「兵庫県庁には現職中に不幸にして亡くなった職員が出た場合、公務災害認定などによる遺族への補償金支払いなどと別に、同僚が弔慰金を集める伝統があります。まったくの自主的な動きで『遺児育英資金』と呼ばれています。

 当然、職場の中核の一人だったBさんの急逝は隠しても隠しきれず、皆が知るところになりました。しかし、彼のご遺族に遺児育英資金を送ろうという行動が起きなかったのです」

 そう語る県OBはこう続ける。
 
 「彼の同僚らはもちろん集めようと声を上げました。ところが“上”がこれをつぶしにかかりました。それも一度ではない。同僚たちは複数回、育英資金集めを始めてほしいと掛け合っています」

 この県OBは、弔慰金集めをつぶした幹部の名を挙げるのをためらった。

 「課長級の人間の弔慰金集めを止められるのはメインのラインの人間しかいない」と答えたのに対し、記者が“牛タン倶楽部”に属する幹部か、とさらにたずねると「そう理解していい」と答えるのだった。

 さらに別の県関係者は「Aさんが告発した7つの疑惑のうち、パレードに絡む問題は“本丸”、最もヤバい事案でしょう。中心となって携わったBさんの死亡の背景に関心が向くことをどうしても避けたいという考えが働いたのではないでしょうかね」と話す。

昨年11月にパレードが行われた際に斎藤知事が行ったポスト(本人Xより)
昨年11月にパレードが行われた際に斎藤知事が行ったポスト(本人Xより)

 しかし一連の疑惑が拡大し、県政中枢部への批判が日を追って強まるなか、結局、Bさんの死も隠しきれなくな る。

 7月17日、県議会総務常任委員会で竹内英明県議が「遺児育英資金が今もって行われていないのか。(Bさんの上司の)県民生活部長は『やらねばならない』という思いが強いのに、それを止めた人間がいるんだという話が私に届きました」と質問した。

 この時、牛タン倶楽部の一員の小橋浩一理事は「守るべきは今のご家族のプライバシー。いろいろなアクションがないようにするのが我々の務めですから」と答弁。

 遺児育英資金を集める動きについてだけでなく、Bさんが亡くなったかどうかすら公式に認めない従来の姿勢を維持した。

 「この映像が直後からSNSで出回り、県庁に抗議電話が殺到しました。さらに小橋理事が答弁で、かつての直属の部下が亡くなったことを半ば認めるような発言をしたこともあり、県は対応を変えざるを得なくなったようです。7月23日午後、県は職員だけが見られるイントラネットでBさんの死を明らかにしました」(県関係者)

 翌7月24日、記者会見でなぜ3ヶ月間もBさんの死を伏せたのかと問われた斎藤知事は「遺族の意向」だったと答えた。

 ではなぜ明らかにしたのか。県人事課は、7月23日の昼過ぎにBさんの遺族代理人を名乗る弁護士が地元メディアに、遺族への直接取材を控えるよう求める書面を送ったことを挙げ、「そうした文書を出すことになったので県職員へ(情報を)出してもらっても構わないと(遺族から)連絡を受けました」と説明している。

 「Bさんの遺族には牛タン倶楽部のラインの県中堅幹部が専任で対応をしており、同僚の弔問も管理されている状況です。しかし、公務が原因と疑われる死を認めた以上、ご遺族が公務災害認定の申請をしないことはあり得ないでしょう」と県関係者は話す。

 Bさんの父親は息子の死について「こんなことになって残念だけど、私は事情を知らないんです。息子は実家に帰ってきても仕事の話はしませんでしたし、県からも説明はないです」と淡々と話した。Bさんの死の背景に何があったのか、解明は実現するだろうか。

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 ■取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班