【卓上四季】:明日の漫画
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:明日の漫画
「明日に延ばせることを今日するな」。映画「アフリカの女王」でハンフリー・ボガート演じる主人公が語るセリフだ。その言葉に衝撃を受けたのが、88歳で亡くなった漫画家藤子不二雄Aさんこと安孫子素雄さんだった
▼その少年時代に明日はなかった。本土決戦を前に竹やりの訓練を受ける日々。「明日ありと思う心のあだ桜」。源義経が出陣前に詠んだとされる言葉を毎日歌わされた
▼明日のことを今日やるのはゆとりがないからだったのか。「人生を楽しまなくてはいけない」。戦後、価値観がひっくり返る中で出合った映画にがくぜんとした少年は誓った(「藤子不二雄A&西原理恵子の人生ことわざ面白“漫”辞典」小学館)
▼手塚治虫に憧れて藤本弘さんとともに上京し、藤子不二雄としてデビュー。共作「オバケのQ太郎」のヒットで売れっ子の一人となってからも、信条は変わらなかった
▼「忍者ハットリくん」などのギャグ漫画にとどまらず、「怪物くん」や「魔太郎がくる!!」など明るい日なたの陰にも目を向けていた。奇怪な男、喪黒福造が悩める現代人の心にしのび寄る「笑ゥせぇるすまん」はその典型である
▼ドラえもんを描き続けた藤本さんとは対照的に、そのジャンルは多彩だった。多趣味で幅広い交友関係のたまものだろう。それは「ボギー」の一言と「明日」をくれた平和な時代のおかげだったのかもしれない。2022・4・8
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2022年04月08日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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