【社説②】:適性評価拡大 人権侵害を懸念する
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:適性評価拡大 人権侵害を懸念する
人工知能(AI)や宇宙、サイバーなど経済安全保障分野の機密情報の取り扱いを有資格者に限る適性評価(セキュリティー・クリアランス)制度導入を目指し、有識者会議が提言案をまとめた。
適性評価制度の対象を、2014年に施行した特定秘密保護法の防衛、外交、スパイ・テロ防止から経済安保分野にも広げ、大半が公務員だった対象者を民間企業や民間人にも広げる。
知る権利や人権を侵す可能性が強く懸念された特定秘密保護法の民間への拡大版にほかならない。政府は26日召集予定の通常国会での法制化を目指しているが、性急な導入は慎むべきだ。
提言案によると機密情報は政府が指定。情報取扱者には適性評価が課せられ、政府機関が犯罪歴や精神疾患、飲酒の節度、借金、家族や同居人の国籍などを調べる。機密漏洩(ろうえい)に罰則を設け「懲役10年以下」が想定されている。
日本を除く先進7カ国(G7)に類似制度があり、日本企業が国際入札などで除外された例もあったことが導入理由の一つとされる。経済界は導入に積極的だ。
ただ提言案には懸念がある。
まず機密の範囲が、政府保有のサイバーや規制制度、調査・分析・研究開発、国際協力の機密としか示されていないことだ。機密の範囲を巡り恣意(しい)的な線引きを許せば、大川原化工機事件のような冤罪(えんざい)事件が再び起きかねない。
適性評価によるプライバシー侵害も心配だ。本人が調査に同意しても、望まない家族らも身辺調査される可能性がある。適性評価は任意で、拒否による解雇や配置転換などは禁じるとしているが、会社からの要請を従業員が拒否できるのか。従来の研究業務から外されることも容易に想像できる。
特定秘密保護法では国会に情報監視審査会など運用監視の仕組みが設けられた。審査会に強制力はなく、その役割が疑問視されているとしても、経済安保の提言案にはそうした仕組みすらなく、適性評価制度の運用に不安を残す。
情報公開は民主主義国家を営む上で大前提だ。米国では情報交換が発展の前提となる基礎研究は適性評価の対象外とされている。
適性評価の対象拡大は広範な民間人に影響を及ぼす。国民の幅広い議論と理解抜きでの導入は許されない。国益を理由に民主主義や人権が損なわれてはならない。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年01月23日 08:07:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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