「今度は上手な子のように、板を持ったクロール・キックで二五mやってみる?」
近く五歳になる男の子、孫のセイちゃんにそうたずねると、弾んだ声でウンッ応えつつ、僕に微笑みかけてくる。板で泳いだことなどないはずだから拒否されると思っていた僕は、内心のうれしさを押し殺してさりげなく板の持ち方などを教えて・・・。
これは、娘に頼まれた、セイちゃんの水泳特訓の四日目のこと。通っているスポーツジム・メガロスの水泳教室の進級テストに二回落ちて四か月を無駄にしたあとに、僕の出番を求められたという一場面なのだ。そしてこの日いきなり起こったことに、僕はまーびっくり仰天! 彼のこのクラスからの進級テスト課題とは、「フィックス」という二つの浮きを両肩に付けて「五メートルをバタ足できる」というもの。これはもう特訓一回目でできてしまって、その後テストにも合格したから、以降今日もふくめて二回はその距離を延ばす練習をしていたのだ。この間中守るべき大切な基本は、以下のこの二つ。
一つは、正しい伏し浮き・蹴伸びの姿勢が取れること。壁を蹴ってまっすぐに進むだけの練習を何回もさせるのだが、蹴った後の全身を脱力させた上で、これを常に水面と平行に保つことが要点である。ただ、全身脱力した「身体の伸び」さえあれば、自分の身体に水の抵抗がなくなる五体の使い方を子どもは自然に見つけ出していくもの。しかも、この水の抵抗感がなくなる初めてのスタイル・やり方習得が、子どもにはまた楽しくて仕方ないものらしい。自分には難物であった水の中を力も要らずスーッと進んでいると実感できるからだろう。セイちゃんもこれがちょっとできるようになると、自分から進んで、かつ嬉しそうに、何度も何度も挑戦していたのが、僕にはとても興味深かった。今ひとつは、足首と膝を伸ばしてバタ足すること。つまり、脚をなるべく根元から動かす。
さて、テストは五mだったけど、蹴伸びは完璧、バタ足も形になってきたこの日、思いついてこう提案してみた。「できるだけ遠くまで行けるようにやってみる?」。「ウンッ」という返事もろともどんどん距離を延ばし、結局二五mの向こう岸までを泳ぎ切ってしまった。僕はまー嬉しかったこと! 半信半疑のままに「もう一度やってみる?」に、やはり涼しげに「ウンッ」。これもやり切って〈この子、心肺機能が強いんだ!〉と、二度目の仰天。そこでその日のうちにと思いついたのが、冒頭のボード・キックの提案だった。
何度も言って聞かせてきたのに、激しくバタバタするほどに出てくる足首と膝が曲がる癖もなんのその、やはりパワフルに通しきってしまった。〈一二・五mクロールでさえ三つ上のクラスのテスト課題なのだから、手腕の形をちょっと教えればこのクラスもクリアー同然〉。「セイちゃん、君、凄いことやったんだよ、これ!」、連発していた。
五体の使い方、身のこなしの巧みさを習得するのは、小学生までが一番で、幼いほど速い。これはスポーツ習得の生理学的知見であって、それ以降の何分の一の努力で身につくということ。知ってはいたそういう理論で頭をがーんと殴られたのが嬉しくて仕方ないという一日になった。ちなみに僕自身、新たにバタフライを覚えるのは到底無理と思い知らされた体験を最近持っている。他の三泳法は全て完璧に出来る僕でもなのだ。子どもって、すごい!
近く五歳になる男の子、孫のセイちゃんにそうたずねると、弾んだ声でウンッ応えつつ、僕に微笑みかけてくる。板で泳いだことなどないはずだから拒否されると思っていた僕は、内心のうれしさを押し殺してさりげなく板の持ち方などを教えて・・・。
これは、娘に頼まれた、セイちゃんの水泳特訓の四日目のこと。通っているスポーツジム・メガロスの水泳教室の進級テストに二回落ちて四か月を無駄にしたあとに、僕の出番を求められたという一場面なのだ。そしてこの日いきなり起こったことに、僕はまーびっくり仰天! 彼のこのクラスからの進級テスト課題とは、「フィックス」という二つの浮きを両肩に付けて「五メートルをバタ足できる」というもの。これはもう特訓一回目でできてしまって、その後テストにも合格したから、以降今日もふくめて二回はその距離を延ばす練習をしていたのだ。この間中守るべき大切な基本は、以下のこの二つ。
一つは、正しい伏し浮き・蹴伸びの姿勢が取れること。壁を蹴ってまっすぐに進むだけの練習を何回もさせるのだが、蹴った後の全身を脱力させた上で、これを常に水面と平行に保つことが要点である。ただ、全身脱力した「身体の伸び」さえあれば、自分の身体に水の抵抗がなくなる五体の使い方を子どもは自然に見つけ出していくもの。しかも、この水の抵抗感がなくなる初めてのスタイル・やり方習得が、子どもにはまた楽しくて仕方ないものらしい。自分には難物であった水の中を力も要らずスーッと進んでいると実感できるからだろう。セイちゃんもこれがちょっとできるようになると、自分から進んで、かつ嬉しそうに、何度も何度も挑戦していたのが、僕にはとても興味深かった。今ひとつは、足首と膝を伸ばしてバタ足すること。つまり、脚をなるべく根元から動かす。
さて、テストは五mだったけど、蹴伸びは完璧、バタ足も形になってきたこの日、思いついてこう提案してみた。「できるだけ遠くまで行けるようにやってみる?」。「ウンッ」という返事もろともどんどん距離を延ばし、結局二五mの向こう岸までを泳ぎ切ってしまった。僕はまー嬉しかったこと! 半信半疑のままに「もう一度やってみる?」に、やはり涼しげに「ウンッ」。これもやり切って〈この子、心肺機能が強いんだ!〉と、二度目の仰天。そこでその日のうちにと思いついたのが、冒頭のボード・キックの提案だった。
何度も言って聞かせてきたのに、激しくバタバタするほどに出てくる足首と膝が曲がる癖もなんのその、やはりパワフルに通しきってしまった。〈一二・五mクロールでさえ三つ上のクラスのテスト課題なのだから、手腕の形をちょっと教えればこのクラスもクリアー同然〉。「セイちゃん、君、凄いことやったんだよ、これ!」、連発していた。
五体の使い方、身のこなしの巧みさを習得するのは、小学生までが一番で、幼いほど速い。これはスポーツ習得の生理学的知見であって、それ以降の何分の一の努力で身につくということ。知ってはいたそういう理論で頭をがーんと殴られたのが嬉しくて仕方ないという一日になった。ちなみに僕自身、新たにバタフライを覚えるのは到底無理と思い知らされた体験を最近持っている。他の三泳法は全て完璧に出来る僕でもなのだ。子どもって、すごい!