【社説①】:子育て支援金 負担の実像 誠実に語れ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:子育て支援金 負担の実像 誠実に語れ
2023年の出生数が75万8631人(速報値、外国人を含む)と8年連続で過去最少となった。数年遅れて出生数に反映されることが多い婚姻数も90年ぶりに50万組を割った。
出生数減少は政府予想より10年以上早く進む。加速する少子化を止める対策を実現するには、負担の在り方を含めて誠実に語り、国民の理解を得る必要がある。
政府が国会に提出した少子化対策関連法案の主要な論点は、財源確保策として盛り込んだ「子ども・子育て支援金」。しかし、その実像は明らかだとは言い難い。
支援金は公的医療保険料と併せて企業や個人から集める。26年度から段階的に徴収を始め、28年度には総額1兆円の確保を見込む。年間3兆6千億円を投じる少子化対策財源の一部に充てる。
ただ、岸田文雄首相は「実質的な負担は生じない」と繰り返すため、議論が混乱している。
医療・介護分野の歳出削減と賃上げの範囲内なら支援金の負担は相殺される、との理屈だが、にわかには理解しがたい。
医療・介護分野の歳出増分にはこの分野で働く人の賃上げ分は含まれていない。産業界全体と同じく同分野でも賃上げは当然であり歳出増に含めないというのが政府の説明だが首相が固執する「実質負担ゼロ」のために、無理な理屈を重ねているのではないか。
支援金の負担額もはっきりしない。首相は2月に「1人当たり月平均500円弱」との試算を示したが、加入する医療保険の種類や所得などで計算方法が異なり、個人によって差が出る。
加藤鮎子こども政策担当相は月千円より高くなる事例もあり得ると認めたが、政府は具体的な試算モデルをいまだ示していない。不誠実さが目に余る。
医療や介護、子育て支援など社会保障は、給付と合わせて、負担をどう分かち合うか具体的に示さなければ議論は深まらず、理解を広げることは難しい。
少子化による人口減少は深刻な危機であり、一刻の猶予もない。「実質負担ゼロ」というその場しのぎではとても乗り切れない。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年03月04日 07:38:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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