たまに来る妙なお客が入荷したばかりの額装画を見つめながらココは何処ですかと尋ねてきたので、かつて木星の衛星からはこんな景色が見えるだろうと想像して描かれた、まあ幻想画ですと答えると、そうですよねココからは私の故郷は見えない筈ですから、でもいい絵ですと購入していった。
たまに来る妙なお客が入荷したばかりの額装画を見つめながらココは何処ですかと尋ねてきたので、かつて木星の衛星からはこんな景色が見えるだろうと想像して描かれた、まあ幻想画ですと答えると、そうですよねココからは私の故郷は見えない筈ですから、でもいい絵ですと購入していった。
たかあきは、春の家族と桜の上に関わるお話を語ってください。
真昼の光は嘘をつくという歌があるが、その嘘は残酷なほどに優しい。ほんの一瞬だけ地上に浮かび上がる幸せな光景を、まるで永遠であるかのように錯覚させると彼は寂しげに笑った。でも、満開の桜が必ず散るのを忘れるのと、必ず散る桜の姿に怯えながらその美を愛でるのと、どちらが幸せな生き方なのか私には分からない。
真昼の光は嘘をつくという歌があるが、その嘘は残酷なほどに優しい。ほんの一瞬だけ地上に浮かび上がる幸せな光景を、まるで永遠であるかのように錯覚させると彼は寂しげに笑った。でも、満開の桜が必ず散るのを忘れるのと、必ず散る桜の姿に怯えながらその美を愛でるのと、どちらが幸せな生き方なのか私には分からない。
母はいつも懐かしそうな目でロケットペンダントを眺めていたが、その中に入っている男性の肖像は決まって別の人で、一度だけ誰がわたしの父なのかと尋ねたことがあるが答えは無かった。やがて母は死の床でペンダントの送り主が父だと言ったが、一体誰なのかは結局口にしなかった。
たかあきは、秋の忘れ物と桜の骸に関わるお話を語ってください。
風が吹けば桶屋が儲かるというが、実は台風が荒れ狂うと桜が狂い咲く。何でも桜の葉っぱは開花を止めるホルモンを分泌していて、台風でそれが散らされるとホルモン供給が止まった中で小春日和の気候に春が来たと勘違いした蕾が花開くのだそうだ。その数は僅かなので春の開花量に影響は与えないというが、何やら物悲しい話ではある。
風が吹けば桶屋が儲かるというが、実は台風が荒れ狂うと桜が狂い咲く。何でも桜の葉っぱは開花を止めるホルモンを分泌していて、台風でそれが散らされるとホルモン供給が止まった中で小春日和の気候に春が来たと勘違いした蕾が花開くのだそうだ。その数は僅かなので春の開花量に影響は与えないというが、何やら物悲しい話ではある。
たかあきは、雨の友達と桜の花弁に関わるお話を語ってください。
どうして雨は綺麗に咲いている桜を散らして汚い色に変えてしまうの?意地悪だから?そんな風に尋ねてきた妹に、僕は少し悩んでから雨は桜の花が土に還るのを手伝っているだけだよ、そうやって土に還った桜の花は次の春にまた新しい花を綺麗に咲かせるんだと答えたが、今の妹にはどうにも理解できないようだった。
どうして雨は綺麗に咲いている桜を散らして汚い色に変えてしまうの?意地悪だから?そんな風に尋ねてきた妹に、僕は少し悩んでから雨は桜の花が土に還るのを手伝っているだけだよ、そうやって土に還った桜の花は次の春にまた新しい花を綺麗に咲かせるんだと答えたが、今の妹にはどうにも理解できないようだった。
青い花が少ないのにはいくつか理由があるけど、一番大きい理由は昆虫が青い色に反応しないからだね。どうして反応しないのかは空も海も青いからじゃないかな。だから昔の人は花に青を纏わせる代わりに青色を花に添えてその美しさを引き立てたんだよと画家のお兄ちゃんは言った。
母が死んだとき私は涙も出なかった。昔から家庭に興味を持たず夜毎の夜会で浮名を流し続けた母に対して良い感情は抱居ていなかったのだ。だから私が泣いたのは、母の形見となったイヴニングバッグに私が贈り、でも趣味に合わないと私の前で一度も身に着けてはくれなかったハットピンを見つけた時だった。
落
馬事故で片目を失った私に唯一優しくしてくれた祖母は、これからのお守りだよと中身の入った香水瓶をくれた。そして、甘い花とは違う、きりりとした緑の爽やかな香りは記憶を呼び起こし、お前の知恵がその記憶を正しく読み解くことでどんな武器よりも確かにお前を守ってくれるだろうと言った。
馬事故で片目を失った私に唯一優しくしてくれた祖母は、これからのお守りだよと中身の入った香水瓶をくれた。そして、甘い花とは違う、きりりとした緑の爽やかな香りは記憶を呼び起こし、お前の知恵がその記憶を正しく読み解くことでどんな武器よりも確かにお前を守ってくれるだろうと言った。
私にも奇跡が訪れるかしらと車椅子に座った姿で微笑んだ彼女は結局かの地を訪れることはなかった、病院から家に帰る途中で車に撥ねられたのだ。だから僕は代わりにかの地を訪れて彼女の墓に納めて貰う為の記念品を購入した。結局彼女が信じた神は彼女を生かさなかったのだけれど、彼女はそれについてどう思うのだろう。
職人だった祖父は病魔に蝕まれながらエンボスの型を造り、自身の葬式の際に配って欲しいと遺言した。そして皆は様々な意匠と人生に対する讃美のメッセージが刻印されたカードの出来に感嘆した。ただ、僕は祖父が最後の最後でメッセージから一つだけ「not」という単語を削ったのを知っている。