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随筆紹介  奥さまロード   文科系

2013年01月27日 13時19分51秒 | 文芸作品
【 奥さまロード       柴田 紀子

 その奥さまは、四十代半ばぐらいだろうか、後ろに多くの車たちを従え、右折車線の先頭でデンッと構えておられる。あっ、今、車が途切れました、はやくお渡りを。でも、奥さまの車は動く気なし。今度は右折の矢印が。ハンドルをお切りくださいませ。デンッ。真っ赤な奥さまカーは、その場に張りついたまま。
 プアーッ、プアーッ、プアッー。すぐ後ろのトラックのクラクションにも、なんのその。奥さま、奥さま、トラックのオジサンが苛ついてますよ。信号待ちをしていた私のほうが慌てた。トラックは、ならば先に曲がっちまえと、奥さまカーの前に出たとたん、ああ、信号の色が変わってしまった。
 再び信号待ち。並んでいたほかの車も巻き添えだ。「ばかやろうっ」。曲がりかけの状態で停まったオジサンは、運転席から顔を出し、奥さまに向って、なんだかんだと怒鳴っている。怒りたくなるよね。だけど奥さまは、平気づらで、デンッ。どうなってるの、この人。私は、さらに彼女に注目。
 そういうことだったのか。右折したすぐの所にあるファストフード店を見て納得。本日は得々セールの日で、多くの客が出たり入ったりしている。ドライブスルーは、車道まで列をなし、後ろにつく余地はない。奥さまは、あそこに並びたかったんだ。そこで、空くまで、ここでお待ちになっている、ってことか。
 これと似た光景を、以前にも見たことがある。スーパーの大安売りの日、中年の奥さまは、店の前にある駐車場が空くのを、路上で待っていたっけ。もちろん、その後ろには、車、くるま、クルマ。それらは、スーパーに入る車だけではない。仕事や急ぎの用で、先を行きたい車もあるのだろうが、耐えている。
 ついに我慢の限界を越えたのか、後続車の白髪交じりの男性が、クラクションを鳴らしだした。たて続けに鳴らす、音の大きさに、まわりの目が集まった。そこで奥さまは、すごすごとハンドル動かして、今度は駐車場に入る歩道でお待ちになった。そのために歩行者や自転車が通れない状態だ。でも、そんなこと関係ないわ、って顔をしている奥さまは、なんて図太い、いや、いい度胸をしていること。
 駐車場はそこだけではない。店の後ろ側や、道をはさんだ向こう側にもあり、停める余裕は十分ある。どちらも、歩いて一分足らずで店に入ることができるのに、そこまでして、店の前に停めたいのか。
 最近、主婦でも、自己中心の人が多くなった。身障者用の駐車スペースに平気で停める。思いやる気持ちがなく、ひと昔前の常識が通らなくなった。道路は今や、奥さま方ご用達の順番待ちロードになってしまったのか。腹立だしいより、さびしくなってくる。】
コメント (13)
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