代表の大キャプテン・長谷部誠
長谷部はもう、日本中盤の大エース。08~09シーズンにボルフスブルグがドイツで優勝して、ドイツ「キッカー誌」選出ベストイレブンに選ばれているのだから。
ドイツへ行ってからまず、死に物狂いで体を鍛えて、当たり勝てるようになった。それからおもむろに攻撃力を磨いて、針の穴を通す「速い縦パス」を身につけた。その結果、日本代表の中村憲剛とともに、世界水準DF相手にボールを前に進められる数少ない日本人MFになりおおせた。しかも、これら長谷部の全ての成長は、上り坂真っ最中で現在世界3位のリーグ、ドイツでなされたことだ。ドイツ代表のほとんどが国内でやっているリーグなのである。ちなみに、昨年のチャンピオンズリーグ準優勝チームもドイツのバイエルンだし、南アワールドカップで3位というのも、ドイツの特記事項。これらはみな、ドイツの上り坂を示しているはずだ。
こんな長谷部の、代表選出が決まって第一声はこうだった。「4強は取れます!」。当時世界6位のドイツのどの大男にも負けていず、マンチェスターユナイテッドと対戦してもマッチアップ相手のナニ(ポルトガル代表)にプレーをさせなかった彼がこう語ると、多少は信じられるのかなとも思えてきたから不思議だった。
こういう彼だから、代表キャプテンに選ばれた時には、ぼくは大喜びだったもの。そして、練習ゲーム連敗後の土壇場に臨んでは、スイスで選手たちだけの緊急会議。誰かのこの一言で、あの守備陣形に傾いていったと言われている。「色々な意見もあろうが、相手からボールを奪わないことには、何も始まらない」。強くこう主張した人間の少なくとも筆頭が長谷部だと、僕は推察してきた。それによって、アンカー阿部の重用と、俊輔のレギュラー落ちが決まった。この結論を下したのが岡田監督だとしても、岡田は、選手たちのこの意思表示を待っていたはずだとも思ったものだ。このように、長谷部はまた弁が立つ。スポーツ界有数の読書家としても有名な人物でもある。
長友佑都が「まこ様を尊敬している」とNHK対談で述べていた。これは他ならぬ長谷部誠の愛称。本人を前にした対談において真顔でそう答えていた長友が、僕には印象的だった。良い光景だなーと感じ入っていたものだが、日本人離れした長友だからこそ、長谷部の凄さが分かるのだと思う。賢くて上手い選手は日本人には多いが、長友のように強い選手は急に少なくなる。まして長谷部や長友のように、判断と速さまでを備えた選手はさらに貴重な存在だ。
彼も長友と同じで、香川とマッチアップさせればやはり香川を押さえるだろう。判断と走力との速さで勝っていると思うからだ。長友と同じで、比較的長い距離のスピードがあるから、相手エースの押さえにはいかにも似つかわしいのである。チャンピオンズりーぐでマンチェスターユナイテッドのナニとマッチアップしてすら、こう語る長谷部である。
「攻撃だけの選手は、僕は怖くない」
そう、速くても軽いからだ。長谷部はドイツ人にも当たり負けない肉体を持ち、なおかつ速いのである。