ギリシャやスペインがどうしてこんな風になったかを解明する、BBC製作のテレビ番組を見た。その最要点はこう述べられていた。
「例えばギリシャはユーロ加入時以降最近まで、その国家累積赤字を加入条件を満たすようにごまかしていた。その粉飾決算は実は、ゴールドマンサックスが教え、導いたものである。」
今では有名になったこの「導き」の仕組みについては番組でも何の説明もなかったのだが(難しすぎて説明不能と判断したのであろう)、それでふと想い出したものがある。07年1月21日にここに書いた、記事の事だ。元モルガンの社員、フランク・パートノイという人が書いた「フィアスコ(大破綻というような意味)」という本の紹介記事である。95年3月に日本の多くの会社にAMITというデリバティブ、金融派生商品を売って、それらの会社の粉飾決算を通してやり、大もうけをしたという話なのである。『日本財界が2週間で7500万ドルをパクられた話』というのがその拙稿の題名だった。
【 日本財界が2週間で7500万ドルをパクられた話 2007年01月21日
95年2月27日イギリスの名門銀行ベアリングズ社が倒産した。シンガポール支社の28歳のデリバティブ・トレーダーが10億ドルの損失を出したことが原因である。イングランド銀行が主要銀行に呼びかけて緊急救済検討会議を持ったが、「白紙の小切手にサインすることと同じ」という事態であると認定して、救済を断念。この倒産が、ベアリングズ社に貸していた日本の銀行の焦げ付きや、デリバティブ損失絡みの東京株式市場暴落(14ヶ月続いた)やをもたらし、日本企業の春の決算期は粉飾の必要に迫られていた。従来保守的であった日本企業にたいして、米デリバティブ・セールスの絶好機到来なのである。「手っ取り早く儲けて」損失を隠したがっていた日本企業に「歴然たる詐欺を働いているよう」なデリバティブが、さー売れるぞ! 著者は語る、「誰が実際にベアリングズ社に金を貸していたかかが分かったときの至上の喜び!」!
モルガンのある上司の言葉「われわれは死に物狂いのクライアントを愛し、彼らを見ると興奮する。われわれは必死の人々からたくさんの金を稼がせてもらってきた」
しかも、「日本の証券会社はアメリカよりずっと進んでいて、何年も金融的な詐欺を手がけて、みごとに成功していた」、「日本の最大手の投資家たちは、どれだけ切羽詰まっても、もう財務的詐欺を犯すために日本の証券会社を使いたがらなかった」
一体どんなデリバティブ商品を、モルガンはこの年度末粉飾決算までの1ヶ月足らずの間に売ったのか?
アメリカン・モーゲージ(mortgage、抵当)・インベスティメント・トラスト、 ここには「高価なプレミア部分」と「安価なディスカウント部分」とが含まれている。この場合具体的には、前者は住宅ローンの支払い時に使われる小切手が政府系の金融機関にプールされるのだが、このプールをモーゲージ証券の基本とするというような担保付抵当証券の一種であり、後者は「アメリカ政府によって将来の特定の日付に支払われるただ1回の支払いである」。
作者はこれを売った場合の以降の成り行きについて、例えを使ってこう語る。
100ドルで、金入りの壺を「いつでも超特大プレミア、利子付きで換金します」という鳴り物入りで売る。体積の半分は金で90ドル、あとの半分は銅で10ドルである(客には中身は見えない)が、その「平均」体積の半分の50ドル分は将来でないと換金できない仕組である。さて客たちが最初の半分を契約後直ぐに換金に来た。「平均」50ドル分が実に90ドルで支払われたのだ。銅を含まず金の部分で支払っただけなのであるが、将来はもっともっと!と、客は一安心。なんせ短期間に8割の利子である。将来はどれだけの利子になるか!
舞台裏の実際はこうだ。最初に金部分を換金してあげただけ、将来の「半分」は当然、銅の価値しか支払われない。「平均」半分の50ドル分が10ドルにしかならないのである。しかしその将来には、壺を買った担当者も退職、新担当者には「情勢が変わった」とかなんとかで、後は野となれ山となれ!いずれにしても双方共に「他の誰かの問題となるだろう」。
モルガンのセールスマンたち皆はこの商品を「AMIT」と名付けていたそうだが、こう呼んでいたという。shamit(にせもの)、scamit(ぺてん)と。なおこれを作者はこう語る。「すべてのデリバティブの母であり、ウオール街でも、モルガンの60年の歴史でも最も儲かった取引であった」と。
この商品を買ったのは日本のリース会社や商社だそうだ。これによるモルガンの利益は7500万ドル、それもわずか2週間の仕事だ! 因みにこの間3月末まで、米国国債市場も急騰したということである。 】
さて、冒頭のBBCの番組でも言っていたが、サブプライム債権組み込み証券って、実はネズミ講権利証と同じ。それに格付け会社のスリーA格付けが付いていたから、凄い時価値が付くだけなのである。今風の時価会計決算だとこの時価で将来の収入部門に組み込んでおく事ができるのであろう。先のAMITであれば、実質10ドルの証券「原価」半値分50ドルが100ドルとか、200ドルとかになるような。こういうやり方で、ゴールドマンがギリシャ国家財政を粉飾したのであろうと推察する。ゴールドマンはこうして、ギリシャという一つの国家までを食い物にしたわけだ。ネズミ講をさらに大々的に長続きさせるためにギリシャ、スペインなどには住宅も無数に作ったという事も含めて。これらのほとんどが、今は、ゴーストタウンになっているというわけだ。
こんな詐欺をはたらいても誰も捕まらず、またぞろ次のネズミ講を準備できるって、世界はまーなんと「自由(主義)」なんだろう?!
岩波ブックレット「金融危機は再びやってくる」(伊藤正直・東京大学大学院経済学研究科教授)を最近読み終わったが、その最大要点はこうだ。
「問題の根源が、国際金融システムの側、基軸通貨の側にあるとするならば、こうした一国的対応で問題が解決するとはとても思えません」
「ドル価値の下落とドル・バランスの増大の両者を同時解決するようなシステム改革なしには、金融危機はこれからも再発せざるをえないということです」
「巨大金融機関、巨大企業のもたらすモラル崩壊と無法化は、今や、無視できない度合いに達しているように思われます。市場経済を守りつつ、この災厄を防止するためには、国際金融システムや国際機関を、きちんとした国際公共財として機能するようにすることが大切です」
「例えばギリシャはユーロ加入時以降最近まで、その国家累積赤字を加入条件を満たすようにごまかしていた。その粉飾決算は実は、ゴールドマンサックスが教え、導いたものである。」
今では有名になったこの「導き」の仕組みについては番組でも何の説明もなかったのだが(難しすぎて説明不能と判断したのであろう)、それでふと想い出したものがある。07年1月21日にここに書いた、記事の事だ。元モルガンの社員、フランク・パートノイという人が書いた「フィアスコ(大破綻というような意味)」という本の紹介記事である。95年3月に日本の多くの会社にAMITというデリバティブ、金融派生商品を売って、それらの会社の粉飾決算を通してやり、大もうけをしたという話なのである。『日本財界が2週間で7500万ドルをパクられた話』というのがその拙稿の題名だった。
【 日本財界が2週間で7500万ドルをパクられた話 2007年01月21日
95年2月27日イギリスの名門銀行ベアリングズ社が倒産した。シンガポール支社の28歳のデリバティブ・トレーダーが10億ドルの損失を出したことが原因である。イングランド銀行が主要銀行に呼びかけて緊急救済検討会議を持ったが、「白紙の小切手にサインすることと同じ」という事態であると認定して、救済を断念。この倒産が、ベアリングズ社に貸していた日本の銀行の焦げ付きや、デリバティブ損失絡みの東京株式市場暴落(14ヶ月続いた)やをもたらし、日本企業の春の決算期は粉飾の必要に迫られていた。従来保守的であった日本企業にたいして、米デリバティブ・セールスの絶好機到来なのである。「手っ取り早く儲けて」損失を隠したがっていた日本企業に「歴然たる詐欺を働いているよう」なデリバティブが、さー売れるぞ! 著者は語る、「誰が実際にベアリングズ社に金を貸していたかかが分かったときの至上の喜び!」!
モルガンのある上司の言葉「われわれは死に物狂いのクライアントを愛し、彼らを見ると興奮する。われわれは必死の人々からたくさんの金を稼がせてもらってきた」
しかも、「日本の証券会社はアメリカよりずっと進んでいて、何年も金融的な詐欺を手がけて、みごとに成功していた」、「日本の最大手の投資家たちは、どれだけ切羽詰まっても、もう財務的詐欺を犯すために日本の証券会社を使いたがらなかった」
一体どんなデリバティブ商品を、モルガンはこの年度末粉飾決算までの1ヶ月足らずの間に売ったのか?
アメリカン・モーゲージ(mortgage、抵当)・インベスティメント・トラスト、 ここには「高価なプレミア部分」と「安価なディスカウント部分」とが含まれている。この場合具体的には、前者は住宅ローンの支払い時に使われる小切手が政府系の金融機関にプールされるのだが、このプールをモーゲージ証券の基本とするというような担保付抵当証券の一種であり、後者は「アメリカ政府によって将来の特定の日付に支払われるただ1回の支払いである」。
作者はこれを売った場合の以降の成り行きについて、例えを使ってこう語る。
100ドルで、金入りの壺を「いつでも超特大プレミア、利子付きで換金します」という鳴り物入りで売る。体積の半分は金で90ドル、あとの半分は銅で10ドルである(客には中身は見えない)が、その「平均」体積の半分の50ドル分は将来でないと換金できない仕組である。さて客たちが最初の半分を契約後直ぐに換金に来た。「平均」50ドル分が実に90ドルで支払われたのだ。銅を含まず金の部分で支払っただけなのであるが、将来はもっともっと!と、客は一安心。なんせ短期間に8割の利子である。将来はどれだけの利子になるか!
舞台裏の実際はこうだ。最初に金部分を換金してあげただけ、将来の「半分」は当然、銅の価値しか支払われない。「平均」半分の50ドル分が10ドルにしかならないのである。しかしその将来には、壺を買った担当者も退職、新担当者には「情勢が変わった」とかなんとかで、後は野となれ山となれ!いずれにしても双方共に「他の誰かの問題となるだろう」。
モルガンのセールスマンたち皆はこの商品を「AMIT」と名付けていたそうだが、こう呼んでいたという。shamit(にせもの)、scamit(ぺてん)と。なおこれを作者はこう語る。「すべてのデリバティブの母であり、ウオール街でも、モルガンの60年の歴史でも最も儲かった取引であった」と。
この商品を買ったのは日本のリース会社や商社だそうだ。これによるモルガンの利益は7500万ドル、それもわずか2週間の仕事だ! 因みにこの間3月末まで、米国国債市場も急騰したということである。 】
さて、冒頭のBBCの番組でも言っていたが、サブプライム債権組み込み証券って、実はネズミ講権利証と同じ。それに格付け会社のスリーA格付けが付いていたから、凄い時価値が付くだけなのである。今風の時価会計決算だとこの時価で将来の収入部門に組み込んでおく事ができるのであろう。先のAMITであれば、実質10ドルの証券「原価」半値分50ドルが100ドルとか、200ドルとかになるような。こういうやり方で、ゴールドマンがギリシャ国家財政を粉飾したのであろうと推察する。ゴールドマンはこうして、ギリシャという一つの国家までを食い物にしたわけだ。ネズミ講をさらに大々的に長続きさせるためにギリシャ、スペインなどには住宅も無数に作ったという事も含めて。これらのほとんどが、今は、ゴーストタウンになっているというわけだ。
こんな詐欺をはたらいても誰も捕まらず、またぞろ次のネズミ講を準備できるって、世界はまーなんと「自由(主義)」なんだろう?!
岩波ブックレット「金融危機は再びやってくる」(伊藤正直・東京大学大学院経済学研究科教授)を最近読み終わったが、その最大要点はこうだ。
「問題の根源が、国際金融システムの側、基軸通貨の側にあるとするならば、こうした一国的対応で問題が解決するとはとても思えません」
「ドル価値の下落とドル・バランスの増大の両者を同時解決するようなシステム改革なしには、金融危機はこれからも再発せざるをえないということです」
「巨大金融機関、巨大企業のもたらすモラル崩壊と無法化は、今や、無視できない度合いに達しているように思われます。市場経済を守りつつ、この災厄を防止するためには、国際金融システムや国際機関を、きちんとした国際公共財として機能するようにすることが大切です」