2 事故処理経過での「失敗」とか「工作」とか
今回の一覧表は事故処理経過における数々の「失敗」とか「工作」とかをあげてみたい。こんなに違う2つの言葉を並べなければならぬのは、こういうことなのである。福島の事故処理経過を観ていくと、失敗なのか、確信犯つまり怠慢や失敗を隠蔽する工作(がばれた)ということなのか、その区別が全く付かない点もあるのだ。単なる天災のようなものだけというのならば、こんな執拗に僕も追わなかったろう。「天災といくらかの失敗と言い合わせてはいるものの実は起こったことをできるだけ隠し通そうとする確信犯」ばかりに見える。こんな重大事故処理にあまたの頭脳が関わっていて、失敗と言うには単純すぎることばかりが目立ち過ぎるのである。すべてが責任回避とか、ガス抜きのように思えて、あまりにも国民を国民として扱っていないような無責任な言動ばかりが目だって、どんどん腹が立ってきたのである。
(2の以上の前置きは、一昨日の前回も書いた物だが、一部修正して再掲しておく)
⑤地震原因証拠の隠蔽工作
さて、地震原因証拠隠蔽工作というのがある。1号機の揺れが耐震設計基準内だったところから、他原発全ての安全基準見直しに波及する大問題点なのである。昨年12月16日の拙稿から、例によって中日新聞要約部分などをご紹介しよう。1号機は津波以前に地震動によって自動冷却装置が無効となり、手動操作に切り変えねばならなかったということだ。以下で重大なことは、このことを保安院がやっと渋々認めているという点にある。以下の文章で本日分末尾まで『』がついたものはいつものように、中日新聞の抜粋である
【 記事内容の主たる流れは、ここに至るまでの関係者の長い努力と、保安院の『しぶとい』抵抗を暴き出していると言える。こんなふうに。
『この件は三月二十五日にさかのぼる。川内(博史衆院議員・福島原発事故調査委員会両院議院運営委員会合同協議会幹事)氏らが主催する国会議員勉強会に招かれた田中(三彦・サイエンスインストラクター)氏が「地震で重要機器が損傷した可能性は高い」と指摘した。(中略)
当時、衆院科学技術・イノベーション推進特別委員長を務めていた川内氏は原子炉のデータを東電や保安院に要求。ようやく1号機の初期データを持ってきたのは五月になってからだった。
そこには地震発生後、非常時に原子炉を冷やすICが自動起動。運転員の判断で手動停止するまでの約十分間で、原子炉内の圧力と水位が急降下する様子が示されていた』
『東電は、運転員の操作は「手順書通り」と言い張った。「ならば見せろ」と川内氏。これが、手順書の”黒塗り騒動”に発展する』
なおこの記事の焦点は、この「手動停止」にある。冷やすICが自動起動したとき、圧力と水位が急降下していた。そこから、地震動でどこかが破損したと判断して、手動停止せざるをえなかったということなのだ。この点を説明する新たな仮説として今回保安院に川内氏、田中氏らが認めさせた内容は、こういうものである。
『地震によって原子炉系の配管に面積0.3平方センチメートルの亀裂が入った可能性があるということだ』 】
なお地震原因説究明にかかわっては、国会事故調査委員会が、東電テレビ映像などの証拠資料を提出してくれなかったと抗議めいたことを並べたもの。国権の最高機関・国会が委託した委員会さえも無視した奴等が、国会議員の国政調査権に屈した一幕ではなかったか。それは以下⑥も同じである。
⑥国会への提出資料の黒塗り事件
東電の国会提出証拠の黒塗り事件というのは、何度も有名になった。こんな大胆な行動には、事前準備段階から保安院が絡んでいることは明らかだろう。国会には国政調査権というものがあって、提出義務があるのだから。その後は提出するようになった事について、国政調査権を改めて示唆、指摘されたからという経過も有名になった。こんな自明のことさえも東電は一旦は無視して見せたのである。
こういう法制上の事実を前にするとき、以下のことはどうしても不思議でならない。国会事故調査委員会が⑤の地震原因説にかかわって東電テレビ会議資料などを十分には調査できなかったと不満を漏らしていた。国会事故調を官僚たちが助けなかったとか、その調査を妨害したとか、僕にはそう思えてならないのである。
⑦凄まじくかつ陰湿な言論抑圧の一例。長谷川幸洋氏の体験談
表題のことをあげてみよう。東京新聞・中日新聞論説副主幹/長谷川幸洋氏の経産官僚との凄まじい闘いである。
事務方である経産省官僚が上司である枝野内閣官房長官を公然と批判した「オフレコ」発言(注)を、長谷川氏が公表した所から始まったものだった。枝野官房長官が、政府案決定後の会見で銀行に債権放棄を求める考えを示したのだが、そのことに反対する重大発言なのである。
まず、経産省から長谷川の上司に抗議が来た。長谷川はこの抗議も公表した。今度は、経産省クラブ詰めの東京新聞記者への懇談出入り禁止処分という報復が来た。長谷川はこれも公表した上で、海江田経産大臣官房に直訴に及んだのである。経産大臣室を通した経産官僚の答えは、こう。「記者が自主的に懇談出席を見合わせているのです」。
大臣室と正論の力で、この出入り禁止処分はすぐに(こっそりと)解かれたのだが、長谷川幸洋氏が行ったまとめを抜いておこう。
『役所は自分たちの都合が悪い記事が出ると、平気で記者を出入り禁止処分にする。それで旗色が悪くなると、話そのものをなかったことにしようとする。とても先進国では考えられない事態である。霞が関の能力低下はここ数年、とみに目立っていたが、ここまで落ちぶれてしまったのである』
『 官僚の世界では、自分たちの既得権益を守るために戦った人間は、たとえ世間で批判されても、かえって評価されるのだ。そういう官僚こそ「黒光りする」と言って、誉めたたえるのが「霞が関の掟」である。
官僚の世界は世間の常識が通用しない。それほど暗闇の奥が深い。ちなみに「黒光りする」という霞が関でしか通用しない隠語の意味を私に教えてくれたのは、彼自身もまた官僚と戦った元首相である』
注「オフレコ発言」 長谷川はこの場合の「オフレコ発言」関わって、こう反論している。
『まず問題の論説委員懇談会は経産省の記者クラブとなんの関係もない。私は記者クラブに加盟もしていない。また多数の論説委員が出席している場で、官僚が一方的に「これはオフレコで」と宣言したところで、オフレコは成立しない。
オフレコがありうるのは、基本的に他の第三者がいない場で両者が明示的に同意した場合だ。多数が出席する公開の場では、だれかがオフレコ内容を匿名で外に漏らしたとして、だれが「犯人」と分かるのか。初めから守られない可能性があると知ったうえでのオフレコは、官僚が一方的に匿名で相場観を広める手段にすぎない』
(以上は、昨年6月18~19日拙稿より)
⑧原子力規制委員会のこと
これはもう詳論の必要もあるまい。原子力村の住人ばかりだとか、現に彼らはみんな原発会社などからこれだけ金をもらってきたではないかとかいろいろ言われてきた。だが、それ以上の問題がこの事だと僕は観ている。この組織の独立的強権の問題である。内閣からさえ一定独立したような形だけは強大権限の組織であるが、その実態は非専従5人の委員にすぎないのである。ところが、その下に事務局として置かれた原子力規制庁は膨大な組織だ。なんせ、経産、文科など各省部門に別れた現関係組織を1つに統合したものだからである。つまり、強大な権限を持った5人の非専従を、全省庁官僚統合組織が操ると、そんな意図が感じられてならない。原子力規制庁の官僚たちによる関東軍化、暴走。これは、国民にとっては恐怖そのものだろう。まるで、江戸大火のどさくさのまっただ中で、自らをさらに強大な物に作り直した大泥棒組織のような。
(続く)
今回の一覧表は事故処理経過における数々の「失敗」とか「工作」とかをあげてみたい。こんなに違う2つの言葉を並べなければならぬのは、こういうことなのである。福島の事故処理経過を観ていくと、失敗なのか、確信犯つまり怠慢や失敗を隠蔽する工作(がばれた)ということなのか、その区別が全く付かない点もあるのだ。単なる天災のようなものだけというのならば、こんな執拗に僕も追わなかったろう。「天災といくらかの失敗と言い合わせてはいるものの実は起こったことをできるだけ隠し通そうとする確信犯」ばかりに見える。こんな重大事故処理にあまたの頭脳が関わっていて、失敗と言うには単純すぎることばかりが目立ち過ぎるのである。すべてが責任回避とか、ガス抜きのように思えて、あまりにも国民を国民として扱っていないような無責任な言動ばかりが目だって、どんどん腹が立ってきたのである。
(2の以上の前置きは、一昨日の前回も書いた物だが、一部修正して再掲しておく)
⑤地震原因証拠の隠蔽工作
さて、地震原因証拠隠蔽工作というのがある。1号機の揺れが耐震設計基準内だったところから、他原発全ての安全基準見直しに波及する大問題点なのである。昨年12月16日の拙稿から、例によって中日新聞要約部分などをご紹介しよう。1号機は津波以前に地震動によって自動冷却装置が無効となり、手動操作に切り変えねばならなかったということだ。以下で重大なことは、このことを保安院がやっと渋々認めているという点にある。以下の文章で本日分末尾まで『』がついたものはいつものように、中日新聞の抜粋である
【 記事内容の主たる流れは、ここに至るまでの関係者の長い努力と、保安院の『しぶとい』抵抗を暴き出していると言える。こんなふうに。
『この件は三月二十五日にさかのぼる。川内(博史衆院議員・福島原発事故調査委員会両院議院運営委員会合同協議会幹事)氏らが主催する国会議員勉強会に招かれた田中(三彦・サイエンスインストラクター)氏が「地震で重要機器が損傷した可能性は高い」と指摘した。(中略)
当時、衆院科学技術・イノベーション推進特別委員長を務めていた川内氏は原子炉のデータを東電や保安院に要求。ようやく1号機の初期データを持ってきたのは五月になってからだった。
そこには地震発生後、非常時に原子炉を冷やすICが自動起動。運転員の判断で手動停止するまでの約十分間で、原子炉内の圧力と水位が急降下する様子が示されていた』
『東電は、運転員の操作は「手順書通り」と言い張った。「ならば見せろ」と川内氏。これが、手順書の”黒塗り騒動”に発展する』
なおこの記事の焦点は、この「手動停止」にある。冷やすICが自動起動したとき、圧力と水位が急降下していた。そこから、地震動でどこかが破損したと判断して、手動停止せざるをえなかったということなのだ。この点を説明する新たな仮説として今回保安院に川内氏、田中氏らが認めさせた内容は、こういうものである。
『地震によって原子炉系の配管に面積0.3平方センチメートルの亀裂が入った可能性があるということだ』 】
なお地震原因説究明にかかわっては、国会事故調査委員会が、東電テレビ映像などの証拠資料を提出してくれなかったと抗議めいたことを並べたもの。国権の最高機関・国会が委託した委員会さえも無視した奴等が、国会議員の国政調査権に屈した一幕ではなかったか。それは以下⑥も同じである。
⑥国会への提出資料の黒塗り事件
東電の国会提出証拠の黒塗り事件というのは、何度も有名になった。こんな大胆な行動には、事前準備段階から保安院が絡んでいることは明らかだろう。国会には国政調査権というものがあって、提出義務があるのだから。その後は提出するようになった事について、国政調査権を改めて示唆、指摘されたからという経過も有名になった。こんな自明のことさえも東電は一旦は無視して見せたのである。
こういう法制上の事実を前にするとき、以下のことはどうしても不思議でならない。国会事故調査委員会が⑤の地震原因説にかかわって東電テレビ会議資料などを十分には調査できなかったと不満を漏らしていた。国会事故調を官僚たちが助けなかったとか、その調査を妨害したとか、僕にはそう思えてならないのである。
⑦凄まじくかつ陰湿な言論抑圧の一例。長谷川幸洋氏の体験談
表題のことをあげてみよう。東京新聞・中日新聞論説副主幹/長谷川幸洋氏の経産官僚との凄まじい闘いである。
事務方である経産省官僚が上司である枝野内閣官房長官を公然と批判した「オフレコ」発言(注)を、長谷川氏が公表した所から始まったものだった。枝野官房長官が、政府案決定後の会見で銀行に債権放棄を求める考えを示したのだが、そのことに反対する重大発言なのである。
まず、経産省から長谷川の上司に抗議が来た。長谷川はこの抗議も公表した。今度は、経産省クラブ詰めの東京新聞記者への懇談出入り禁止処分という報復が来た。長谷川はこれも公表した上で、海江田経産大臣官房に直訴に及んだのである。経産大臣室を通した経産官僚の答えは、こう。「記者が自主的に懇談出席を見合わせているのです」。
大臣室と正論の力で、この出入り禁止処分はすぐに(こっそりと)解かれたのだが、長谷川幸洋氏が行ったまとめを抜いておこう。
『役所は自分たちの都合が悪い記事が出ると、平気で記者を出入り禁止処分にする。それで旗色が悪くなると、話そのものをなかったことにしようとする。とても先進国では考えられない事態である。霞が関の能力低下はここ数年、とみに目立っていたが、ここまで落ちぶれてしまったのである』
『 官僚の世界では、自分たちの既得権益を守るために戦った人間は、たとえ世間で批判されても、かえって評価されるのだ。そういう官僚こそ「黒光りする」と言って、誉めたたえるのが「霞が関の掟」である。
官僚の世界は世間の常識が通用しない。それほど暗闇の奥が深い。ちなみに「黒光りする」という霞が関でしか通用しない隠語の意味を私に教えてくれたのは、彼自身もまた官僚と戦った元首相である』
注「オフレコ発言」 長谷川はこの場合の「オフレコ発言」関わって、こう反論している。
『まず問題の論説委員懇談会は経産省の記者クラブとなんの関係もない。私は記者クラブに加盟もしていない。また多数の論説委員が出席している場で、官僚が一方的に「これはオフレコで」と宣言したところで、オフレコは成立しない。
オフレコがありうるのは、基本的に他の第三者がいない場で両者が明示的に同意した場合だ。多数が出席する公開の場では、だれかがオフレコ内容を匿名で外に漏らしたとして、だれが「犯人」と分かるのか。初めから守られない可能性があると知ったうえでのオフレコは、官僚が一方的に匿名で相場観を広める手段にすぎない』
(以上は、昨年6月18~19日拙稿より)
⑧原子力規制委員会のこと
これはもう詳論の必要もあるまい。原子力村の住人ばかりだとか、現に彼らはみんな原発会社などからこれだけ金をもらってきたではないかとかいろいろ言われてきた。だが、それ以上の問題がこの事だと僕は観ている。この組織の独立的強権の問題である。内閣からさえ一定独立したような形だけは強大権限の組織であるが、その実態は非専従5人の委員にすぎないのである。ところが、その下に事務局として置かれた原子力規制庁は膨大な組織だ。なんせ、経産、文科など各省部門に別れた現関係組織を1つに統合したものだからである。つまり、強大な権限を持った5人の非専従を、全省庁官僚統合組織が操ると、そんな意図が感じられてならない。原子力規制庁の官僚たちによる関東軍化、暴走。これは、国民にとっては恐怖そのものだろう。まるで、江戸大火のどさくさのまっただ中で、自らをさらに強大な物に作り直した大泥棒組織のような。
(続く)