サッカー名古屋が、第11戦目にしてとうとう負けた。それも、専門家らの事前予想では「17位、降格」とあった鳥栖というチームに。この予想というのが、サッカーダイジェストの「解説者、ライター、編集部」ら識者30人によるものだが、サッカーの予想とはそれほど難しいものなのだ。ほぼ同じメンバーでも監督(の成長)と新たなチーム編成能力とのマッチング次第で勝率が急に変わるし、今年のリバプールのように「強豪も負け出すことがある」からである。個人能力よりも、組織力で闘うスポーツ・ゲームだから、その相性や狂いもあったり、「勝敗は組織細部に宿る」という現象も多いからだろう。それだけに、この日本サッカー史的にも重要なゲームはよく観ておきたかった。以下の観戦記は、ダゾーンのライブ観戦に始まって、これをさらに何回も巻き戻してみたものだ。
鳥栖の2得点はこういうもの。
まず、開始6分に名古屋ゴールに向かって左奥に持ち込んでマイナスのクロスから、ニアの林がヘッドでファーポスト側に押し込んだもの。「ドンピシャリの良いマイナス・クロスに、入出角度が大きいから難度の高いヘッドが合わさって突発したもの」と表現されるような得点だった。この得点をあれこれ観察もし、考えてもみたが、得点率が高いマイナス・クロスを上げられた時点で勝負あったと言うのが僕の結論である。酒井のクロスが、それほどに秀逸だった。
2得点目は、前半45分、ゴール正面混戦の外目からその混戦の間を縫った酒井宣福の距離のある低いシュート。これは、名古屋の稲垣のそれに似た見るからに力のあるものだった。
これに対して、その稲垣が後半40分に例によってお得意の中距離シュートで1点返しただけで、名古屋の少ない得点力からすれば「それまで」というゲームだったのだと思う。
その上でさて、ゲームの大勢である。何よりも、ボールを持っていた名古屋が「持たされていた」ゲームだったと言いたい。その「持っていた」前半にシュート数「1対6」と圧倒されたという点に敗因があると思う。何故そうなったか。攻めた前線の肝腎な衝突局面において負けていたのだ。それが1得点目の酒井のマイナスクロス場面に顕れていた。名古屋マーカーの背後を上手く突いてコーナー側に走った酒井に出されたパスも絶妙だったし。ちなみにこのゲームのMVPだが、僕ならこの酒井宣福だ。林は1得点だが、酒井は1G1Aなのだから。
なお、名古屋の敗因の一つに、これもあったと思う。相馬を先発にすべきだった。得点力がリーグ8位と低い名古屋に、「綺麗に繋いで得点」は失点の少ない今季の鳥栖相手には特に望み薄くなるから、何度も走れて確率も高く、カウンター反撃も喰いにくい相馬のクロスをもっと多用すべきだった。ただ、この点についてさえも今日の鳥栖はしっかり備えていたやにも思われるのである。相馬にしては珍しく、今日の鳥栖右サイドのマーカー(飯野七聖?)には走り負けている場面もあったのである。こんな点をみても、鳥栖の防御力は恐るべし、到底17位と予想されるチームなどではない。今日現在、名古屋に次ぐJ1の3位、得失点差も同じ11という強豪にすっかり変身している。金明輝監督と、酒井、飯野を取った新フロントとを心から称賛したい。