改めて表記のものの、まず序文を紹介するが、その紹介本文以前に、この報告周辺の概要をまず見ておきたい。
この報告の正式名称は、2009年9月21日に出された「国連総会議長諮問に対する国際通貨金融システム改革についての専門家委員会報告ー最終版」と言う。委員会メンバーは20名で、米、独、仏や、南アフリカを除いたBRICS諸国代表など、日本からは榊原英資が参加し、総会議長特別代表も2名加わっている。当委員会委員長がノーベル経済学賞受賞者であり、クリントン政権の大統領経済諮問委員会委員長などを経て1997年~2000年に世界銀行の上級副総裁およびチーフエコノミストを勤めたジョセフ・スティグリッツであるところから、この文書が彼の名前を冠してこう呼ばれているのだろう。報告名称に付された「国際通貨金融システム改革」とは、報告前々年から前年にかけて世界を揺るがせたリーマンショックを受けていることは言うまでもない。
報告全体は250ページを越える物で、冒頭に報告を出すよう当委員会に委嘱した当時の国連総会議長、ミゲル・デスコトの序文が付いている。14日拙稿で以下のように紹介した世界史的人物とも言える1933年生まれだ。
【 スティグリッツも勤めたコロンビア大学でジャーナリズム科修士の学位を取っているニカラグァの元外務大臣であるという。こんなすばらしい紹介が付いていたお人だ。
「1979年~90年、ニカラグア外務大臣として、内戦の平和解決に貢献。1984年、米国の軍事干渉を国際裁判所に提訴し、勝訴。2008年6月、国連ラテンアメリカ・カリブ諸国グループより全会一致で国連総会議長候補に選出。2008年9月~2009年9月、第63回国連総会議長」
上のニカラグア内戦の歴史、状況とその終了、そこでデスコトが果たした(らしい)役割などについては、当ブログ拙稿『ニカラグア・アメリカ「対テロ戦争」の源流 2007年06月14日 | 国際政治・時事問題(国連・紛争など)』を参照されたい。この拙稿へは、右欄外の「バックナンバー・年月欄」で、07年6月クリックーーその6月カレンダーが出るから14日クリックによって、アクセスできる。】
さて、本論を文章自身の抜粋形式で進めるが、最初の書き出しはこうなっている。
『2009年6月26日、驚くべきことが起こった。「国際金融経済危機とその開発への影響」についての幅広く意義深い声明を、192ヶ国で構成される国連がコンセンサス方式で採択したのである。分析と勧告は痛みの短期的軽減から深い構造変革まで、危機への対応策から世界金融経済構造の変革まで全域に及んだ。』
『6月の決議は2007年8月以降、大恐慌以来最大の世界経済不況を記録した長きにわたる国内と地域の危機から集積した知的資本を引き出した』
『蓄積された経験は、彼らの今度の仕事は10年単位でなく100年単位で評価されるだろうということを示していた』
『彼らはこの最終報告「結論」に書いてあるように、活気づかせ大胆に考えるように支援してくれた。
「この危機は、経済に何かが起こった、何か、回避は勿論、予見さえできなかったことが起こったというような、単なる『百年に一度の事故』ではない。我々はその逆を考える。危機は人間がつくったものであると。これは民間セクターによる過ちと、誤って適用され失敗した公的政策の結果なのだ(第6章第1項)」』
『我々の世界経済は故障している。ここまではだれもが認めるところである。しかし、では正確に言うと、どこが故障していて修理する必要があるのか、ということになると大論争になってしまうのである』
『これらの危機は、この35年間世界に適用されてきた支配的な経済観によってしっかりと相互に関連づけられ、結びつけられていた』
『この点についての本報告の下記の部分は力強い。「過剰生産力と大量失業が同居する世界の中で、地球温暖化や貧困の撲滅という挑戦に応えて行くことを含めて、未達成の地球的課題が残されている。このような状況は受け入れ難い。(第1章第11項)」』
『本報告の基本的視点は、我々の複合危機は失敗或いは制度の失敗の結果ではなく、制度そのもの(組織と原則、歪められ損なわれた制度の仕組み)がこれら多くの失敗の原因だということにある』
『米国の代表は決議採択後の発言で、「国連は…… 今回の文書で述べられている多くの問題について、意味のある対話の方向を提起したりふさわしい場を提供したりする専門知識もマンデート(権限とか委ねられる力量とかの意味ー文科系)も持っていない、というのが我々の強い意見である」と述べた』
『私はマハトマ・ガンジーの生涯と教えからもインスピレーションを得た。彼は嘗てこう述べている。「最初彼らはあなたを無視する。次いで彼らはあなたをからかう。そして彼らはあなたと戦う。そしてあなたは勝利する。」』
『専門家委員会の報告と6月の決議文書は、我々の国連を通して真実のために戦い続けようという、招待状或いは勧告である』