【追及スクープ】:大阪IRで1兆800億がそそがれる「バブルの負の遺産・夢洲」がかかえるヤバすぎるリスク
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【追及スクープ】:大阪IRで1兆800億がそそがれる「バブルの負の遺産・夢洲」がかかえるヤバすぎるリスク
◆リスクが申し訳程度にしか言及されていない
政府が4月13日、カジノを含む統合型リゾート(IR)の日本誘致を目指す「IR推進本部」(本部長:岸田総理)の会合を開き、大阪府と大阪市が策定した計画を日本初のIRとして認定したことに、地元政財界などがおおいに湧いている。
夢洲(写真中央右の埋め立て地) photo by gettyimages
計画は、アメリカのMGMリゾーツ・インターナショナル、オリックスなど20社近くが出資する「大阪IR株式会社」が約1兆800億円を初期投資し、大阪・関西万博の会場予定地に隣接する、大阪市此花区の夢洲(ゆめしま)にカジノや国際会議場、ホテル、劇場といった施設を揃えた統合型リゾートを建設するというものだ。昨年4月に大阪IRが大阪市に提出した環境影響評価方法書によると、延床面積は848000m²。これは東京ドームの18倍強に相当する計画で、3200台が収容可能な大型駐車場も建設。早ければ2029年秋に、開業し、以後、年間2000万人の来客と5200億円の売り上げを見込んでいる。
この決定に、政府や地元政財界、メディアはすっかりお祭り騒ぎだ。岸田総理はIR推進本部の会合で、「IRは国内外から多くの観光客を呼び込むものとして、日本が観光立国を推進する上で重要な取り組みだ」と強調、大阪府の吉村知事も「あらゆる来訪者に非日常を楽しんでいただける世界でここにしかないIRです。大阪の成長に向けていよいよ始動です」と満面に笑みを浮かべてユーチューブ動画を配信した。京阪ホールディングスや丸一鋼管、大和ハウス工業といった出資会社も歓迎コメントを出したという。
その一方で、リスクについて、関係者は申し訳程度に、観光客の増加に伴う治安の悪化とギャンブル依存症の人が増える可能性に触れるにとどまっている。これらは、当然、万全の対応が求められるポイントだ。
しかし、筆者は、そうしたことよりも、もっと大きなリスクが横たわっている気がしてならない。建設予定地の夢洲は、いわくつきの土地なのだ。
◆不運に見舞われ続けた埋立地
まずは、バブル期の「負の遺産」と言うべき夢洲の来歴を振り返ろう。 以前にも本コラムで紹介したことがあるが、夢洲は、1960年代から重化学工業用地として埋め立てが始まった咲洲に続いて、1970年代から舞洲とともに埋め立てで誕生した人工島である。3島とも大阪市の西の大阪湾に浮かび、夢、咲き、舞うとの期待を込めて命名されたというが、いずれも順風満帆とはいかなかった。
特に、夢洲は不運に見舞われ続けた埋立地だ。1990年代からニュータウンの開発構想があったものの、折からのバブル経済の崩壊でとん挫。リカバリーを狙った2008年のオリンピック招致にも失敗、再開発を前提にした選手村の建設計画が陽の目を見ることがなかったのだ。
失敗の繰り返しが響いて、大阪市の大阪港埋立事業は長年、巨額の負債に苦しんできた。大阪市港湾局の昨年度の貸借対照表を見ても、今なお1016億円強の負債を抱えている。
筆者は数年前、現地を取材したことがあるが、鉄道がないへんぴな場所だった。広大な面積がありながら、店舗は物流トラック相手のコンビニが1軒存在するだけ。この人工島はまるで開発前の東京・台場のように、荒涼とした空き地に巨大な水溜りが点在する不毛の地だったのである。今なお、その風景は変わっていないと聞く。
要するに、IRリゾートの開業は隣接地で開催される大阪、関西万博後をにらんで、大阪府、市にとって「負の遺産」の呪縛から逃れるために必要な絶対条件になっているのだ。
大きな経済効果が見込まれるだけでなく、開業後は、「カジノの運営事業者に対して関連収入の30%程度」を国と自治体が折半で税金にする方向での検討もなさなれてきたからだ。ここで注目したいのは、法人税のように「利益」ではなく、カジノの場合は「収入」にかけるという話になっていたのだ。軽減税率以外の消費税率が10%となっていることを考えても、カジノへの課税は高率と言えるだろう。もちろん、ここまで来た以上、なんとか成功してほしいと筆者も切に願っている。
◆相次いで招致が断念される
しかし、ここに至る経緯を振り返ると、夢洲IRの将来性を占ううえで懸念せざるを得ない現実が2つあったことを忘れることはできない。
その第一は、IR熱に浮かされた全国各地の都市が相次いで招致を断念したことである。このアイデアが出た当初は、北から苫小牧、横浜、愛知、大阪、和歌山、長崎が検討して名乗りをあげようとしたほか、首都・東京の立候補も取り沙汰されたほどの人気ぶりだった。これには、乱立を懸念した政府が、慌てて、法律で全国3カ所に整備地域を限定するほどのフィーバーだったのである。
ところが、開発費の高騰やコロナ危機で来日客が減るなどの逆風が吹き、採算への不安が高まり、誘致を断念する都市が続出した。現時点で、なお検討しているのは、大阪と長崎だけという寂しい状況なのだ。しかも、長崎の計画は収益性が不透明で、今回は認定が見送られ、継続審査となっている。
もう一つが大阪に進出を検討していた世界の有力事業者の相次ぐ断念だ。米カジノ業界ナンバーワンで、安倍元総理、松井元大阪府知事らが相次いで視察に訪れ、日本のカジノ導入のモデルになるとの印象を受けたと語ったシンガポール・サンズを運営する「ラスベガス・サンズ」や、同じく東南アジアで実績をあげている中国勢が相次いで進出希望を取り止めて、一昨年には当初、3、4番手で落札の見込みがないとみられていたMGM=オリックス連合だけが残るという心許ない状況になっていたのだ。
実は、日本のIRには、進出を断念した事業者が筆者に明かした懸念材料もある。カジノのライセンスが10年毎に更新を必要とし、その際に地元議会の同意が必要な仕組みになっていることだ。
大阪IR株式会社は2029年の秋から冬にかけての開業を目指すというが、ライセンス期間の10年をカウントする時計は認定を得た瞬間から始まる。このため、開業時には4年程度しかライセンスの有効期間が残らないため、一般のホテル業などと比べて投下資本の回収期間がかなり短いと言わざるを得ないのだ。
加えて、不透明なのが、建設予定地が地盤の軟弱な埋立地・夢洲に位置する問題だ。もともと大阪湾の海底には淀川や安治川などから流れ込んだ分厚い泥が積み重なっているところが多い。
夢洲は、初期にはそうした泥が堆積した海底に産業廃棄物を投棄してきた経緯があるという。それゆえ、土壌汚染や液状化のリスクがあり、大阪市はすでに対策費として約780億円を公費負担する方針を表明しているが、今後も埋め立て層やその下部の軟弱な粘土層に起因して地盤沈下が起きることが予想されており、追加の対策費を求められる懸念があるのだ。
というのは、IR施設の建物の多くは大型の超高層ビルになるとみられる一方、3年前に延伸する予定の地下鉄工事でも地盤沈下などが想定以上に進んでおり、事業費が当初見込みよりも129億円膨らむ事態がすでに起きているからだ。
追加の対策費が必要になれば、その負担を巡って、大阪IRと府、市の折り合いが付かないリスクが残っているわけである。
大阪IRには、そもそも経済、経営的な観点から収益性・採算性という疑問符が付いているのである。町田 徹(経済ジャーナリスト)
元稿:現代ビジネス 主要ニュース 政治 【政治ニュース・大阪IRを巡る数多くの問題・担当:町田 徹(経済ジャーナリスト)】 2023年04月18日 07:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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