OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

本気度が高いヴァン・モリソンのライブ

2010-02-18 14:30:40 | Rock

It's Too Late To Stop Now / Van Morrison (Warner Bros.)

いろんなところで冷え込んでいる世情、そんな時こそ聴きたくなるのがヴァン・モリソンの熱い歌声です。

そして本日のご紹介は、ヴァン・モリソンが上昇期だった1973年夏の巡業から作られたアナログ盤2枚組のライプアルバム! 5人のストリングセクションに阿吽の呼吸のリズム隊、そして如何にもプロっぽいホーン陣から成る11人編成のカレドニア・ソウル・オーケストラを率いての熱唱がぎっしり詰まっています。

 A-1 Ain't Nothin' You
 A-2 Warm Love
 A-3 Into The Mistic
 A-4 These Dreams Of You
 A-5 I Believe To My Soul
 B-1 I've Been Working
 B-2 Help Me
 B-3 Wild Children
 B-4 Domino
 B-5 I Just Want To Make Love To You
 C-1 Bring It On Home To Me / 悲しき叫び
 C-2 Sant Dominic's Preview / セント・ドミニクの予言
 C-3 Take Your Hands Out Of My Pocket
 C-4 Listen To The Lion
 D-1 Here Comes The Night
 D-2 Gioria
 D-3 Caravan
 D-4 Cyprus Avenue

さて、これが発売されたのは1974年で、既にその頃の私はヴァン・モリソンに一生ついていく決意を固めていたので、このライプ盤には些か過大な期待をしていました。それはグリグリに暴発した熱い心情吐露が全篇から溢れんばかり! なんて思っていたのですが……。

しかし現実的には、まずA面の思わせぶりが憎たらしいほどです。

なんと初っ端からアメリカが誇るブルース&ソウル歌手の大物、ボビー・ブランドのカパー曲「Ain't Nothin' You」が余裕綽々で披露され、そのゴスペル味を徹底的に自己流に変換していくヴァン・モリソンは流石の力みも聞かせてくれるのですが、パックのバンドに微妙なドサ回りフィーリングが感じられ……。

ですから続くパートで、これしか無いのヴァン・モリソン節を歌いまくっても、何かしらロックもソウルもしていない中途半端な雰囲気にモヤモヤが……。トランペットのキャバレーモードが、いやはやなんともですよ……。

しかしそれがB面に入ると事態は一転、ビシバシにキメまくりのドラムスにローリングするピアノ、唸るギターに蠢くベース、さらに下世話なプローに徹するホーン隊と共謀したヴァン・モリソンが熱血ながら軽いフットワークで歌う「I've Been Working」は、白人R&Bの一番良いところがテンコ盛り!

さらに続くのはサニー・ボーイ・ウィリアムスンが十八番のブルース「Help Me」なんですから、その弾みまくったグルーヴとブルースロックの楽しさが満喫出来ますよ。もちろんヴァン・モリソンが唯一無二のアイリッシュなというか、ちょいと雰囲気が微妙に異なるR&Bフィーリングが♪♪~♪ この軽さが曲者です。

そしてすっかり良い雰囲気になったところで披露されるのが、「Wild Children」のメロウな歌の世界です。あぁ、この甘くせつない語り口は絶品ですねぇ~。演奏パートのアレンジも素晴らしいジャズっぽさを含んでいて、特にミュートトランペッと薄いストリングスが効果的なんですが、歌詞の中身は決してラヴソングではなく、懐かしい過去と新しい時代の到来を詩的に表現しているところが、如何にも「らしい」です。

まあ、そのあたりは日本人には些か理解が難しいところかもしれません。しかし、いよいよ次に歌われるのが、皆が大好きな「Domino」ですから、その躍動する熱い歌いっぷりに素直にシビレても許されでしょうねぇ~♪ しかも憎たらしいことには、そうして盛り上げておいた後に、これまたストーンズもやっているという黒人ブルースの定番曲「I Just Want To Make Love To You」が、実に思わせぶりに演じられる企みには完全KOされますよ。なにしろ肝心な部分の歌詞は歌わないという禁断の裏ワザを使うんですからねぇ。もちろん歌そのものに猥雑な表現が含まれているのは、言わずもがなでしょう。小技を駆使したケレンが見事なギターも良い感じ♪♪~♪ もうこのあたりになると、バックバンドも一座としての纏まりががっちりキマッた熱演続きですよ。

こうして突入するC面が、これまた最高!

まずはサム・クックでお馴染みのカパー曲「悲しき叫び」が、これまた秀逸♪♪~♪ お馴染みのジェントルなメロディがじっくりと醸成されていくヴァン・モリソンの歌唱の魅力、その激していながら、せつせつとした雰囲気の醸し出し方は流石だと思います。

それは続く代表曲「セント・ドミニクの予言」という、これもちょっと日本人には理解不能な宗教的な歌詞を含んだ歌なんですが、しかしそのゴスペルフィーリングというか、厳かな情熱の吐露は十分に感動的だと思いますし、なによりもステージ上の全員が一体となった盛り上げに素直に感きわまる客席のムードが、レコードからしっかりと伝わってくるのです。

そしてさらに憎たらしいのが、こうして神聖にも近い空気が充満したところで歌われるのが、これまた下世話な黒人ブルースの「Take Your Hands Out Of My Pocket」なんですから、たまりません。しかもドロドロのアレンジ、粘っこいヴァン・モリソンの歌い回し、バックバンドのクサイ芝居的な演奏!?! これがブルースロックの白人R&B的解釈の極北というには、あまりにも纏まりが良すぎて、混乱させられるほどです。

まあ、このあたりは素直に楽しんでいれば良いんでしょうけどねぇ……。

しかしそれがなかなか出来ないほど、ヴァン・モリソンの本気度は高いと思います。なにしろ次に披露されるのが不条理な愛に苦しむ男の純情歌「Listen To The Lion」ですよ。

おいおい、ライオンに何を聞くってんだぁ~~。

と、こちらも不条理な気持になったところで、お待たせしましたっ!

ついに最終のD面に入ったところで歌われるのが、ヴァン・モリソンがキャリアの初期に入っていたR&Bバンドのゼムで放った大ヒット「Here Comes The Night」と「Gioria」の二連発!!! 会場のお客さんも、またスピーカーの前のファンも一緒に浮かれて許される楽しさがいっぱいですよ♪♪~♪ もちろん時代が時代ですから、幾分の軽さを取り入れたアレンジと自然体のヴァン・モリソンがそこに居て、おそらくは常にこの2曲ばっかり期待されていた状況があったと思われるのですから、本人は肩すかしを狙ったのかもしれません。

しかし結果は、特に「Gioria」でやってしまう熱血の力み大会が所謂「イイ奴」の証明でしょうか。私は好きです。

そして多分、ここからはアンコールのパートだと思いますが、ヴァン・モリソンといえは、これが出ないと収まらないという、熱血のゴスペルロック「Caravan」が、本当に熱くさせてくれますよ。なんというか、魂の高揚ってやつでしょうねぇ~♪ もちろん祭りの後の一抹の哀しさというか、余韻もたっぷりですから、オーラスのスローな「Cyprus Avenue」が歌詞の意味なんか分からなくとも十分な説得力で効いてくるのです。

あぁ、この虚脱に導かれる歌の魅力こそが、ヴァン・モリソンの真髄かもしれません。

ちなみにアルバムタイトルは、この歌の最後の最後で呟かれた本人の言葉によるものらしく、すると、なんということでしょう、直ぐにこのアルバムのA面が再び聴きたくなって針を落とせば、そこには先ほどはイマイチと思っていた不遜な気持を霧散させる、実にハートウォームな世界が広がっているのです。

う~ん、まさにループなヴァン・モリソン的桃源郷!

もちろん私は本人には会ったこともありませんし、ライプに接したこともありませんから、その人柄は知る由もありません。しかし相当に頑固で、安易な冗談なんか通じそうもない感じを受けます。笑ってごまかすなんていう常套手段もないでしょう。

ですからライヴステージの現場では、ハナからケツまでの真剣勝負がお客さんにも要求されているのかもしれませんし、それゆえにこのライヴ盤も同じ姿勢で聴かなければならないのでしょう。

個人的にはB面ばっかりを聴いていた時期が確かにあったんですが、今は4面をブッ通す気合いと体力がある時だけ、このレコードを取り出しています。

それともうひとつ書いておきたいのが、ブルース・スブリングスティーンなんていう人が、如何にヴァン・モリソンからの影響が大きいか!?! もう歌の節回しやメロディのもっていき方あたりは、このライプを聴けは納得するかと思います。もちろん、あの「力み」はモロでしょうね。

ということで、個人的には恒常的に聴けるアルバムではないんですが、やっぱり聴いているうちに熱くさせられてしまいます。

うん、これが聴けるうちは、大丈夫だっ!

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念願だったピーター&ゴードン

2010-02-17 16:58:38 | Rock

I Go To Pieces c/w Love Me Baby / Peter & Gordon (EMI / 東芝)

日頃の行いが決して良いとはいえないサイケおやじに、何故か本日は神様からの嬉しいプレゼント!?! それが掲載したピーター&ゴードンの日本盤シングルです。

このコンビは説明不要、永遠の大ヒット「愛なき世界」で忘れられない存在ですが、この「I Go To Pieces」も、ハートウォームな胸キュンヒットの決定版!

資料的には4枚目のシングル盤A面曲として1964年11月頃にイギリスで発売されたものですが、本国よりも日本やアメリカでヒットしてしまったというミステリは、現在も解明されていません。

ちなみに曲を書いたのは、あの「悲しき街角」で有名なデル・シャノンで、ピーター&ゴードンにすれば、レノン&マッカートニー以外の作家と初めて組んだシングル盤だったのですが……。

まあ、それはそれとして、楽曲そのものの仕上がりは言うこと無しですから、少年時代のサイケおやじはラジオで聴いた瞬間、レコードが欲しくてたまらなかったんですが、そこは経済的な問題から願いは叶わず……。

それでも当時、年上の友達から聞かせてもらったりして、本当に親しんだ名曲でした。そして、このB面が、これまた侮れません。

その「Love Me Baby」はピーター&ゴードンのオリジナルという、実にイカシたR&B曲なんですが、些かホンワカムードの歌いっぷりとは逆に、演奏パートがほとんどストーンズ調という恐ろしさ! 特にハーモニカの真っ黒なフィーリングは尋常ではありません。

実は後に知ったことですが、それを演じていたのがブライアン・ジョーンズ!

う~ん、思わず唸りましたですねぇ~~。

しかも、このシングル盤のバージョンはモノラル仕様の別ミックスらしいときては、私の心は乱れっぱなしですよ……。

以来、私の探索は長きにわたり、なかなか良い出会いも無かったんですが、ついに本日、昼飯の後に何気なく入った店で良質な中古盤に遭遇! しかも値段が思いっきり安かったんで、これは神様の思し召しとして素直な気持でゲットしてきたというわけです。

それは世界的な経済状況の悪化から、おそらく中古盤市場も冷えていることの表れかもしれませんが、こうして実際に長年欲しかった現物を手にして眺めているだけで、不条理に嬉しくなるのでした。

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ザ・バンド with ボブ・ディラン

2010-02-16 14:39:36 | Singer Song Writer

Planet Waves / Bob Dylan (Asylum)

だいたい私の世代の洋楽ファンがボブ・ディランを意識したのは、モダンフォークのPPMやフォークロックのザ・バーズ、そして例の「バングラ・デシのコンサート」だったと思います。

あるいは昭和40年代の我国におけるフォークブームからボブ・ディランに入った皆様も大勢いらっしゃるでしょう。

しかしそんな頃、肝心のボブ・ディランは何をしていたかというと、個人的なリアルタイムでは最初に買ったLP「新しい夜明け」がアメリカでは1970年の発表で、これは相当に聴き易い仕上がりだったんですが、続く「ディラン」というアルバムが、以前に他人の曲をメインに歌った2枚組「セルフ・ポートレイト」からの余り物としか思えない内容だったのと、自身も脇役で出演した映画「ビリー・ザ・キッド」の疑似サントラ盤ぐらいしか、纏まったレコードを出していなかったのですから、???

まあ、シングルカットされ、ヒットした「天国への扉」は良かったですが、それだって今ではエリック・クラプトンの代名詞のひとつになってしまった……。

ですから昭和49(1974)年になってから伝えられたボブ・ディランの新作と久々のコンサートツアーに、ザ・バンドが全面的に共演しているという報道は、それこそ伝説の復活として血沸き肉躍るものがありました。

それはなにしろ、現代と違って洋楽の情報が極力限られ、しかも遅いという時代です。

ザ・バンドを従えてボブ・ディランがライプの現場で作り上げた黄金期のハードなフォークロックは、その後のボブ・ディランのバイク事故による隠遁生活と所謂「地下室」からレコーディング流出音源によって、まさに神聖なものへと昇華されていたのですから、とうとうそれが再び姿を現すという期待は膨らむばかりだったのです。

もちろんそれまでも公式盤ではボブ・ディランとザ・バンドの共演が、例えば「セルフ・ポートレイト」に収録されたライプ音源の4曲等々、極僅かですが出回っていたのですが、正式なスタジオセッションによる作品は無かったはずでした。

そしてついに発売されたのが、本日ご紹介のLP「プラネット・ウエイヴ」でした。しかも驚いたことに、それまでのCBSコロムビアから、アサイラムという新興レーベルに移籍しての制作だったのです。

 A-1 On A Night Like This / こんな夜に
 A-2 Going, Going, Gone
 A-3 Tough Mama
 A-4 Hazel
 A-5 Something There Is About You / 君の何かが
 A-6 Foerver Young / いつまでも若く
 B-1 Foerver Young / いつまでも若く
 B-2 Dirge / 悲しみの歌
 B-3 You Angle You / 天使のような君
 B-4 Never Say Goodbye / さよならと言わないで
 B-5 Wedding Song

まずA面冒頭、何気なくかき鳴らされる生ギターのイントロから歌い出されるディラン節、それへ瞬時に合わせるザ・バンドのタイトな演奏! もうこの瞬間だけで歓喜悶絶しましたですねぇ~~♪ 確か、この「こんな夜に」はシングルカットもされ、同年春先からラジオでは流れまくっていた記憶も鮮烈ですが、実際、ウキウキするような曲メロを歌い流すボブ・ディランの存在感は、まさにこちらが思っているとおりイメージでしたし、全くザ・バンドでしかありえない演奏パートのナチュラルなグルーヴもたまりません。おそらくはガース・ハドソンによるアコーディオン、ヘヴィなビートで軽やかにリズムをキメるリヴォン・ヘムの匠の技のドラミングが特に印象的ですねぇ。

本当に何時までも聴いていたい気持良さなんですが、僅か3分に満たずに終わるのが悔しいほどの気分を、続く「Going, Going, Gone」が思いっきり泣きの世界へ誘うのですから、たまりません。

じっくり構えて凄みを滲ませるボブ・ディランの歌いっぷり、相変わらず分かりにくい歌詞を含んだ曲の作りもなかなか熱く、それを彩るザ・バンドの演奏ではロビー・ロバートソン独得のカキクケコギターが、こんな泣き方もあったのか……!? と感動させられる名演を聞かせてくれるのです。

さらにファンキーロックな「Tough Mama」は、ザ・バンドとの共演でなければ決して作れなかったヘヴィフォークでしょうし、実際、ここではザ・バンドが完全に主役かもしれませんよ。

しかし流石はボブ・ディラン! 続く「Hazel」は完全に「美メロのディラン」が堪能出来る、実にせつないラヴソング♪♪~♪ ザ・バンドの控えめな伴奏も結果オーライだと思いますし、後にはあの「ラストワルツ」で両者の共演が残されているのも興味深いと思います。

そして続く同系の「君の何かが」から、いよいよ出るのが、今やボブ・ディランの作った歌の中では最も有名なもののひとつとなった「いつまでも若く」で、この哀愁三連発ともいうべき流れは、歌詞の中身は分からなくとも、曲メロを活かしきったボーカルと演奏の説得力の強さによって、忘れられない印象になるのです。

いゃ~、実際、このA面の美しき流れはクセになりますよねぇ~♪

こうしてレコードをひっくり返したB面では、なんとAラスに入っていた「いつまでも若く」がアレンジどころか曲メロまでも自己編曲されて歌われますが、そのAラスのバージョンが所謂アンプラグドでシミジミと、そしてシンプルに力強く歌われていたのに対し、こちらはどっしり重心の低いスワンプ系ゴスペルロックでありながら、意外にあっさりしたボブ・ディランの節回しが微妙な位置づけかもしれません。

ただし、それもおそらくは計算づくだったの思わされるのは、続く「悲しみの歌」のせつせつとした雰囲気の濃さでしょう。おそらくはボブ・ディランのピアノ弾き語りにロビー・ロバートソンの幾分ジャズっぽい生ギターだけで演じられる悲壮な決意表明! なんともシンプルでヘヴィな歌だと思います。

ちなみにこのアルバムセッションは、後に知ったところによると、ほとんどが一発録りの短期決戦だったとか!?! それゆえに切迫した内容の歌ではギスギスしたものが剥き出しになり、反面、楽しさや甘さが表出される演奏ではノリが良く纏まっているのかもしれません。もちろんそれはザ・バンドという、熟練の集団と相互の固い信頼があってのことだと思います。

そのあたりが如実に感じられるのが、「天使のような君」や「さよならと言わないで」という、失礼ながら、このアルバムの中ではそれほどの冴えも感じられない歌で、結局はちゃ~と収まるべき場所を見つけたという仕上がりになっているのは、ザ・バンドの存在証明じゃないでしょうか。

そしてオーラスの「Wedding Song」に至り、ついにボブ・ディランが生ギターだけで歌い、ハーモニカを吹いてくれれば、そこは恒久的なディランの世界という、素晴らしきワンパター!!! 全て分かっている楽しみが心地良いんですねぇ~♪

ちなみに各々の歌の歌詞の内容は、聴いていてすぐに分かるものではないでしょう、特に日本人には。しかしそこから伝わってくる説得力はボブ・ディランならではの強さが確かにありますから、耳で覚えた曲メロと歌詞のフレーズを口ずさんでしまうほど、このアルバムはある意味で聴き易く仕上がっています。

もちろんスピーカーの前でじっくり聴くのも最高の時間でしょうし、カーステレオやロック喫茶の店内、あるいは気の合う仲間との飲み会で、涙しつつ楽しむことも可能だと思いますから、やはり人気盤♪♪~♪

また当然というか、我国のフォーク系ミュージシャンに与えた影響も相当にあり、このアルバムで聴かれるサウンドをモロにパクッたレコードを幾つか聞いたこともありましたが、まさかそれが例えばユーミンあたりの所謂ニューミュージックに取って代わられようとは、知る由もありませんでした。

実は告白しておくと、リアルタイムでのサイケおやじは最初、ラジオのFM放送で丸ごと流されたこのアルバムをテープにエアチェックして聴いていたんですが、ついに4日目には我慢出来ず、輸入盤のLPを買ってしまったほどです。そして実際にアルバムを手にとってみると、ボブ・ディラン本人が書いたとされるジャケットのヘタウマな絵や手書きのアルバムクレジットから、妙な親近感を覚えたのも懐かしい思い出です。

ご存じようにボブ・ディランとザ・バンドは、このアルバムの発売に合わせて北米巡業を敢行し、そこからはこれも私が愛聴して止まない2枚組のライプ盤「偉大なる復活」が作られたわけですが、今になっての客観的な視点では、このふたつの共演作はファンが望んでいた「1960年代中頃のディランのイメージ」を増幅したサービスだったのかもしれない……、と不遜なことまで思ったりします。

お叱りは覚悟していますが、それでも私のような古い人間が長く今日まで愛聴出来ているのは、そんなところにも要因があるのかもしれません。

極言すれば、このバックがザ・バンド以外のメンツだったら……? なんてことを想像するだけで、ちょいと悪い予感に満たされるのです。

ただし、個人的には「いつまでも若く」よりは、「昨日よりも若く」と歌ったボブ・ディランに共鳴する部分が多いのも確かです。

それと最後になりましたが、ボブ・ディランはこのザ・バンドとの「プラネット・ウエイヴ」と「偉大なる復活」を作った後、古巣のCBSコロムビアと再契約し、その2作品も同レーベルから再発され、今日に至っていますが、以前友人から聞かせてもらったCDに顕著なように、アサイラムでプレスされていたレコード、つまりオリジナル盤に比べると、音が些か痩せているのが気になります。

このあたりは現行のリスマターCDでは未確認ですから、最新盤を買ってみようかなぁ~。そんなことを思っているのでした。

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ロック喫茶でボビー・チャールズ

2010-02-15 14:39:43 | Singer Song Writer

Bobby Charles (Bearsville)

1970年代の日本ではジャズ喫茶がそれでも元気だったように、ロック喫茶やソウル酒場なんていう店も沢山ありました。

それはだいたい学生とか自由業の連中が客層で、同じ若者といっても所謂ネクタイ族は些か居心地の悪い世界でしたから、店内で鳴らされるレコードも決して流行物ではなく、シブイ好みが反映されていました。

ですから、そこで出会う歌と演奏、隠れ名盤の数々こそが、ある意味では青春の思い出にもなっていて、本日ご紹介のアルバムも、サイケおやじにとっては、そのひとつです。

ちなみにこれまでも度々述べてきたように、サイケおやじは体質的に酒に酔うことがほとんどありませんから、仲間内でそういう店に集まってウダウダと飲み食いし、盛り上がっていても、妙に客観的になって浮いてしまうことを自覚するがゆえに、流れている音楽に逃避するという悪いクセがあります。

つまり酒よりも音楽に酔う雰囲気なんですが……。

それにしても、このアルバムはシブイ! その一言です。

なんというか、ザ・バンドっぽい演奏パートとR&Bやカントリーロックをハートウォーム優先主義でスワンプロック化したような、つまりは如何にも1970年代前半のアメリカ系シンガーソングライターがイブシ銀にやってしまった地味な作りです。

もちろん派手なギターソロも出ませんし、大仰な力みや開放的な曲メロも無く、それでいて琴線に触れるシミジミとした情感や懐かしい雰囲気が滲み出た歌ばっかりなんですねぇ。仄かなジャズっぽさも良い感じ♪♪~♪

 A-1 Street People
 A-2 Long Face
 A-3 I Must Be In A Good Place Now
 A-4 Save Me Jesus
 A-5 He's Got All The Whiskey
 B-1 Small Town Talk
 B-2 Let Yourself Go
 B-3 Grow Too Old
 B-4 I'm That Way
 B-5 Tennessee Blues

まずA面初っ端から重いビートとイナタイ雰囲気、ファンキーグルーヴさえ秘めたリズム隊とアコースティック&エレキのギターが絶妙のスパイスを効かせる「Street People」では、それがイキそうでイカない曲メロを彩るという、実に思わせぶりな展開です。

ちなみにモロにザ・バンドしている演奏を作るメンバーは、リック・ダンコ(b)、リチャード・マニュエル(p,ds)、ガース・ハドソン(key,sax)、リヴォン・ヘルム(ds) という、本物のザ・バンド! そしてエイモス・ギャレット(g)、N.D.スマート(ds)、ジェフ・マルダー(g)、ドクター・ジョン(p)、ベン・キース(stg) 等々、今となっては多士済々の顔ぶれが名前だけですが、裏ジャケットに記載されています。しかしこのアルバムを初めて聴いた1974年の私は、ザ・バンドのメンバーしか、その正体を知らなかったのが本当のところです。

もちろん主役のボビー・チャールズにしても、ジャケ写から白人だと知れるぐらい……。そして自作自演のシンガーソングライターらしい……。

ですから、次にその店に行った時、サイケおやじはこのアルバムをリクエストし、ジャケットを見せてもらいながら、マスターにいろいろと教えを請うたのです。

で、そのボビー・チャールズは1950年代からニューオリンズ周辺のR&B系歌手に曲を提供する裏方であり、1960年代には自身もシングル盤を出していたようですがパッとせず、しかも悪いクスリに溺れてキャリアを台無しに……。

そして1970年代に入り、ニューヨーク郊外のウッドストックという小さな町に拠点を移し、ちょうどその頃、当地とも因縁浅からぬザ・バンドやボブ・ディラン等々のマネージメントをやっていたアルバート・グロスマンが設立したベアズビルレコードと契約し、1972年に制作発売されたのが本日の1枚だったのですが、前述のセッション参加メンバーも、そのコネクションで集められたのでしょう。

ですから、ボビー・チャールズが本来持っている南部系R&B風味、ニューオリンズ特有の陽気な哀愁がゴッタ煮となったソウルジャズ、さらに白人が自然に歌えるカントリーロックの雰囲気、おまけに当時の最新流行だったザ・バンドに影響されたシンプルで力強いグルーヴが、シブイ情感を滲ませるのは必然でした。

ローリングするピアノと味わい深いオルガンが印象的な演奏パートをバックに、それこそホノボノとせつなく歌われる「Long Face」は、これぞニューオリンズスタイルのR&Bが白人的に解釈された決定版♪♪~♪ もちろん「ニューオリンズスタイルのR&B」なんていう言葉は、このアルバムを聴いて以降に私が勝手に使っているわけですが、それでも続けて興味を持ったファッツ・ドミノ等々のオールディズR&Bには、同じ味わいがあってシビレましたですねぇ~♪

同様に「I'm That Way」は、もう後のリトル・フィートに直結していきそうな真性ファンキーロックのニューオリンズ的味わいが全開! このスライドギターとローリングするピアノの楽しさは、幾分ネバネバしたボビー・チャールズのボーカルを見事に盛り上げていますし、タメが効いてタイトなドラムス、躍動するベースもたまりません♪♪~♪

またジャズスタンダード曲のようでもあり、地味なAORバラードとも言うべき「I Must Be In A Good Place Now」での、そこはかとない泣き節の上手さは絶品ですし、この曲メロのせつない甘さは忘れられませんよ♪♪~♪ ボビー・チャールズは失礼ながら、決して歌の上手い人ではないと思うのですが、それゆえに朴訥としたリアルな心情吐露が、実に良いんです。

同系の歌では本当にシミジミした曲メロとサウンド作りの中、辛辣な歌詞がちょっとイヤミな「Small Town Talk」が、これまた絶品♪♪~♪ 今日まで、けっこう多くの歌手に好まれているのもムペなるかな、これぞっ、ボビー・チャールズの代表曲のひとつです。そしてオーラスに置かれた「Tennessee Blues」もまた、せつない悔悟と新しい明日がホロ苦く歌われた名曲名唱ですよ。

一方、ゴスペルロックのイナタイ解釈が素敵な「Save Me Jesus」も個人的には大好きですし、ちょいとライ・クーダーあたりがやりそうな「He's Got All The Whiskey」でのオールドジャズとカントリーブルースの素敵な結婚も魅力的♪♪~♪ ちなみにここでバリトンサックスを吹いているのはデイヴィッド・サンボーンだと言われていますが、テナーサックスはガース・ハドソン? リズム隊が少しずつファンキー化していくのも流石でしょうね。

しかし正統派カントリーロックのスロー曲「Let Yourself Go」では、逆に白人ジャズっぽい歌唱を聞かせてくれたり、ブルースロックに接近しつつ、結局はホノボノ路線に入ってしまう「Grow Too Old」の不思議な味わいは、メインでブロデュースを担当したジョン・サイモンというアメリカ大衆音楽の隠れた鬼才の企みによるものでしょうか……。個人的には???なんですが、LP片面を通して聴くと、これが妙に納得される流れなんですよ。おそらくはデイヴィッド・サンボーンと思わせるアルトサックスも泣いていますし♪♪~♪

ということで、これまたサイケおやじが棺桶盤の1枚なんですが、現在はCD化もされ、容易く聴ける状況も、当時は日本盤も無く、入手に苦労させられました。

そして聴くほどに魅せられたサイケおやじは、裏ジャケットにクレジットされたメンツの名前を頼りに、同系の味わいを求め、レコード探索の奥の細道を歩んで行くのですが、ハッと気がついてみると、私の大好きなトッド・ラングレンのソロアルバム群が、このペアズビルレコードから出ていたり、また所謂ウッドストック人脈の例えばドラマーのN.D.スマートが初期マウンテンのレギュラーだったとか、私の好みの各所に共通する存在感を示していたことも意味深でした。

それとザ・バンドの4作目のアルバム「カフーツ」やライプ盤の「ロック・オブ・エイジス」あたりから顕著になったニューオリンズR&B味が、実はボビー・チャールズを通じてコネクションが出来たアラン・トゥーサンという偉人の影響という真相も意義深いところだと思います。

ちなみにザ・バンドのリック・ダンコが、このアルバムのもうひとりのプロデューサーとして、縁の下の力持ちを務め、さらに前述の名曲「Small Town Talk」の共作者だったことも要注意でしょうね。

正直、滋味豊かなれど、シブ味も強いアルバムですから、決して万人向けではないんですが、これもまたロック喫茶があった時代の空気にはジャストミートしていたのです。それが後にカフェバーとかいう、お洒落優先主義の流行に取って代わられると同時に、そこで流れる音楽もAORや都会派フュージョン等々になりましたから、もって瞑すべしかもしれませんね……。

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オールマンズ上昇期の発掘音源

2010-02-14 15:06:42 | Allman Brothers Band

American University Washington, D.C. 12/13/1970
               / Allman Brothers Band (TABB Recording Company = CD)

所謂アーカイヴ物と呼ばれる発掘音源シリーズは、例えば先日ご紹介したグレイトフル・デッドの「ディックス・ピックス」シリーズのようにミュージャン側主導で発売されることが多く、他にもドアーズ、ニール・ヤング、そして本日の主役たるオールマン・ブラザーズ・バンド等々は、何時の時代のファンからも熱心な注目を集めています。

で、中でも特に熱くさせられるのが、早世した天才の遺産に接することでしょう。

オールマンズで言えば説明不要、1971年10月のデュアン・オールマン、そして翌年のベリー・オークリーの度重なる悲報によって、その上昇期に水をさされた時代こそが、ファンにとっては永遠の思い出になっているはずですから、未発表音源の登場はノー文句!

本日の1枚は、その本格的な第一弾として、確か2002年頃からオールマンズの公式ホームページでネット通販されたものですが、これが歓喜悶絶の熱血ライプ♪♪~♪

録音は1970年12月13日、メンバーはデュアン・オールマン(g)、ディッキー・ベッツ(g)、グレッグ・オールマン(vo,org)、ベリー・オークリー(b)、ブッチ・トラックス(ds,per)、ジェィモー(ds,per) という公式デビュー以来の熱血6人組ですから、ブルースとソウル、カントリーやラテンからモダンジャズまでもが寄せ鍋状態で煮詰められ、もちろんサイケデリックロックの隠し味も効いた、なかなか美味しい演奏が楽しめます。

しかも気になる音質が、荒っぽいモノラルミックスながら、丁寧なリマスターによって低音域もガッチリ固まったド迫力! 全く普通に聴き易いのです。

 01 Statesboro Blues
 02 Trouble No More
 03 Don't Keep Me Wonderin'
 04 Leave My Blues At Home
 05 Stormy Monday
 06 You Don't Love Me
 07 Whippin' Post

上記演目は、あの超絶の名盤「アット・フィルモア・イースト」や「イート・ア・ピーチ」と共通するものがありますから、聴く前に騒ぐ血を抑えきれないわけですが、もちろんここでも濃厚な演奏は期待を裏切りません。

お馴染みのキメのリフからデュアン・オールマンのスライドが「空飛ぶ犬」状態の「Statesboro Blues」は、粘っこいグレッグ・オールマンのボーカルに絡みつく終盤の勢い共々に、何度聴いても唸る他はありませんし、そのスライドがギリギリの高音域まで飛翔した「Trouble No More」は怖いほどです。

そして「Don't Keep Me Wonderin'」における激ヤバに躍動するバンドアンサンブル、その間隙でハードに唸るスライドのテンションの高さは、流石にあの「レイラ」セッションでエリック・クラプトンを震撼させた実力の証明でしょう。

いゃ~~、全く、凄いです!!!

しかし、もうひとりのギタリスト、ディッキー・ベッツの頑張りも特筆もので、「Leave My Blues At Home」のツインリードやフレーズの掛け合いからは必死さがダイレクトに伝わってきて憎めません。

もちろん随所でデュアン・オールマンに押されまくっているのは否めませんが、それでも不滅の天才に対抗する意気地は「You Don't Love Me」で見事に実証され、中盤からのドラムスだけをバックにしたアドリブ合戦ではヤケッパチの居直りというか、相当に感情的になったプレイが高得点♪♪~♪

ちなみにこの音源は既に述べたようにモノラルミックスですから、ふたりのギターがどっちがどっちなのか、初めてオールマンズを楽しまれる皆様には区別が難しいかもしれませんが、当然ながら野太い音で閃きに満ちたフレーズを連発するのがデュアン・オールマン! 幾分細い音色で常套のスケールを使うのがディッキー・ベッツでしょう。

しかし、それにしても、ほとんど神の領域に近づいているデュアン・オールマンに、ここまで堂々と対抗し、協調出来るディッキー・ベッツの実力も凄い思いますねぇ。ここでの「You Don't Love Me」を聴いていると、本当にそう思う他はなく、あくまでも個人的な感想では、前述した「アット・フィルモア・イースト」のバージョンを超えているように思うほどです。

あぁ、白熱の15分48秒! 随所に仕掛けられた「お約束」にも、嬉しくなりますよ♪♪~♪

その意味でブルースの伝統に忠実な「Stormy Monday」は、苦みばしったグレッグ・オールマンのボーカルに対し、意外にも幾分甘いフィーリングで泣くデュアン・オールマンのギターが、これまた素晴らしすぎて、震えがくるほどです。ただし録音テープの関係でしょうか、それが途中で途切れてしまうのが残念無念……。

しかしオーラスで、なんと20分半以上の熱演が完全収録された「Whippin' Post」は圧巻! もしこれが途中で終わっていたら、モヤモヤが高じて精神衛生に悪影響は必至でしたから、感謝するばかりです。

実際、地響きの如く躍動するリズム隊の暴虐や力んだグレッグ・オールマンのボーカル、さらにラフなところが逆に凄いバンドアンサンブルがあってのアドリブ合戦には、絶句ですよ。このあたりはモノラルミックスで団子状で迫ってくるサウンド作りが完全に良い方向に作用した、所謂結果オーライでしょうねぇ~♪

本当に大波の如く押し寄せてくるオールマンズのド迫力の演奏には、圧倒されてしまいます。もちろんボリュームをガンガン上げてしまっても、誰にも責任はとれないわけです。

ということで、やっぱり凄い発掘音源なんです!

時期的にはデビューアルバムを出してから約1年後であり、また前述したとおり、エリック・クラプトンとの「レイラ」セッションを経て、バンドがますますの自信をつけた頃の演奏ですから、まさに止まらなかった勢いが感じられて当然だと思います。

またこの後、1971年3月に録音された傑作公式ライプ盤「アット・フィルモア・イースト」との比較では、纏まりという点では劣るかもしれませんが、逆に言えばラフ&ハードなこちらを聴いていると、「アット・フィルモア・イースト」は綺麗すぎて……、というような不遜な暴言を吐いてしまいそうです。

まあ、実際には言ってしまったわけですから、ご容赦願うとしても、それだけの熱気と興奮が、この復刻CDには収められています。

ですから、最初はネット販売だけだったものが、確か後には日本盤としてレコード会社が発売しているはずですから、容易く聴けると思いますので、機会があれば、ぜひっ!

そして同シリーズはもうひとつ、デュアン・オールマンが生前の1971年9月19日の演奏を収めた2枚組のセットがあって、それも熱いですよ。また当然ながら他のレコード会社からも発掘音源盤は幾つか出ていますから、良い時代になったものです。

そのあたりは今後も、追々に書いていきたいと思います。

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ホリーズにサイケデリックは似合っていたか?

2010-02-13 15:17:22 | Hollies

キング・マイダスc/w君はサンシャイン / The Hollies (Parlophone / 東芝)

1970年代に入ってからのCSN&Yの大ブレイクは各方面に影響を与えましたが、サイケおやじにとって困ったのは、そのメンバーのひとりだったグラハム・ナッシュが在籍していたホリーズの中古盤が値上がりしてしまったことも、そのひとつでした。

そのホリーズと言えば、なんといっても「バス・ストップ」の大ヒット以降、日本でもそれなりの人気があったイギリスのビートグループでしたが、時代の要請もあって、そのサウンドは何時しかサイケデリック系フォークロックへと発展進化しています。

しかし同時に従来のポップス系のフィーリングに拘るファンの気持とズレが生じていたのは、否めないところじゃないでしょうか?

リアルタイムでは、とりあえず好きなバンドだったホリーズというサイケおやじにしても、経済的な問題から彼等のレコードはホイホイ買えるわけもなく、それゆえにラジオの洋楽番組を頼りに楽しんでいたわけですが、そこから新曲扱いで流れてくる歌と演奏が、少しずつでありますが、迷い道になっている感じを受けていました。

今となっては、ホリーズがグラハム・ナッシュの主導によって、ビートルズやアメリカのサイケデリックロックを意識した音楽性へと踏み込んでいった云々が理解されるのですが、少年時代のサイケおやじにすれば、「ホリーズ=バス・ストップ」という図式を何時までも望んでいたのです。

そして、そんなモヤモヤを結論づけてしまったのが、昭和42(1967)年に発売された、本日ご紹介のシングル曲「キング・マイダス / King Midas In Reverse」でした。

それはアコースティックギターをメインにした不穏なムードのイントロから、キャッチーでありながら、どこか煮え切らないメロディ展開、途中から入って来るエレキベースやドラムスの混濁した存在感が、ホリーズならではの素晴らしいコーラスワークを汚しているように思えましたし、クライマックスに向けて重ねられていくストリングスやオーケストラが、ほとんどビートルズの「Strawberry Fields Forever」と同系の怖いサイケデリックロックになっていたのです。

う~ん、「バス・ストップ」からは1年ちょっとで、この変貌!?!

もちろん以前にも書きましたが、当時のサイケおやじはビートルズのそうした方針には懐疑的というか、はっきり言えば理解出来ないことから不安を感じていたのが正直な気持でしたので、ホリーズに対しても拒否反応が出たのでしょう。

実は後に知ったところによれば、この曲はグラハム・ナッシュがプロデューサーや他のメンバーの反対を押し切ってレコーディングし、シングル発売した結果、英米でも期待外れのお情け小ヒットだったそうですし、これがきっかけとなって、グラハム・ナッシュはホリーズを脱退することになるのですが……。

そんなことは知る由もなかった翌昭和43(1968)年、ホリーズは初来日公演を行い、この時はテレビにも出演し、確か口パクで歌っていた記憶があるんですが、この時の所謂来日記念盤として発売されたのが、この「キング・マイダス」と同じ時期に作られていた、サイケデリックロックの定番アルバム「バタフライ」でした。

しかしサイケおやじは、リアルタイムで聴けるはずもなく、時が流れました。

その間、何時しかリーダー格だったグラハム・ナッシュがホリーズを脱退し、メンバーチェンジがあった報道が地味になされ、なんとなく私もホリーズへの興味を薄くしていったのです。

そして更に時にが流れ、ついにCS&NからCSN&Yの人気が沸騰した時、サイケおやじには再び、ホリーズへの熱い思いが復活し、後追いで集め始めた彼等のレコードで蒐集に苦労したのが、本日のシングル盤だったのです。

なにしろ前述したアルバム「バラフライ」には未収録でしたし、ロクにヒットもしていなかったシングル曲でしたからねぇ……。私の手元にやってきたのは昭和51(1976)年になっていましたが、前述したとおり、ドタマにくるほど値上がりしていましたよ。まあ、今日ほどの狂乱価格ではありませんが。

しかし内容は、その時だったからこその感動というか、はっきりとサイケデリックロックの醍醐味が分かりかけていた私にとっては、ストライクゾーンのど真ん中♪♪~♪

さらに嬉しかったのが、B面収録の「君はサンシャイン / Everything Is Sunshine」が、短いながらもグラハム・ナッシュ特有の優しいメロディと独り多重コーラスが冴えた名曲・名唱の決定版♪♪~♪ もうほとんどCS&Nの世界が出来上がっているといって、過言ではないと思うほどです。

ちなみに、これも後に知ったことではありますが、このシングルの両面とも、完全にグラハム・ナッシュのソロレコーディングに近い作りだったそうですから、さもありなんですよね。そしてグラハム・ナッシュが抜けた後のホリーズが、再びポップス系ロックバンドへと立ち返り、「ごめんねスザンヌ」のウルトラヒットを出したのも当然の帰結だったと思います。

ということで、サイケデリックロックなんていうものが、如何にリアルタイムの一般音楽ファンにとっては重荷だったか?!? そんな証明のひとつになりうる隠れ名曲シングル盤が、本日の1枚でした。

おそらく現在では両曲ともにCD化されていると思われますので、機会があればお楽しみいただきたいところですが、このシングル盤のジャケットに顕著なように、取繕ったサイケデリック風味こそが、当時の洋楽の気分だったことをご理解願いたいところです。

つまり雰囲気に酔って聴くのも、音楽の楽しみのひとつかもしれません。

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快楽のライブはデッドの本領

2010-02-12 14:42:40 | Rock Jazz

Dick's Picks Volum One / Grateful Dead (GDCD)

スタジオ録音よりは明らかにライプステージでの演奏に魅力を発揮出来るミュージシャンが確かに存在し、例えばグレイトフル・デッドは、その代表格かもしれません。

ですからライプアルバムも数多く出していますし、巡業公演から作られたブートもどっさり出回っていますが、それはグレイトフル・デッド側の寛容な姿勢によって、会場毎に決められた料金さえ払えば、ファンは堂々と録音出来る環境が許されていたからです。

もちろんグレイトフル・デッド本人達にしても、実は正式デビューした1967年以前から、自分達のステージのほとんどを録音していたという、実に几帳面なところがあって、ついに1993年頃は、その中から選んだ音源を自ら発売するという企画がスタート!

それが「ディックス・ピックス」と呼ばれるシリーズで、本日のご紹介は、とりあえず、その最初となった2枚組のCDです。

☆CD ONE
 01 Here Comes Sunshine
 02 Big River
 03 Missiesippi Half Step
 04 Weather Report Suite
 05 Big Railroad Blues
 06 Playing In The Band
☆CD TWO
 01 He's Cone →
 02 Truckin' →
 03 Nobody's Fault But Mine →
 04 Jam →
 05 Other One →
 06 Jam →
 07 Stella Blue
 08 Around And Around

既に述べたようにグレイトフル・デッドというバンドは、1960年代中頃からのサンフランシスコでサイケデリックロックの代表選手でしたから、アドリブどっさりの長尺演奏は得意中の得意でしたが、その側面というか裏側として、LSDという薬物による実験や各種ドラッグとの相乗効果による、所謂トリップを音楽で表現したり、あるいはそういう状態をさらに具象化していく狙いがバンドとしての存在意義だったことは諸説ありながらも、ある意味では外れていないと思われます。

ですからグレイトフル・デッドには、通称「デッドヘッズ」という熱心なファンが存在し、巡業の追っかけを長年やっている信者が大勢いるのです。

実は、これはちょっとヤバイ実情なのですが、グレイトフル・デッドのライプに常に大観衆が集まるのは、そこで良質のドラッグ類が容易く手に入るからだと言われています。

まあ、それはそれとして、とにかくグレイトフル・デッドのライプ演奏は、クセになる心地良さを秘めているのは間違いなく、例えそんなものに頼らなくとも、聴いているだけで音楽的な快楽を得られる大勢のファンの存在だって無視出来ないでしょう。

さて、このCDに聞かれるのは1973年12月19日、フロリダはタンパでのライプ音源で、これまで公式盤として出してきたライプアルバムと決定的に違うのは、ステージを極力、そのまま収録していることです。

ご存じのようにグレイトフル・デッドのライプは演奏時間が長く、それはアドリブパートや演奏の膨らみ具合により、決して毎回が同じではないところに魅力の一端があります。

それゆえに「ディックス・ピックス」のシリーズは今日まで、いろんな時代の壁を超え、かなりのボリュームになっていますが、その全てに聴きどころがあり、このひとつだけでは、とてもシリーズの存在意義を語ることなど不可能です。

しかし、この音源が残された時期のグレイトフル・デッドは、デビュー以来のワーナーから自分達のレーベルを設立しての最初のアルバム「新しき夜明け」を発表した直後とあって、タイトルどおりに気分一新の意気込みがあったように思われます。

メンバーはジェリー・ガルシア(vo,g)、ボブ・ウィア(vo,g)、フィル・レッシュ(b)、ビル・クルーツマン(ds)、そして特別参加のキース・ゴドショウ(p,key) の5人組だと推察出来ますが、その演奏は実に伸びやかな自然体♪♪~♪

繰り返しますが、グレイトフル・デッドのステージ進行は基本が同じでも毎回、その時の気分によって大きく変化していくのが常で、ここではまず前述の最新アルバム「新しき夜明け」に収録されていた「Here Comes Sunshine」がユル~く始まります。もちろん観客にはピカピカの新曲ということで期待と不安があるんでしょうが、演奏は何時しか浮遊感に満ちた展開となり、そこにはジェリー・ガルシアの不思議界ギターとも言うべき、所謂スペーシーなアドリブを中心に、各メンバーがジコチュウと協調のバランスを取りながら、グループとしての纏まりを追及していく構成が気持良いかぎり♪♪~♪

つまりライプの現場では、ひとつの楽曲がテーマとなってアドリブパートが膨らんでいくという、ジャズと同じ手法が繰り広げられているのです。

まあ、こうしたやり方は同時代のオールマン・ブラザーズ・バンド等々にも聞かれますが、例えばオールマンズが演奏の要所にキメのリフやお約束を盛り込んでいるのに対し、グレートフル・デッドはあくまでもナチュラルな姿勢というか、ある意味では成り行き任せの展開から起承転結を作り出しているように思います。

ですから、ひとつ間違えると、ユルユル過ぎて、素面では聴いていられないところも確かにあるんですが、虚心坦懐にグレイトフル・デッドの演奏に身を任せていれば、快楽の桃源郷は必ず現出するというのが、このグループのライプならではの素敵なところじゃないでしょうか。

この時期の演奏スタイルとしてはサイケデリックロックの残滓、カントリーロック、フュージョンとフォークソングのゴッタ煮、さらにR&R保守本流の躍動が、それこそ千変万化に消えては現れるメドレー形式が特徴的です。特に「CD TWO」では演目に「→」がわざわざ表記されているとおり、本当に美しき流れが堪能出来ますよ。

ちなみにグレイトフル・デッドに、どうしてこんな演奏が出来るのかはミステリアスな部分も多いのですが、おそらくはモダンジャズでは普通のモード手法の導入とか、暗黙の了解があってのことでしょう。素人には計り知れぬ奥行なんでしょうねぇ。

ただし、そんな理論的なことは関係なく、グレイトフル・デッドの演奏は不思議に心地良いですよ♪♪~♪

大まかに演奏をリードしていくのはジェリー・ガルシアのギターなんですが、そこへ執拗に絡んでいくボブ・ウィアのサイドギター、陰湿に暗躍するフィル・レッシュのペース、反応が適材適所に素早いビル・クルーツマンのドラミング、さらに的確な伴奏としぶとい演出をサポートするキース・ゴドショウのピアノは、繰り返しますが自然体でありながら阿吽の呼吸で纏まっています。

ちなみに、このシリーズの命名に関しては、主に音源管理をやっているスタッフのディック・ラトヴァラに因んだもので、倉庫が満杯になるほどのテープの山から、本人の好み優先で選んではCD化しているとか!?!

そういえば一時期、グレイトフル・デッドの優良ライプ音源が夥しく出回ったことがありましたが、それは件の倉庫の賃借料金が滞納された所為だったとか!?!

というように、書けば書くほど止まらなくなるのが、グレイトフル・デッドのミステリです。

幸いにも私は1990年に唯一度だけ、グレートフル・デッドのライプに接することが出来ましたが、まず会場には可愛らしい熊の人形とか、ステッカーやTシャツ等々の公認グッズがいろいろと売られていて、そのホンワカしたムードにサイケデリックな先入観を覆されました。

また前述したように客席には特別料金のプライベート録音エリアがあって、そこには各々が大袈裟なマイクを立てたり、昔ながらの巨大なオープンリール、あるいは最新のDATを駆使しながら、演奏が始まってもモニターばかりに気をとられている熱心なマニアが大勢いたことにも驚きました。

そして演奏は本当に長時間続き、会場はフリーエリア状態でしたから観客は立ったり、寝そべったり、もちろんラリルレロで踊っているやつも目立ちましたですね。しかし決して暴動なんかにはなりそうもない、非常に良い感じだったのが思い出に残っています。

グレートフル・デッドは長いバンドの歴史の中で、多くの演奏を残してくれましたから、最初はどっから聴いて良いのか迷われるかもしれませんが、個人的にはどれでも良いから、まずはライプ音源から楽しむことをオススメ致します。

ちなみに「ディックス・ピックス」のシリーズは、公式発売を想定したレコーディングではなく、サウンドボード直結のライン録音がメインなので、左右と真ん中から分離し、団子状になったサウンド作りになっていますから、観客の声援や拍手も控えめにしか聞こえませんので、臨場感は希薄です、

しかしそれゆえにライプの現場での一発勝負の生々しさは半端ではありません。当然ながら凡ミスも散見されますし、チューニングの狂いや時には楽器の不調といったハプニングが記録されていることもあります。

でも、それがグレイトフル・デットという魔法のバンドにあっては、全てが良い方向に作用していると感じるのは、サイケおやじの思い込みでしょうか……。もちろん、その日によっての演奏の良し悪しは確かにあって、あくまで個人的な基準としては、フィル・レッシュが好調だと、バンドのノリや創造力も高まっているように思います。

ということで、皆様にも、ぜひ、お楽しみいただきたいのが、グレートフル・デッドのライプです。ただし中毒性が強いですから、ご用心、ご用心。

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心地良い二番煎じのアメリカ

2010-02-11 14:21:54 | Rock

名前のない馬 / America (Warner Bros. / ワーナーパイオニア)

サイケおやじは所謂「二番煎じ」が嫌いではありません。

というか、映画でも「続」や「新」、あるいは「PRAT-2」が相当に好きですから、それは音楽の世界でも柳の下のなんとやらが大好きなのです。

そして、とくれば、本日の主役たるアメリカはご存じ、CSN&Yの味わいを強く受け継いだ人気3人組として、ご紹介のシングル曲「名前のない馬 / A Horse With No Name」で世界的に大ブレイクしたのが1972年でした。

もちろんそれは我国でも同様で、ちょうど歌謡フォークと生ギターのブームが合致したこともあり、昭和47(1972)年の洋楽ラジオ番組ではチャートのトップを独走するという異常事態! なにしろ当時はレッド・ツェッペリンやディープ・パープル、マウンテン、グランドファンク、フリーあたりのハードロックの直球ど真ん中が絶頂でしたからねぇ。

と同時に、キャロル・キングやジェームス・テイラー、ドン・マクリーン等々のシンガーソングライター組も人気を集め、当然ながらCSN&Yのメンバー各人も大活躍していた頃ですから、こういう「二番煎じ」が堂々の登場となったのは、明らかにブームの流れが変わったことを感じさせました。

それは実際、まるで定番ボサノバの「One Note Samba」の如き抑揚の無い曲メロとシンプルすぎるアコギのカッティング、さらに虚無的なボーカル&コーラスが特徴的なわけですが、これが当時の若者の風潮だった「三無主義」と絶妙にリンクしていたという感じも、今はしています。

しかし演奏そのものは用意周到に組み立てられたもので、軽快なパーカッションと印象的なエレキベースの使い方は、後のフォーキーロック路線に繋がるものでしょうし、何よりも気だるいコーラスワークがCSN&Yとザ・バーズを足して、さらにビートルズの隠し味で仕上げたような、丸っきり王道ポップスファンの琴線に触れまくりのスタイルになっています。

ちなみにアメリカのメンバーはジェリー・ベックリー(vo,g,b,key)、ダン・ピーク(g,vo)、デューイ・バネル(g,vo) という高校時代の学友トリオで、しかもアメリカ人でありながらイギリスからデビューしたという、ちょいと面倒くさいキャリアがあるのですが、それゆえに「名前のない馬」を含むデビュー作のセッションはイギリスで行われています。

とすれば、スタイルはアメリカ西海岸風ながら、どこか霧に霞んだような、あるいは重心の低いロックビートの感じさせ方とか、やはり同年にデビューするイーグルスも最初の公式レコーディングがイギリスだったことを思えば、所謂「1970年代のウエストコーストロック」はイギリスにルーツがあるという、実に納得するのに時間がかかる学説さえ浮かんでくるのです。

そして既に述べたように、グループとしての音楽性にはビートルズの味わいが隠しようも無く、それはこのシングルヒットを含む最初のアルバムに色濃く滲んでいるわけですが、そうした「全て分かっている楽しみ」というのは、意外に心地良いものです♪♪~♪

さらに穿ったことでは、二番煎じの個性というか、それは良いとこ取りかもしれませんが、一説にはロックの進化は1969年の大晦日で終り、以降は順列組み合わせとする意見も肯定出来るところでしょう。

ということで、本日も理屈っぽくなりましたが、この「名前のない馬」ように、素直に好きなものだけやって成功するのは羨ましい限りです。

二番煎じ、万歳!

最後になりましたが、B面集録の「カリフォルニアの仲間 / Everyone I Meet Is From California」はアルバム未収録曲だと思いますので、要注意!

そういうところも、当時のシングル盤ならではの楽しみなのでした。

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初めて買ったフランク・ザッパ

2010-02-10 14:01:04 | Rock Jazz

Hot Rats / Frank Zappa (Bizarre / Riprise)


フランク・ザッパについて、何をどうやって書けば良いのでしょう……。

そんなことを思うより他はないほど、フランク・ザッパという人は鬼才、異能の天才、大衆音楽の芸術家、サイケデリックロックの巨匠、凄腕ギタリスト、ジャズロックフュージョンの開拓者、現代音楽の面汚し、等々の異名がどっさりあって、もちろんそれは制作発表してきたレコードや夥しいライプステージに接した人々の十人十色の気分を素直に表したものでしょう。

しかしフランク・ザッパについては、その名前だけが独り歩きしている感じが確かにあって、特に我国では1960年代末頃から音楽雑誌に記事やレコード評が載っていても、なかなか実際には聴く気になれなかったのが、サイケおやじの気持でした。

なにしろラジオから流れてくるようなシングルヒットも無く、ジワジワと日本盤も出ていたLPにしても、言葉が理解出来ないと十分に楽しめない云々という評論解説があっては、高いレコードに手が出るはずもありません。

そして時が流れました。

昭和40年代も後半なると輸入盤が安く買える環境になったその頃、私の前に忽然と現れたのが、本日ご紹介のアルバムです。

これは結論から言うと、だいたいが自分のバンドだったマザーズを率いての活動をやっていたフランク・ザッパが、あえてソロ名義で作り、1969年に発表したもので、内容はジャズフュージョン系のインスト演奏がメインになっていますから、言葉の問題を抜きにして楽しめる、実に嬉しいレコードだったのです。

 A-1 Peaches En Regalia
 A-2 Wille The Pimp
 A-3 Son On Mr. Green Genes
 B-1 Little Umberllas
 B-2 The Gumbo Variations
 B-3 It Must Be A Camel

参加メンバーはフランク・ザッパ(g,b,per) 以下、マザーズの要だったイアン・アンダーウッド(p,key,sax,fl,etc)、ジャン・リュック・ポンティ(vln)、マックス・ベネット(b)、ジョン・ゲラン(ds)、ポール・ハンフリー(ds)、Ron Selico(ds) といったジャズ系のミュージャンに加え、シュギー・オーティス(b)、シュガー・ケイン・ハリス(vln)、キャプテン・ビーフハート(vo) 等々の大衆芸能組も侮れない活躍をしています。

まずA面ド頭「Peaches En Regalia」が今日に至るもフランク・ザッパの代名詞のひとつになっている、実に強烈なゴッタ煮フュージョンの極みつき! その親しみやすくて不思議なテーマメロディは民族音楽のようでもあり、極楽浄土の和みのようでもあって、実に素敵ですよ。きっとYMOのメンバーや渡辺香津美も大好きじゃないのかなぁ~。各方面で相当にパクられているのは言わずもがな、僅か3分半の密度の濃さは圧巻!

また同系の「Son On Mr. Green Genes」はフランク・ザッパの旧作なんですが、自身の強烈なギターソロをメインに大幅に雰囲気を変更してのジャズフュージョン決定版! ポール・ハンフリーのドタバタファンクなドラムス、マックス・ベネットの蠢くエレキベース、イアン・アンダーウッドが重層的な彩りを添えるサックスやキーボードによって、尚更の混濁を演出しています。

そして正統派モダンジャズを歪めたような「Little Umberllas」は、例えば今日のフレッシュ・サウンド・ニュー・タレントあたりで若手のモダンジャズプレイヤー達がやるような屈折感がありますし、全くの正面突破でロックジャズを演じきった「The Gumbo Variations」には、プログレの連中がモダンジャズに挑戦した数々の目論見を粉砕するが如きエネルギーが充満しています。

気になるキャプテン・ビーフハートの吠えるボーカルは「Wille The Pimp」で楽しめますが、ここでは黒人大衆芸能の人気者だったシュガー・ケイン・ハリスのバイオリンが良い味出しまくり♪♪~♪ 過激で猥雑な両者の競演が、淡々として濃密なリズム隊に支えられているようで、しかし意地悪く躍動するマックス・ベネットのペースが激ヤバですよ。もちろんフランク・ザッパの呪術的ギターがジワジワと存在感を強めていくあたりも流石だと思います。う~ん、このギターソロ、中毒しますよ♪♪~♪

で、こうした演奏も含めて、このアルバムはダビング作業やテープ編集によって作られたものですが、そうした手際の良さが目立ちつつもイヤミはそれほど感じないと思います。

それはオーラスの「It Must Be A Camel」を聴けば納得というか、ローランド・カークと共通するような、異端でありますが、極めてジャズっぽい演奏ですから、そこに様々な詐術があったとしても、ジャズ者には一概に否定出来ないところじゃないでしょうか、苦しい言い訳かもしれませんが……。

まあ、それはそれとして、このアルバム全篇を通して活躍が顕著なイアン・アンダーウッドは正式な音楽教育を受けた曲者ですから、ピアノやキーボード、サックス等々の担当楽器の至極真っ当な音の出し方、幅広い音楽性を感じさせるアドリブや伴奏の上手さは要注意でしょうね。フランク・ザッパの参謀として、最高の適役を長くやってくれたのは幸いでした。

ということで、フランク・ザッパのある一面しか表現されていないとはいえ、入門用としては聴き易いアルバムです。

実際、サイケおやじが最初に買ったフランク・ザッパのレコードが、これでした。

本当に普通のジャズフュージョンとしても楽しめると思いますよ。

ただし安易な和みを求めるとハズレます。

告白すれば、私がこれを買ったのだって、楽器屋に集う諸先輩方のご意見に従ったわけで、その時にも覚悟が要求されていました。

そして結果は個人的に大正解! 以降、ぼちぼちではありますが、フランク・ザッパの後追いとリアルタイムでの修行を積み重ねる、つらい悲喜こもごもがスタートしたのです。

最後になりましたが、丸っきりホラー映画のポスターみたいなジャケ写とデザインもインパクトが大きいですよね。CD化もされていますが、機会があればアナログ盤もぜひ、体験していただきとうございます。

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チェット・ベイカーとスタン・ゲッツ、何時もやつ!

2010-02-09 15:43:51 | Jazz

Chet Baker & Stan Getz Live In Stockholm 1983 (Oh!vation = DVD)

久々のジャズネタは先日ゲットしてきたDVDのご紹介です。

主役は白人ジャズの頂点を極めたスタン・ゲッツとチェット・ベイカーという、永遠の人気者が共演ライプですから、ワクワクさせられるのはジャズ者の宿命でしょう。

しかし最初に告白しておきますが、サイケおやじは1970年代末頃からのチェット・ベイカーはNGなのが本音です……。いや、もっと言えば、あの輝かしい1950年代中頃までを聴いているだけでも満足してしまうという、偏向したファン故に、このソフトにも相当な悪い予感を抱いていました。

それが実際に鑑賞してみると、吃驚するほどモダンジャズの魅力がいっぱい♪♪~♪

実はこのソース、以前から有名なもののひとつとして、音源だけはLPやCDで幾つも出回っていましたが、映像がこれだけきっちり纏められたのは最初かもしれません。

そして、それだからこそ良かったというか、ご存じのとおり、この時期のチェット・ベイカーは往年の美青年の面影なぞ全く無い、見るからに不健康な佇まいと尚更に中性的になったボーカルのアンバランスが怖さを誘うというのが、サイケおやじの先入観でしたから、結果的にこの映像作品に記録された自然体のジャズ魂が不思議な感動を呼び覚ますのでした。

収録は1983年2月18日、ストックホルムでのライプセッションで、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、ジム・マクニーリィー(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、ビクター・ルイス(ds) という強力なカルテットにチェット・ベイカー(tp,vo) が特別参加した魅惑のグループ♪♪~♪

01 We'll Be Together Again (Stan Getz Ouarter)
02 I'll Remember April (Stan Getz Ouarter)
 この2曲はスタン・ゲッツがメインの演奏ですが、流石は実力派のリズム隊とあって、スタン・ゲッツも安定感のある堂々の吹奏を聞かせてくれます。それはスローな「We'll Be Together Again」でのジェントルな表現、アップテンポの「I'll Remember April」では躍動感溢れる十八番の展開を堪能させてくれるという、まさに王道の二本立て♪♪~♪
 しかし個人的には、それ以上にシビレたのがジム・マクニーリィーの真摯なピアノで、特に「We'll Be Together Again」では完全にバンドをリードする存在感! 自身のソロパートから演奏を終了に導く手際の素晴らしさは秀逸ですよ。ちなみにスタイル的にはエバンス派でしょうが、当然ながらチック・コリアやハービー・ハンコックの影響も取り込みつつ、地味な個性を確立されているのが好印象です。
 また軽く叩いているのにビートの芯が強いビクター・ルイスのドラミング、自己満足と協調のバランス感覚が好ましいジョージ・ムラーツも、侮れませんねぇ。

03 Just Friends (Quitet)
 ここからはスタン・ゲッツのMCに導かれ、いよいよチェット・ベイカーが登場しますが、マイクにぴったり張り付いて寝言のようなボーカルを聞かせてくれる姿は、やはり先が思いやれるのが本音でしょう。しかもスキャットに入っても、意図的かもしれませんが、時折の調子っぱずれとか……。
 しかし段々と調子を上げていく感じがスリルに結びつくと言えば、それは贔屓の引き倒しでしょうか。流石のリズム隊の素晴らしいサポートがありますから、それはそれでジャズを楽しむポイントのひとつだと思います。
 う~ん、ジム・マクニーリィーが良いぞっ♪♪~♪
 ですからチェット・ベイカーのトランペットがアドリブを始めてからのスタン・ゲッツの心配顔が少しずつニンマリしていく様子も、映像作品ならではのお楽しみでしょう。実際、このパートは悪くありませんし、もちろんスタン・ゲッツのアドリブソロに絡んでいくチェット・ベイカーのトランペットも存在感がありますよ。
 いゃ~、ジャズって、やっぱり良いですねぇ~~♪ 

04 My Funny Valentine (Quitet)
 そして始まるのが、これまたチェット・ベイカーでは十八番の中の人気演目!
 それゆえに、常に名演が期待されるわけですが、ポケットに手をつっこんだ姿で地味に歌う本人の佇まいは、良くも悪くもジャズプレイヤーとしての生き様を貫いたチェット・ベイカーそのものだと感銘を受けるほどです。
 もちろん歌と演奏は、先入観が覆されるほどに味わい深いです!
 そして素晴らしいトランペットのアドリブを聞かせてくれた終盤、おそらくは予定外だったのでしょうか、スタン・ゲッツがチェット・ベイカーの耳元に何か囁いた後、これまた素晴らしいテナーサックスを聞かせてくれるんですよっ!
 これを鑑賞出来ただけで、私はこの復刻に感謝しています。

05 Sippin' At Bells (Quitet)
 こうして完全に良い雰囲気になった会場に鳴り響くのが、マイルス・デイビスが書いたことになっているビバップの定番曲ですから、ここはウエストコースト流儀のハードバップが復活の狼煙!
 息の合ったテーマ合奏から流れるようなスタン・ゲッツのアドリブプレイは、やはり華やかにしてモダンジャズの王道を行くものですし、流石のリズム隊も引っ張られるようにスイングしていく様が痛快です。
 そして続くチェット・ベイカーが意想外の安定感ならば、ジム・マクニーリイーはモード節も交えた直球勝負! またジョージ・ムラーツのスジの通ったベースも好ましく、アドリブでの相当にアグレッシプな展開もビクター・ルイスの小技のシンバルワークを駆使したドラムソロに繋がるのですから、結果オーライでしょう。
 たまらず入っていくスタン・ゲッツも貫録ですよ。

06 Blood Count (Stan Getz Ouarter)
 これは嬉しい、スタン・ゲッツが静謐なパラードフレイで会心の歌心を披露した名演です。そして映像では、じっと聞き入るチェット・ベイカーの表情がアップになったりして、なかなか意味深な構成が、ジャズ者の気分を妙に高揚させるでしょう。
 リズム隊の的確なサポートは言わずもがな、丁寧に感情移入するスタン・ゲッツのこの時期の好調さが確認出来ると思います。もちろん客席からの拍手は鳴りやみません。

07 Milestones (Quitet)
 これもマイルス・デイビスのオリジナル曲ですが、有名なモードの方ではなく、それ以前に書かれたビバップバターンですが、それを穏やかな白人ジャズに翻案していくバンドのグルーヴが、実に快適です。
 特にテーマ合奏が終る寸前のスタン・ゲッツのアクションに呼応してアドリブをスタートさせるチェット・ベイカーのハートウォームなムードが最高っ! ですから、幾分のモタツキが散見されたとしても、リラックスしたモダンジャズの魅力が横溢するのです。
 そうしたところはリズム隊の適度に弛緩したノリにも伝染し、そのユルフン感が曲者♪♪~♪ あぁ、ジム・マクニーリィー、集めようかなぁ~♪
 と覚悟を決めそうになった次の瞬間、スタン・ゲッツが唯我独尊の個性的な歌心で待ったをかけるのですから、いゃ~、本当にたまらんですねぇ~~♪

08 Airgin (Quitet)
 これまた有名過ぎるソニー・ロリンズが書いた迫力のビバップ定番曲ということで、激しいリズム隊の煽りを受けたフロントの2人が初っ端から大ハッスル!
 しかも、まずはリズム隊に花を持たせるお膳立てがニクイばかりで、実際、演奏がグイグイと白熱したところで、ハッと我に返ったようにソロパートをスタートさせるチェット・ベイカーが、映像作品ならではの緊張感で高得点! アドリブそのものも、必死の追走という熱気が良い感じですよ。
 またスタン・ゲッツのハードにドライヴしまくったテナーサックスも鳴りが良く、もちろんアドリブフレーズも黄金の手癖を大サービス♪♪~♪ 残念ながら往年の浮遊感はあまり感じられませんが、真っ向勝負の姿勢は潔いんじゃないでしょうか。
 演奏はこの後、ビクター・ルイスのカッコ良いドラムソロから、トランペッとテナーサックスの絡み、そしてテーマ合奏というスリルが提供されて、これが一応の大団円になっています。

09 Dear Old Stockholm (Quitet)
 一端、ステージを退いたバンドが再び登場して演奏するのは、この会場で、これが出なければ収まりがつかない人気演目♪♪~♪ もちろんスタン・ゲッツの吹奏はハートウォーム優先主義ながら、随所に往年のクール節を滲ませるというベテランの上手さ♪♪~♪
 またチェット・ベイカーは、なんとマイルス・デイビス風の味わいをやってしまう禁じ手を披露するのですから、憎たらしいですよ♪♪~♪
 というか、ある時期に限ってはマイスル・デイビスよりも、チェット・ベイカーが好きな私ですからねぇ~♪ こんなところで、それが堪能出来ようとは、長生きはするもんです。最高っ!

10 Line For Lyons (Chet Baker & Stan Getz)
 オーラスは再度のアンコールに応えたという企画でしょうか、チェット・ベイカーとスタン・ゲッツのデュオで演じられる和みの一時♪♪~♪ あぁ、この安らぎとクールな余韻がたまりませんねぇ~♪

ということで、チェット・ベイカーの予想外の好調さによって、なかなか楽しめる復刻作品でした。

しかし欲を言えば、この時代の映像にしてはリマスターが甘く、またベースやドラムスに音の迫力が足りません。しかも音量を上げるとヒスノイズが目立ってくるのは減点です。

それでも個人的には「チェット・ベイカーのジャズ」という、刹那の極致に接することが出来ましたから、けっこう何度も鑑賞してしまいました。

ご存じのとおり、この人気スタアは悪いクスリに溺れ、それはこのライプの時点でも同じだったわけですから、それを購うための仕事だったのは疑う余地がありません。しかし、それでも良い演奏をやってくれればファンは満足だし、そんな私生活を云々するよりは、現実の姿を受け入れることもファンの悲喜こもごものひとつかと思います、

そのあたりも飲み込んで、虚心坦懐に楽しめば、このDVDは末長く楽しめる作品になるんじゃないでしょうか。

コメント (4)
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