OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

スタンダードを吹くパーカーが好き

2009-01-11 12:31:13 | Jazz

Night & Day / Charlie Parker (Verve)

幾何学的なテーマメロディとエキセントリックなアドリブフレーズ、テンションの高いビート感で吹きまくるチャーリー・バーカは、もちろん素晴らしく感動的ですが、スタンダード曲を演じても、また格別の良さがあります。

ですから、私はこのあたりのオーケストラと共演したアルバムが、かなり好きです。

もちろん1曲あたりの演奏時間は短く、それはSP等のシングル盤用セッションということで、アレンジもカッチリ纏まっていますから、そこがアドリブ第一主義というガチガチのジャズ者や評論家の先生方にはイマイチ好まれていないようです。

否、そういう先入観が一番、いけないわけですが、実際に聴いてみれば、チャーリー・パーカーという天才の素晴らしいメロディフェイクの芸術、アドリブの鋭さとリラックスした演奏姿勢、さらにアルトサックスの鳴りの凄さにゾクゾクさせられること、請け合いです。

さて、このLPは1950年から1952年にかけて制作されたストリングやビックバンドとの共演セッションを纏めたものですが、主役はあくまでもチャーリー・パーカーだけですから、メンツ的な興味はほとんど無いと言っていいと思います。

 A-1 Temptation (1952年1月22日録音)
 A-2 Autumn In New York (1952年1月22日録音)
 A-3 Lover (1952年1月22日録音)
 A-4 Stella By Starlight (1952年1月22日録音)
 以上の4曲にはジョー・リップマン編曲&指揮のオーケストラが付いています。そして演目もお馴染みのスタンダードばかりとあって、チャーリー・パーカーのメロディフェイクの天才性とアルトサックスそのものの響きが堪能出来るのです。
 妖しいラテン調のオーケストラアレンジが魅惑のメロディを彩る「Temptation」では、アドリブパートがグイノリの4ビートですから、チャーリー・パーカーが殊更にあざやかなブレイクや十八番のフレーズを存分に聞かせてくれますよ。ほとんど白木マリが踊りそうな雰囲気が実に良いですねっ♪
 またアップテンポでオーケストラと激しく対峙する「Lover」では、めくるめくパーカーフレーズの嵐が最高! ジョー・リップマンのアレンジもツボを外していませんし、トロンボーンやトランペット、ピアノのソロパートも破綻していませんが、やはりチャーリー・パーカーの主演賞は間違いないところだと思います。
 そして甘~いストリングスと見事な協調関係を聞かせる「Autumn In New York」は、しかし素直に吹いて尚、ジャズの魂が溢れる出るチャーリー・パーカーの素晴らしさに完全降伏ですし、豊かなオーケストラサウンドに包まれて驚異的なメロディフェイクを披露する「Stella By Starlight」に至っては、本当に聴かずに死ねるかという気分になりますよ。
 とにかく聞かず嫌いは勿体ないという演奏ばかりだと思います。

 A-5 Dancing In The Dark (1950年7月5日録音)
 このアルバムの中では一番古いセッションからの演奏で、 レイ・ブラウン(b) とバディ・リッチ(ds) をリズム隊の要としたカルテットがストリングスオーケストラと共演する趣向になっています。ちなみにアレンジは、これもジョー・リップマンですから、アルバム全体の色合いは統一されていますので、ご安心下さい。
 というよりも、どんな企画セッションでも泰然自若としてアルトサックスを鳴らすチャーリー・パーカーの貫禄が眩しいかぎりですね。

 B-1 Night And Day (1952年3月25日録音)
 B-2 Almost Like Being In Love (1952年3月25日録音)
 B-3 I Can't Get Started (1952年3月25日録音)
 B-4 What Is This Thing Called Love (1952年3月25日録音)
 この4曲もジョー・リップマンのアレンジによるオーケストラが付いていますが、そのメンバーの中にはフレディ・グリーン(g)、オスカー・ビーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、ビル・ハリス(tb) といった名手が参加していますから、なかなか強烈なグルーヴが侮れない演奏となっています。
 まずは激しく咆哮するオーケストラがウキウキするようなメロディを浮き立たせる「Night And Day」では、チャーリー・パーカー以外にもオスカー・ピーターソンのピアノ、正体不明のトランペットが素晴らしい露払いの後、いよいよ主役の猛烈なアルトサックスが痛快! フレディ・グリーンのリズムギターも強い印象を残します。
 それは同じくスイングしまくった「Almost Like Being In Love」や「What Is This Thing Called Love」、グルーヴィにアレンジされた「I Can't Get Started」で軽やかに飛翔しながらエグイ音使いも特徴的という、チャーリー・パーカーならではのウネリと最高の協調関係となって、たまらないものがあります。オーケストラの演奏そのものも、実にカッコイイ!
 この時期のチャーリー・パーカーは甘っちょろいという先入観なんて、一発でブッ飛ぶんじゃないでしょか。これも聴かずに死ねるか!? だと思います。

 B-5 Laura (1950年7月5日録音)
 アルバムの最後は徹底的に甘く、それがある種の幻想性を導くというストリングスオーケストラとチャーリー・パーカーが聴かせる極北のメロディフェイクが桃源郷です。
 まあ、正直言えば、アレンジも陳腐だし録音そのものが些かチープですから、ショボイと決めつけられればミもフタもありませんが、チャーリー・パーカーが甘さの中にもスパイスの効いたフレーズとビート感で、これを演じてくれる、ただそれだけでアルバムの締め括りにはジャストミートの名演だと思う他はありません。

ということで、企画の優先性が強いですから、案外と聴かれていないアルバムかもしれません。しかしスタンダード曲を吹くチャーリー・パーカーという事に限れば、最良の1枚じゃないでしょうか。もちろん「ウイズ・ストリグス」のセッション盤も同様の素晴らしさがあると思いますが、こちらはストリングスよりはビックバンド系の派手な演奏ですから、より躍動する歌心が楽しめるというわけです。

個人的にはリラックスして聴こうとしても、チャーリー・パーカーということで、どうしても構えてしまうんですが、基本はジャズの楽しさの追求が制作意図なんでしょうね。

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カーティス・フラーの素敵なメロディ

2009-01-10 12:27:46 | Jazz

Images Of Curtis Fuller (Savoy)

なんともトホホなジャケットデザインにこのアルバムタイトルじゃ、カーティ・フラーのイメージなんて、こんなもんか……!? というファンの嘆き節が聞こえてきますね……。

しかし中身は極上のハードバップです! これは断言しますよ。

ただしセッションデータが、これまたあやふやで、一応、原盤裏ジャケットの解説によれば、メンバーはカーティス・フラー(tb) 以下、リー・モーガン(tp)、ユセフ・ラティーフ(ts,fl)、マッコイ・タイナー(p)、ミルト・ヒントン(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という新旧入り乱れの豪華版ということですが……。実際に聴いてみると、特にリズム隊については疑問符を打ち消せませんし、トランペッターにしても曲によってはリー・モーガン以外の者が参加しているようです。

このあたりは長年、私の心の中に蟠っていた問題です。しかし現代はネットという強力な道具がありますからねぇ~♪ いろいろと検索してみたら、正解と思われるデータがありましたので、演目紹介と共に書いておきます。

A-1 Accident (1960年6月7日録音)
 まず、この6月7日のドラマーはロイ・ヘインズではなく、ボビー・ドナルドソンというのが、今日の認定されたデータです。
 肝心の演奏は爽快なテーマメロディと3管ハーモニーが素敵なカーティス・フラーのオリジナルで、まずはアップテンポでブッ飛ばしていく作者のアドリブが絶好調です。続くユセフ・ラティーフのテナーサックスも悪い癖の中近東フレーズを抑えつつ、きわめて正統派ですから、感度は良好でしょう。
 そしてリー・モーガンが絶句するほどに強烈ですよっ! この全力疾走の潔さと暴発するエネルギーには、必ずや圧倒されるはずです。なにしろこの時期のリー・モーガンはジャズメッセンジャーズではバリバリの看板スタアであり、名演・名盤を連発していましたからねぇ~♪ この勢いは間違いなく本物です。
 気になるリズム隊は短いながらもスピード感満点のアドリブを披露するマッコイ・タイナー、ベテランらしからぬ熱血というミルト・ヒントンも好ましく、ポピー・ドナルドソンのドラミングも立派に重責を果たしています。

A-2 Darryl's Minor (1960年6月7日録音)
 ユセフ・ラティーフがフルートでリードする哀愁のテーマメロディが、まずは琴線に触れまくり♪♪~♪ ミティアム・テンポの設定も実にジャストミートで、作曲はもちろんカーティス・フラーとくれば、名演は完全なる「お約束」でしょう。実際、アドリブ先発のトロンボーンは、あのハスキーな音色とゆったりファンキーの極みつき! ジンワリと心に染み入ってきて、涙がボロボロこぼれますよ。
 さらにユセフ・ラティーフが、これまた泣きメロばかりをフルートを奏でれば、リー・モーガンはツッコミ鋭いトランペットの音色が逆に泣けてくるというフレーズを連発してくれます。
 バンドアンサンブルもベニー・ゴルソン直伝という感じですし、あぁ、これは名曲! 隠れ名曲にして、名演でしょうねぇ~♪

A-3 Be Back Ta-Reckla (1960年6月7日録音)
 これまたユセフ・ラティーフのフルートがテーマメロディをリードするバンドアンサンブルが、まず最高です。サイケおやじ的には、日活ニューアクションのサントラ音源という感じに聞こえるところも大好きですよ。
 そしてアドリブパートでもユセフ・ラティーフのフルートが大活躍! ウナリ声を交えたフレーズ展開にラテンビートを交えたリズム隊とのコンビネーションも素晴らしく、個人的には苦手の中近東フレーズがイヤミになっていません。
 しかしリー・モーガンが前2曲に比べると些か調子が出ていない感じながら、まあ、ここまで吹いてくれれば合格点でしょうね。続くカーティス・フラーは何時もの雰囲気で悠然としたトロンボーンを聞かせてくれますし、こんな素敵メロディを書いてくれたことに感謝する他はありません。

B-1 Judyful (1960年6月7日録音)
 ちょっと重苦しいバンドアンサンブルはマッコイ・タイナー以下のリズム隊がリードしていますが、メインのテーマはマイルス・デイビスの「So What」をジャズメッセンジャーズの「Moanin'」で味付けした感じが、いやはやなんとも……。
 しかしアドリブパートに入るとカーティス・フラーが十八番という、春風の中で吹いているようなノンビリファンキーが実に心地良く、またユセフ・ラティーフのダーティなテナーサックの響きさえも許せる雰囲気になるんですねぇ~♪
 このあたりはリズム隊のミディアムテンポで快適なグルーヴにノセられている所為かもしれません。実際、リー・モーガンの思わせぶりが強いアドリブの隙間を埋めていくようなリズム隊の存在感は流石だと思いますし、マッコイ・タイナーのアドリブを聴いてると、続けてジョン・コルトレーンが登場しそうな錯覚に陥りますよ。ドラムスがジミー・コブみたいになっているのも、ご愛敬です。

B-2 New Date (1960年6月6日録音)
 さて、これが疑問の多いデータのひとつで、リー・モーガンが抜け、ウィルバー・ハーディン(tp) が登場! さらにジミー・ギャリソン(b) とクリフォード・ジャービス(ds) が交代参加したと言われる演奏です。
 そして曲はカーティス・フラーのオリジナルですから、3管ハーモニーを活かした疑似ジャズテットという爽やか哀愁系のメロディが胸キュンですが、なんとなくA面ド頭の「Accident」に雰囲気が酷似しています。
 ということは、やっぱりカーティス・フラーが得意中の展開なんですねぇ~。演奏全体は些か荒っぽい仕上がりなんですが、それゆえの豪快なノリは顕在で、特にマッコイ・タイナーが快演ですよっ♪
 気になるトランペットはウィルバー・ハーディンと言われれば納得するしかありませんが、あまり個性的とはいえず、不調のリー・モーガンに聞こえないこともありません。

ということで、A面はノー文句の大快演! B面は些か苦笑いという仕上がりですが、カーティス・フラーならではの味わいは濃厚に楽しめアルバムです。

そこにはベニー・ゴルソン譲りの、と言うよりも、おそらくは共同開発したと思いたい3管ハーモニーの快感があって、さらに素敵なメロディのオリジナル曲が最高なんですねぇ~~♪ もちろん全盛期だったリー・モーガンの真骨頂も、特に「Accident」では顕著に楽しめますし、いろいろと不明な点も多いリズム隊にしても、その健実なサポートには好感が持てます。

となると、このジャケットは、もう少しなんとかならんかったのか……!?

なんていう贅沢を禁じ得ませんね。

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パット・メセニーは千両役者

2009-01-09 12:10:40 | Jazz

Live In Philadelphla / Metheny, Hancock, Holland & DeJohnkette
                                        (Jazz Vip = DVD)

CD時代以降、復刻物で嬉しいのがボーナストラックという添え物です。特にサイケおやじの場合は、完全にそれが目当てということが少なくありません。

本日の映像作品も、本篇はテレビ放送もあったはずですし、パッケージ化も過去にされていたブツなんですが、これは昨年に再発されたものながら、素敵なオマケが付いています。

まずはその前に肝心の本篇は、ジャック・ディジョネットのリーダー盤「Parallel Realities」発売に関連して行われた1990年の特別ライブ巡業から、プロショットの映像が存分に楽しめます。

収録は1990年6月23日、フィラデルフィアでのステージから、メンバーはジャック・ディジョネット(ds) 以下、ハービー・ハンコック(p,key)、パット・メセニー(g)、デイヴ・ホランド(b,el-b) という凄すぎるカルテットです。

 01 Shadow Dance
 02 Indigo Dreamscapes
 03 Nine Over Reggae
 04 Solar
 05 Silver Hollow
 06 The Good Life
 07 Blue
 08 Hurricane
 09 The Bat
 10 Cantaloupe Island

結論から言うと、明らかに一座のスタアはパット・メセニーです。なにしろ映像の作りやお客さんの反応、さらにはこのDVDそのものが、パット・メセニーをウリにしているのがミエミエなんですねぇ~。

しかしそれは決して悪いことではありません。実際、ギターシンセも含めて各種のエフェクターを自在に使いこなし、またエレキとアコースティックの区別無く、ギターの魅力を存分に披露するパット・メセニーは、間違い無くスタアの輝きがあるのです。

そのあたりはド頭の「Shadow Dance」から明確に記録されていて、まずはジャック・ディジョネットの短いドラムソロからスタートし、メンバー紹介のMCによってデイヴ・ホランド、ハービー・ハンコックが登場し、最後に軽やかに現れてギターを持つ瞬間のバット・メセニーのカッコ良さ! さらに演奏はラテンもフュージョンもゴッタ煮のリズムと4ビートが激しく交錯する展開ながら、パット・メセニーのギターは全く容赦無い姿勢で、他の3人を圧倒するのです。

またメロウフュージョンど真ん中の「Indigo Dreamscapes」では完璧なメロディ優先主義のアドリブが素晴らしく、モダンジャズ保守本流というマイルス・デイビス作の「Solar」では、新主流派も真っ青の流麗にしてテンションの高いモード節を演じています。

もちろん先輩の3人も負けてはいません。中でもデイヴ・ホランドは激したようなベースソロを随所で披露し、特に「Hurricane」でのアドリブは強烈至極! またハービー・ハンコックの律儀で物分かりの良いところは、融通がききすぎる感もありますが、上手くバンドを纏めていると思います。

気になるジャック・ディジョネットは、音声ミックスの具合もあるかと思いますが、ちょっと軽く叩いているような、あるいは往年に比べて些かパワーダウンしているような気も……。しかしキース・ジャレットなんかとやっている時よりは、ずっと楽しそうに見えますよ。このあたりは、ちょっと複雑ですが……。

演目の中では、やはり「Cantaloupe Island」に期待してしまいますが、サイケおやじ的には、ちょっと肩すかし……。それよりもジャック・ディジョネットがジョン・アバクロンビー(g) と組んでいたハードロック系のバンドだったゲイトウェイの十八番、「Blue」がパット・メセニーで楽しめる喜び! 奥深い胸キュンのメロディがジンワリと演じられ、陰鬱と浮遊感の巧みな融合が本当にたまりません♪♪♪

全10曲で100分を超える長丁場であり、カメラワークも凝っていませんから、正直言えば飽きる場面も確かにあります。しかしパット・メセニーのギターテクニックは存分に観られますし、何よりのこんな凄いバンドが普通に楽しめるというのは、幸せ以外の何物でもありますまい! 贅沢言ったら、バチあたりますよね。

それとパット・メセニーの頑固な一面というか、意外に妥協しない人だなぁ……、なんて思いました。

さて、いよいよここからが私的にはお目当てだったボーナストラックです。

 11 Broadway Blues

1981年9月19日、ウッドストックのジャズ祭からのライブセッションで、メンバーはパット・メセニー(g)、ミロスラフ・ヴトウス(b)、ジャック・ディジョネット(ds)、デューイ・レッドマン(ts) という布陣で、ちょうど名盤「80/81 (ECM)」の頃ですから、4ビートを基調としたイケイケの演奏が強烈です。

パット・メセニーのギターは余計なエフェクターを使わないストレートな音色ですし、ジャック・ディジョネットは激しいブッ叩き! そしてミロスラフ・ヴトウスはツッコミ鋭いウォーキングにアルコ弾きのエキセントリックなペースソロと大活躍!! デューイ・レッドマンは、正直、こんなもんかもしれませんが、バンド全体の勢いは強い印象を残しますから、本当に熱くなります。ちなみに演奏時間は9分半ほどですが、音質も画質も良好です。

 12 Guitar Clouds

これはパット・メセニーのソロパフォーマンスで、タイトルどおりに「雲」の映像を挿入したイメージトラックになっています。しかしパット・メセニーのギターからは、こよなく美しいメロディが、それこそ泉のように溢れ出て、最高に心地良い7分間が過ごせますよ。ちなみに収録されたのは1991年とクレジットされています。

ということで、パット・メセニーのファンには絶対のマストアイテムになるでしょう。もちろん普通のジャズ者、あるいはギター好き、ロック好きにとっても驚愕の演奏に違いありません。少なくともパット・メセニーの人気の秘密の一端は理解出来ると思います。

う~ん、それにしてもメインのライブ演奏から既に18年も経っているんですねぇ~。なんか夢のような気がしていますが、きっと自分が齢を重ねたせいなんでしょう……。ホロ苦いような気分が、妙に心地良かったりします。

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ビバップなメンツのハードバップ映像

2009-01-08 12:04:45 | Jazz

We Remember Bird / Sonny Stitt & J.J. Johnson (Impro-Jazz = DVD)

先日は正月の下らない顔合わせ宴会で、しかも作り笑いで心にも無いことを言ってしまった自己嫌悪からでしょうか、その後にはネタ探しで散財してしまったですが、全然、後悔していません。

その証拠とも言えるのが本日ご紹介のDVD♪

内容はソニー・ステットと J.J.ジョンソンがチャーリー・パーカー追善企画のバンドを組んで行った1964年の欧州巡業から、ベルリンとロンドンでのテレビ放送用フィルムを復刻した嬉しいブツです。

なにしろメンバーがハワード・マギー(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、ソニー・ステット(as)、ウォルター・ビショップ(p)、トミー・ポッター(b)、ケニー・クラーク(ds) という物凄さ! 皆様がご存じのように、ソニー・ステットを除いては全員がチャーリー・パーカーのバンドではレギュラーを務めた歴史の生き証人であり、ソニー・ステットにしてもビバップ系サックス奏者としては、チャーリー・パーカーのスタイルを最も自分流に演じることが出来る名人ですから、白熱の演奏は期待を裏切っていません。

1964年9月26日、ベルリンで収録のセッション:約32分

01 Buzzy
 これは番組テーマとして音だけしか流れませんが、番組タイトルの「In Memoriam Charlie Parker」という字幕とスタジオのセットがなかなか律儀で、如何にもドイツ制作という感じが微笑ましいところです。このあたりは、例のジョン・コルトレーン&エリック・ドルフィーのテレビフィルムと共通するものがありますね。

02 My Little Suede Shoes
 さて、ここからが本番のライブセッションで、山台に設置されたケニー・クラークのドラムセットを真中に円陣となって居並ぶメンバーが白熱の演奏を聞かせてくれます。
 曲はチャーリー・パーカーが書いた楽しいメロディですから、ケニー・クラークの素晴らしいラテン&4ビートに導かれた、これぞモダンジャズのノリが最高です。テーマのサビでソニー・ステットが軽く吹いていくフェイクだけで、それが立派に証明されているんじゃないでしょうか。本当にウキウキしますよ♪♪~♪
 そしてアドリブパートではハワード・マギーの露払いに続き、J.J.ジョンソンが余裕のスライドワークを披露した後、ソニー・ステットが前半はオトボケながら、後半はガチンコという物凄さで、演奏時間が予定よりもオーバーしているのがミエミエの熱演です。
 するとウォルター・ビショップまでもが、あのメリハリの効いたタッチでガンガンにピアノを鳴らすんですから、これはもう、ハードバップの真髄です。そんなメンバーから常に目を放さずに的確なサポートを続くけるケニー・クラークが、実はバンマスという真相も強いですねぇ~♪ 俺はちょっと吹き足りないよっ、というハワード・マギーの表情も憎めません。
 気になる画質はモノクロですが、「A」ランクだと思います、

03 Lover Man
 チャーリー・パーカーと言えば絶対に避けて通れないスタンダード曲で、その経緯についてはハワード・マギーのアルバム「The Return Of (Bethlehem)」をアップした時に簡単に書いていますが、そういうものが付いて回るのが宿縁というものでしょう。
 ここではソニー・ステットが主役となって見事な演奏を聞かせてくれますが、如何にもというカメラワークもあって、素直に楽しめると思います。

04 Now's The Time
 これもビバップの聖典というブルースをアップテンポで演じたハードバップの極みつき! 迫力の合奏に続いて J.J.ジョンソンが神業スライドワークを披露すれば、ハワード・マギーは緩急自在、さらにトミー・ポッターがグイノリのペースソロですから、本当に血が騒ぎます。
 そして体を揺すりながらのソニー・ステットが熱血のアルトサックス! その真剣な表情と十八番のフレーズの乱れ打ちには、モダンジャズの最前線で活躍し続けた矜持と自然体の素晴らしさが滲み出ていると思います。
 さらにウォルター・ピショップが、どうにもとまらない山本リンダ現象のハードタッチを聞かせれば、ケニー・クラークのドラミングが火に油です。そのあまりのツッコミぶりに他のメンバーが苦笑いという場面も微笑ましいですねぇ~~♪

ということで、このベルリンでのセッションはカメラワークも練られていますし、演奏も安定した楽しさが満喫出来ます。特にウォルター・ビショップとケニー・クラークが印象的でした。またソニー・ステットが意外にもアクションが多い人だということも、ちょっとした発見です。

1964年10月18日、ロンドンで収録のセッション:約33分

06 Buzzy
 このロンドンのセッションではお客さんを入れてのスタジオライブ形式となっている事もあり、演奏は尚更に熱くなっています。画質はこれも「A」ランクのモノクロで、コントラストがそれなりに強くなっているのも、私の好み♪
 さて、この曲もチャーリー・パーカーが書いた代表的なブルースですが、テーマリフからリズム隊がガンガンにハードバップしていますから、フロント陣も油断がなりません。まずはハワード・マギーが持ち前の熱血でビバップ主流の突進節! その直線的なトランペットのスタイルはなかなかに貴重だと思います。
 またソニー・ステットが安定した中にも鋭いフレーズを交えてのサービス精神は流石のところですし、その後ろで踊り出してしまうハワード・マギーも、全く憎めませんねっ♪
 そしてJ.J.ジョンソンがベルリンでの冷静さとは逆に、物凄い熱演! やはり観客を前にすると燃えるんでしょうねぇ。緩急自在に十八番のフレーズを連発する爆裂節には本当に圧倒されてしまいます。
 さらにここでもウォルター・ビシッョプが絶好調で、ガンガンにブッ飛ばしています。それはメロディ優先とは決して言えませんが、その勢いとやる気の凄味はビバップそのものじゃないでしょうか。

07 Lover Man
 ここでも演じられる宿縁の名曲は、ベルリンと同じくソニー・ステットが中心になっていて、その安定性ゆえにそれほどの変化はありません。しかし個人的にはこちらのバージョンを好みます。
 それは映像とかカメラワークが自分好みというだけのことで、アップの多様とか照明のメリハリがモダンジャズしている気分なのです。
 まあ、このあたりは観てのお楽しみでしょうね。、

08 Now's The Time
 さて、ここでのオーラスもハードバップのブルース大会! リズム隊をバックにフロントの3人が横並びで合奏するテーマの勢いが良いですねぇ~♪
 そして J.J.ジョンソンがハードバップど真ん中の豪快なトロンボーンで、その流麗なフレーズ展開は圧巻です。しかし続くハワード・マギーがハッスルしすぎた所為でしょうか、些か迷い道というトンパチなアドリブが??? しかし後半は見事に立ち直って面目を保つのも、ジャズの楽しみかと思います。
 また冷静な4ビートで好サポートに徹していたトミー・ポッターの強引なペースソロも強烈ですし、J.J.ジョンソンがソニー・ステットの出番を奪ってしまうように再びのアドリブに入れば、ケニー・クラークがソロチェンジに入ろうとしたり、ここは呆れ顔のソニー・ステットの表情も楽しいところ♪
 しかしいよいよアドリブを演じるソニー・ステットには、もちろん動じる気配は微塵も無く、全くのマイペースです。続くケニー・クラークを中心としたソロチェンジも手慣れた緊張感が結果オーライでしょうねっ♪
 それはウォルター・ビショップの飛び跳ねピアノの好調さに繋がって、演奏は尚更に熱くなっていくのでした。う~ん、このファンキー感覚が絶妙!

ということで、既に述べたように、このパートではお客さんが入っているので、演奏は相当に熱くなっています。特に J.J.ジョンソンが良いですねぇ~♪

全体としては、前半のケニー・クラーク、後半では J.J.ジョンソンが好調という感じなんですが、全篇を通してソニー・ステットの安定感が抜群です。

またハワード・マギーやトミー・ポッターの動く姿は極めて貴重ですし、特にトミー・ポッターの実力が明かされるのは痛快至極! それとウォルター・ビショップの全盛期の姿にも胸が熱くなるでしょう。その硬質なピアノタッチとイケイケに突っ込むスタイルは好き嫌いがあるかもしれませんが、ここでの演奏は上出来だと思います。

ちなみに、このチャーリー・パーカー追善の巡業は、同じフロント陣によるライブ音源として「Tribute To Charlie Parker (RCA)」というアルバムに同年7月のニューポートジャズ祭のステージが収録されていますが、やはり映像の魅力は大きいですねっ! また同じ演目ゆえに瞬間芸というジャズの本質も興味深いと思います。

貴重度も本気度も高い演奏映像集として、お楽しみ下さいませ。

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裏通りのストーンズ

2009-01-07 12:08:22 | Rolling Stones

Exile Of Main St. Outtakes / The Rolling Stones (SODD)

今日は久々のストーンズ物で、昨日ゲットしてきたブツです。

ネタはストーンズが1972年に発表した大傑作アルバム「Exile Of Main St. / メインストリートのならず者」関連のアウトテイク集!

もちろん海賊盤ですが、 結論から言うと、これまでいろいろと出ていた中では最良の音質にリマスターされています。

 01 Get A Line On You
 02 Good Time Woman
 03 Shake Your Hips
 04 Hillside Blues
 05 Sweet Virginia
 06 Bent Green Needles
 07 Loving Cup
 08 Ventilator Blues
 09 I Ain't Signifying
 10 Let It Loose
 11 All Down The Line
 12 Travelin' Man
 13 Stop Breaking Down
 14 Shine A Light
 15 I'm Going Down

まずド頭の「Get A Line On You」は後に「Shine A Light」となる名曲の初期バージョンで、レオン・ラッセルが参加し、キース・リチャーズが抜けているという凄い演奏です。しかしこれはレオン・ラッセルの本格的ソロデビューのアルバム「Leon Russell (Sh)」が24金ディスクとしてCD化された時のボーナストラックとして局地的に出回っていたテイクと同じでしょう。ちなみにそこでのクレジットでは、ドラムスがリンゴ・スターとされているのが一般的ですが、ストーンズファンにとっては、ここでのドラミングを聴けば、一発でチャーリー・ワッツと納得されると思います。

またラス前に収められた本家の「Shine A Light」は、ビリー・プレストンのオルガンとピアノが冴えまくりのリハーサルテイクですが、ここでは絶妙にレゲエのリズムが入っている完成直前のグルーヴが楽しいところ♪ ミック・テイラーのギターもメロウな響きですよ。ちなみにベースもミック・テイラーだと言われていますし、女性コーラス隊も参加していませんが、個人的には大好きです。

それとお馴染みの「Good Time Woman」は、ご存じのとおり「Tumbling Dice / ダイスをころがせ」の歌詞違いというデモ演奏ですが、幾分テンポの早いグルーヴが実にストーンズそのもので楽しいですよ。

珍しいところでは「Bent Green Needles」が「Sweet Black Angel」の初期カラオケテイクらしいのですが、ちょっと確証がありません。しかし生ギター中心のトロピカルな演奏が、なかなかに心地良いんですねぇ~~♪ もしここにブライアン・ジョーンズのマリンバでも入っていたら……、なんて妄想が湧いてきますよ。

そして「Ventilator Blues」は1972年の北米巡業中にダラスで行われた有名なリハーサル音源の使い回しですが、そのダラケたブルースフィーリングが私はかなり好きです。各楽器のバランスや音の輪郭が、これまで出回っていたものよりもスッキリしているようにも感じますが、このあたりの感想は十人十色かもしれません。

気になるオーラスの「I'm Going Down」はストーンズ流儀のハードロックとして有名かもしれませんが、ボンゴやブラス、そしてギターのカッティングからしてミック・テイラーの参加は不明……。最後のフェードアウトも??? しかしやっぱり良いですねぇ~~♪

ということで、音質は最高で、曲によってはリアルステレオのミックスがきちんと作られていますから、公式音源との聴き比べも楽しいところでしょう。

その意味でサイケおやじは、やはり「Shine A Light」が非常に好きで、その元曲の「Get A Line On You」ではドロドロしていたスワンプ系のノリが、レゲエも入った大らかなグルーヴに変質し、最後には公式バージョンとなる生成過程が興味深く楽しめました。

そして本音は、ここに収められたふたつの裏バージョンの方が好きなんですよ。

あぁ、これだからブートはやめられないのです。

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エディ・ハリスとレス・マッキャン

2009-01-06 11:30:01 | Soul Jazz

Swiss Movement / Les McCann & Eddie Harris (Atlantic)

嗜好品には好き嫌いがつきもので、もちろんジャズも、そのとおりでしょう。

本日ご紹介のアルバムなんか、モロにそれです。なにしろ主役のレス・マッキャンとエディ・ハリスという2人は、特に我が国においては評論家の先生方からは蔑まれることも多いですし、往年のジャズ喫茶でも敬遠状態……。

ですから、結局は何かの「はずみ」で聞いて好きになるか、あるいは???の気分になるかは、全くの運と自らの嗜好の問題かと思います。

ちなみにレス・マッキャンは少年時代からゴスペルを歌い、ピアノの弾いていた黒人プレイヤーですから、モダンジャズを演奏するようになってからもソウル&ファンキーゴスペルな味わいが強い存在です。

またエディ・ハリスは、やはり子供の頃にはゴスペル合唱隊をやっていたそうですが、何時しか音楽業界に入ってからはピアノやクラリネット、さらにテナーサックスを演奏するマルチな活動をしていたそうです。そして1960年になって映画「栄光への脱出」のテーマ曲をテナーサックスで演じてヒットを出し、さらに独自に開発した電気サックスを吹いて人気を得たところから、我が国では正統派では無いとレッテルを貼られ……。

ということで、そうした2人がコンビを組んでの演奏には、最初っから妙な先入観がつきまというのは、さもありなんでしょう。

しかしサイケおやじは、決してゲテモノ喰いではなく、そういうのが大好きなんですねぇ~~~♪

録音は1969年6月21日、モントルージャズ祭でのライブセッションで、メンバーはエディ・ハリス(ts)、レス・マッキャン(vo,p)、リロイ・ヴィネガー(b)、ドナルド・ディーン(ds)、そしてベニー・ベイリー(tp) という強力な布陣です。

A-1 Compared To What
 いきなりレス・マッキャンがイケイケのゴスペルグルーヴを炸裂させ、同時にメロウなソウルフィーリングも醸し出す最高のピアノを聞かせてくれます。ドナルド・ディーンのリムショットも良い感じ♪
 曲はロバータ・フラックも歌っていた有名なメロディなんですが、ここでのファンキーな作り返しは絶妙ですねぇ~。ジワジワと絡んでいくエディ・ハリスの電気サックスにもシビレますよ♪♪♪ もちろんアドリブパートではエグイ音使いとシンプルにして毒気に満ちたフレーズが、たまらなくファンキーです。
 レス・マッキャンのボーカルも「力み」が良い方向に作用して逆にリラックスした感じでしょうか。バンドのテンションの高さが尚更に熱くなっていきますから、ベニー・ベイリーのトランペットがダーティな雰囲気なのも納得されると思います。
 あぁ、実に楽しいですねぇ~♪
 クライマックスでエディ・ハリスのテナーサックスがチャールズ・ロイドになるのはご愛敬? いえいえ、これが「その場の雰囲気」ってやつでしょうねぇ~♪ レス・マッキャンのピアノがガンガンに突っこんでいくのも、痛快です。

A-2 Cold Duck Time
 エディ・ハリスの作曲とされていますが、まるっきり前曲の続編的なグルーヴが楽しいかぎり! それでもリロイ・ヴィネガーのペースがモダンジャズの矜持を保っていますし、エディ・ハリスのテナーサックスは意想外とも思えるクールな味わいが結果オーライです。
 しかしレス・マッキャンとドナルド・ディーンがグルになってファンキーグルーヴを叩きつけてきますから、ただでは終わりません。ついに途中から電気アタッチメントのスイッチをオンにして奇声まで発してしまうエディ・ハリス! さらに過激な姿勢まで見せてしまうベニー・ベイリーのトランペットが飛び出せば、観客も狂熱の拍手喝采です。
 そしてレス・マッキャンの真っ黒なピアノがグリグリのゴスペルジャズロックですよっ!
 こうしたケレンとスタンドプレイ寸前のスタイルは、イノセントなジャズファンには受け入れられないかもしれませんが、楽しいことに変わりはないですねぇ。
 本当にそう思っています。

A-3 kathleen's Theme
 そうした空気を読んだのか否か、これはなかなかに正統派モダンジャズの4ビート演奏です。エディ・ハリスのテナーサックスが、またまたチャールズ・ロイド風になっているのも憎めませんねっ♪ つまりジョン・コルトレーンの音符過多症候群が涼やかに演じられて、その場を混乱させてしまうというか……。
 しかしリズム隊が実に真っ当で、リロイ・ヴィネガーが十八番のウォーキングベースで土台を固め、演奏全体を強烈にスンイグさせていくのでした。

B-1 You Got It In Your Soulness
 レス・マッキャンが作った陽気なゴスペル系のハードバップで、メリハリの効いたリズミックなブルースですから、作者のピアノが大活躍です。この弾みきったノリは唯一無二でしょうねぇ~~~♪ 思わず腰が浮いてしまいます。
 そしてエディ・ハリスのテナーサックスが不思議な浮遊感を表出させて登場すれば、リズム隊がますます強力なビートで煽りたてるという展開が実にエグイです! あぁ、これはもはやヒステリー女とヤキモチ男の恋愛遊戯でしょうか、非常に濃密なソウルグルーヴとゴスペルジャズのエッセンスが横溢していると感じます。
 ベニー・ベイリーも火に油という熱演ですし、レス・マッキャンの大迫力のピアノが炸裂するクライマックスは、本当に修羅場で歓喜悶絶ですよっ! 観客の大歓声といっしょに、思わず拍手してしまいます。

B-2 The Generation Gap
 これもレス・マッキャンのオリジナルで、ちょっとモード系新主流派の変態ジャズロックという感じでしょうか? 小賢しいドラムスと場違いなベースのノリが逆に良い感じだと思います。
 そしてエディ・ハリスのテナーサックスがクールな暴虐というか、相当に暴れた後には、ハッと我に返ったようなコントラストがニクイ演出です。しかもリズム隊が共謀しているんですねぇ~。このあたりは聴いていて納得するしかないと思います。
 ですからベニー・ベイリーの熱演が自然体なのが救いというか、非常に説得力のあるアドリブになっていて、流石! リズム隊もここは会心のジャストミートでしょうねぇ~♪ 続くレス・マッキャンのピアノが緩急自在の自己主張となるのも、高得点です。

ということで、A面ド頭のタガが外れたようなウキウキ演奏に惑わされると、続くモダンジャズ本流の存在感がシンドイかもしれませんが、やっていることは同じです。レス・マッキャンもエディ・ハリスも極めて保守派のプレイヤーであり、大衆芸能の本質を大切にしているのです。

そういうところ敬遠されては、本当に立つ瀬が無いというか、個人的には妙に頭でっかちな演奏よりは、こういうものを好んでしまいます。ちなみに、実は似た様な手口はアーチー・シェップとかファラオ・サンダース、マリオン・ブラウンあたりの所謂前衛フリー派も使っているわけですから、一概にシャリコマとは言えないでしょうね。

特にエディ・ハリスは、なかなか聞けないひとりですが、このあたりから聴いていくのも良いんじゃないでしょうか。

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デトロイトはハードバップの街だった

2009-01-05 12:46:29 | Jazz

Motor City Scene (Bethlehem)

デトロイトは自動車と町であり、また今となってはアメリカ大衆音楽の供給地として認識されています。例えば1960年代に大ブレイクしたR&Bポップスの所謂モータウンサウンドは、デトロイトで設立された黒人経営のレコードレーベルで生み出されたものですし、それ以前には優れたジャズプレイヤーを多数、ニューヨークへ送り出しています。

そしてデトロイト周辺も含めて、その地域で活躍していたメンツを集めた企画演奏アルバムも、当然ながら何枚も作られていて、例えばサド・ジョーンズ(tp) をリーダーに据えた「Detroit New York Junction (Blue Note)」とか、新進気鋭の紹介を兼ねた目論見もあった「Jazzmen Detroit (Savoy)」あたりは、特に有名でしょう。

ただし前述のアルバムは、諸事情から参加メンバー全員がデトロイト出身者ではありませんでした。しかしようやく、その目論見が叶ったセッションが、本日の1枚です。

録音は1960年、メンバーとドナルド・バード(tp)、ペッパー・アダムス(bs)、トミー・フラナガン(p)、ケニー・バレル(g)、ポール・チェンバース(b)、ヘイ・ルイスことルイス・ヘイズ(ds) という純粋ハードバップの面々ですから、気心の知れた和みの快演が楽しめます。。

A-1 Stardust
 ホーギー・カーマイケルが書いた、誰もが知っている胸キュンのメロディを、ドナルド・バードが小細工無しに朗々と吹いてくれるのが、まずは嬉しい演奏です。
 そしてなりよりも盤に針を落とした瞬間にポーンと絶妙にエコーの効いたピアノの一音だけというイントロが、実に印象的! そしてすぐさま入ってくるドナルド・バードの艶やかなトランペットの鳴り、それをサポートするベースの寄り添い方も素晴らしいかぎりです。
 もちろんトミー・フラナガンの伴奏も最高ですから、ドナルド・バードも心置きなく原曲メロディのフェイクに勤しみ、じっくりと歌心を醸成させていきますが、これだけのスローテンポで10分を超える演奏時間ということで、ダレる寸前の危うさも否定出来ません。
 しかしそれがギリギリのところでスリルに繋がっているのも、また事実でしょう。それは秀逸なリズム隊によるところ、さらにドナルド・バードの真摯な演奏姿勢というのは、贔屓の引き倒しかもしれませんが……。正直、もう少し緊張感があれば、という気分にさせられますね。
 ちなみにこれはドナルド・バードのワンホーン演奏で、ケニー・バレルさえも休んでいますから、トミー・フラナガンの名人芸が尚更に眩しいのでした。

A-2 Philson
 ペッパー・アダムスが書いたオリジナルのブルースで、まずはポール・チェンバースのウォーキングベースがリードするイントロ、それに続く合奏で気分はグル~~ヴィ♪♪♪ 実際、このヘヴィなファンキー感覚は、かけがえのないリアルタイムのハードバップだと思います。
 そしてアドリブ先発のペッパー・アダムスが、これしかないのゴリ押しバリトンを熱く咆哮させれば、ケニー・バレルはグッとタメの効いたブルースフィーリングで対抗していくのです。あぁ、この雰囲気の良さは、たまりませんねぇ~♪ 重心の低いポール・チェンバースの4ビートウォーキングも最高です。
 またトミー・フラナガンの意図的に抑えたとしか思えないシブイ表現が味わい深く、ドナルド・バードのリラックスした好演を見事に引き出しす露払い♪♪
 ちょっと聴きには非常に地味なムードが全体を覆っていますが、こういうじっくりとしたグルーヴは、秀逸な録音とも密接に影響しあいながら、極上のハードバップを作り出していると思います。

B-1 Trio
 大衆派の名ピアニストとして人気者のエロル・ガーナーが書いたオリジナルですが、この当時はケニー・バレルの十八番としてライブバージョンも残されている楽しいリフ曲ですから、アップテンポで豪快にスイングしていくバンドの勢いが最高です。
 それはペッパー・アダムスのゴリゴリと突き進むバリトンサックスからケニー・バレルのスイングしまくったギターに受け継がれ、さらに溌剌としたドナルド・バードのトランペットからキラキラしたトミー・フラナガンのピアノへと、まさにハードバップの王道を堪能させてくれます。
 ルイス・ヘイズとポール・チェンバースのリズムコンビもハードエッジなリズムを作り出し、クライマックスではドラムスとのソロチェンジも流石ですが、ピアノとギターも含めたリズム隊がコードとビートをぶっつけ合ってゴッタ煮と化したハードなドライヴ感が唯一無二! う~ん、それにしてもルイス・ヘイズが痛快! またポール・チェンバースの唯我独尊も最高ですよっ! このあたりは録音の素晴らしさもあって、尚更にシビレがとまらないです。

B-2 Lebeccio
 ラテンビートと陽気なメロディが黒人感覚で煮詰められた、ニューオリンズのガンボという鍋物料理みたいな演奏です。もちろんその旨みは極上! ルイス・ヘイズのドラミングが同じデトロイト出身のエルビン・ジョーンズっぽいところも憎めません。
 各人のアドリブもコクがあって濃厚な味付けになっていますが、サビの4ビートの部分が全然リラックスしていないのは、凄いグルーヴだと思います。それはやっぱり名人揃いのリズム隊の実力なんでしょうねぇ~~♪

B-3 Bitty Ditty
 オーラスはサド・ジョーンズのオリジナルにして、今に至るもトミー・フラナガンの十八番となったシブイ名曲です。穏かでありながらフックの効いたメロディが、実にジャズ者の琴線を刺戟してくれます。
 そしてアドリブ先発は当然、トミー・フラナガンが薬籠中の名演です♪♪~♪ そのスインギーで奥深いメロディ感覚は本当に飽きません。またドナルド・バードも柔らかな歌心を企図しているようですが、ハードドライヴなベースとドラムスに煽られて戸惑ったり、ケニー・バレルが都会的なブルースフィーリングを漂わせるのは予定調和以上の楽しみでしょう。
 ただしペッパー・アダムスのアドリブソロが出ず、どうもテープ編集疑惑があるような……、

ということで、これは正直、名盤では無いですから、演目とメンツに期待を抱いていると些かハズレる部分も確かにあります。しかし私がこのアルバムを愛聴してしまうのは、その録音の素晴らしさ! ゴッタ煮の中に各楽器の独立した分離の良さ、それでいてガッツ~~ンとぶつかってくるような音の響きが最高にハードバップしていて、ついついボリュームを上げてしまいます。もちろん大音量ならば、なおさらにシビレるでしょう。

そうした観賞方法ではポール・チェンバースとルイス・ヘイズの存在感が強烈に素晴らしく、ウネリと剛直なモダンジャズビートの真髄が楽しめると思います。

ちなみにこのあたりはモノラル、ステレオ両ミックスとも違和感無く楽しめると思いますよ♪ CDは未聴ですが、元々が良いですから、ぜひとも「デトロイトの音」を楽しんでくださいませ。

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バリー・ハリスの師弟クインテット

2009-01-04 11:41:14 | Jazz

Newer Than New / Barry Harris (Riverside)

頑固な人とは付き合いにくいし、特に仕事に関係していたりすると難儀させられることも度々というのは、一般社会の常識だと思います。

しかし自分も多分に頑固というか、要領が悪くて融通がききにくい人間というサイケおやじにしてみれば、そういう一徹な人には敬意を表する気持ちもあるのです。

例えば本日の主役たるバリー・ハリスはモダンジャズの名人ピアニストでありながら、地元のデトロイトから出ようとせず、それでもニューヨークで活動しはじめても頑なにビバップに拘ったスタイルゆえに人気が高いひとりでしょう。

しかしその音楽性は奥深く、まろやかでエッジの効いたピアノタッチからは、魔法にようにジャズ者をシビレさせるメロディが放出されるのです。その品格も絶品ですねぇ~♪

さて、このアルバムは珍しくもホーン入りのクインテットによるハードバップの快作で、タイトルどおりに実力派の若手を起用しています。

録音は1961年9月28日、メンバーはロニー・ヒリヤー(tp)、チャールズ・マクファーソン(as)、バリー・ハリス(p)、アーニー・ファーロゥ(b)、クリフォード・ジャーヴィス(ds) というシブイ面々ながら、その真摯な演奏姿勢は素晴らしいですよ。

A-1 Mucho Dinero
 一瞬、「コーヒールンバ」を思わせる出だしの雰囲気から、これはもう楽しすぎるラテンジャズの素敵な演奏が始まります。テーマメロディのウキウキ感もさることながら、ラテンビートを活かしきったバリー・ハリスのアドリブの旨みは流石ですねぇ~~♪
 続くロニー・ヒリヤーの遠慮がちなところや、チャールズ・マクファーソンのオズオズとしたところ等々、場慣れしていないところが逆に新鮮という言い訳も出来ますが、こういうライトタッチの演奏も1961年という時期を考慮すれば結果オーライかもしれません。
 そういえばチャーリー・パーカーもラテン系を好んで演じていましたから、ビバップ一筋派のこのメンツにしても、十分に面目は保っているんでしょうね。素直に聴いて楽しい仕上がりだと思います。
 
A-2 Easy To Love
 そして場面は一転、歌物スタンダードのバードバップ的解釈の極みつき!
 ほどよく凝ったテーマのアンサンブルから強烈なパーカーフレーズをブレイクで使い、そのまま熱いアドリブに突入していくチャールズ・マクファーソンの勢いは、全く憎めません。ガンガンに煽るクリフォード・ジャーヴィスのドラミングも良いですねぇ~~♪
 またロニー・ヒリヤーのトランペットが実に真摯に真っ向勝負です。幾分柔らかめの音色とフレーズは微妙に気弱なところが私の好みでもあります。
 そしてバリー・ハリスが、もうこれ以上ないという最高のアドリブを聞かせてくれますよっ! 全く時間が短いのが残念至極としか言えませんねぇ~。
 しかし痛快なラストのバンドアンサンブルが全てを許してくれるでしょう。

A-3 Burgundy
 これまたラテンビートを入れたソフトパップな作風は、バリー・ハリスのオリジナルですから、その中心にはしっかりとビバップの魂が鎮座しています。そしてミディアムテンポで繰り広げられるバリー・ハリスのアドリブは、まさに至芸! その穏やかな歌心とピアノタッチはトミー・フラナガンあたりに通じるものですが、もう少し鋭いエッジの効き具合がバリー・ハリスの真骨頂だと思います。
 それとここではロニー・ヒリヤーが自らの資質にジャストミートの好演です。実はこの人はチャールズ・ミンガスのバンドでも活躍したほどエグイ音楽性を持っていたりするのですが、本来はここで聞かせてくれるような歌心優先のソフト派が本質じゃないかと思います。
 しかしチャールズ・マクファーソンの押さえ気味のところは、些か空回りしていて、ちょっと勿体ない感じですが、まあいいか……。

A-4 The Last One
 ようやくバリー・ハリスらしいビバップ丸出しのオリジナル曲で、その凝ったバンドアンサンブルにはチャーリー・パーカーが思わずニンマリするであろう仕掛けが憎めません。
 ですからアドリブ先発のチャールズ・マクファーソンがなかなかにハッスルしていますよ♪♪ クリフォード・ジャーヴィスのドラミングもバタバタと潔くないところが結果オーライでしょうねぇ♪ 地味ながら強靭な4ビートウォーキングを響かせるアーニー・ファーロウもシブイです。
 そしてロニー・ヒリヤーのミュートトランペットからバリー・ハリスのハートウォームなピアノへと続く演奏は、まさにモダンジャズの王道だと思います。

B-1 Anthropology
 A面では些か物分かりの良かったバリー・ハリスも、やはり本領を発揮出来るは、こういうパーカー&ガレスピーが作った正調ビバップ曲でしょう。ここではそうしたファンの願いを見事に叶えた熱演を聞かせてくれます。
 クリフォード・ジャーヴィスの熱いドラミングが、まず最高ですねぇ~。その熱血に煽られてブッ飛ばし気味のテーマ合奏から、チャールズ・マクファーソンがチャーリー・パーカー直系の意地を聞かせてくれますが、何故か部分的にりー・コニッツみたいな浮遊感が漂うのは「新しさ」といういうことでしょうか。ちょっと不思議な……。
 しかし続くロニー・ヒリヤーがミュートで直線的に突っ込んでいくのは快感ですし、ドラムスとベースの馬力も素晴らしいと思います。
 そしてバリー・ハリスがお家芸というか、ビバップの真っ只中というパウエル派の面目躍如! リズム隊のイノセントなグルーヴも本当に凄いと思います。
 
B-2 I Didn't Know What Time It Was
 スタンダード曲を素材に各人が歌心を披露したハードバップ演奏で、泣きメロ追及のチャールズ・マクファーソンと弱気なロニー・ヒリヤーのコントラスト、ソフトな伴奏のバリー・ハリスという目論見がズバリと成功しているようです。
 実際、溜息まじりのトランペットが憎めないここでのロニー・ヒリヤーが、私は大好きですし、煮え切らなさが気分はロンリーなチャールズ・マクファーソン、さらにシブイ歌心がジンワリと心に沁みてくるバリー・ハリスというアドリブは、短いながらも充実しています。
 ラストで聞かせるバリー・ハリスの小技もニクイですねぇ~♪

B-3 Make Haste
 バリー・ハリスが書いた正統派ビバップ曲で、1961年の録音からすれば古臭いわけですが、こういうものこそが今でも不滅と感じる名演です。
 そして、まずはチャールズ・マクファーソンのビバップど真中のアドリブが実に痛快です。コルトレーンやドルフィーなんか、どこ吹く風ですよっ! するとロニー・ヒリヤーまでもがディジー・ガレスピーに敬意を表したミュートで迫ってきます。
 さらにバリー・ハリスが、もうたまらないほどにパウエル派の真髄を披露してくれます。あぁ、これが不滅のモダンジャズなんでしょうねぇ~~♪ 基本に忠実なベースとドラムスの自己主張も流石というか、実はこのバンドの4人はバリー・ハリスの直弟子だったと言われていますから、さもありなんの纏まりなのでした。

B-4 Nightingale
 隠れ人気の歌物スタンダード曲を粋なハードバップにした、これも名演で、ここでの主役はロニー・ヒリヤーのミュートトランペット♪ クリフォード・ジャーヴィスのブラシを主体としたテンションの高いドラミングも冴えていますし、チャールズ・マクファーソンのアルトサックスも存分に泣いていますが、ロニー・ヒリヤーの内気な片思いには胸キュンですよ。
 そしてバリー・ハリスの最高に上手い伴奏とハートウォームな歌心の妙にはシビレがとまりません! これもハードバップの素敵なところでしょうねぇ~♪ そうしたモダンジャズの魅力が地味ながらも凝縮されていると思います。

ということで、ピアノトリオ物ばかりが人気のバリー・ハリスの諸作中では忘れられたアルバムかもしれません。また共演者にしても、例えばチャールズ・マクファーソンやロニー・ヒリヤーはチャールズ・ミンガス(b)、アーニー・ファーロゥはテリー・ギブス(vib)、そしてクリフォード・ジャーヴィスはフレディ・ハバード(tp) やサン・ラのオーケストラというように、どちからかと言えばド派手な人達との活動が有名なわけですが、実はバリー・ハリスという極めて正統派からの薫陶を受けていたという、まさにルーツ的な1枚だと思います。

そしてバリー・ハリスの頑固な情熱にジンワリと心が温まるんですよねぇ~~♪ 若い者を率いての物分かりの良さと譲れない立場のバランスが絶妙だと思います。ちなみにサイケおやじは常になんとか物分かりの良さを演じているだけですから、そこを軽く見られて貧乏籤に繋がる事が度々……。

閑話休題。

結論として、出来栄えは真っ当な演奏ばかりですから、モダンジャズへ入門したばかりのファンには向かないでしょう。しかし一通り名盤・人気盤を聴いた後になって、ある日、このアルバムに遭遇した時には、忽ち虜になるんじゃないでしょうか。

実際、私はこれをジャズ喫茶で聴いてシビレたの、三十代の事でした。

意味不明のジャケットデザインの印象も決して良くありませんが、私の先輩コレクター諸氏も愛聴しているという隠れ人気盤になっているようです。

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コルトレーンのアフリカ浄土

2009-01-03 13:04:09 | Jazz

Kulu Se Mama / John Coltrane (Impulse!)

本来、旅が好きではないサイケおやじは、何故か仕事ではいろんなところへ行かされています。まあ、それが仕事っていうものなんでしょうが、その中で、たった一度だけ、命じられて嬉しかったところが最初のアフリカ行きでした。

実はその某国は政情不安、内戦が一応は終わったところで、実際に着いていみると治安は予想以上に悪かったのですが、しかしそんなことは行く前には知らされていませんでしたから、大草原にキリンやシマウマがいて、原住民の素朴でエスニックな生活とか原始的なエロス、ヘミングウェイの小説のようなムードに接することが出来るのかと、ウキウキしていたのが怖いもの知らずの若さだったのでしょう。

で、そんな気持ちにジャストミートしていたというか、瞬時に思い出したのが、本日ご紹介のアルバムです。

結論から言うと、ここに収められた演奏は、ジョン・コルトレーンがフリージャズと精神性の強い展開を模索していた悪夢のような時期に残れさたものです。今となっては良く出来たデタラメのような「Ascension」とか、悪い冗談のような「OM」に代表される、所謂混濁の1枚という受け取り方が定着してかもしれません。しかし実際にはジョン・コルトレーンが独自の文法をきちんと確立して作った隠れ人気盤じゃないでしょうか?

録音は1965年6&10月、メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という至高のカルテットを基本に、ファラオ・サンダース(ts)、ドナルド・ギャレット(bcl,b)、フランク・バトラー(ds,per) ジュノ・ルイス(per,vo) が新参加しています。

A-1 Kulu Se Mama (1965年10月14日録音)
 このセッションに打楽器とボーカルで参加したジュノ・ルイスが作った「母に捧げるバラード」という趣の名曲です。それはアフリカ現地語をメインに歌われる穏やかなメロディが、なかなかに素敵ですよ♪♪~♪ また歌詞そのものについてはジャケット中面に掲載されているとおり、英語も使われていますから、その意味も理解し易いと思います。
 そして肝心の演奏はテンションの高い打楽器とツインドラムス、ミステリアスにして混濁したアンサンブルが、テーマメロディを激しく追撃するような感じでしょうか。ステレオミックでは左チャンネルに混濁極まりないテナーサックスやバスクラリネット、右チャンネルにはピアノとベース、さらに打楽器による分厚いリズムとコードの響き、そして真ん中からはジュノ・ルイスの素朴にして奥深いボーカルと各種打楽器が定位していますから、決してデタラメをやっているわけではないのです。
 そのきちんと構成され、しかし自由度の高い展開は、明らかにフリージャズではないでしょう。これは実際に聞いていただければ、万人が納得されると思います。特にマッコイ・タイナーのピアノのアドリブは、後年になって人気を得たマッコイ独自のアフリカ系モードジャズそのものですよ。
 またジョン・コルトレーンやファラオ・サンダースのテナーサックスも、過激に咆哮するだけではなく、むしろ遠慮気味というか、曲と演奏の意図を大切にしたものでしょう。
 ちなみにここで主役を務めるジュノ・ルイスはアフリカ系黒人の地位向上に尽くした名士で、ジョン・コルトレーンとは共感しあっていたと言われています。
 ただし現実は、前述した「Ascension」よりも後の演奏ということで敬遠され……。
 ぜひとも虚心坦懐に聴いていただきたく、お願い申しあげます。
 ちなみにサイケおやじは、件のアフリカ某国へ赴く飛行機の中で、この曲をダビングしたテープをウォークマンで聴きながら、儚い夢を見ていたのでした。

B-1 Vigil (1965年6月16日録音)
 しかしB面に入ると事態は一転、ジョン・コルトレーンとエルビン・ジョーンズの過激な一騎打ちとなります。左チャンネルからは強烈に咆哮して音符過多症候群というテナーサックス、右チャンネルからはやけっぱちのドラムス! もうこれは意地と魂のぶつかりあいでしょうねぇ。
 実はこんな演奏は以前にも、例えば「Village Vanguard」のライブセッション盤でも聴けましたし、海賊盤を中心としたライブ音源にも多々残されています。それでもこのトラックが明らかに違うと感じるのは、演じている2人の間にスイングしているというか、かみあっている部分が少ないからだと思います。
 ピアノやベース、あるいはギターが弾ける皆様ならば、試しにこの演奏に介入してみてください。おそらくそれは非常に難しいと思うのは、なにもテクニックだけの問題ではなく、絶対に余人が入り込めない何かがあるから……。
 ということは、聴いていて疲れる演奏だということです。しかしそれが心地良い疲労と感じるのも、またひとつの真実かもしれません。それがこの演奏を「名演」と認定しているファンの多さじゃないでしょうか。

B-2 Welcome (1965年6月10日録音)
 そしてオーラスが、これまた素晴らしい安らぎに満ちた演奏で、メンバーはお馴染みのレギュラーカルテット♪♪
 マッコイ・タイナーの些か大袈裟なイントロから、美しいテーマメロディがジョン・コルトレーンによって厳かに吹奏され、エルビン・ジョーンズがテンションの高いビートでそれを彩り、ジミー・ギャリソンのペースが全体を支えるという、まさに至高のカルテットならではの構成と展開には、素直に気持ちが高ぶります。
 もちろんジョン・コルトレーンだけの「バラードの世界」は、強い精神性と美の追求でありますから、これは聴かず嫌いが勿体無いかぎりでしょうねぇ~~♪ それが完全に無視されがちなのは、得体のしれないアルバムタイトルとか、演奏時期の問題でしょう。
 これもまた、虚心坦懐に聴いて下さいませ。

ということで、これはやっぱり名盤だと思いますねぇ、良し悪しとか好き嫌いは別にしても……。アルバム全体の構成がこれだけビシッと決まったジョン・コルトレーンの作品は、そんなに無いと思います。

ちなみに再びサイケおやじの余談になりますが、これを聴きながら赴いた某国は全く酷いところで、着いたその日に現地の人から護身用の軍用拳銃を渡されたほどでした……。実際、銃撃戦に遭遇したり、悲惨な現地の一般人の様子とか、政治経済の状況の悪さは、このアルバムの「Kulu Se Mama」と「Vigil」の落差のようなもんです。

そしと残酷な現実を浄化するように静謐な「Welcome」の演奏こそが、泥の上にしか咲くことの出来ない蓮の花のように、限りなく美しいと痛感したあの日の思い出となっているのでした。

新年というのに殺し合いや失業に苦しむ世界を、つくづく思う本日です。

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キャノンボールの初ヒット!?

2009-01-02 11:27:08 | Jazz

African Waltz / Cannonball Adderley (Riverside)

鑑賞用音楽としてLPアルバムを中心に作られているモダンジャズにだって、やはりシングルヒットが必要なのは大衆音楽としての必須条件でしょう。実際、ラムゼイ・ルイス(p) やリー・モーガン(tp) あたりは、そうした大ヒットを持っていますし、本日の主役たるキャノンボール・アダレイにしても例外ではありません。あの「Mercy, Mercy, Mercy (Capitol)」は、その代表曲でしょう。

さて、本日の1枚は、そのキャノンボール・アダレイが初めて出した大衆ヒットの「African Waltz」をウリにした楽しい傑作アルバムで、サブタイトルにあるとおり、痛快なオーケストラをバックにアルトサックスを吹きまくった、サイケおやじには長年の愛聴盤です。

録音は1961年2&5月、メンバーはキャノンボール・アダレイ(as) とナット・アダレイ(tp) の兄弟をメインに、ウイントン・ケリー(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイス・ヘイズ(ds)、チャーリー・パーシップ(ds)、レイ・バレット(per)、マイケル・オラトゥンジ(per) からなるリズム隊、さらにクラーク・テリー(tp)、アーニー・ロイヤル(tp)、ジョー・ニューマン(tp)、ボブ・ブルックマイヤー(v-tb)、ジミー・クリーヴランド(tb)、ジェローム・リチャードソン(ts,fl)、オリバー・ネルソン(ts,fl) 等々のファーストコールの面々が参集した豪華ビックバンドがついています。そしてアレンジはフルバン王道派のアーニー・ウィルキンスとボブ・ブルックマイヤーですから、本当にスカッと楽しい仕上がりですよっ!

ちなみに皆様ご推察のとおり、実は最初に「African Waltz」のシングル盤が吹き込まれ、アルバムはそのヒットに乗じて後から制作されたわけですから、楽しさ優先モードは言わずもがなですね♪♪♪

A-1 Something Different (1961年5月9&15日録音)
 痛快にしてファンキー、シャープなバンドアンサンブルが冴えわたる名曲にして名演ですが、カッコ良すぎるテーマを書いたのは、なんと後にフュージョンスタアとなるチャック・マンジョーネ(tp) ですから、たまりませんねっ♪♪~♪
 そしてアニー・ウィルキンスの緻密にして豪快なアレンジに煽られ、最初にアドリブを演じるのは正体不明のテナーサックス、続くトランペットはナット・アダレイでしょうか? まあ、そんなこんなが気にならないと言えば嘘になりますが、演奏全体の勢いは大迫力! そして後半に登場するお待ちかねのキャノンボール・アダレイが、やはり豪快です。
 演奏の大団円ではツインドラムスの威力も爆発的ですよっ!

A-2 West Coast Blues (1961年5月9&15日録音)
 キャノンボール・アダレイによってメジャーデビューのきっかけを与えられた天才ギタリストのウェス・モンゴメリーが書いた、ワクワクしてくるワルツテンポのブルースです。それがここでは、またまたの痛快なアレンジで演じられ、キャノンボール・アダレイのウネリのアルトサックスと飛び跳ねてファンキーなウイントン・ケリーのアドリブに彩られるんですから、最高です!
 ピンピンピンのジャズビートを弾き出すサム・ジョーンズも強烈な存在感ですし、オトポケのトロンボーンに対抗したようなリフからバンドアンサンブルに入っていくアレンジも秀逸だと思います。

A-3 Smoke Gets In Your Eyes / 煙が目にしみる (1961年5月9&15日録音)
 邦題は「煙が目にしみる」として誰もが知っている泣きメロのスタンダードを、ゴージャスなオーケストラをバックにしてキャンノボール・アダレイが吹いてくれるという、最高のプレゼント!
 通常よりは幾分早いテンポで情熱的な歌心を披露するキャノンボール・アダレイって、本当に良いですねよねぇ~~♪ もちろんジャズの魂、ソウルフルな心情吐露が満点です。

A-4 The Uptown (1961年5月9&15日録音)
 ジュニア・マンスが書いた、これもワルツテンポのブルースですが、流石にドロドロファンキー派の作者の意図を尊重したヘヴィなアレンジと演奏が強烈です。
 キャノンボール・アダレイも相当に入れ込んだアドリブを演じていますし、何よりもバンドアンサンブルのカッコ良さ! ハードボイルドにしてサスペンスタッチの編曲はクインシー・ジョーンズあたりと共通するグルーヴがありますが、これはもちろん、アーニー・ウィルキンスの十八番なのでした。

A-5 Stockholm Sweetnin' (1961年5月9&15日録音)
 そのクインシー・ジョーンズが書いたソフトなメロディとシャープなビート感が満点という名曲に、ボブ・ブルックマイヤーが、ごれぞフルバンの魅力というアレンジを施した名演です。
 まあ、このアルバムの中では正統派スイングに徹したオーソドックスな仕上がりと言えば、全くそのとおりなんですが、キャノンボール・アダレイのアルトサックスからはモダンジャズにどっぷりのフレーズが溢れ出し、おそらくはナット・アダレイと思われるトランペットも肩の力の抜けた好演だと思います。
 そしてウイントン・ケリーの最高に楽しいアドリブは、ハードバップピアノの典型でしょうねっ♪♪ 短いのが本当に残念です。

B-1 African Waltz (1961年2月28日録音)
 さて、これが冒頭に述べたシングルヒット曲で、1961年5月にはチャートの41位にランクされていますが、その曲調はタイトルどおり、混濁したブラスと打楽器が不思議な心持ちにしてくれるビックバンド演奏! もちろんイメージとしてのアフリカ色も強く出ています。
 しかし驚くべきことには、キャノンボール・アダレイはおろか、アドリブパートなんて全く無いんですねぇ~!?! ですから、これをわざわざキャノンボールの名義で出す必要なんか、本当にあったのか!? というわけです。実際、バンドの合奏の中に、なんとなくキャノンボール・アダレイだけの、豊かに膨らみのあるアルトサックスの響きが混在しているだけなのですから……。
 このあたりはアメリカの当時の業界とか、音楽チャートの仕組みの問題も関係しているのかもしれませんが、今となっては、そうした出来事があって、この痛快に楽しいアルバムが発売されたという事実を受け入れ、素直に楽しむしかないんでしょうねぇ。
 
B-2 Blue Brass Groove (1961年5月9&15日録音)
 ということで、続くこの曲と演奏が、尚更に最高です!
 それはワルツテンポで演じられるゴスペル調のメロディが胸キュンで、キャノンボール・アダレイのアドリブも出色♪♪~♪ またナット・アダレイが作者としての強みを活かした熱演ですから、バンド全体のグルーヴィなノリは、もうハードバップ天国ですよっ♪♪
 その豪快な雰囲気を支えるリズム隊も素晴らしく、ウイントン・ケリーもサム・ジョーンズも隠れ名演だと思います。

B-3 Kelly Blue (1961年2月28日録音)
 そしてこれが、もう曲名だけでワクワクさせられますねぇ~♪ ご存じ、ウイントン・ケリーが畢生のファンキーメロディですからっ! もちろんベースとフルートを使ったオリジナルバージョンの雰囲気を大切にしたアレンジも嬉しいところです。
 アドリブ先発のウイントン・ケリーは十八番のファンキー節を存分に披露していますし、セカンドリフのシブイな使い方からキャノンボール・アダレイのダークにしてグルーヴィなアルトサックス、追い撃ちをかけるブラスのアンサンブルとベース&フルートの嬉しいラストテーマ!
 短い演奏時間に原曲の魅力をギュッと凝縮した名演じゃないでしょうか?
 ちなみにこのトラックは前述したシングル曲「African Waltz」のB面にカップリングされていたのも、納得です。

B-4 Letter From Home (1961年5月9&15日録音)
 これまたジュニア・マンスが自作自演していた、ちょっとクセになるメロディのハードバップ曲ですが、それをここでは盆踊り系のグルーヴにしたアレンジと演奏が楽しめます。
 アドリブパートはナット・アダレイだけですが、背後を彩るフルートも妙な雰囲気で賛否両論でしょうか……。

B-5 I'll Close My Eyes (1961年5月9&15日録音)
 オーラスはリバーサイドではブルー・ミッチェルの名演が記憶される歌物スタンダード曲ということで、ボブ・ブルックマイヤーの正統派アレンジに支えられ、まずはナット・アダレイがミュートの妙技を聞かせてくれます。
 う~ん、それにしてもボブ・ブルックマイヤーのアレンジが真っ向勝負で気持ち良いですねぇ~♪ それゆえに続くキャノンボール・アダレイのアルトサックスが登場すると、演奏はグイグイと盛り上がっていくのでした。

ということで、実に楽しい演奏集なんですが、1曲あたりの演奏時間の短さゆえでしょうか、これもガイド本やジャズ喫茶では無視され続けているアルバムだと思います。まあ、そのあたりを愛聴してしまうのが、サイケおやじの本性かもしれませんが……。

しかし冷静になってみると、これは「リバーサイドのヒット曲集」としての目論見もあるようで、例えばウェス・モンゴメリーの「West Coast Blues」、ブルー・ミッチェルでお馴染みの「I'll Close My Eyes」、そしてウイントン・ケリーの「Kelly Blue」等々が入っているところは、間違いなくジャズ喫茶通いのファンには気になるんじゃないでしょうか。

アニー・ウィルキンスとボブ・ブルックマイヤーという優れたアレンジャーの編曲も、確実に痛快ですし、何よりもキャノンボール・アダレイの必要以上に気負わない姿勢が、潔いと思います。

ただし、このブラックスプロイテーションならば充分合格のジャケ写はどうにかならなかったんでしょうか……? いや、もしかすると、ウリになったヒット曲の「African Waltz」は、なにかそれもんの映画かテレビドラマのテーマ曲だったんでしょうか……? それなら充分に納得ですが、流石に我が国のジャズファンにとっては先入観が強すぎるかもしれませんね。

虚心坦懐にお楽しみ下さいませ。

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