【視点】:北朝鮮の脅威論 「圧力」だけに振り切らぬように 政治部・我那覇圭
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【視点】:北朝鮮の脅威論 「圧力」だけに振り切らぬように 政治部・我那覇圭
昨年12月半ばに韓国を訪れ、北西部の非武装地帯(DMZ)にある「都羅展望台」に足を運んだ。曇天の下、軍事境界線の向こうに広がる北朝鮮の大地を眺めると、工業団地がある開城の建物群が確認できた。さらに展望台に設置された望遠鏡からは、肩を並べて歩いたり、自転車で走ったりする現地の人たちの姿も見えた。
日本ののどかな地方都市のようにも映ったが、展望台周辺に目を転じると、立ち入りは厳しく制限され、地雷が敷設されていることを警告する表示板があちこちに掲げられていた。休戦から70年を過ぎても緊張が続く現実を改めて突き付けられ、近くの建物の壁に白くすすけた文字で書かれた「分断の終わり、統一の始まり」というメッセージがもの悲しく感じられた。
昨今の情勢を考えると、南北の分断が終わる気配はなく、むしろ平和的な統一は遠のくばかりだ。北朝鮮メディアによれば、昨年末には金正恩朝鮮労働党総書記が、韓国との関係を「もはや同族ではなく敵対的な二つの国家、交戦国の関係に固定化された」と主張。今年に入ってから、朝鮮半島西側の黄海に向けて砲撃を繰り返している。
昨年1年間を振り返っても、北朝鮮は発射の兆候を捉えにくい固体燃料式を含む弾道ミサイルをたびたび発射し、技術の進展をアピール。軍事偵察衛星も打ち上げ、2017年以来となる7回目の核実験の可能性が取り沙汰された。一方で、北朝鮮の国民の厳しい暮らしぶりは変わらず伝えられており、国民の犠牲の上に軍事的な挑発を重ねる為政者の振る舞いには、憤りしか感じない。
これに対し、日米韓の3カ国は、北朝鮮の脅威などを理由に軍事的な連携で対抗しようとしている。昨年8月には米ワシントン近郊の大統領山荘キャンプデービッドで首脳会談を行い、安全保障の協力を「新たな高み」へと引き上げる合意を交わした。首脳や閣僚級の会談を定例化し、自衛隊と米韓両軍による共同訓練の定例化も打ち出した。
訪韓中に取材する機会を得た元北朝鮮公使で保守系与党「国民の力」に所属する国会議員の太永浩(テヨンホ)氏も、この合意を高く評価し、「韓日が北朝鮮の核、ミサイルの脅威にどう共同して対応できるかが一番重要だ」と強調。合意内容を日韓両国の議会でも後押しする必要性を訴えた。韓国政府関係者からも、日本との連携に期待する複数の声を聞いた。
日本国内でも、北朝鮮脅威論を背景に「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有や防衛費の増額などが議論されている。核兵器で威嚇する相手に対して抑止力が必要だとしても、軍事力の強化に傾注し、戦後日本が築き上げた「平和国家」を揺るがす議論には危険性も潜む。対北への「圧力」に傾注することで、「対話」の可能性がかき消されないか注視したい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【視点】 2024年01月16日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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