【社説②】:食料安全保障 高まるリスクへの対策を急げ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:食料安全保障 高まるリスクへの対策を急げ
国際的な紛争や温暖化による干ばつの増加などで、食料をいかに安定的に確保するかが世界的な課題となっている。政府は、国際情勢の変化に応じた対策の強化を急ぐべきだ。
農林水産省は食料安全保障の強化のため、農政の方向を示す「食料・農業・農村基本法」を制定から25年ぶりに改正し、また、輸入途絶などの事態に備えた新法も作る。今国会に法案を提出する。
ロシアのウクライナ侵略後、世界で食料危機が起きた。中東情勢の緊迫化では海運に混乱が生じている。地球温暖化による農作物の不作も目立つ。日本の経済力が低下し、世界で食料を買い付ける力が落ちているとの懸念もある。
もともと、日本のカロリーベースの食料自給率は38%と、主要先進国で最低水準だ。食料を巡る環境は激変しており、危機への備えを万全にする必要がある。
基本法の改正では「食料安全保障」を主要課題に据える。その上で新法を制定し、食料の調達が難しくなる場合に備えて、3段階で対応策を取ることを規定する。
まず、コメや小麦など、食生活に重要な品目を指定し、その供給が減る兆候がみられる初期段階では、首相を長とする政府の対策本部を設け、農家や商社などの民間に出荷や生産の促進を求める。
また、重要品目の供給量が平時より2割以上、減少する段階になった場合には、国が民間に対し、生産や輸入を増やすための計画を作成するよう指示する。
さらに、国民が最低限のカロリーを得るのが困難な場合を最も深刻な段階とし、カロリーが高い食料に生産を転換するよう農家に要請する権限を国に与える。
配給や価格統制、買い占め防止策の実施なども、現行法の範囲内で検討するという。
ただ、そうした措置は、私権を制限する内容も含む。円滑に民間の協力が得られるよう、国は対策の必要性と意義について説明を尽くし、理解を得ねばならない。
畜産に不可欠な飼料も含め、備蓄の拡充や輸入先の多様化など、様々な施策を講じてほしい。
ただし、国が食料の増産を農家に求めても、生産者の側に、その能力がなければ意味がない。農家は高齢化や担い手不足が深刻だ。新法に実効性を持たせるには、農業従事者を増やし、生産基盤を強化することが前提となろう。
ITの活用などで省力化や生産性の向上を図り、農業を若者が就業したくなるような、魅力のある産業にしていくことが重要だ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年02月06日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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