【卓上四季・03.09】:東京大空襲から80年
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季・03.09】:東京大空襲から80年
懐かしいわが家は跡形もない。隅田川に近い東京・両国。一面の焼け野原だった。神奈川県の疎開先から帰った高木敏子さんは信じがたい光景を目にした。東京大空襲の4カ月後である
▼がれきを父とかき分けると、妹2人が使うままごと用のちいさな茶わんが出てきた。床の間にあったガラスのうさぎの置物も。どれだけ高温だったのか。ぐにゃぐにゃに溶けている。母と妹たちは安否不明だ。12歳の高木さんは泣き崩れた
▼80年前の3月10日未明、300機を超える米軍の爆撃機B29が東京を襲う。逃げられないよう火の壁をつくり、内側のエリアに大量の焼夷(しょうい)弾をばらまいた。反撃するすべを持たぬ非武装の民間人が標的だ。一夜にして10万人が命を失った。焼け焦げた遺体があちこちに折り重なる
▼米軍機は前年夏に手にしたマリアナ諸島を拠点に飛来した。日本軍は制空権を喪失していた。横浜、大阪、名古屋、神戸…。全国の都市が次々と爆撃される。敗戦までにおよそ50万人が犠牲になった
▼高木さんはのちに体験記「ガラスのうさぎ」(金の星社)を発表した。長く読み継がれ、累計240万部を超えている
▼92歳になる高木さんはかつて記した。死者の代弁者として語り継ぐことが私の使命だ―。この証言により<戦争の無惨(むざん)さや虚(むな)しさを、また生命の尊さを知ってほしい>。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2025年03月09日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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