強靭なピチカート弾き! さらに弾みまくった4ビートウォーキングがハンク・ジョーンズの絶好調なアドリブを見事にサポートしていきます。
 また落ち着いていながらツッコミ鋭いケニー・バレル、安定感抜群のアート・テイラーも、実に良い仕事だと思います。

B-1 Dear Old Stockholm
 さてさて、これが再びの人気曲!
 スタン・ゲッツ(ts) やマイルス・デイビス(tp) が決定的な名演を発表している哀愁のメロディですし、ポール・チェンバースにしても、既にマイルス・デイビスのバンドでは秀逸なレコーディングを残しているわけですから、ここでの再演にも期待が膨らんで当然でしょう。
 そして特筆すべきは、迫力ある録音によるベースサウンドの凄さでしょう。実際、前述したマイルス・デイビスのコロムビアセッションと比べて聴けば、それが納得されるんじゃないでしょうか。ここでは些か歪みも強い音作りながら、重量感とグイノリの快感がまさにジャズ! ヴァン・ゲルダーの真骨頂かもしれません。
 肝心の演奏はマイルス・デイビスのバージョンと似たようなアレンジを基本に、あくまでもリズムセクションとしての面白さ、さらにはメンバー個々の名人芸が存分に楽しめます。
 それはケニー・バレルの素直なメロディフェイクが冴えるテーマ演奏から、ポール・チェンバースの歌心満点というベースソロ、バンドアンサンブルをがっちり固めるアート・テイラーのドラミングに加えて、ハンク・ジョーンズの小粋にスイングしたピアノの気持ちよさ♪♪~♪
 もちろんこのトラックがあればこそ、B面が良い! というのも納得されますねぇ~♪

B-2 The Theme
 マイルス・デイビスのバンドテーマとしてお馴染みのリフ曲ですが、おそらくは実際のステージでもポール・チェンバースが主役を務めていた場面もあったと思われます。ここでは代名詞的なワザというアルコ弾きによるアドリブが実にエグイです!
 好き嫌いは別にして、やはりハードバップ全盛期の名場面なのかもしれません。
 それはケニー・バレルの手慣れたようでテンションの高いギター、パワー満点のブラシで煽るアート・テイラー、ジェントルでファンキーなハンク・ジョーンズのピアノという名人芸の連続へと発展し、タイトに纏まった大団円と進むのでした。

B-3 Confessin'
 これも小粋なメロディが素敵なスタンダード曲を、ポール・チェンバースが本気でスイングしたペースで縦横無尽に弾きまくった大名演!
 そしてハンク・ジョーンズが、これまた最高なんですねぇ~♪ テーマメロディよりもアドリブフレーズの方が歌っているというか、流石だと思います。全く短い演奏なのが、残念無念ですよ。

ということで、冒頭のAかBの論争について、個人的にはその日の気分かもしれないと、些か逃げた結論を出しておきますが、現在ではCDがありますから、自由自在にプログラミングして楽しむのが正解かもしれません。

ただしアルバム全編を通して聴くと、A面ド頭に置かれた「Yersterdays」の存在感が、何故か圧倒的なんですねぇ~。個人的には全く好きではない演奏なんですが、これが出ないと物足りないのは確かです。

う~ん、プロデューサーのアルフレッド・ライオン、恐るべし! やはりオリジナルアルバムの曲順は尊重しなければなりませんねぇ……。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ソニー・ロリンズの自由ってなんだ!?

2009-01-15 12:05:24 | Jazz

Freedom Suite / Sonny Rollins (Riverside)

全盛期の録音であるにもかかわらず、ソニー・ロリンズがリバーサイドと契約していた時期のアルバムは、案外と聴かれていないんじゃないでしょうか。

それには様々な理由があろうかと思いますが、例えば本日のアルバムなんか直訳邦題が「自由組曲」で、しかもタイトル曲が片面1曲とあっては、聴く前からフリージャズをやっている先入観が濃厚ですよねぇ……。

だいたい瞬間芸が基本のモダンジャズにおいて、「組曲」という言葉は、なんとなく造り物という感じがしますし、それはビッグバンドや企画作品ならば良い方向に作用するんでしょうが、ここではピアノレスのトリオセッションとあって……。

しかしもちろん、結果は豪快にして躍動的、さらに湧きあがるような歌心も満喫出来る傑作盤になっています。

録音は1958年2&3月、メンバーはソニー・ロリンズ(ts)、オスカー・ペティフォード(b)、マックス・ローチ(ds) という物凄さです!

A-1 The Freedom Suite (1958年3月7日録音)
 これが前述したような先入観の強いトラックですが、内容は概ね4つのパートを素材にした強烈なアドリブが楽しめる名演です。
 それはテンションの高いリズム隊と共謀してソニー・ロリンズが躍動的な瞬間芸に興じる最初のパートから、強烈なトリオの面々が鋭く絡み合いを演じていますから、思わず手に汗握るという熱さなんですねぇ~♪
 ソニー・ロリンズはもちろんのこと、ポリリズムでタイトなビートを敲き出すマックス・ローチ、メロディ優先主義でありながらエグイ事をやらかしいるオスカー・ペティフォード! このあたりは同じピアノレスの傑作盤「Way Out West (Comtemporary)」や「A Night At Village Vanguard (Blue Note)」との聴き比べも楽しいところでしょうが、よりシャープでヘヴィに進化変質しているここでのグルーヴも、私は大好きです。
 それは続くワルツテンポのパートでは、マックス・ローチのシンバルが絶妙のスパイスとなってバラードのパートへ受け継がれ、ソニー・ロリンズの泰然自若としたテナーサックスの豪放な魅力を存分に引き出すのです。オスカー・ペティフォードのネクラな独白のようなベースソロも、マックス・ローチのドラミングがあればこそ、自然に聴いていられる感じでしょうか。
 そして最後のパートがゴスペルもラテンビートもゴッタ煮にしてポリリズムで味付けしたような激しい演奏となって、ソニー・ロリンズが猛烈な勢いで怒涛のアドリブに専念すれば、マックス・ローチが鬼のようなドラミングで頑固に対峙! その両者をさらに煽るのがオスカー・ペティフォードのブンブンブンに突っ込んだベースですから、たまりません。
 このあたりは、まあフリージャズの前哨戦と言えなくありませんが、基本はあくまでもハードバップですから、痛快至極! 「組曲」を構成する各パートのテーマメロディも作曲はソニー・ロリンズという明快なものですし、バラードの部分なんか、ちょっと某スタンダード曲にクリソツですよ。
 ちなみに原盤裏ジャケットに、わざわざ囲みで掲載されているソニー・ロリンズのコメントにもあるように、この曲は当時のアメリカの黒人差別や人種問題への提起と抗議によるものとされているようですが、私が初めて聴いた時にはそんな事は知る由も無く、しかしそんな社会問題を取り上げなければ成り立たなかった1960年代の我が国ジャズ評論の一部勢力が、このアルバムの先入観に拍車をかけてしまった事実は、いやはやなんともです。
 おそらく今でもジャズのガイド本には、そんなこんなが書かれていると思われますが、まずは虚心坦懐に楽しんでも許されるんじゃないでしょうか。

B-1 Someday I'll Find (1958年2月11日録音)
 さて、そんな様々な思惑があったA面とは無縁なのがB面でしょう。尤も同じバンドが演じているのですから、豪快にしてスリル満点の楽しい仕上がりは「お約束」です。
 この曲は一応はスタンダードらしいのですが、あまり知られていないわりには素敵なメロディ♪♪~♪ それをソニー・ロリンズが躍動的なワルツテンポで豪放磊落に吹いてくれます。もちろんドラムスとベースのハイテンションはご推察のとおりですから、ハードにスイングしまくっていますよ♪♪~♪
 う~ん、それにしてマックス・ローチが凄すぎますねっ!

B-2 Will You Still Be Mine (1958年2月11日録音)
 これはお馴染み、マット・デニスが書いた粋なメロディですから、この時期のソニー・ロリンズにとっては自由闊達な歌心を全開させる大名演♪♪~♪ オスカー・ペティフォードのペースも単なるサポートではなく、豪快な4ビートウォーキングに加えて自己主張も鮮やかですし、マックス・ローチのタイトなドラミングも流石だと思います。
 全く3分に満たない演奏時間が悔やまれますねぇ~。

B-3 Till There Was You (1958年2月11日録音)
 私の世代ではビートルズのバージョンが有名という素敵なメロディのスタンダード曲ですね、きっと。それはポール・マッカートニーの鼻歌的なボーカルのイメージが強いのですが、ここでのソニー・ロリンズもまた、ゆったりと歌う魅惑のテナーサックスを聞かせてくれます。
 寄り添うオスカー・ペティフォードのペースワークも素晴らしく、ソニー・ロリンズのアドリブの天才性を見事に引き出し、さらに想像力豊かなベースソロも最高という、まさに貫禄の存在感を示していると思います。
 ちなみに後年、このアルバムが再発された時には別テイクも加えられていましたが、それもまた劣らない名演でした。

B-4 Shadow Waltz (1958年2月11日録音)
 刺激的なポリリズムをバックに些かオトボケを演じるソニー・ロリンズの芸風は唯一無二でしょうねっ♪ ここでもオスカー・ペティフォードのペースが大活躍していますが、テーマではネボケていたソニー・ロリンズが後半になって持ち前のアドリブ感覚を目覚めさせるあたりは、なんともいえない瞬間芸の醍醐味でしょう。
 悠然と構えてエネルギッシュなマックス・ローチは流石というか、ニラミが効いていますね。

ということで、このアルバムタイトルと裏ジャケットのソニー・ロリンズの宣言によって、リアルタイムのアメリカでは白人主導の評論と業界の思惑からして、あまり売れなかったと言われています。それゆえにタイトルを「Shadow Waltz」に変更しての再発盤も……。

しかし虚心坦懐に聴けば納得の名演集に違いありません!

ソニー・ロリンズは現在まで息の長い活動を続け、何時の時代もトップであり続ける偉人ですが、やはりこの頃が全盛期だと思う私にとって、このアルバムも大好きな宝物になっています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドルフィーの熱い心意気

2009-01-14 11:52:07 | Jazz

Eric Dolphy Live At The Five Spot Vol.2 (Prestige)

人間、誰しも「ここ、一番」という時があると思います。

カッコつけて言わせていただければ、そこで生き様を見らせれれば、その人の人望は間違いないところでしょう。逆にスタンドプレーや腰抜けをやってしまえば、その後は……。

これは非常に難しい場面選択でもありますが、必要なのはピュアハートかもしれませんし、素直に生きることの難しさでもありましょうか。

そんな生き様に憧れていながら、それが出来ないサイケおやじにしても、しかし最近の国会での代議士先生達には呆れる他はありません。

大切な議決に自分の意見を堂々と表明出来ず、対席するのは愚の骨頂! 賛成出来ないならば、堂々と反対するべきじゃないでしょうかねぇ……。個人的には好きではない共産党が議場で立派に反対を表明しているあたりが、憎たらしいほどにスジの通った行動なので、本当に悔しい気分です。

だいたい民主党は自分達も参議院で強行採決をやっているくせに、与党を強行採決として糾弾非難なんか出来ないでしょう。全く説得力がありません。

これじゃ日本もダメになるばっかり!

せめて聴くものだけでもイノセントな情熱を求めたいと、本日はこれを出してきました。

それはご存じ、エリック・ドルフィーがブッカー・リトルと組んで出演したファイブスポットでの実況盤! 商業的な成功よりはジャズ者の心にしっかりと記憶され、何時聴いても感動してしまうビュアハートの演奏が収められていますが、この時のライブレコーディングは現在まで10テイクの存在が確認されており、そこから作られたアルバムでは、これが二番目に出たものです。

録音は1961年7月16日、メンバーはエリック・ドルフィー(bcl,fl)、ブッカー・リトル(tp)、マル・ウォルドロン(p)、リチャード・デイビス(b)、エド・ブラックウェル(ds) という伝説のクインテットです。

A-1 Aggression
 タイトルどおり、イケイケに激しい演奏で、まずはエド・ブラックウェルのドラミングがバンドをガンガンに煽っていますし、バスクラリネットで突進するエリック・ドルフィーと青春のやるせなさみたいなブッカー・リトルのトランペットが、ピアノとベースの抜群のサポートに支えられて熱いアドリブを展開するのですから、何度聴いても血が騒ぎます。
 特に十八番のマイナーフレーズをせつない情熱へと転化させるブッカー・リトルには、泣きそうになるほど感動するサイケおやじです。
 もちろんブリブリと咆哮して劇的なネクラ節を放出するエリック・ドルフィーのバスクラリネットは、オドロの雰囲気とヤケッパチな風情がジャストミート! デタラメをやっているようで、実は決してコードやスケールを無視していないところが、もう最高です。
 そしてリズム隊の強烈な自己主張! 執拗に同じフレーズを反復して山場を作るマル・ウォルドロンに対し、千変万化のペースワークで対抗するリチャード・デイビス、さらに芸術的なハイハットとスネアのコンビネーションが冴えまくりというエド・ブラックウェルのドラムスが、その場の空気をドロドロに熱くしているんですねぇ~~♪
 特に全力疾走するウォーキングベースのソロから ドラムスを中心としたソロチェンジ、そして白熱のドラムソロと続く大団円の緊張感と興奮度は異様とも思えるほどですから、本当にこの日のお客さんは幸せだと思います。

B-1 Like Someone In Love
 B面に移っては有名スタンダードを素材にした和みの演奏、と書きたいところなんですが、確かにそれはそのとおりながら、混濁したイントロとテーマのアンサンブルでは、流麗なブッカー・リトルに対して自分勝手なエリック・ドルフィーのフルートが憎めません。またリチャード・デイビスのアルコ弾きも、不思議と良い感じです。
 そしてピアノとドラムスを呼び込んでのアドリブパートでは、ミディアムテンポの強いビートが生み出され、エリック・ドルフィーが自在に空間を浮遊しつつ、独特の歌心を聞かせてくれますが、これが全く違和感の無い素晴らしさだと思います。
 さらに途中から絡みつつアドリブを引き継ぐブッカー・リトルも、新しめのフレーズを使いながら、決して伝統を蔑ろにしていないハートウォームな閃きがっ! 背後では怖いリズム隊がエグイ事をやらかしていますが、動じることのない姿勢の潔さ! そういう真摯な情熱は誰が何と言おうと、確かに存在していると思います。
 それとマル・ウォルドロンの個性的に変態したメロディフェイクも、妙にクセになるムードで、私は好きです。

ということで、全く個性の違う5人が集まって奇跡を作り出した名演だと思います。それはブレない姿勢と、お客さんに良い演奏を楽しんでもらおうという旗幟鮮明な態度があったからでしょう。もちろんジャズは個人芸でもありますから、自己満足は否定しませんが、やはりここで聞かれる情熱優先主義には好感が持てます。

そして当然ながら、このライブセッションもアルバムも、リアルタイムでは評論家の先生方からはボロクソだったと言われていますし、商業的な成功もありませんでした。しかし今日まで途切れることなく聴き継がれ、名演・名盤と成り得た伝説は不滅です。

国と国民の為に働く代議士先生には、こんなピュアハートはあるんでしょうか? 少なとも議決で自らの意思を表明出来ない者は恥を知ってもらいたいところです。

それと見ているこちらが恥ずかしくなるようなスタンドプレーを演じた与党の先生も、ねぇ……。言葉の使い方を知らない総理大臣も含めて、永田町にはこのアルバムが必要なんじゃないのかっ!?

なんて事を思っているサイケおやじは、まだまだ若いということで、ご理解願えれば幸いです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ショーティ・火星人・ロジャース

2009-01-13 11:30:24 | Jazz

Martians Come Back! / Shorty Rogers and His Giants (Atlantic)

ショーティ・ロジャースといえば、西海岸派のトランペッターとして、チェット・ベイカーとはちょっと違ったところで人気と実績を積み重ねた人でしょう。

あくまでも私見ですが、その作編曲能力の上手さに基づく「売れセン」狙いの的確さとジャズの伝統を大切にしたバランス感覚の良さは、なかなか好ましいと思います。もちろんシャリコマどっぷりの作品も作っていますし、ハリウッド音楽産業の中核を担った時期も含めて、必ずしもジャズばかりやっていたわけではありませんが、しかし例えば「His Giants」名義のアルバムは傑作が多く、本日ご紹介の1枚も充実しています。

録音は1955年10~12月、メンバーはショーティ・ロジャース(tp,flh,arr) 以下、ハリー・エジソン(tp)、コンテ&ピート・カンドリ(tp)、ドン・ファガーキスト(tp)、ボブ・エネボルゼン(tb)、バド・シャンク(as)、ジミー・ジェフリー(ts,cl,bs)、バーニー・セッセル(g)、ルー・レヴィー(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、シェリー・マン(ds) 等々のスタアプレイヤーがセッション毎に入り乱れ、様々な編成による快適な演奏が楽しめます。

A-1 Martians Come Back (1955年10月26日録音)
 なんともユルキャラのメロディというオトボケのブルースですが、リズム隊のビートがなかなかにテンションが高いという、ちょっとクセになりそうな演奏です。
 曲タイトルの「帰ってきた火星人」というのは最初、意味不明だったんですが、ラジオのジャズ番組で油井正一先生が語られたところによれば、この演奏以前にショーティ・ロジャースは「Martians Go Home」というヒットを出していたそうで、つまりはその続篇という目論見がズバリと当たったわけです。
 実際、グルーヴィなリズム隊をバックに気抜けのビールみたいなクラリネットを聞かせるジミー・ジェフリーは、逆説的な名演でしょう。ハスキーな音色も、たまりませんねぇ~♪
 もちろん主役のショーティ・ロジャースはミュートでスラスラとしたフレーズの積み重ねが何時ものとおりの心地良さですし、不思議な心持ちにさせられるアレンジの妙は当時のハリウッド的最先端なのでしょうね。
 そう思えばジャケ写でチープな宇宙ヘルメットみたいな扮装のショーティ・ロジャースにも得心がいきますが、こういうのって、ここで聞かれるように重心の低いリズム隊がなければ笑えないシャレで終わってしまう気がしていますから、流石というか……。

A-2 Astral Alley (1955年12月6日録音)
 一転してシャープなトランペット隊の合奏が冴えまくりという演奏です。アップテンポでも一糸乱れぬアンサンブルと各トランペッターのアドリブ合戦が、実に爽快! アドリブソロの順番は原盤裏解説に載っていますが、特にソフトで流麗なドン・ファガーキストとミュートで迫るハリー・エジソンと続く終盤が熱いです。
 ちなみにアール・グレイというピアニストは、ミエミエの変名らしいですが、前述した油井正一氏の見解ではルー・レヴィーらしいとの事です。しかし裏ジャケットには堂々とルー・レヴィーのクレジットが別に記載されているのですから???
 まあ、それはそれとして、ここでもリズム隊が大ハッスルで、ショーティ・ロジャースの作編曲には、こうした強いビート感が欠かせないのかもしれません。

A-3 Lotus Bud (1955年11月3日録音)
 ジミー・ジェフリーのクラリネットがリードするテーマメロディは、なかなかにソフトな幻想性が魅力的♪♪ 原盤裏解説によれば、タイトルどおり、バド・シャンクに捧げられた曲ということですが、何故か当事者は参加していないのがミソでしょうか……。
 ショーティ・ロジャースのフルーゲルホルンも味わい深く、ルー・レヴィーのピアノも素敵な歌心を発揮していますが、ここでもやはりジミー・ジェフリーのクラリネットが強い印象を残しています。

A-4 Dickie's Dream (1955年12月16日録音)
 カウント・ベイシー楽団が十八番のカッコ良~いジャズの名曲を、西海岸派ならではのスマートな感覚で焼き直した名演です。このウキウキしたテーマリフの合奏、躍動的なリズム隊のビシッとキマった存在感がたまりません。
 ちなみにショーティ・ロジャースはカウント・ベイシーの崇拝者として、偉人に捧げるアルバムも作っているほどですから、もちろんそのキモになっているベイシー調は大切にされています。例えばピート・セラという、これもどうやら変名参加のピアニストが徹底的にベイシーライクなピアノを聞かせれば、バーニー・ケッセルのリズムギターはフレディ・グリーンを意識しているようです。
 しかしアドリブに入れば、各人が自分の個性を極力大切にした熱演の連続で、バド・シャンクのアルトサックスは黒っぽくて粋なフィーリングが全開! またカウント・ベイシー楽団のスタアブレイヤーだったハリー・エジソン、負けじとハッスルしたショーティ・ロジャースも曲の基本となる泥臭い感覚が捨て難い魅力ですから、単なるパロディではない名演だと思います。

B-1 Papouche (1955年11月3日録音)
 B面に入っては、いきなり迫力満点の西海岸ハードバップの快演です。明快なリズム隊のシャープなスイング感とバンドの纏まりが痛快ですねぇ~~♪ ショーティ・ロジャースがフルューゲルホルンで十八番のフレーズを吹きまくれば、ジミー・ジェフリーのバリトンサックスが独特の味わいを聞かせてくれますが、ルー・レヴィーのピアノが疑似ホレス・シルバーというか、強いタッチとシンコペーションの合体が冴えたアドリブに加えて、バンドアンサンブルの要としての活躍も聞き逃せません。

B-2 Serenade In Sweets (1955年12月6日録音)
 タイトルどおり、ハーリー・スウィート・エジソンがミュートトランペットでリードするテーマからして、これもカウント・ベイシー調が濃厚な仕上がりです。アンサンブル部分のトランペット合奏が、本当に気持ち良いですよっ!
 肝心のショーティ・ロジャースはソフトな歌心に徹しているようですが、ここでも参加したトランペッターのアドリブ合戦が理路整然と進行するあたりに、ウエストコーストジャズの真骨頂があると感じます。ちなみに気になるアドリブソロの順番は原盤裏ジャケットに記載されていますが、やはりハリー・エジソンの存在感が抜群なのでした。

B-3 Planetarium (1955年10月26日録音)
 クインテットで演奏される典型的なウエストコーストジャズという、実に爽快な仕上がりが個人的には些か物足りないところ……。
 もちろんリズム隊のハッスルしたノリは気持ち良いですし、スラスラと流れるように披露されるメンバーのアドリブも痛快至極! もちろんバンドアンサンブルも完璧なんですが、そうしたソツの無さに、かえって我儘を言いたくなるのが問題かも……。

B-4 Cahnt Of The Cosmos (1955年12月9日録音)
 オーラスは、トロンボーンやフレンチホルンも入れた、所謂マイルス・デイビスの「クールの誕生」系の演奏ですが、バンドのノリそのものがカウント・ベイシー調という不思議な仕上がりになっています。
 しかしジミー・ジェフリーのハスキーなクラリネットがプレス漏れみたいな禁断の裏ワザを聞かせたり、ノンビリしすぎたようなショーティ・ロジャースのミュートトランペットが遊び心を漂わせるあたり、やはりタダでは済まない雰囲気が流石です。
 ちょっと聴きにはダレダレの演奏に感じるんですが、意外に奥が深いのかもしれません。

ということで、最後の2曲は些かイマイチの演奏かもしれませんが、全体としては西海岸派ジャズ全盛期の仕上がりだと思います。

ただしアナログ盤はオリジナルでも盤質そのもの、つまり使われた塩ビが良くないんでしょうか、私有盤に限ってかもしれませんが、音が良くありません。低音が歪んだり、カッティングレベルも薄いという……。このあたりがアトランティックという会社の問題点だと、私は常々思っているのですが、いかがなもんでしょう。

これはCDが出ているので、買ってからの比較も必要ですが、演奏そのものは素晴らしいので、素直に楽しむのが得策かもしれませんね。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジミー・ヒースの三並び

2009-01-12 11:36:35 | Jazz

Triple Threat / Jimmy Heath (Riverside)

ジミー・ヒースは悲運の実力派というか、頑張っているんだけれども、何故か人気も評価もイマイチなんじゃないでしょうか……?

人脈からしても、パーシー・ヒースとアルバート・ヒースの真ん中に位置する三兄弟として、ヒース・ブラザースなんていうバンドをやっていた時期もありましたし、マイルス・デイビスやジョン・コルトレーンとの友達関係も有名です。

また作曲も上手く、ジミー・ヒースが書いたモダンジャズ本流の名作メロディはどっさり残されたています。

という人でありながら、リーダー盤の入手困難度は高く、特にリバーサイドに吹き込まれた諸作のアナログ盤は中古市場の隠れ人気商品でしょう。もちろん再発状況も決して良いとは言えません。

さて、本日ご紹介のアルバムは、リバーサイド盤としては4枚目のリーダー作で、気が弱いサイケおやじとしては死んだ気でゲッとした1枚なんですが、その理由はご推察願いたいところ……。

録音は1962年1月、メンバーはジミー・ヒース(ts)、フレディ・ハバード(tp)、ジュリアス・ワトキンス(frh)、シダー・ウォルトン(p)、パーシー・ヒース(b)、アルバート・ヒース(ds) という3管セクステットですが、曲によってはワンホーンの演奏も含まれています。

A-1 Gemini (1962年1月4日録音)
 ワルツテンポのモード曲ながら、ジュリアス・ワトキンスのフレンチホルンがリードするテーマメロディには独特のホノボノ感がありますし、リズム隊からのビートには、疑似ジャズロックの香も漂うという味わい深い演奏になっています。
 アドリブパートは充実のフレディ・ハバード、安定感と革新性のバランスが秀逸なジミー・ヒース、弱気の虫が疼くようなジュリアス・ワトキンスと続きますが、要所に施された上手いアレンジが全体をきっちり纏め、さらにシダー・ウォルトンのピアノが彩を添えるという展開がシブイところでしょう。
 この曲は確か、キャノンボール・アダレイも演じていましたから、聴き比べもオツなもんかと思います。

A-2 Bluh' Slim (1962年1月4日録音)
 一転してアルバート・ヒースのドラミングも冴え渡る痛快なハードバップ! アップテンポでも重量感を失わないここでのグルーヴは、パーシー・ヒースのペースが貢献大かもしれません。まさに兄弟の絆ですね。
 そしてアドリブパートではフレディ・ハバードの爆発的な突進力が圧巻! ブリブリと吹きまくってシャープなフレーズを乱れ打ちしていくこの勢いは最高ですねぇ~♪ シダー・ウォルトンも健闘していますが、この時期の2人はちょうどジャズメッセンジャーズの新メンバーに抜擢される直前か直後ということで、そのハッスルぶりも微笑ましいところです。
 肝心のジミー・ヒースは「可も無し、不可も無し」が正直なところですが……。

A-3 Goodbye (1962年1月4日録音)
 しかしここではジミー・ヒースがテナーサックス奏者としての実力を存分に聞かせてくれます。
 曲はベニー・グッドマン楽団で有名な哀切のスローメロディということで、柔らかいホーンのハーモニーと硬質なテナーサックスのアドリブが上手く融合していると思います。ジミー・ヒースのスタイルは、プレスティッジ期のジョン・コルトレーンに一脈通じるところがサイケおやじの好みでもありますし、終盤に登場するフレディ・ハバードのトランペットは豊かな音量と若気の至りのようなフレーズ展開で、これも憎めません。

B-1 Dew And Mud (1962年1月4日録音)
 B面冒頭もビシッとキマッたジャズのビートが心地良いハードバップの快演で、露骨なゴスペルメロディがグイノリのモダンジャズへと転換していく流れが、実にシブイですねぇ~♪
 アドリブパートでは先発のジミー・ヒースが妥協しない姿勢を示せば、続くジュリアス・ワトキンスがモゴモゴとスラスラの二律背反みたいなフレンチホルンで意地を聴かせますが、キワドイ仕掛けを潜り抜けて爽快にブッ飛ばすフレディ・ハバードが圧巻! シダー・ウォルトンの溌剌としたピアノも良いですねぇ~♪ まさに当時の勢いが感じられるのでした。 

B-2 Make Someone Happy (1962年1月17日録音)
 ジミー・ヒースを主役にしたワンホーン演奏で、お馴染みのスタンダードをハードに解釈していく勢い、特にリズム隊の強引な感じが良い方向に作用していると思います。
 実際、それに煽られたのか、ジミー・ヒースのテナーサックスは豪気に鳴りまくっていますよ。もちろん強気な歌心も魅力です。
 それはシダー・ウォルトンのハードスイングへと受け継がれ、熱いリズム隊の存在感共々に強い印象となっています。短い演奏ですが、小細工が無い分だけ、これも「あり」でしょうね。

B-3 The More I See You (1962年1月17日録音)
 これも前曲と同じ趣向で、メロディ優先のスタンダードをグイノリのハードバップに染め上げていくジミー・ヒースのテナーサックス、ビシバシにハッスルしたリズム隊の活躍が、まさにカッコ良いモダンジャズの典型だと思います。
 ただし、ちょいと真面目すぎる感じも……。

B-4 Prospecting
 躍動的なリズム隊がリードするテーマ部分では、ホーンが入って尚更にアンサンブルも快調! それはアドリブパートの勢いへと見事に繋がる美しき流れが楽しめます。
 あぁ、このあたりがジミー・ヒースの得意技なんでしょうねぇ~♪ 似たような事をやっている当時のジャズメッセンジャーズと比較すると、フレディ・ハバードやシダー・ウォルトンのアドリブなんか、ほとんどバンドの区別がつかないほどなんですが、ドラムスとベースのツッコミとか抑制されたスピード感が絶妙な兄弟の絆でしょうか。
 こういう、ある種の「軽さ」は、ジミー・ヒースの特徴でもあり、限界なのかもしれませんが、私は相当に好きなのでした。

ということで、参加メンバーも魅力的ですし、演奏の充実度も高いハードバップの秀作だと思います。

アルバムタイトルどおり、3管編成でヒース三兄弟の揃い踏み!

先日の訃報も記憶に新しいフレディ・ハバードも上昇期の勢いが鮮やかですし、フレンチホルン入りの変則編成も、実は極めて正統派でしょう。冴えたオリジナル曲に有名スタンダードという演目構成も素敵な隠れ人気盤だと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする