《社説②・12.07》:深まるシリアの混乱 人道状況の悪化を憂える
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.07》:深まるシリアの混乱 人道状況の悪化を憂える
内戦が膠着(こうちゃく)状態にある中東のシリアで約5年ぶりに大規模な戦闘が起きた。これ以上、市民に犠牲が及ばないよう戦火の拡大を防ぐ必要がある。
反体制派のイスラム過激派組織「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)が北部の主要都市アレッポなどを制圧した。アサド政権は露軍と共に空爆などで対抗しているが、守勢に立たされている。

シリアでは2011年3月、アサド政権と、民主化を求める反政府勢力の間で内戦が勃発した。中東民主化運動「アラブの春」がきっかけである。
ロシアやイランが政権を支援する一方、トルコや欧米が反政府側に付いた。混乱に乗じて「イスラム国(IS)」などの過激派が勢力を伸ばし、事態は複雑化した。
アレッポは一時、反政府勢力の支配下にあったが、政府軍が16年12月に奪還した。20年3月に一部で停戦合意が成立し、激しい戦闘は収束した。国外に逃れた住民の帰還も始まっていた。
ここにきてHTSの勢いが増しているのは、アサド政権への支援が手薄になったためだ。
後ろ盾のロシアはウクライナ侵攻の長期化で国力をそがれている。イランはパレスチナ自治区ガザ地区やレバノンでの紛争を巡り、イスラエルとの報復合戦に追い込まれた。
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラはアサド政権と共闘しているが、イスラエルの攻撃を受けて弱体化した。
シリアでは13年9カ月に及ぶ内戦で50万人以上が犠牲になった。人口のほぼ半数に当たる約1200万人が家を追われるなど、厳しい人道状況が続いている。
今年になって治安情勢が悪化し、国連事務局のシリア担当官は11月、「20年以降で最も暴力の横行する年になる見込みだ」と懸念を表明した。今回の戦闘でも市民の犠牲が報告されている。
それにもかかわらず国連安全保障理事会は米露の対立で一致した対応を取れていない。
中東の混迷がさらに深まれば、過激派の伸長を招きかねない。それは大国も望まないはずだ。国際社会は協調し、地域の安定と人道危機の克服に向けた取り組みを強化しなければならない。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月07日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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