『赤毛のアンに隠されたシェイクスピア』より-『アン』の妖精について
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「『アン』第28章でアンがお芝居ごっこをしたテニスンの『国王牧歌』は、ブリテンに5、6世紀から伝わる「アーサー王伝説」を元にして書かれたものだが、王は、魔法の力を持った妖精マーリンが育て、助ける。
このように『アン』に引用されている作品には、ひんぱんに妖精が姿を現しているのだ。
イギリスでは、古くから妖精の存在が語られてきたが、中世になると魔女狩りの影響もあって、妖精は魔力を持った悪霊で、人々に災いと危害をおよぼすと思われた。しかしシェイクスピアが、いろいろの妖精を、悪戯好きだが悪意はない存在としてとりあげて以来、再び妖精にたいする認識が少しずつ変わったとされている。
『アン』に出てくる妖精も、ゴブリン(鬼)のほかは、みな善良な妖精だ。一般に、ゴブリンは鬼とされているが、『アン』では、頭がケーキでできていて夢の中でアンを追いかけまわすというのだから、ぜんぜん恐ろしそうではない。むしろユーモラスだ。
日本でも妖精文学の研究書は出ている。ドラットル著『妖精の世界』(井村君江訳、研究社)、そしてブリッグズ著『イギリスの妖精-フォークロアと文学-』(石井美樹子、山内玲子訳、筑摩書房)は、イギリスの妖精伝説を、文学と民話から研究した専門書である。後者は、トーマス・パーシーにも触れている。
パーシーは、1765年に『古歌謡拾位遺集を出版し、フォークロアにおける妖精民話に貢献した、とある。彼が『妖精の女王』に書いた妖精のふるまいは、日本人からすると馴染みがないが、妖精とは、深夜に宴会を開くものであり、ドングリのコップで乾杯して、虫を食べることは、英国の民話やほかのバラッド(伝承の物語詩)を読むと、お約束事のようだ。
私自身は、有名な聖職者のパーシーが、妖精などという精霊を信じていたことが興味深い。キリスト教は、異端の精霊は絶対に認めないが、彼は司教でありながら、その信仰とは別に、妖精研究をしている。イギリスにおいて、妖精伝説がいかに奥深い土着文化を形成しているか、痛感させられる。」
(松本侑子著『赤毛のアンに隠されたシェイクスピア』、141-144頁より)