【社説①・12.12】:在職老齢年金 見直しに幅広い理解を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.12】:在職老齢年金 見直しに幅広い理解を
政府は働いて一定の収入がある高齢者の厚生年金を減らす在職老齢年金制度を見直し、満額支給の対象を広げる方針だ。
減額されないよう働き控えをする人が多く、人手不足を招いているとして経済界から見直しを求める声が上がっていた。
少子高齢化が進み就労を望む高齢者は増えた。元気な時は働いてもらえるよう、意欲をそぐ要因をなくすことは重要だ。
ただ高齢者への年金給付が増えて財政は圧迫される。現役世代への影響もあろう。政府は各世代へ経緯や狙いを丁寧に説明し、理解を得る努力が必要だ。
65歳以上の場合、現行制度では賃金と年金の合計が基準額の月50万円を超えると超過分の半分が支給停止になる。現在は約50万人が対象となっている。
政府は基準額を62万円に引き上げる方向だ。この場合、約20万人が満額支給となる。人手不足解消に一定の効果はあろう。
一方、給付額が増えるため将来世代の年金水準の低下が懸念される。基準額を超える高齢者は生活に余裕があるとして、見直しを疑問視する声もある。
そもそも年金制度は第一線を退いた高齢者の生活を現役世代が支える「仕送り方式」である。そのうち高収入の高齢者には支え手になってもらおうと設けられたのが在職老齢年金だ。
少子高齢化で支え手の現役世代が減り、健康寿命が延びて働く高齢者の需要が高まったことが今回の見直しにつながった。
政府は年金財政の悪化を防ぐため、高齢者を含む高所得者の厚生年金保険料の上限引き上げ案も示した。
現役世代から負担増に反発する声も聞かれるが、健康で働ける人が所得に応じた負担をする制度は持続可能な社会保障につながる。現役世代にいかに納得してもらえるかが鍵となろう。
一方、生活苦でやむを得ず働く高齢者も多い。年金受給資格を得た後の就労は本人の意思や健康が最優先だ。働けないと肩身が狭くなるような風潮を招かぬようにせねばならない。
高齢者は体力面などの影響で労働災害のリスクが高い。厚生労働省によると労災死傷者のうち60歳以上の割合は高まり、昨年は3割を占めた。高齢になるほど治療も長引く傾向にある。
厚労省は4年前、企業向けに高齢者の労災対策指針を策定したが浸透せず、労災の歯止めになっていない。このため企業に労災対策の努力義務を課す方向で検討を進めている。
高齢者を雇用する企業は安全確保に万全を期す必要がある。政府の後押しも欠かせない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます