【世論輿論】:賛否渦巻くカジノ④完 競争力あるIRへ コンテンツは多元的に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【世論輿論】:賛否渦巻くカジノ④完 競争力あるIRへ コンテンツは多元的に
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大阪府と大阪市が推進するカジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備計画について、これまでギャンブル依存症を巡る読者の懸念や意見を紹介してきた。ここで初回に言及した「カジノを起爆剤とした観光振興」の是非を考えてみたい。
「人間が知的な動物である以上、賭け事はヒトの欲望に組み込まれているといってよく、賭博に寛容な日本にカジノがないのは不自然だ」
「推進派も反対派も過大評価」
経済産業省出身で、海外のカジノを含むギャンブルに詳しい京都大公共政策大学院名誉フェローの佐伯英隆氏は、こう指摘する。その上で、日本に開業するカジノについて「推進派も反対派も過大評価している」との見方を示す。
大阪IRの整備計画によると、IRへの年間来訪者数は開業3年目で約2千万人を見込み、そのうち7割を日本人と想定。IR全体の年間売上額の約8割に相当する約4200億円は、カジノのゲーミングで賄うと推計している。そのゲーミング区域(約2万3千平方メートル)はIR整備法などに基づき、IRの総床面積の3%に満たない。一方、カジノでは日本人のみを対象に1回6千円の入場料を徴収するなどの規制をかける。
佐伯氏は「カジノを隠すような形」にしたIR整備法ではなく、時間をかけてでも正面からカジノ法案を国会の議論に付すべきだったと主張。大阪IRのカジノについて「国際競争力はない」として、こう直言する。
「日本を訪れる外国人観光客の多くは、日本の文化や情緒などを楽しむのが目的だろう。現状の制度設計でIRにカジノをつくり、外国人観光客を呼ぶという想定自体が虚構といえる」
一方で、反対派が懸念するギャンブル依存症の拡大や治安悪化については「日本にできるカジノは厳しい規制をかけられ、そこまで(負の)影響力はない」と話す。
「岸田政権は力入れて」
小欄に寄せられた意見のうち、大阪府豊中市の女性(61)は国際会議や展示会などを開くMICE(マイス)施設の規模が当初予定から小さくなったことに触れ《世界から注目される最大級のMICEを作り、質の高いエンタメを誘致すれば十分起爆剤となりえたのでは》と指摘する。そして《カジノを起爆剤とした観光振興は時代錯誤》と言い切る。
確かに、大阪府知事だった橋下徹氏がカジノ誘致を提唱してから10年以上が経過し、海外需要を取り込む力のある日本の観光資源が発掘されてきた。和食やアニメがその典型だ。ただ、エンターテインメントとしてカジノを許容する考え方は暴論だろうか。
佐伯氏は、大阪のカジノに競争力を持たせるには、ゲーミング区域面積についてIR全体の3%を上限とする現状の規制を緩和すべきだと提案する。その場合、法令改正などの政府の後押しが必要になる。
国際カジノ研究所の木曽崇所長は「地方が発展する上で観光は重要なファクターだ。カジノの強みは、富裕層を顧客として観光業界の収益性を上げること。岸田文雄政権には力を入れてもらいたい」と期待を込める。
ポストコロナの時代において、カジノだけを観光振興の起爆剤とするのは現実的ではない。リピーターを増やすためにもカジノ以外のコンテンツも含めた集客力についてもっと議論を深め、目玉施設を多元的に展開すべきだ。政府は必要とあれば、カジノに関する法規制の見直しも排除すべきではないだろう。
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今回のテーマを担当するのは…大阪社会部次長 清宮真一(きよみや・しんいち) 平成14年入社の44歳。事業者にとってはIR投資自体がギャンブルだが、この企画を担当し、大阪IRのカジノを見届けたくなった。まずは家族の理解とともに入場料6千円の確保から。
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「世論(せろん)」と「輿論(よろん)」は近年同一の意味とされています。しかし、かつて、世論は世間の空気的な意見、輿論は議論を踏まえた人々の公的意見として使い分けられていました。本コーナーは、記者と読者のみなさんが賛否あるテーマについて紙上とサイトで議論を交わし、世論を輿論に昇華させていく場にしたいと思います。広く意見を募集します。意見はメールなどでお寄せください。
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元稿:産経新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【話題・連載・「世論輿論」】 2023年08月14日 12:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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