【社説・01.09】:年金制度改革 与野党が熟議尽くす時だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.09】:年金制度改革 与野党が熟議尽くす時だ
厚生労働省が年金制度改革に関する報告書をまとめた。5年に1度の「財政検証」の議論に基づき、働く高齢者の在職老齢年金や、厚生年金保険料の労使折半ルールの見直しなどが盛り込まれた。
時代の変化に合わせて制度を手直しすることは必要だ。ところが、今回の焦点だった国民年金(基礎年金)の給付水準底上げは「さらに検討を深めるべきだ」という表現にとどまった。報告書を基に、国会へ法案提出を目指す政府の方針にも不透明感が漂う。
国民生活に関わる年金問題に後ろ向きでは困る。与野党ともに責任ある制度設計を示し、熟議を尽くす時だ。
国民年金加入者には低所得者や学生も多く、保険料免除や猶予で実際に納付している人は約半数にとどまる。さらに、年金制度を維持するために給付水準を調整する「マクロ経済スライド」という仕組みもあって、給付額は現行よりも約3割も目減りすると危ぶまれている。
保険料を満額納めても給付額は月約6万5千円と、生活保護費より少ない。保険料未納者が生活保護費を受給し、納付者の年金がそれより少ないようでは制度への信頼自体が失われかねない。年金の水準が下がれば、とりわけ就職氷河期に直面し、非正規労働者の多い世代が貧困にあえぐことも懸念される。
今回の報告書で、厚労省は会社員の厚生年金財政からお金を回し、国民年金を穴埋めすることをもくろんだ。会社員は厚生年金は減っても基礎年金部分は増えるので、厚労省はほぼ全員が損はしないと説明してきた。しかし、実際にはここ10年ほどの間に受給が始まる世代は受取額が減る。世代間に不公平をもたらす案には、専門家の評価も割れた。今回の報告書で表現が「さらに検討」とされたのもそれが理由だろう。
厚生年金の果実を国民年金に回すことは「取りやすいところから取る」場当たり的な対応と言わざるを得ない。国民の手取り増が求められているのに、逆に手取り減となる「年収106万円の壁」の撤廃で厚生年金への加入を促したのもそういうことなのか。
福田康夫政権では基礎年金の全額を税方式に改める検討がされた。税方式ならば未納者はいなくなる。消費税3~4%分の負担増が見込まれるが、その代わりに基礎年金分の保険料もなくなる。
自民党の河野太郎氏は総裁選で、保険料方式から税方式への転換を訴えた。将来世代への仕送りである賦課方式から積み立て方式への見直しも提案した。こうした抜本的な見直し議論を求めたい。
欧米では年金の支給開始を67~68歳に徐々に引き上げている。高齢化が顕著な日本が65歳にこだわる理由はない。年金改革を進め、高齢者でも働きやすい環境を同時に整えていくことが不可欠だ。
厚労省の示す案を少数与党の石破茂政権がそのまま政府案としても国民の安心にはつながるまい。与野党が抜本的な案を出しあって議論を重ね、年金制度を再構築することこそ熟議の国会と言える。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月09日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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