【社説①・02.22】:公益通報者の保護 握りつぶし、報復を防がねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.22】:公益通報者の保護 握りつぶし、報復を防がねば
不正を告発する公益通報者が十分に守られない状況では、社会の安全や組織の健全化につなげる機能を果たせない。
現行の公益通報制度を見直し、告発を理由とする解雇や懲戒に対し、政府は新たに刑事罰を導入して保護を強化するという。
今国会に公益通報者保護法の改正案を提出する。「6月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金」を科す方針だが、適用対象が絞られるなど「報復」抑止の実効性には疑問が多い。
内部告発を端緒に近年、自動車各社の不正や官公庁内のハラスメントなどが次々に発覚し、暗部のウミを浮かび上がらせている。
一方、通報者を組織の「裏切り者」として不当な待遇や処分が行われ、大きな阻害要因になっている。
不利益な扱いの心配にとらわれず告発でき、組織による口封じを許さない通報者保護に向けた十分な議論が要る。
改正案は、消費者庁の有識者検討会が昨年末にまとめた見直し提言を踏まえている。
現行法(2022年改正施行)は、通報者情報を漏らした窓口担当者に刑事罰を科す。報復の禁止は努力義務にとどまるため、拘禁刑を含む罰則導入で抑止力を高めるとする。
だが、刑罰対象は解雇と懲戒処分に限られ、それ以外の降格・減給処分、不利益な配置転換などには適用されない。通報者を特定する「探索行為」への罰則も見送りの方向という。
一昨年の同庁調査で、内部通報・相談した人の3割は後悔を抱き、うち4割は理由を「不利益な扱いを受けた」と答えた。上司らの嫌がらせ、人事評価の減点、不利益な配転といった多数を占める具体例に対処しないで、保護強化といえるのか。
また、告発された組織側が「目的が不正で、そもそも公益通報に当たらない」と判断すれば、通報者が保護されない恐れのある矛盾も残されたままだ。
兵庫県知事の自らに対する告発対応が典型だろう。元県幹部は報道機関や県窓口にもパワハラ疑惑などを通報したが、斎藤元彦知事は内部調査だけで誹謗中傷と認定。「保護対象外」と停職処分にした後、告発者が自死する重大な結果を招いた。
県議会で斎藤氏も机をたたいた行為などを認め、参考人の大学教授は「県の判断は拙速」と違法性を指摘した。それでも斎藤氏は「真実相当性がない。適切に対応したと思っている」と繰り返すが、透明性を疑われる取り扱いと言わざるを得ない。
告発された組織上層部が恣意(しい)的に「握りつぶす」ような余地をなくすべきだ。通報者保護の客観性を担保し、告発者探しやいかなる報復行為も禁止する強制力ある措置が求められる。
不正の被害拡大を防ぎ、組織を根腐れから守る取り組みであることを改めて認識したい。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月22日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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