9月26日から怪我で休んでいた岡崎慎司。10月遅くに復帰すると、代表のオマーン戦で決勝点を見せ、シュトゥットガルトに帰ってすぐに2得点1アシストを上げた。彼がまた長谷部誠とまったく同じ総合力の選手なのだが、ずば抜けた個性が一つある。そうでなければ、代表に彗星のように現れて「南アワールドカップ世界予選ゲームにおける世界得点王」などになれるはずがない。それはここでも何度も強調してきたこと。この彼の特長を表す良い文章があった。Number Webに細江克弥というライターの記事があって、オマーン戦の岡崎決勝点の詳細な解説が載っている。NHK解説でお馴染みの福西崇史に取材したものだ。実に説得力がある解説だった。付け加えると、この初耳の細江克也というライター、僕は即ファンになってしまった。彼の記事なら何でもむさぼり読みたいほどに。どうしてそうなのかは、以下をお読み願えば分かるはずだ。
【 2012年11月25日 14:02 (Number Web)
ブンデスでも代表でも稀有な存在!?岡崎慎司、その強烈な個性の正体
W杯最終予選のオマーン戦終了から約1時間後、メルマガ「福西崇史の『考えるサッカー』」の取材のため福西氏に電話をかけた。その会話の終盤で話題になったのが、試合終了間際に岡崎慎司が挙げた決勝ゴールである。福西氏は「いや、最初はよく分からなくてさ」と切り出した――。(略)
「何度も巻き戻して、スローで再生しちゃったよ」
――岡崎のゴールですか?
「そう。どういう判断をしてスタートを切ったのか、それから、どうしてあの位置に飛び込めたのかがリアルタイムではよく分からなかった」
――どういうことですか?
「ほら、あのシーン、酒井高徳の突破に合わせて、まずはヤット(遠藤保仁)がニアに飛び込んだでしょ。で、ボールがヤットに当たって流れた先に岡崎がいるわけだけど、最初から“ヤットにボールが当たる”という予測ができてないと、あの位置には飛び込めない」
――なるほど。
クロスの行方として考えられるのは2つのパターン。ヤットに当たるか、ヤットに当たらないでGKが弾くか。でも、岡崎はヤットに当たることを走りながら察知して、あの位置に飛び込んでるよね」(略)
「その時、エリア内にニアサイドから遠藤、本田、岡崎って3人いるでしょ。本田が自分よりも後ろにいるから、つまり、GKが弾いた場合のこぼれ球は本田に任せればいい。それが最初の判断。じゃあ、自分がどこに飛び込めばいいかってことなんだけど、ニアに入ったヤットの足にボールが当たるとほぼ同時に、岡崎はステップを変えてボールがこぼれる位置に飛び込んでる」
――確かに。ほぼ同時ですね。
「ということは、そのケースも予測できていたということ。確かに、あの流れで本田が後ろにいる場合、最もゴールの可能性が高まるのはあの位置なんだよね。ただ、こうやって冷静に見ると分かるんだけど、酒井高徳が仕掛ける、自分の前にヤットがいる、後ろに本田がいる、クロスがヤットの足に当たる、という流れの中での判断が、岡崎は本当に速い。ズバ抜けてると思う」
――センスというか、嗅覚というか。
「そう。やっぱり、岡崎は点を取れる選手の動き方をしてるよ。今の代表にとって、ああいう能力は本当に貴重だと思う。中山(雅史)さんみたいな動きで点を取れる選手って、そう簡単にはいないから」
ドイツに住む友人の話と岡崎から聞いた話の符合
オマーン戦後、岡崎はあのゴールをこう振り返った。
「高徳のいい仕掛けからチャンスが生まれて、中でヤットさんが触ると思っていたので、それを見て入っていきました。今まで行ききれていなかったところに入っていけたし、感覚が戻ってきましたね」(略)
福西氏との会話を通じて思い出したのは、1カ月前に交わしたドイツに住む友人の話、それからその直後に聞いた岡崎の話だった。(略)
「ドイツ人って、日本人と似ているとよく言われるでしょ。マジメで、几帳面で、協調性があって、時間に正確だって。でも、実際はそうでもない。電車は平気で遅れるし、いわゆる欧米人気質で個が強すぎるわけ。だから、バランスを取って組織として機能させるのって、マジで難しいよ。業務上の“ポテンヒット”みたいなのを打たれること、結構あるから(笑)。オレはそういう組織の“隙”を埋める役目なんだけど、『もしかすると、自分が日本人だから気づくのかな』と思うことがたくさんある」
さらにこう続ける。
「こっちに来てるサッカー選手って、きっと同じような感覚で苦労してるんじゃないの?」
囲み取材の後にもう一度(岡崎を)呼び止め、「バランス」について聞く。(略)
「ピッチにいる自分たちで考えてどうするか。そういうところは、もう少し成長しなくちゃいけないかなと思いますね。今、どこのバランスが崩れていて、どこに人がいないかとか。今日みたいに、カウンターを受けたら危ないのに、前に行こうとしている時間帯もある。そういうところで、もっと大人にならないといけないかなと」
囲み取材が散会した後でもう一度呼び止めた。「バランス」という言葉を聞いて、4日前に友人と交わした会話を思い出したのである。
バランスが崩れるのを気にするのは「日本人だから」?
――「バランスの崩れ」について、もう少し詳しく状況を教えてもらえますか?
「バランスが崩れること自体は、絶対にあることですよね。点を取るために前に出れば崩れる。ただ、ウチのチームはまだ、それを分かった上でバランスを崩しているわけじゃないんですよ。『点取らなアカン』みたいな意識で、フラっと上がってしまう選手もいるので」
――崩れることを意識しないまま、無意識のうちに崩してしまう。
「そうです。本来のバランスって、やっぱりスタートのポジションをある程度守ることで保たれると思うんですよね。だから、たとえバランスを崩しても、決められたポジションに戻らないといけない。そこまでをきっちりやるっていうのがバランスを取るってことだと思う。でも、チームが悪い時っていうのは、それがないんですよね。バランスが崩れたまま10分くらい平気で過ぎてしまうことがあるんですけど、それはやっぱり、一番怖いですよ」
――調子が上がらないチームが陥りやすい状態というか、そういう状況にあると調子が上がらないというか。
「そうなんです。そこをみんな、あまり気にしてない。でも、僕は気になる。ただ、それはもしかしたら、僕が日本人だからかもしれないですけどね」
「仮に僕が気を遣える選手だとしたら、それをやったほうがいい」
その言葉を聞いて、思わず「やっぱり!」と声を上げてしまった。前述の友人の予想どおり、岡崎も日本人としての自分、ポテンヒットを打たれまいとしてバランスを考慮する日本人のメンタリティーを痛感しているらしい。しかし面白かったのは、彼がそのことをポジティブに解釈していることだった。
――実は、こっちで働く友人が全く同じことを言っていました。
「やっぱり、そういうもんなんですか(笑)。バランスが崩れたら『ヤバい』と思うのは、たぶん僕らが日本人だからなんですよね。だからまあ、いろんなところに気を遣うというのはしょうがないかなと。でも、今の状況でそれができるのが自分だけだったら、そういうところで頑張らないと」
――自分が日本人だから感じることって、普段からありますか?
「それはもう、たくさんありますよ。文化の違いだと思いますけど、一つひとつのボールのもらい方にしても、日本人の気の遣い方ってありますよね。こっちだと、気を遣いすぎていると思われるかもしれない」
――例えば、ピッチの中ではどんなことが?
「サイドバックがボールを持った時に、僕らの感覚からすると、ボランチが真横にいてサポートすることが普通じゃないですか。でも、このチームの場合はそれが普通じゃない」
――確かに、それは今日の試合を観て感じました。
「ただ、こっちでも強いチームはちゃんとやってるんですよね。バイエルンと試合した時に、『ああ、やっぱり普通はこうだよな』って思いましたもん(笑)。まあ、ないものねだりをしても仕方ないし、どっちがいいってことでもないんですけど、僕はこのチームの一員としてやるべきことをやらないといけない。だから、仮に僕が気を遣える選手だとしたら、それをやったほうがいいということなんですよね。もちろん、そういう感覚は日本代表でも必要だと思います。だから、その上で個人としての力を発揮できるような、チームを勝たせられる選手になりたいと思いながらやってます」(以下略)
(細江克弥 = 文) 】