【世論輿論】:賛否渦巻くカジノ③ ギャンブル依存症「予防も治療もできる」 反対派の視点を変え得るか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【世論輿論】:賛否渦巻くカジノ③ ギャンブル依存症「予防も治療もできる」 反対派の視点を変え得るか
前回、大阪府と大阪市によるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備計画について、ギャンブル依存症の実情や当事者支援に取り組む団体関係者の声を紹介したところ、次のような意見が寄せられた。
《ギャンブルの興奮は、薬物中毒やアルコール中毒と変わりなくコントロールがきかない》
大阪府岸和田市の久禮重興さん(76)は、海外のカジノで生じた負債返済などのため、計約55億円を子会社から借り入れた製紙会社の元会長が、会社法違反(特別背任)罪で実刑判決を受けた事件を引き合いに、こうつづり、《人生を破綻に追い込む》と懸念を示した。
◆対策効果?依存症の割合は減少
このように依存症に対する懸念は尽きないが、整備計画のお手本とするシンガポールの依存症対策や現状はどうなのだろうか。
2010年にIRが開業。ホテルや劇場、国際会議場などが集まる都市型の「マリーナベイ・サンズ」、ユニバーサル・スタジオや自然を生かしたリゾート型の「リゾート・ワールド・セントーサ」という趣向の異なる2カ所のIRがある。
依存症対策として、自国民からカジノ入場料を徴収するだけでなく、本人や家族からの申告に基づく入場排除プログラム▽入場の年齢制限(21歳未満の入場禁止)▽カジノに関する広告の規制-などを実施。治療体制や相談窓口の整備も進んだ。
問題ギャンブル国家評議会(NCPG)の3年ごとの調査によると、「ギャンブル等依存が疑われる者等」の割合は、開業前の2008年は2・9%だったが、開業翌年の11年は2・6%、14年0・7%と減少。以降は0・9%(17年)、1・2%(20年)と微増に転じたが、開業前と比較すれば減少は明らかだ。
シンガポールも競馬やサッカーなどのスポーツ賭博といった既存の合法ギャンブルがあり、依存症は懸念されていたが、カジノの開業を機に導入した対策で一定の効果が上がっているようだ。
◆既存の公営ギャンブルも参考に
《日本は公営ギャンブルがあるのになぜカジノはだめなのか》との疑問を抱き、IR整備計画に興味を持った東京都内の高校3年の男子生徒からも意見が寄せられた。資料を調べる中でシンガポールの現状を知り、《依存症は予防も治療もできる病気だと認識した》と、カジノ導入を機に依存症対策を見直したことに加え、経済効果も含めて賛成の立場だという。
カジノに詳しい「国際カジノ研究所」の木曽崇所長は、大阪のIRで実施される依存症対策について「すでにカジノがある国の先行事例から、良いものを取り入れている」と評価。とりわけ注目しているのは、依存症患者の家族からの申告に基づき、マイナンバーカードでの本人確認時に入場を制限する制度だ。
木曽氏は「競馬や競輪などの公営ギャンブルにこのような仕組みはなかった。カジノは問題を抱える人がアクセスできない措置が導入されるだけに、パチンコだけでなく、公営ギャンブルにも参考になる」と語る。
現時点では、日本においても同様の効果が上がるとは言い切れない。だが、シンガポールの事例は、依存症への懸念でIRに反対してきた人たちの視点を大きく変え得るかもしれない。
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今回のテーマを担当するのは…大阪社会部 吉田智香(よしだ・ともか)。平成16年入社。大阪市役所キャップとしてIR取材に関わる。リスクの高いギャンブルで散財するより、おいしいものを食べたいと思うのが本音。振り返れば人生こそがギャンブルと悟り始めた44歳。
元稿:産経新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【話題・連載・「世論輿論」】 2023年08月12日 20:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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